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私立明倫学園高校 第7章-3

 パーティ前のセレモニーも終わりに近づき、「ウェイトレス」達は、会食の準備に入った。食事と飲み物を各テーブルに運ぶのである。
 各テーブルには2人ずつの担当ウェイトレスがつくことになっており、飲食物を運ぶ時以外はテーブル脇に待機し、注文や指示が来るのを待たなければならなかった。

 ここでまた運命の悪戯が起こった。
 明彦が指示された担当テーブルナンバーは「5」。それは良介と美穂たちが座るテーブルだった。
 よりによってなぜ自分が・・・? 明彦は躊躇った。美穂のそばに行きたい気持ちはある。だがそれ以上に良介のそばには行きたくない思いの方が強かった。
 逡巡して脚が前に進まない様子の明彦を見た純奈が「私が替わるわ。」と言って、パーティ担当の職員に申し出た。だが職員はどういうわけか、「それはできないことになっている。」と言って、純奈の申し出を拒絶した。
 明彦にはもう選択の余地はなかった。心を落ち着けるために一つ大きく深呼吸をすると、交代を申し出てくれた純奈に「ありがとう」と一言言って、テーブル5に向かった。
 幸いなことに、同じテーブル5の担当になったのは親友の富永裕樹だった。
 裕樹も同じテーブル担当が明彦だと知って、安堵の笑みを漏らした。

「あら、あなたが担当してくれるの?よかった 知ってる人で。私こういう所で食事するのって落ち着かなくて・・・」
 明彦が自分たちの担当ウェイトレスであることを知った美穂はニコっと微笑んで声を掛けた。
「は、はい・・・どうぞよろしくお願いします。」
 明彦はできるだけはっきりと返事をしたつもりだったが、声の震えは抑えきれなかった。
「え?美穂、この子、知ってるの?」
 向かい側の椅子に座る小西詩織が声を掛けてきた。
「ええ、さっき、ちょっとね。とっても親切な人よ。それにとっても可愛いし。」
 美穂はテーブルにいる他の生徒たちに明彦を推薦するかのような紹介をした。
「ふ~ん、この子がねぇ・・・」
 詩織は気の乗らない返事をした。どこか人を蔑んだような視線が気になった。
言葉遣いにしても、美穂が「人」と自分を称しているにも関わらず、詩織は「子」と称していることが、すでに相手を見下している気持ちの表れのように思えた。

 食事と言っても、フレンチのフルコースのような堅苦しいものではない。決まった飲食物を一通り並べ終えれば、次の指示があるまでテーブル脇で待機しているよりほかにすることはない。
 明彦は、裕樹と並んで、テーブル脇のスペースに待機した。視線を下に落とし、手をスカートの前に重ねる、メイドとしての基本姿勢はもう板に付いたものだった。
 だが、明彦にはどうしても確認したいことがあった。親友である良介のすっかり変わった姿である。
 それには視線を上げなくてはならない。飲食物を並べる時には、どうしてもその勇気が出なかった。距離があまりに近いと思ったからである。だが、この距離からならその勇気も沸いてくる。
 明彦は視線を少しずつ上げた。黒い男子学生服のズボン、上半身、胸、首、そして横顔が少しずつ現れていった。
 明彦は息を呑んだ。その圧倒的な存在感に恐ろしさすら感じた。確かにその学生が兵藤良介であるということを知った今、容貌の各パーツに昔の面影らしきものがないではなかった。だが、そんなものはすべて消し去ってしまうほど、別人物になっていた。
 明彦の視線に気づいたのか、良介がこちらを振り返った。反射的にその視線を避け、目の前のフロアに目を落とした。

「ねえ、君・・・ちょっと。」
 聞き覚えのある声だった。いくぶん低くはなっているが、それは明らかに良介の声だった。呼びかけの言葉がもし、「君」でなくて「明彦」であったなら、明彦は咄嗟に返事をしたに違いない。「うん?何?良介」と。 

「はい、ただいま・・・」
 それが、明彦の実際に口にした返事である。メイド服を着ている以上、客や主人への当然の応対として教え込まれている言葉だった。
「明菜、スマイル!」
 テーブルの方に行きかけた明彦に裕樹が囁いた。
 咄嗟のことに表情が強ばっていたことに気づかされ、明彦はスマイルを作り直した。
 ただ、美穂と良介の前で「セクシースマイル」を作ることはさすがにできなかった。

「ええと、ジンジャーエール二つとオレンジジュース二つ、それとこれ下げてくれる?」
 良介はそう言うと、テーブル中央に積まれた2枚の皿を指さした。
「は、はい・・・かしこまりました。ただいまお持ちいたします。」
 明彦は中央の大きめの皿に手を伸ばした。小柄な明彦にとって大きな円卓の中央までは結構な距離だった。12センチピンヒールの踵をさらに浮かし、精一杯の前傾姿勢を取り、思い切り手を伸ばし、やっと指先が触れた。
 そんな様子に気づいたのか、美穂がそっと皿を動かし、明彦の方に近づけた。
「ありがとうございます。助かります。」
 明彦はそう言うと、美穂に視線を向けた。美穂は小さく頷くと、微笑みながら言った。「いいえ、どういたしまして。」
 
 その時だった。美穂の暖かい視線とは全く違う種類の視線を感じた。
 それはEカップのバストが作る谷間とマイクロミニのヒップラインの2カ所に注がれていた。
 胸に向けられた視線の主は良介であり、ヒップに向けられた視線の主は小西詩織と村中太一だった。
 無理な前傾姿勢によって、胸元の谷間がより強調され、マイクロミニの裾からは白のサテンショーツが露わになっていたのである。
 良介と太一の瞳の奥には若い男性の情欲の光が宿っていた。それほ文字通りギラギラと燃えるような光だった。
 一方、詩織のそれは全く異なる種類の視線だった。一言で言えば「侮蔑」の視線だった。

 姿勢を戻した明彦は、身体を固くした。これまでも男達の情欲を込めた視線は何度も受けてきているし、自分が彼らの性の対象として見られているのも知っているつもりだ。しかし、今自分に向けられた視線の主は、親友である良介なのだ。もしかしたら良介の頭には豊満な胸を露わにした「明菜」の姿が思い描かれているのかもしれない。いや、もしかしたら、襲いかかって陵辱している姿をも想像しているかもしれない。そう思うと、明彦は改めて自らの無力を悟り、露出度の高いユニホームが殊更心細いものに感じるのだった。

 明彦は皿を手にすると、飲食物の置かれているスペースに向かって歩き出した。
「あ、ちょっと、明菜さん、私オレンジジュースやめて、アイスティーにするわ。それとピザを一枚お願いできる?」
 声の主は美穂だった。暖かく明るい声だった。
「はい、かしこまりました。」
 明彦は振り返ると、できるだけの笑顔で答えた。
「え?明菜・・・?」
 良介が呟くように言った。
「うん、彼女、明菜さんっていうのよ。ね?」
 美穂が明彦に同意を求めるように言った。
「は、はい・・・明菜と申します。」
「へ~そうかぁ・・・」
 明彦の言葉に良介は呟くように言い、どこか含意のありそうな笑みを浮かべた。
 明彦はその笑みが少し気にはなったが、その場に止まっていることはできない。
 小さくお辞儀をしてから、再び歩き出した。

 テーブル5から飲食物スペースまでの距離はさほどではない。
 だが、そのわずかな距離が明彦にとってはとても長く感じられた。
 一つには慣れたとは言えトレイに飲食物を乗せながら、12センチピンヒールで歩行しなければならないことである。バランスを崩せば飲食物の落下か、最悪の場合には転倒して派手なパンチラシーンを演出しかねない。自ずと歩幅は小刻みになり、実際の距離以上に時間がかかる。
 そしてもう一つには、精神的な要素がある。
 テーブル5から飲食物スペースまでの間には5つのテーブル配置されていた。
 1つが成績優秀者のテーブルで男女各2名ずつが座っている。残りの4つは女子同士のテーブルが2つ、男子同士のテーブルが2つ。それぞれに4名ずつが座っていた。
 この5つのテーブル前を通過しなければ目的地に到着することはできない。他に多くのウェイトレスが行き来している場合には何とかなるのだが、注文のタイミングによっては、単独で往復することになる場合がある。この時の注目度は並大抵ではない。ある意味「晒し者」と言ってもいい。

 明彦は今まさにその「晒し者」の状態にあった。
 男子学生からの下品な冷やかしの言葉や女子学生からの侮蔑の言葉のシャワーを全身に浴びながらも、顔にはスマイルを湛えていなければならないのだ。特に会場隅のブースにいる高岡真希と宮田里佳の監視の目が届く範囲では尚更だ。
 そんな場所で、「スタイルいいねぇ。ちょっとパンチラしてみてよぉ。」とか、「オッパイでかいね。パイズリしてくれない?」といったひやかしの言葉を無視するわけにはいかないのだ。
 泣き出したくなるほどの羞恥心を押し殺して、顔には精一杯のセクシースマイルを作り、声のする方向を振り向く。そして、少し前屈みになってお尻を突き出して見せたり、胸の谷間を強調しながら、舌を出して唇をゆっくりとなめ回す。もちろん立ち去る時のウィンクも欠かせない。
「うわっ、たまんねぇ~、なあ、俺ちょっとトイレでヌイてきていい?」などという下品な言葉を耳にしながら、明彦はブースの方に視線を送る。真希のOKポーズが見え、やっと胸をなでおろす。

(どうしてこうも違ってしまったのだろう?)と明彦は思う。
 良介や美穂は、勉学に努め身体を鍛え、心身共に大人に成長して卒業を迎えた。しかも成績優秀者という名誉まで授かって。
 それなのに、今自分が卒業の資格を得るためにしていることは何だろう?
 思わせぶりな仕草で男達の劣情を刺激して、あえて「淫乱女」と受け取られるようなポーズを取り、それがまた別の男の欲望を刺激する。
 明彦の脳裏に、来場時に一人の女子学生が言った「商売女」の言葉が甦ってきた。
 もちろん自分は「商売女」などではない。でも今の自分の振る舞いを見たら、女子学生の言葉を否定する人はいないだろう。明彦の心には言いようのない無力感が広がっていた。

 そんな沈んだ思いが原因だったのだろう。明彦はある一つのミスを犯してしまう。
 飲食物スペースからテーブルに戻る時、明彦の持つトレイには、ジンジャーエールのグラスが2つ、ピザの乗った皿が一枚、そしてオレンジジュースのグラスが2つ、乗っていた。美穂が最後にオレンジジュースをアイスティーに代えて注文したことを忘れてしまっていたのだ。 
 それは、取るに足らない小さなミスである。取り替えれば済むような小さなミスである。
 だが、そんな小さなミスも他の要因が重なった時には思わぬ大きな事態を引き起こすことになってしまうものなのだ。

 相変わらずのひやかしの言葉を浴びながら、テーブル5に戻ろうとする明彦の目に、何やら異様な光景が飛び込んできた。
 同じテーブルを担当する宮永裕樹が、テーブル脇で首をうなだれて立っている。
 近くには座ったままの小西詩織の横顔が見える。遠目ではあるが、何やら怒っている様子が見て取れる。詩織の横には村中太一のにやついた笑顔が見え、その向かいの席に座る良介も同様に笑顔を浮かべている。ただ一人美穂だけが真顔で、詩織に向かって何か語りかけているように見える。
 明彦は思わず足を速めた。何があったかはわからないが、うなだれる裕樹の姿を見て、のんびりとしている場合ではないと思ったのだ。

「だから、謝って済む問題じゃないって言ってるでしょ?何度言ったらわかるのよっ!」
 近づく明彦の耳に最初に飛び込んできたのは詩織の怒声だった。
「で、では・・・どうしたら・・・どうしたら許して頂けるのですか?」
 うなだれたまま、震える声で裕樹は言った。
「だから、責任者を呼んでって言ってるでしょ?本当に頭悪いんだからっ」
「お、お願いします、それだけは・・・お許しください。」
 裕樹はそう言うと、そばに駆け寄ったきた明彦に気づき、近づくとその胸に泣き崩れた。
 明彦は裕樹の露出した肩を撫でながら慰めるように声を掛けた。
「大丈夫よ、先生に知らせるなんてことにはならないから、安心して・・・。でも、いったい何があったって言うの?」
 明彦の言葉に詩織がすぐに反応した。
「へ~あなた達、責任者のこと、『先生』って呼んでるの?何か変ね。ま、そんなことどうでもいいけど。それよりあなた、勝手なこと言わないでくれる? 責任者を呼ぶかどうかは客である私が決めることでしょ?」
「で、でも・・・先生を呼ぶことだけはお許しください。お願いします。」
 明彦は事情も掴めぬまま懇願した。
 先生、つまり真希か里佳を呼ぶことは、そのまま裕樹の「追試不合格」決定につながることを知っていたからである。

 その後泣きじゃくる裕樹から何とか事情を聞くことができた。
 その間も、詩織の容赦のない叱責と怒声が飛んでいたが、時折、美穂が、「もう、これだけ謝ってるんだから許してあげなさいよ。悪気があったわけじゃないのよ。」という言葉を詩織にかけてくれるのが、せめてもの救いだった。

「事件」はいたって単純なことだった。
 テーブルを片づけようとしていた裕樹が誤って飲みかけの水の入ったグラスを倒し、それが運悪く、詩織のスカートの上に流れ落ち、幅20センチほどの染みを作った。ただそれだけのことである。
 ただ、裕樹の話によると、誤ってグラスを倒したのは、トイレに行くためにテーブル5の前を通りかかったある男子学生が、前傾姿勢になってテーブルの片づけをしている裕樹のむき出しになった白いサテンショーツに触ってきたことに驚いたためだと言う。
 これまで3年間親友同士としてつき合ってきた明彦からすれば、裕樹の言葉に嘘がないことは確実だった。第一、男子学生達が自分たちに投げかけてくる情欲の目を見れば、それが出任せでないことは火を見るより明らかだった。

 ただ、そのことを言い訳にしたことが詩織の怒りに火を点ける結果になってしまったようだ。 
 詩織は裕樹に向かって遠慮ない辛辣な言葉を投げた。
「そんな、いかにも触ってくださいって言ってるようなイヤらしい服を着ていて、いざ触られたらびっくりしてミスするなんてどうかしているわ。どうせ、男のイヤらしい視線を受けるのがうれしくて好きでやってるんでしょ?触られるのだって大好きなくせに。思わせぶりな笑顔振りまいて、男に媚び売って、そんな女が触られたことを言い訳にして許してもらおうとするなんて虫がよすぎるわよ。」
 明彦は、詩織の言葉を聞いてただ涙を流しながら俯いている裕樹に代わって、何か言葉を返そうと思ったが、できなかった。
 もちろん、好きでやってるのではないと言い返したい気持ちはある。しかし、それを言ってどうなるのだろう。事情を知らない詩織にとって自分たちは、男が好きで、男に媚びを売ることでしか生きられない最低な女としか映らないだろう。たとえ反論したところで信じてもらえるわけもない。第一、騒ぎを大きくして困るのは裕樹や明彦の方だった。
「本当に申し訳ありませんでした。私からも謝りますので、どうかお許しください。」
 明彦は、裕樹に代わって、そう言うのが精一杯であった。

 だが、その言葉に詩織は冷淡な笑みを浮かべると、さらに残酷な言葉を投げかけたのだった。
「フフっ・・いいわ、そんなに許して欲しいなら許してあげる。ただ条件があるわ。そこに二人跪いて土下座なさい。そして自分たちが卑しくて汚らしい女だということを認めなさい。それができたら許してあげるわ。」
 明彦は目の前が涙で曇っていくのがわかった。怒りなのか、悲しみなのか、身体中が小刻みに震えている。
 明彦は、裕樹と目を合わせると、小さく頷き、膝をゆっくりと折っていった。

 と、その時だった。聞き覚えのある声がした。
「明菜さん!そんなことすることないわ。立ちなさい。」
 美穂の声だった。
 明彦は折りかけた膝を戻すと、美穂の方を見た。
だが美穂は明彦とは視線を合わさずに、目の前の詩織に向けた。
「詩織も、もういい加減にしなさいよ、あなた悪いわよ。少しぐらい水をこぼされたからって何だって言うの。そんなものすぐ乾くじゃない。ミスは誰にだってあるでしょ?彼女たちだって、心から謝ってるじゃない。それを人格否定みたいなことまで言って。反省するのは詩織、あなたの方よ。」
 明彦の目から涙が零れた。胸に熱さがこみ上げてきた。
 美穂が自分たちの側に立ってくれたこともさることながら、正しいと思ったことをきちんと主張する姿に、自分にはない凛々しさと知性と力強さとを感じ取ったからである。
 明彦は自分の心の中で、美穂に対する明確な「尊敬」の念が形になっていくのがわかった。それはあの「姉」に対する「妹」の敬慕の念と同じ底流を持つものだった。

 (続く)

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「N/Nプロジェクト」の記事、大幅に書き換えました。

一部の方から、現在執筆中のオリジナル小説「N/Nプロジェクト」の件でご質問を頂きました。

また、以前別の方から「N/Nプロジェクト・外伝」についてのお問い合わせも頂きましたので、

お答えする意味で、3月10日付けの記事を大幅に書き換えました。

小説「N/Nプロジェクト」についてご関心のある方はお読みいただければと存じます。

ちなみに、抜粋した「序章」についてはほとんど変わっていませんので、すでにお読みいただいている方は、

「序章」部分は読み飛ばして頂いてもかまいません。

 以上お知らせでした。

 サテンドール

私立明倫学園高校 第7章-2

 卒業生全員がテーブルに着席したのを確認し、司会者役の学校職員が一段高くなった臨時のステージにマイクを持って上がった。
「では、これより卒業パーティを始めますが、その前に今年度の成績優秀者の表彰をさせていただきたいと思います。先ほどの卒業式ですでに氏名は発表いたしましたが、ここでは個人個人に記念品を贈呈し、皆さんと一緒に称えたいと存じます。では学園長、よろしくお願いいたします。」
 司会者はそう言うと、ステージ中央の場所を空けた。ステージ脇で待機していた、礼服姿の学園長がその空間を埋めた。
「では、レディファーストということで、Fクラスの成績優秀者から表彰に入らせていただきます。まず一人目、佐藤瑞恵さん。」
 佐藤瑞恵と呼ばれた女子生徒が全員の拍手の中、ステージに上り、学園長から記念品の贈呈を受けた。
 卒業式での重々しいセレモニーとは違い、パーティの冒頭というやや砕けた雰囲気でのイベントに、受賞者も会場の雰囲気も和やかだった。中には調子に乗って指笛を鳴らしたために注意を受けて、会場の笑いを誘った者もいた。
 二人目、三人目と受賞セレモニーは進み、四人目の女子生徒の氏名が呼ばれた。
 小西詩織というその名は、美穂と同じテーブルに座るもう一人の女子のものだった。
 ステージ横の明彦の角度から見ると、美穂同様に知的ではあるが、やや冷たく生意気そうな印象を受ける。記念品の授与にしても形式的にお辞儀をしているだけで、それほどの喜びを感じてはいない様子だった。ただ、美穂たち、同テーブルの者達とは相当親しいのかテーブルに戻るときには、満面の笑みを浮かべていた。

「では、最後の成績優秀者です・・・・村瀬美穂さん。」
「え?」
 明彦は、微かに声を漏らした。
(美穂が、成績優秀者・・・)
明彦にとってそれは意外な情報だった。もちろん明倫学園高校に入学できたのだから、美穂の中学時代の成績はかなり上位であったことは確かだが、決してトップクラスというわけではなかった。恐らく入学当時は中の中といった程度の成績だったのではないだろうか。
 明倫学園高校の成績優秀者に選ばれるには国内最難関大学への合格が必須条件であることは有名な話である。ということは、美穂もその合格を果たした一人ということになる。
 明彦にはそのことがにわかには信じがたかったのである。
 ただ、この3年間で美穂が外見も内面もすっかり美しい大人の女性へと変貌していることは、もうすでに目の当たりにしたことである。学力がそれに伴って飛躍的に伸びたとしても不思議なことではない。信じがたいと思ったのはその成長過程を見ることのできなかった自分自身の思いこみに過ぎないのだと、明彦は思い直した。
 もちろん悲しさもあるし寂しさもある。高校卒業の資格すら取れるかどうかわからない自分に比べ、優秀な女性として成長していく美穂は遙か遠く手の届かない存在、言い換えれば住む世界の違う人になってしまったことを思い知らされたような気もするのだ。
 明彦に今できることはそんな美穂に対して心からの祝福を送ることだけだった。
 明彦は生徒達の拍手に合わせ、無意識に手を叩いていた。隣に立っている水野純一、いや純奈に軽く肘打ちされるまで、自分が拍手していることにさえ気づかなかった。

「では、引き続き、男子成績優秀者の表彰に移らせていただきます。まず一人目、秋山耕太くん。」
 司会者の声に、はっと我に返った明彦は、再びステージ上に視線を戻した。
 秋山耕太と呼ばれた生徒が、美穂達の座るテーブルの斜め後方の座席から立ち上がると、ゆっくりとステージに向かった。他の男子生徒同様、背の高いガッチリ体型で知的な容貌をしていた。
 一人目の秋山耕太が学園長から記念品を授与され、拍手の中ステージを下りると、二人目の氏名が呼ばれ、その後、3人目、4人目と行事は進行していった。
 7人目に呼ばれた村中太一は美穂のいるテーブルで小西詩織とペアになっている生徒だった。 
 明彦はここであることに気づいた。
 各テーブルの中で男女がペアを作って座っているのは成績優秀者同士の組み合わせだけなのだ。他の生徒は同性同士で同じテーブルを囲んでいる。もしかしたら学内での男女交際は成績優秀者のみに与えられた特権なのではないだろうか。だとすると、美穂とペアになっている男子生徒も成績優秀者の一人ということになり、まだ呼ばれていない3名の中にいることになる。明彦はその人物の名を聞き漏らすまいと耳を傾けながら待った。それは自分の恋人(いや、もはや元恋人と言うべきなのか)を託す人物の名を記憶に留めておかなければならないという思いと共に、先ほどから感じている言いようのない胸騒ぎのためでもあった。
 明彦は、この時点になっても、まだ親友の兵藤良介の存在を確認できていない。Dクラス生と言っても、25名の少人数である。しかもすでに名前の呼ばれた7名の中にはいない。
 もしかして残り3名の中に良介の名が? いや、彼が成績優秀者になっていることはないだろう。では、男子生徒同士のテーブルのどこかに? いや、待って。美穂だって、成績優秀者になっているのだ、良介が3年の間に成績優秀者になっている可能性だってある。
もしそうだとしたら、美穂の隣に座る生徒がそうなのか? いや、そんなはずはない。良介が親友である自分の意志も聞かないまま美穂との交際をするはずがないではないか。第一、自分と大して体格に差のなかった良介が、あの逞しく男らしいマッチョに変わっているわけがないではないか。いや、でも・・・・
 
 明彦の頭には疑問と否定の連鎖が続いていた。それはまるで、バーティ会場の壁に掛かる飾り付けのためのリボンの輪のようであった。
 だが、その連鎖も司会者の一言で断ち切られることとなった。すべての疑問が氷解したのである。

「では、男子最後の成績優秀者です・・・・兵藤良介君、ステージにどうぞ。」
 司会者の言葉に応えて一人の男子学生が立ち上がった。前列右から5番目のテーブルに着席していた一人である。同席者の小西詩織と村中太一から祝福の拍手を受けながら起立した彼の横には、ひときわ大きな笑顔と拍手を投げかけている美穂の姿があった。
 
 明彦は全身の力が抜けた。その瞬間自分の身体を支えるすべての骨という骨が溶けてしまったかのような感覚だった。かろうじてフロアに崩れ落ちることが避けられたのは、隣に立っていた「同僚」の純奈が異変に気づき、咄嗟に彼の身体を支えてくれたからである。
「どうしたの?明菜、何かあったの?」
 純奈の問いかけに明彦は小さく首を振って答えた。
「ううん、何でもない・・・ありがとう、純奈」
「そ、そう・・・ならいいけど、でも明菜、顔色よくないわよ。もしかして風邪とか?だったら先生に言って・・・」
「ううん、大丈夫・・・心配かけてごめんね。」
 明彦は心配そうな表情で見つめる純奈に作り笑顔で答えた。
 膝に意識的に力を入れて姿勢を整えた。震えはまだ続いているが、何とか崩れ落ちずに立つことはできた。

 思い描いていた中で、最悪のシナリオである。
 今、ステージに立ち、学園長から記念品を受け取っている男子生徒、高身長マッチョぞろいの男子生徒の中にあってもとりわけ目立つその生徒こそ、親友の兵藤良介だったのだ。
 それにしてもなんという変わりようだろう。3年間という年月は人をここまで変えることができるのだろうか。
 当時、自分と大して変わらなかった身長が今では190センチ近くにまで達している。どちらかと言えば、細身であった体格は厚い胸板と広い肩幅と太い首を持つマッチョ体型に変わっている。全身が鋼のような筋肉に覆われているだろうことは制服越しにもわかる。
 さらに、健康的に日焼けした顔に浮かぶ、自信と誇りに満ち溢れた男らしい笑顔からは、以前の少しはにかみがちで内気だった性格は微塵も感じられない。
 そして、成績優秀者という客観的事実、それはつまり美穂同様、国内最難関大学合格者という事実を物語っているのだが、男子の場合はそれだけではない。25名中22名は同大学の合格者なのだ。その中で成績優秀者の10名に選ばれるということは、他の要素、つまり学園の理想である「若くしてあらゆる分野におけるトップリーダーとなる人材」として認められたことになる。言い換えれば「権力者」としての人生が約束されたと言っても過言ではないのだ。
 
 だが、良介が手に入れたものは他にもあった。いや、それこそが今明彦の気持ちを最も動揺させている事柄だと言ってもいい。
 彼は、村瀬美穂という恋人を手に入れた。親友の手から奪って自分のものにした。
 そのことはもちろん動揺の最も大きな要因ではあるが、同時に小さな疑問もわいてくる。
 なぜ良介はあえて親友の恋人である美穂を自分の交際相手として選んだのだろう。
 そして、二人はなぜ一言の連絡もなしに交際を始めたのだろう。
 たとえその答えがわかったところで、二人が交際しているという事実は消えるわけではない。だから知る必要もないのかもしれないが、もしかしたらそれを知ることで二人の交際を認める気持ちになれるかもしれないという気もするのだ。

 明彦がそんな気になったのは、仲間の祝福を受けながらテーブルに戻った良介を立ち上がって迎える美穂の心からの笑顔を見たからだ。それは何の遠慮も躊躇いもない満面の笑みだった。そんな幸福そうな笑みを明彦はかつて一度も見たことはない。
 それに二人が並んで立っている姿を見ると、まるで画に描いたような理想的なカップルに見える。高身長同士、エリート同士の美男・美女のカップルはまるで映画スター同士のそれにすら見えてくる。

 明彦は、涙でかすむ目の奥で、美穂の隣に立つ自分の姿を想像してみた。
 そこには、およそ男女の恋人同士とはかけ離れた、女性同士のペアの姿が浮かんでくる。
 長身で大人びた美穂と小柄でやや童顔の「明菜」の二人は友人同士にすら見えない。
 姉妹・・・それも優秀で何もかも完璧な姉と、何をやってもドジでおバカな妹というイメージしか浮かんでこない。
 イメージはさらに色づけされていく。
 二人の姉妹には何の共通点もない。能力も趣味も関心事も特技も。そもそも妹の「明菜」には特技などと言えるものはない。
 いや、あった。・・・・・・姉の「美穂」には絶対に真似のできない特技があった。
 それは、どんな男の股間も熱くしてしまうメイクと表情、そしてその部分を硬化させる言葉や仕草、さらに熱く固くなったその部分を鎮め、解放させるテクニックである。
 
 明彦の心に浮かぶ静止画イメージは、やがて動画となって動き出す。
「明菜」が例えどんなにドジでのろまでも、優しい笑顔で見守っている「美穂」。
「明菜」が何度も学校のテストで零点をとってきても、「また、こんどがんばればいいのよ。」と頭を撫でながら言葉をかけてくれる「美穂」。
 でも・・・・
「明菜」が男と見れば色目を使い、学校でも「ヤリマン」とあだ名されるようになると、「美穂」の表情は曇る。
「美穂」は「明菜」を両膝の上に俯せにさせ、お尻を露出させると、そこに手のひらを打ち下ろす。
「あなたのためよ。」と「美穂」は涙を流しながら打擲する。
「ごめんなさい、お姉様、明菜は悪い子でした。もう、二度としませんから、許して、お姉様・・・」と泣き叫ぶ「明菜」。
 やがて胸の中で泣きじゃくる「明菜」を「美穂」はそっと抱きしめ、頭を優しく撫でる。
泣き疲れた「明菜」はそのまま「美穂」の胸で眠りに落ちる。「明菜」の寝顔は安心感と幸福感に満たされていた。・・・・・・・・・・・・・

 明彦はハッとした。なぜそんな映像が浮かんできたのかわからない。
 だが、安心感と幸福感は映像の中の「明菜」の寝顔だけに宿ったものではなかった。  
 その映像をイメージしている明彦自身の中にも、はっきりと宿った感覚だった。
 
 恥ずかしかった。情けなかった。
 それは「強者」への従属を「安心・幸福」と認識してしまうことに対してではない。
 同じ歳のかつての恋人をその「強者」の一人として認めている自分に対してだった。
 だが理性ではそれを否定しようと思っても、自分の心には嘘は付けなかった。
 明彦の心には「強者」である「姉、美穂」に従属する「妹、明菜」になれたらどんなに幸せだろうかという思いが芽生えていた。
 明彦の目にはもはや「恋人、美穂」の姿はなくなっていた。
 
 (続く)

私立明倫学園高校 第7章-1

 パーティ会場の入口にはメイド風のコスチュームを身を纏った10名のウェイトレスが、客の来場を待っていた。
 また、会場内の約20の円形テーブルと飲食物の置かれたコーナーとの間を同じ制服を着た15名のウェイトレスが忙しそうに行き来していた。
 明彦は入口から数えて5人目、ちょうど列の中程の位置で、視線を下に落とし、手をスカートの前で軽く握りながら立っていた。
 明彦の心には未だに大きな不安が残っている。
 この段階になっても知らされていない「指名客」への不安である。確率的に言ってもよもや良介ということはないと思うが、確定するまではどうしても不安は消えないのだ。
 
 彼らが今身につけている制服は、一昨日手渡されたもので、ピンクのチェック柄を主体にしたメイド風コスチュームで同柄のカチューシャと白のガーターベルトにフィッシュネットストッキング、そして同じく白の12センチピンヒールパンプスというコーディネイトだった。
 メイクはフルメイク、ただしきつすぎないようにとの指示だった。そんな抽象的な指示に対しても適切に対応できるテクニックを、彼らはすでに身につけていた。
 コスチュームのスカート部分はフレアミニになっていて、丈はかなり短い。常にガーターベルトが覗いている状態で、前屈みになる際には白のサテンショーツが覗かないよう神経を使う。いや、神経を使うのはスカートの裾だけではない。大きく開いた胸元にはプッシュアップブラで強調された深い谷間がはっきり見えている。前屈みになる時にはこちらへの意識も必要だった。
 明彦は試着の時、ブラの端から不自然に盛り上がる柔肉を、真希に目ざとく指摘された。
無理してDカップのままでいたことが知られてしまったのである。
 真希は強制的にEカップに交換させると、からかい気味に言った。
「やっぱり、『特別指導』のマスターの早い子は成長も早いのね。エッチが得意な子はオッパイも大きいってことかな?フフフ・・・あ、そうそう、指名してくれたお客様にはちゃんと謝っておかなくちゃだめよ。『バストサイズ嘘ついてごめんなさい。明菜はエッチだから、すぐオッパイが大きくなっちゃうんですぅ』ってね。フフフ・・・」
 明彦は真希の言葉に小さく頷くと、ただ顔を赤らめ俯くしかなかった。 

卒業式会場から連絡が入った。
 式が終了したので、間もなく卒業生達が会場に到着するとのことだった。
 明彦は緊張で喉がからからだった。もうすでに良介と美穂は再会を済ませているだろう。
 二人はすぐにうち解けあえただろうか、それともぎこちないままなのだろうか。
 現在、良介と美穂が恋人関係にあることをいまだに知らされていない明彦にとってそう考えることは無理からぬことだった。

 パーティ会場のドアの近くで足音と談笑が聞こえてきた。
 いよいよ、3年ぶりに良介、美穂との再会の時である。本当なら、皆で名のりあって抱き合い、再会を喜び合うはずなのだが、それは決して許されない。きっと二人を遠目から見て、心の中で「卒業おめでとう」と言うしかないのだろう。
 そう思うと明彦の心は暗く切なくなり、涙が零れそうになる。
 だが、そんなことすら明彦には許されない。
「お客様の前では常にスマイルよ。それも可愛いだけのスマイルじゃダメ。セクシーに唇をいつも半開きにして、時々舌をのぞかせる。いいわね D・S・Lを意識するのよ。」
 バーティ会場に入る前、真希が「ウェイトレス」達を前に言った言葉が脳裏に浮かんだ。
 明彦は気持ちを吹っ切るために、目を閉じ軽く深呼吸をすると、口角の上がり具合を意識してスマイルを作った。頬にかすかなぎこちなさが残ってるのに気づき、指先で軽くマッサージをすると、強ばりは消えていった。最後に唇を少し開き、それをキープし、真希の言う「理想的な」スマイルが完成した。
 
 最初の来場者は3人組の男子生徒だった。詰め襟の学生服を着ているから「男子生徒」と認識できるが、もしこのままスーツでも着ていようものならりっぱな社会人に見えるだろう。彼らはそれほどまでに大人びていて、自信に溢れた風貌をしていた。それだけでない。185センチほどなのだろうか、体つきも大きく、肩幅も広く、胸板も厚そうである。典型的なマッチョ体型だということが学生服越しにも見てとれた。
 しかもそれは3人だけのことではなかった。その後に続く男子学生のほとんどが同様の風貌と体つきをしていたのである。
 3年前の入学式後、Dクラス学生寮の中に消えていく彼らを見た時、確かに背の高い大柄な生徒が多いとは思った。だがここまでの力強さと男らしさを持ち合わせた者は一人もいなかった。それに中には明彦と大して差のない良介のような者も数名いたはずである。 この3年間で彼らに一体何があったのだろう。自分たちSクラス生に施された「指導」の特異性を考えれば、Dクラス生たちに単なる普通の「指導」が行われたとは思えない。おそらく何らかの特殊な指導方針の下で、彼らをこれほどまでに心身共に「優越性」のある男達へと変えていったに違いない。

 明彦は、露出度の高い制服のために、むき出しになった自らの手足に目をやった。
 クラスメートから羨望と垂涎の的である美しく形のいい手足も、今この瞬間は、「弱さ」の象徴にしか映らない。
 もしも、目前を通過する際に全身をなめ回すような視線を投げかけていく彼らの誰かが、良からぬ考えを起こし自分を襲ってきたら、果たしてどんな抵抗ができるのだろう。細くか細い両腕は、男の太く逞しい片腕でいとも簡単に抑えつけられてしまうだろう。そして、白く細い両足は、日焼けした筋肉質の太股でガッチリと挟み込まれ身動き一つできないに違いない。
 その時に明彦に残された唯一の抵抗は、「お願い。命だけは助けて。あなたの望むことは何でもするから、お願い、命だけは・・」と涙を流して哀願することだけだろう。
 そんな場面が頭の中を占有すると、明彦は目の前を行き過ぎる彼らの目を直視することができなくなっていた。
 しかしそれでも無意識の内に「セクシースマイル」をキープしているのは、精神操作によって植え付けられた強者に対する卑屈なまでの「従属性」の現れであったに違いない。

 やがて来場者の流れが一旦収まると、次にブレザー姿の女子学生の一団が入ってきた。
 男子学生はすべて来場済みということなのだろうか?
 明彦はすでに各テーブルに着席している男子生徒達を見回した。
 ざっと数えると25名ほどである。やはり男子生徒は全員来場済みだったのだ。
 それは明彦が親友である良介を見落としてしまったことを意味した。
 良介が自分を見落とすのは当然だが、自分が良介を見落とすなんて、と明彦は思った。
 もう一度、ゆっくりと各テーブルの男子学生を目で追った。少し距離が離れているのでよくわからないが、どの生徒も当てはまっていないように見える。だがそれは同時にすべての生徒が良介である可能性を残したことでもあった。

 女子生徒たちはほとんどが何人かの集団を作りながら入場してきた。
 彼女たちの自分たちに向けられる視線は、先ほどまでの男子学生達のものとは明らかに違っていた。
 そこには羨望・嫉妬・軽蔑・侮辱など、あらゆる感情が複雑に入り交じっていた。
 ただ時折聞こえてくる彼女たちの言葉には肯定的なものは皆無だった。
「ねえ、見てよ。あの制服。信じられる? ショーツとか見えちゃいそうじゃない。しかも胸元だってあんなに開けちゃって。恥ずかしくないのかしら。」
「ホントね、でも、恥ずかしいってことないんじゃない? だって、あんなにニコニコしながら立ってるもの。」
「ニコニコなんて感じじゃないわよ。男に媚びちゃって、本当にサイテー。ああいう女がいるから、私たちみたいなきちんとした女まで同類に見られるのよ。ホント、どっか消えて欲しいわ。ああいう子。」
「本当よね。学校もいくら主役が男子生徒だからって、こんな『商売女』みたいな下品な人たちまで用意するなんて、何考えてるのかしらね。」
 明彦の視界は涙で曇っていた。「商売女」という言葉が心に重くのしかかっていた。
 そしてそれに反論することが許されないだけでなく、涙を見せずにセクシースマイルをキープし続けなければならないと思うと、それがかえって新たな涙を誘うのだった。

明彦はこぼれ落ちそうになる涙をごまかすため、一瞬視線を下に落とした。
 とその時、目の前を通り過ぎようとする一人の女子学生の足許に純白のハンカチが落ちるのが目に入った。
 明彦は咄嗟の条件反射のように身をかがめると、そのハンカチを拾い上げ、落とし主である目の前の女子学生に差し出した。
 170センチほどの長身と大人びた美しさ、そしてスラリとしたスタイルはシンプルなブレザー姿を通しても十分伝わってきた。
「ありがとう。」
 明彦のような甲高い少女じみた声とは違って、落ちついていて知的で、それでいて優しさのある声だった。
 薄めの唇とほとんどノーメイクの素顔、そして額の形が知的なイメージをさらに倍加させている。
「い、いえ・・どういたしまして。」
 明彦は自分の声が恥ずかしかった。
 強制的に作られたものとは言え、甲高い声は自分の小学生並みの知的水準を表しているようで、逃げ出したいほどの羞恥心に襲われた。
 明彦のおどおどした態度がおかしかったのか、少女はニコリと微笑んだ。

 その瞬間明彦の心に電流が走った。
 右頬だけにできる片えくぼ、そして小さくのぞく八重歯、そして口許の小さな黒子。
 それらすべてに明彦は見覚えがあった。
 3年前、明倫学園高校の入学式当日までは毎日のように目にしていた村瀬美穂の顔にある特徴だった。
 明彦は少女の顔を凝視した。いくつかのパーツに面影が残っているような気がするが、決定的とは言えない。それに、当時157センチと小柄だった自分よりさらに2センチ低かった美穂が、170センチの長身となり、当時のままの身長である自分をはるかに見下ろしてくる姿を見るとやはり別人のような気もする。
 しかし、彼女の手に握られたハンカチに施された「MIHO」の文字の刺繍がその迷いをすべて払拭した。
 その知的美少女は、恋人である村瀬美穂その人だったのだ。
明彦の胸は高鳴った。

「『美穂!』・・・さん・・・と・・・おっっしゃるの・・・ですね?」
 明彦は、思わず美穂の名を叫んだ後、すぐにごまかしながら言葉を継いだ。
 美穂は一瞬怪訝そうな顔をしたが、自らの手に握られているハンカチの刺繍に気づいて、安心したように微笑むと優しげな声で言った。
「ええ。美穂って言います。あなたは?」
「は、はい・・・あき・・・・あき・・・な・・・明菜です。」
「フフっ・・可愛らしい名前ね。今日はいろいろお世話になるかもしれませんけど、よろしくね。」
 美穂は右手を差し出し、握手を求めてきた。
 美穂の言動には、先ほどの女子学生達のような、人を蔑んだような態度も見えないし、侮辱的な言葉を投げかけるそぶりもなかった。
 辛い思いを味わっていた明彦はそんな美穂の優しさに触れて、心揺さぶられる思いだった。
 明彦は差し出された指先に右手を添えると、無意識の内に膝を曲げお辞儀の姿勢を取っていた。
メイドが主人や客に対して行うその姿勢を、明彦はこれまでの指導で徹底的にたたき込まれていて、咄嗟にそれが出てしまったのである。
「クスッ・・ずいぶん丁寧な挨拶をするのね。でも、ちょっといい気分。フフフ・・・じゃ、またね。」
 美穂はそう言うと、明彦の前を離れ、テーブルへと向かった。
「あ、美穂・・・様・・」
 明彦は咄嗟に美穂の後ろ姿に声を掛けた。客や主人を「様」付けで呼ぶのも、すでに身に付いた習性である。
「うん?なに?」
 美穂は振り返り、明彦を見つめた。
「あ、あの・・・ご卒業、おめでとうございます。」
「あ、ええ、どうもありがとう。フフフ・・」

 もちろん、明彦が本当に言いたかったのは美穂への祝福の言葉などではなかった。
(僕は明彦だ。君の恋人の明彦だ。会いたかったよ。)
 明彦は去りゆく美穂の背中に向かって、心の中で一回だけ叫んだ。
 何度も繰り返せばきっと涙が止まらなくなり、アイメイクが流れ落ちてしまうかもしれないと思ったからだった。

 明彦の前を離れ、会場中央に向かった美穂は前列右から5番目の円卓テーブルの一席に腰を下ろした。そのテーブルにはすでに二人の男子生徒と一人の女子生徒が座っていた。
 美穂を含めた4名の男女はどうやら知り合いらしく、美穂が席に着くとすぐ、会話を交わし始めた。もちろん明彦の位置からはまったく聞こえないが、全員が笑いあっているのは遠目からもよくわかった。
 やがて、美穂は席をわずかにずらし、左隣の男子生徒の方に近づけた。それに呼応するように、その男子生徒も席を右側に少し移動した。
 すると、残りの二人の生徒同士も美穂たちと同様の動きをし、テーブルは二組のカップルシートに分かれてしまった印象である。
 美穂とペアになった男子は、長身揃いの男子学生達の中でも、恐らく一番目か二番目の大きさで、しかも骨格もしっかりしていた。また体格面だけではなく、容貌も自信が表面に現れ出ているような男らしさがあり、明るく知的な笑顔も印象的だった。明彦の目の前を通り過ぎていった25名の男子学生の中も特に印象に残っていた一人である。
 美穂は、そんな彼の肩に時折頭を凭せ掛けたり、耳打ちをしたりしている。そして彼の方もそれに笑顔で答えている。
 ここまで目にすれば、明彦の目にもこの二人が交際中であることは明らかだった。
 明彦の心には動揺が広がった。高鳴る鼓動は自分の耳を通じても聞こえてきた。
 だが、明彦には美穂を恨む気持ちは起きなかった。いや、全く起きなかったと言えば嘘になる。ただ先ほど、美穂の優しさとその人間性に触れて、明彦は恨みを持つまいと自分に言い聞かせたのである。第一、今の自分に何ができるのだろう。名乗り出ることすら許されない自分にできることなど何もない。もし美穂のことを今でも愛しているのなら、彼女の幸せこそ第一に考えるべきなのではないか。それに今美穂に微笑みかけている男子生徒は明彦の目から見ても、好青年に見える。長身の美穂が隣に並んでも、きっとバランスのとれた似合いのナイスカップルになるに違いない。
 明彦はそう考えようと務めた。明彦は殊更大きくセクシースマイルを作った。そうでもしなければ、すぐにでも涙が堰を切って流れ落ちそうに思えたからだ。

 (続く)

私立明倫学園高校 第6章-2

 部屋に戻ってもしばらくは呆然と窓の外を眺めるだけだった。
 遙か遠くに3年Dクラス寮とFクラス寮のそれぞれほんの一部が見える。
 明彦にとってこの距離の隔たりは物理的な長さより遙かに大きな運命的なものに感じられた。
 明彦がようやく封筒の中身に目を通す気になったのは、夕食時間を終えた8時頃のことだった。
 その行動パターンはほとんどすべての生徒に共通のようだった。と言うのも、食堂で顔を合わした生徒誰一人として、資料の内容に触れる者はいなかったからだ。つまりまだ目を通す気力が誰にもなかったということであろう。
 本当なら明彦は食堂を訪れる必要はなかった。ショックでとても食事など喉を通りそうもなかったからだ。それでも食堂を訪れなければならなかったのは、悲しいことに「スペシャルドリンク」を求めてのことだ。あの禁断症状のような苦痛を味わって以降、飲用を欠かしたことはない。あまりに急激な身体の女性化に怖くなって、なんとか毎食時一本ずつの量に減らしているが、女性化への変化は緩やかに進んでいる。
 実を言うと胸の膨らみはもうDカップでは窮屈になっている。それでもEカップのブラを要求できないでいるのには明彦なりの理由があった。
中学時代、明彦のお気に入りグラビアアイドルのバストがDカップだったのだ。その形のいい美乳に自分のペニスが挟まれるのを想像しながらオナニーに浸ったことは数え切れない。そのオナペットにしていたアイドルのバストサイズを今自分は超えてしまったのだ。それは自分がオナペットを「使う」側から、オナペットとして「使われる」側になったことを意味しているような気がして、認めたくない事実だったのである。


 封筒の中には一枚のDVDとピンクの手紙、そしてA4大の白い紙片が添付されていた。
 紙片には簡単な挨拶文の後、「明菜」のプロフィールらしきものが書かれてある。
 いい加減な数字のスリーサイズ、行ったこともない出身地、やったこともない趣味、
聞いたこともない特技などと並んで、ご丁寧にも「経歴」と称して、20歳という偽りの年齢と、学業成績不振で高校中退(学力レベルは小学校高学年)などというコメントまでつけてある。

 次にピンクの手紙を開いてみた。
 便せんが2枚、きちんと折り畳まれてていた。
 開いてみると、パステルカラーの文字で「明菜」のPR文が書かれていた。
 手書きではなく、タイプの文字である。
 だが、「おきゃくさまへ」と平仮名での呼びかけから始まる、その文章は決して事務的な挨拶文ではなく、「客」の好奇心と性的興味を引き出すことを意図した扇情的な文章に満ちていた。明彦は読み進む内に、恥ずかしさで頬が燃えるように熱くなるのがわかった。

『 おきゃくさまへ
 ちょっとだけ、明菜のこと、お話ししますね。
 お話読んで、明菜のこと気に入ってくれたら、ぜひ指名してくださいね。
 心を込めて「ご奉仕」させていただきます。
 明菜の得意なプレイはね・・・DVDに映ってますから、よく見てください。
 映ってることなら全部得意だし、大好きです。
 DVD見て、感じちゃったら、今度はホントの明菜がお相手しますね。
 明菜もお客様のホントの・・・が欲しい。
 今もね、こうしてお手紙書いてるだけで、感じちゃってるの・・・
 明菜はね、ホントはとってもMッ娘だから、苛められたり、お仕置きされるのも大好き。
 だから、Sの強い男性が好き。命令とかされるとそれだけで濡れてきちゃうの。
 ねえ、おきゃくさま、早く明菜のこと、イジメテ・・・・・オ・ネ・ガ・イ 』

「な、なに・・・これ?」
 明彦は思わず呟いた。自分で書いた記憶もないこの文章が何の目的で書かれているのかは一目瞭然だった。これを「明菜」の手になるものと受け取り、興奮したDクラス生の誰かが、一夜を共にしようと自分を指名してくるのだと思うと、明彦は背筋が凍る思いだった。
 これを読んだ若くて性欲もありあまった青年は、長期間の禁欲から解き放たれて一夜の自由を手に入れたのである。どんな性衝動をぶつけてくるか想像するだけで逃げ出したい思いに駆られるのだった。

 ただ、幸いなことにプレイの内容がDVDの範囲内ということを暗に示しているので、わずかではあるが救われる思いがした。
 DVDはビデオ撮影の映像をダイジェスト的に編集してあるものだと、担任は言った。
 そうであるなら、なんとか耐えられそうにも思えてくる。
 ビデオ撮影時に体験した中で最も恥ずかしい思いをしたシーンは何だったろう?
 セーラー服姿でのパンチラ映像、バニーコスチュームでのストリップショー、フレンチメイド姿での「擬似フェラ」映像、 OL制服でのバイブを使ったパイズリ映像、そして男性の性欲を刺激するような挑発的で卑猥なセリフの数々・・・
 そのいずれもが今思い出しても赤面してしまうほど恥ずかしい。でも撮影の時は数名の視線を浴びながらだったことを考えると、今回、もし同じ演技を要求されたにしても、相手は一人である。恥ずかしさもずいぶん軽くなるような気もしてくるのだ。

 明彦は、ケースからDVDを取り出すと、ポータブルプレーヤーに差し込んだ。
 小さな読み込み音の後、画面が明転し、ショッキングピンクの文字が浮かび上がる。
 丸文字とハートマークだらけのその文字は、いかにも「頭の悪い女の子」を演出しているようだ。
『明菜のすべてをお見せしちゃいま~す。 気に入ってくれてたらうれしいな~。まずは、セクシーポーズ集・・・・明菜、エッチなポーズするの大好き~ 感じてくれたらうれしいな~』
 扇情的なピンク色の文字が消え、すぐにセーラー服姿の「明菜」を映し出す。
 画面に向かって可愛らしく小首を傾げて微笑みながら、スカートの裾に手を伸ばし、ゆっくりと思わせぶりに持ち上げる。いかにも少女らしい淡いピンクのショーツが姿を見せる。
「もう~どこ見てるの?エッチなんだからぁ」
 カメラに向かって悪戯っぽく囁く。甲高い少女らしい声だ。
 明彦は、この時のことをはっきりと覚えている。何度繰り返しても、このわざとらしいセリフと仕草ができなかった。真希のオーケーが出たのは実に8回目の撮り直しの時だった。

 画面の「セクシーポーズ集」は続く。
 フレンチメイド姿でお尻を突き出しながら、誘い込むようにウィンクするポーズ。
 ナースユニホームの胸元を大きく開けて、Dカップの豊乳を見せつけながら、時折カメラに向かって囁くポーズ
 「フフフ・・どこか悪いところありませんか? 明菜が治して・・・・ア・ゲ・ル」
 さらに、いくつかのコスチュームでのセクシーポーズのカットが入り、再びピンク色の文字が浮かび上がる。
『明菜はいたずらっ娘なの。 いろんなおもちゃ使って、いけないいたずらしちゃってま~す』
 文字がゆっくりと消え、次の瞬間フレンチメイド姿で、ロリポップキャンデーに舌を絡ませながら画面を見つめる「明菜」が映し出される。丸いキャンディの先端をペニスの先に見立てたかのように、チュッチュッっと音を立てながらキスをしたり、ポッテリとしたボルドーレッドの唇でパクっと銜えてみたりと思わせぶりにシーンが続く。
 さらに、ミルクアイスキャンディーを使った「擬似フェラ+ごっくん」映像。
 OLユニホームの胸元をはだけ、細身のバイブを胸の谷間に埋めながらの「擬似パイズリ」映像。
 バニーガールユニホームでのストリップを見せながら、本物のペニスを象ったバイブでの「擬似フェラ+擬似パイズリ」映像。
と続き、画面が一旦暗転する。
 
 明彦は改めて思った。
 自分を指名してくるDクラス生は、この映像を見て、気に入って指名してくるのだ。
 きっと画面での演技を、目の前で見せることを要求するだろう。
 同じ18歳の高校生の前で、そんな屈辱に耐えることはできるのだろうか?
 でも、それを拒否することなど今の自分にはできないのだ。だったら、迷っていても仕方がない。たった一晩のことだ。お芝居だと思えばいい。
 でも、やっぱり・・・・
 そんな明彦の揺れる思いが落ちつくことのないまま、画面が再び明転する。

 ピンクの丸文字が浮き出てくる。
『でも、やっぱり明菜の大好物はね、おもちゃじゃなくて、ホンモノのオチ○チ○
ねえ、お願い、明菜のおクチにあなたのオ○ンポ、ちょうだい・・・』
「うん?どういうこと?ホンモノって・・・?」
 明彦は戸惑った。全く意味不明の文章だった。編集ミスではないかとも思った。
 だが、この後続く一連の衝撃的な映像で、その謎は解明する。
 同時に、これまで学校側が自分たちにひた隠しにしていたことも、「追試」で自分たちに何を求めているのかも、すべて明らかになっていく。

 信じられない映像だった。そこには、撮影時に眠りに落ちてしまった時に見た「悪夢」の映像がはっきりと映っていたのである。作り物ではない、本物の映像として。
 フレンチメイド姿で、下半身を露出した3人の男達に囲まれながらも、怯えることもなく妖艶で好色な笑みを浮かべている姿も、その男たちの逞しいペニスに手と口を使って情熱的な奉仕をする姿も、夥しい量の熱い精液を顔面で受け止め、それでも笑顔で応える姿もすべて現実のものだったのである。
 映像の中の「明菜」は決して眠り込んでいるわけではない。いやむしろ、はっきりとした意識の中で自ら進んで行動しているように見える。それなのにあの時、夢のように感じたのはどうしてだろう。
 明彦は微かな記憶の中に残っていた、あることを思い出した。
 眠りに落ちる前、必ず最後に見た光景があった。それは、目の間に座るカウンセラーの差し出すチェーンの付いたコインの左右に揺れる動きと、呪文のような言葉だった。
「催眠術」・・・・・明彦の心にその三文字の単語が浮かんだ。
 彼らは、催眠術により明彦を誘導し、本当の性的行為へと導いていったのだ。しかも表面上は明彦自身の意志による行為と見えるように。
 映像はその後もリアリティのある男達の射精シーンが連続する。その白く熱い樹液を口と言わず、顔と言わず、胸と言わず、手と言わず、ありとあらゆる部分で受け止める「明菜」の官能的な演技が映しだされている。
 
 明彦はそれらの映像をただ呆然と眺めていた。人間いくつかの衝撃が一度に襲ってくると、逆に何の感情も起こらなくなることもあると言う。
 この時の明彦は正にそういう状態であった。目の前で流れる映像も「明菜」という美少女AV女優のプロモーション映像にすら感じられるのだ。

 だが、そんな無感動の時間も長くは続かなかった。
 再び浮き上がってきたピンクの文字が、明彦の意識を呼び覚ましたのである。
『明菜の一番好きこと、それは、やっぱりエッチかな。 でもね、明菜ってMッ娘でしょ?
だから、普通のエッチじゃダメなの・・・恥ずかしいけど・・お尻がいいの・・アナルエッチだ~いすき! ねえ、あなたのぶっといおチ○ポ・・・明菜のアナルに・・・イ・レ・テ』
 映像がOL制服姿の「明菜」に切り替わる。四つんばいでお尻を突き出し、何かをじっと待っている「明菜」。そこに下半身を露出した巨根男が近づく。「明菜」のアナルプラグを抜き取りローションを塗り込むと、すでに硬化した巨根をゆっくりと沈めていく。

「い、いやぁ・・・やめてぇ・・・」
 甲高い悲鳴が部屋中に響いた。
 画面の中の「明菜」の声ではない。
 その声は画面を見つめる「明彦」のものだった。
 すでにここまでの映像を見て、半ば予想していたこととは言え、せめて、最後の一線として「ロストバージン」だけは夢であって欲しいと思っていた。
 だが、その願いは脆くも崩れ落ちた。
 男として生まれてきたにも関わらず、「童貞喪失」もしないまま、「ロストバージン」を経験することになったのである。

「アナルプラグは、姿勢を保つためよ。それに浣腸はアナルプラグをスムーズに入れるため。」と、高岡真希が真顔で言っていた言葉を思い出した。
 すべては「ロストバージン」シーンを撮影するための白々しい嘘だったのだ。
 
 明彦の目から大粒の涙が途切れることなくわき上がっては、頬を伝って落ちた。
 誰憚ることもなく、嗚咽した。
 いつの間にか、DVD映像は終わっていたが、それには全く気づくことなく泣き続けた。
 
 ようやく涙も枯れ、少しずつ心に落ちつきが出てきた時、明彦の心に、悲しみ、悔しさとは違う別の感情がわいてきた。
 それは恐怖と不安であった。
 忘れていたことだが、このDVDは自分だけが見ているのではない。Dクラス生たちが、自分たちを指名するために目を通しているのだ。しかもプレイ内容はDVDにある通りだということを伝えているのである。と言うことは、彼らは当然、映像にあるプレイを求めてくる。つまり実際に身体中を使って、彼らの性を受け止めなければならないということである。それを考えると恐怖で身体が震えてくる。
そしてもう一つどうしても抑えられない不安があった。
 それはDクラス生の中に親友の兵藤良介がいることである。もしも良介が「明菜」を指名したら・・・。 いやそんなことは想像できないし、想像したくもない。
 明彦の中での良介のイメージは、3年前の自分と大して対格差のない少年のイメージで止まっている。そんな良介に、女として「抱かれる」ことも、そんな良介を女として「喜ばせる」ことも、頭の中には欠片も沸いてこない。
「25名もいるんだから、大丈夫だろう」という気持ちも沸いてくるが、それは「25名しかいない」に置き換わってしまう。
 だからと言って明彦に取りうる手段があるわけではない。ただ、「明菜」が良介にとってタイプでないことを祈るしかなかった。

 (第7章に続く)

私立明倫学園高校 第6章-1

 卒業式5日前の夜、「特別指導」生学生寮の各個室では、甲高い叫び声、怒りに震える声、嗚咽混じりの声、絶望に打ちひしがれる声に満ちあふれていた。もしも彼らの学生寮が学校敷地の外れに位置していなければ、それらの声が合わさって他の学生寮まで響いていたに違いない。
 
 その日の朝、授業前までは彼らの表情には笑顔もあったし、友人同士で輪になって談笑している者もいた。
 もちろん、身体も心も劇的に変化してしまった自分が、卒業後どのように社会に適応していけるのか、また家族はどのように迎えてくれるのだろうか、友人たちはどのように自分を扱うのだろうか、などという不安を抱いているのだから、心からの笑顔というわけではない。
 しかし卒業すれば、この不自由な寮生活とは決別できる。厳しい罰則や恥辱的な指導とも無縁になる。そう思うと、自然と顔がほころんでくる者もいた。
 また、「恭純女子学園特別指導生」などという妙な身分にせよ、高校卒業の資格だけは得られるのである。決して無駄なだけの3年間ではなかったのだと自分に言い聞かせ、無理に微笑んで見せる者もいた。
 中には、不安や悲しみは一旦忘れて、卒業式後の「特別指導」クラス生だけで催されることになっているパーティを心待ちにし、その話題で盛り上がっている者もいた。  
 このように笑顔の中身はそれぞれだったが、表面上は悲しみに浮かべている者はいなかったのである。

 ところが、その日の授業で、彼らには信じられない冷酷な事実が告げられたのである。
「お前たちの中には、変な誤解をしている者もいるようなので、卒業式間近のいい機会なので、はっきりさせておきたいのだが・・・」
 担任教師は、開口一番大事な話があると前置きした上で、もったいぶった口調で話を始めた。何やら意味ありげなその顔つきを見て教室中に緊張感が走った。
「まず、第一に5日後に行われる明倫学園高校卒業式は、お前達を対象としているものではない。」
 教室中に、一瞬ホッとした空気が流れた。もっと重大な話だろうと思っていたからである。残念だが、自分たちが明倫学園高校生としての卒業資格がないことは、すでに理解している。だから、卒業式も、式後のパーティも自分たちだけで別に行われることになっているのだと彼らは考えていた。
「お前達だけの特別な卒業式が用意されているというまことしやかな噂も流れているみたいだが、それもデタラメだ。そもそも現段階では、お前達にはいかなる高校であっても卒業資格はない。たとえ、恭純女子学園特別指導生としてもだ。」
 教室中に不安が走った。我が耳を疑い呆然としている者もいた。
 明彦は隣の裕樹と無言で顔を見合わせた。不安な思いにお互いの心が揺れているのがわかった。
「なぜなら、高校卒業に必要な単位は書類上では満たしているが、恭純女子学園で実施される卒業試験に合格していないからだ。もちろんそれに合格すれば卒業の資格は今すぐにでも与えられるのだが・・・、どうだ?お前達受けてみるか?」
 他に選択肢はない。高校卒業資格さえ取れないまま家族のもとに帰ることなどできない。 ただでさえ、家族からすれば「自ら進んで」女になった「変態息子」なのである。資格なしで帰ることはそのまま「勘当」を意味する者もいた。 
 教室中の全員が不安な面持ちではあったが、ゆっくりと全員の手が挙がっていった。

 3時間後、教室中をすすり泣きが満たしていた。中には机の上で泣き崩れ、艶やかなロングヘヤを震わせている者、友人の豊かな胸にフルメイクの顔を埋めて泣きじゃくる者、マスカラが流れ落ちているのもかまわずに、ただ外を眺めて涙する者もいた。
 誰一人として、卒業試験の出来に満足している者はいなかった。いや、全員が一問も解けていないのだから、満足かどうかのレベルにも達していない。
 それは明彦も同様だった。英語も数学も国語も、答案用紙に記入したのは、氏名欄の「やまもとあきな」と左手で書いた丸文字だけだった。
 例えば、英語の1問目は、「My name is (     ) 空欄を埋めよ。」であった。 
 明彦は自分の名前をローマ字で「Akina」と綴ることはできる。ただし、「i」の点はピンクのハートマークではあったが。
 だが、空欄を埋めることはできない。
 「My name is」の部分が読めないし、わからないのだ。それに「空欄」という漢字が読めない。
 2問目、3問目・・・文字であることすら認識できなくなり、
 4問目、5問目・・・目の前が涙でかすんできて、
 6問目、7問目・・・答案用紙に顔を埋めて、声を殺して泣いた。


「結果は発表するまでもないと思うが、全員不合格だ。と言うより、採点の必要もなかった。答案用紙の氏名欄以外になんらかの文字が書かれた答案用紙は一枚もなかったからな。ハハハ・・。」
 採点を終えて、教室に戻ってきた担任教師は、絶望感と無力感に打ちひしがれている生徒たちに遠慮ない嘲笑を浴びせた。
「だから、お前たちには卒業資格はないということが決定したわけだ。まあ、5日後、高校中退のおバカ娘として寮を追い出されたお前たちには大変な人生が待っているだろうが、せいぜいがんばってくれ。世の中にはお前たちみたいな特別な『女の子』に金を払いたがる男はたくさんいるから心配するな。ただ、コンドームは忘れるなよ。病気が怖いからな。変態客にも気を付けろよ。殺されるかもしれないからな。それと、暴力団にも気を付けろ。シャブ漬けにされて、どこかに売り飛ばされるぞ。それから、街で客に声掛ける時は気を付けろ。私服警官かもしれないからな。それと・・・・俺には安くしておいてくれよな。なにしろこれでもお前たちの恩師なんだからな、アハハハ・・・」
 担任教師は大きな笑い声を残して教卓の前を離れた。
 彼の冗談とも本気ともとれる言葉を、明彦は背筋を寒くしながら聞いていた。
 派手な濃いめのメイクをし、露出度の高い服を着て街角に立ち、行き交う男に媚びた笑みを浮かべながら声を掛ける「明菜」の姿が脳裏に浮かぶ。露わになった手足は病的なほど細く、所々に青あざがある。暴力団員風の男が見るからに病的な変態男を連れてやってくる。激しく首を振って拒否する「明菜」に容赦ない平手打ちが襲う。
 薄汚れたホテルの一室で変態客に危うく殺されそうになるところを暴力団員に救われるが、すぐに覚醒剤漬けにされ、さんざん吸い尽くされた上に、どこかの見知らぬ国に売られていく。そしてその地の売春宿でのコンドームなしのセックスにより病気になり、誰に看取られることもなく死んでいく・・・・
 そんなとんでもない妄想が明彦の脳裏をぐるぐると巡り、抑えようもない恐怖心に全身が震え出した。大きくつぶらな瞳からは大粒の涙が流れ落ちている。

「せ、せんせい・・・ま、待ってくださいっ!」
 明彦の斜め後方から、甲高い叫びにも似た声が響いた。佐山佳介だった。
 日頃は滅多に発言をしようとしない消極的な佳介の意外な行動に、担任教師はドアに向かう足を止めた。
「ん?何だ? 質問でもあるのか? 佳奈?」
 佳介は一瞬俯いて躊躇いを見せたが、すぐに意を決したように口を開いた。
「あ、あの・・・他に・・他に・・方法はないんですか?私たちが・・卒業できる方法は・・・? お願いです・・・このままだと私、本当に・・・」
「うむ、確かに佳奈の家は特に厳しいからな。卒業もできない変態息子を継母がどう扱うか、それを考えたら不安だろうな。うむ、これは誰かから質問があった時だけ答えてやろうと思ったのだが、たった一つだけ残された道がある。これはすでに学園長も了解済みなのだが、お前たちに追試のチャンスを与える。卒業試験の追試だ。」
 わずかな希望の光が見えかけた生徒たちの目が再び曇った。
 先ほどのテストで自分の学力がどの程度なのか思い知らされたばかりである。その追試に合格する可能性などあるはずがない。
「フフフ・・そんなにがっかりするな。追試はお前たちの得意分野の試験だ。もちろん簡単ではないが、これまでの『学習成果』を十分に発揮すれば、必ず合格するはずだ。どうだ?受けてみるか?」
 今回も全員の手が挙がった。ただ、先ほどの場合と異なり、何か予め用意されていたかのような計画性と担任教師の「学習成果」を強調する口調に怪しげな空気を感じ取っていたのか、勢いよく挙手した者はいなかった。
「そうか、安心した。私もお前たちが路頭に迷う姿は見たくないしな。それに教え子を金で買うのも気が引けるしなぁ、ハハハ。 では、追試の説明をするから、よく聞くように。
まず、5日後の明倫学園高校卒業式後のパーティにはお前たちも参加してもらう。ただし、卒業生としてではなく・・・彼らを接客するウェイトレスとしてだ。もちろん、卒業生達にはお前たちが元同級生だったなどということは言わない。単に雇われコンパニオンだと伝えるので、その点は安心しろ。まあ、すでにお前たちはウェイトレスのまねごとは指導されているはずだ。その指導を思い出して、しっかりと演じきることだ。」
 明彦は一瞬我が耳を疑った。こんな残酷な仕打ちがあるだろうかと思った。
 3年前、同じ入学式の場にいた生徒同士が、一方は晴れがましい卒業生として、一方は本来の性別をも偽って、甲斐甲斐しく給仕するウェイトレスとして再会しなければならないのだ。しかも、明彦にとっては、親友、兵藤良介と恋人、村瀬美穂との再会でもあるのだから尚更である。
 だが、冷静に考えてみると、その位のことで卒業資格が得られ、担任教師が話したような悲惨な運命を回避できるのなら、耐えられないことではないようにも思える。
 もちろん、良介も美穂も自分のことを認識できないならという前提だ。それがあれば、問題は自分の中の屈辱感だけである。屈辱感も恥辱感もこれまで数え切れないほど味わっているではないか。今回だってきっと耐えきれるはずだ、と明彦は自分を納得させた。
 どうやらこの思いは、明彦だけのものではなかったようだ。教室全体に「その位なら何とか耐えられる」という微かな安堵感が充満していた。中には明らかにホッとした笑みを浮かべる者さえいたくらいである。

 だが、担任教師の次の言葉はそんな明彦の思いにさらなる冷水を浴びせるかのような内容だった。
「ハハハ・・・無論そんな簡単なことだけで追試が終わるわけではない。第一それでは一生懸命学習してきたお前達の成果を発揮することもできないではないか。お前達も拍子抜けだろう?ハハハ・・・」
 生徒達は、担任教師の皮肉めいた言葉に虫酸が走る思いだったが、次に続く言葉を黙って待つしか術はなかった。
「パーティの後、お前達はそれぞれ指示された個室で待機することになる。もちろん服装も化粧も指示されるからそれに従うこと。しばらくすると男性の来客者があるので、その男性客を部屋に招き入れ、心を込めた接客を行うこと。詳細な接客内容は客の希望によって異なるので、後で個々に指示するが、いずれにせよ、お前達がこれまで『学習』してきた範囲のことである。心配するには及ばない。そして一晩客と過ごした後、客の方からクレームがなければ、お前達は晴れて追試合格となり、卒業資格を得られるというわけだ。以上だが、何か質問のある者はいるか?」
 明彦は呆然と担任教師の顔を眺めるしかなかった。現実の話として受け止められないのである。
「個室?」「男性客?」「接客?」「一晩客と過ごす?」一体誰の話をしているのだろう。
 彼には教室の後方に、目に見えない別の人間達がいて、担任教師はその人たちに話しかけているのではないかという錯覚さえ覚えるのだった。
 中村由和が教室に流れる張りつめた緊張感を破って、右手を挙げた。
「うん?なんだ? 由佳、質問か?」
「あの・・・客というのは・・・だれなんですか?」
「うん?そうか、まだ言っていなかったな? 客というのはな・・・卒業するDクラス生のことだ。」
 明彦は聞き間違いだと思った。もう一度言い直して欲しいと思いながら、教師の口許を見つめた。
「お前達には、コンパニオンとしてDクラス生の卒業を祝って心を込めた接客をしてもらう。なあに、彼らの要望と指示に従って演じていれば、嫌われることはない。なぜなら、彼らはすでにお前達の紹介資料とDVD映像を見て、気に入って指名しているくらいだからな。ただ、これだけは強く言っておくが、彼らはお前達を本物の女の子だと思って指名している。だから正体がバレることはもちろんだが、万が一にも本当の性別を疑われるようなことがないように気を付けろ。もしそのようなことがあれば、クレームが入り、追試は確実に不合格になるからな。いいなっ。」
 担任教師の表情は厳しいものに変わっていた。念を押す語気もいつにない強さだった。
 だが、明彦は半ば上の空だった。接客する相手がDクラス生だということが聞き間違いでないことが判り、呆然としていたからである。
「それにしても、なかなか見られない劇的なシーンではないか。同じ詰め襟を着て入学式に臨んだ者同士が、3年後には、一方は自信に満ちあふれた男性客として好みのコンパニオンを指名する立場になり、一方はそんな男性客に気に入られるために媚びを売り、精一杯の奉仕をするコンパニオンとして、指名される立場になる。これほどドマラチックなことはないだろう。」
 明彦の視界はほとんど消えていた。大粒の涙が流れても流れても止まらないのである。
 取り返しのつかない運命の悪戯を呪った。
 もし、入学時に、身長があと2センチ高かったら、体重があと2キロ重かったら、そして入学試験の時に万全の体調で臨んでいたら、いや、いっそのこと明倫学園高校に不合格であったら、こんな屈辱を受けることはなかったのだ。そう思うと、抑えきれない嗚咽がこみ上げてくるのだった。
 だが、今となっては例え屈辱だろうと、恥辱だろうと、その運命に身を任せるしかない。
だからせめて、親友の兵藤良介が間違って自分を指名していないこと、そして接客の内容が教師の言うように「学習」した範囲に収まってくれること、そのことを祈るより他に術はなかった。

 授業終了後、生徒達は担任教師から紹介資料とDVDが手渡された。
 自分たちを指名する材料としてDクラス生に送られた物のコピーであるとのことだった。
「彼らは、これを参考にしてお前達を指名してきているんだ。だから、彼らがどんな内容の接客を望んでいるのかを知っておくためにも、しっかり目を通しておくように。それとDVDはお前たちのビデオ撮影を編集した物だが、こちらもしっかりと観ておくように。」
 担任教師は、一人ずつの名前が記された封筒を手渡しながら、強い口調で言った。
 あの数パターンにも及ぶビデオ撮影映像が、実はこのような形で使われるということを初めて知って、明彦はショックだったが、すでにその数倍ものショックを受けた後のことだったので、もうどうでもいいことのようにも思われた。
 明彦は「明菜」と書かれた封筒を無表情で受け取ると、無言のまま教室を後にした。

  (続く)

私立明倫学園高校 第5章-2

「ところで学園長、今年も卒業式後のイベントは例年通りいうことでよろしいんですよね?」
 成績優秀者リストの話題が終わり、しばらくするともう一人の職員が口を開いた。
「ああ、もちろんだ。厳しい指導にも負けず、がんばって卒業を果たしたんだ。せいぜい思い切り羽を伸ばさせてやって欲しい。本来ならアルコールくらいなら出したってかまわんのだが、まあ、それは無理だからな。アハハハ」
「わかりました。ではそのように手配しますので。」
「ところで、Dクラス生にはイベントの件はしっかり伝わっているのかね?」
「はい、すでに伝えてあります。それはもう大喜びでしたよ。何しろ若くて元気があまってますからな。何よりの卒業祝いになりますよ。」
「うん、そうだろうなぁ。私だって学園長なんて立場でなければ特別参加したいくらいだ。これでもまだまだ若いつもりだからな アハハ・・・ それはそうと・・・肝心のコンパニオンの方には連絡は行ってるのかね?」
「はい、そちらも連絡済みです。今年のコンパニオンは相当ハイレベルらしいのでDクラス生も楽しみでしょう。アハハ・・・」

 明倫学園高校の卒業式後には珍しいイベントが行われることは知る人ぞ知る事実である。
 卒業式そのものは男女別に、非常に厳かな中で行われ、これといった特色はない。
 だが、卒業式後のパーティ以降は、およそ高校生を対象としているとは思えないようなイベントが続く。
 まずパーティは、男女の卒業生が一緒になり、談笑したり、コンパのような出会いの場を作ったり、かなり自由な雰囲気の中で行われる。飲食物も相当豊富に用意され、もしもこれでアルコールが供されるなら、大人向けのパーティと遜色はない。しかもその飲食物を運ぶ役目としてセクシーなウェイトレスのユニホームを身につけたコンパニオンまで手配される。
 これだけでも十分驚くに足る内容なのだが、本当の驚きはこのパーティ後に用意されているある特殊なイベントにあった。
 そのイベントとは、何とDクラス卒業生へのコンパニオンによる性的サービスだった。
 卒業式の10日程前、Dクラスの教室にコンパニオン達を紹介する資料と個々のPR映像を収めたDVDが送られて来る。生徒たちはそれらの資料に目を通し、お気に入りのコンパニオンを選ぶ。指名はまず成績優秀者が、次に国内最難関大学合格者、そして他のDクラス生の順番で行われる。パーティ終了後、彼らはそれぞれ割り振られた個室で、指名したコンパニオンと一夜を共にすることになる。
 ここまで聞けば、一般的な風俗店での遊びと大きな違いはないように聞こえるが、それを学校が公認していることが何より驚きである。また個室内で繰り広げられるプレイもノーマルな内容だけで収まることはなかった。何しろ3年間の禁欲生活を強いられ、一方で支配的で力強いことを理想として教育されたDクラス生のことである。コンパニオンたちをただの性の道具として、また己の性のはけ口として扱うことには何の躊躇いもない。エスカレートするプレイによって、しばらくの間病院通いになったコンパニオンもいたくらいである。 

 だが、これほどまでに大胆なイベントを行っていながら、これまで世間で問題にもならず、噂すら立っていないのはなぜだろうか。また、病院通いになった者もいるくらいなのに、コンパニオンたちから抗議や告発すらなかったのはなぜだろうか。
 そこには大きな秘密があった。
 まず、寮制度により世間と隔絶されているという面がある。しかも明倫学園高校は比較的郊外に位置していて世間の目も届きにくかった。
 だが、そのことは大きな要素とは言えない。コンパニオンたちからの抗議がないことの説明にはならないからだ。
 実は、コンパニオンたちにはどんな扱いを受けたにしても、泣き寝入りするしかない理由があったのだ。
 
 明倫学園高校の内部には、どんな非道な扱いを受けようと、どんな屈辱的な仕打ちに合おうと、どんな辱めを受けようと、抗議する権利はもちろん、反抗的な態度を示す意欲すら持てない者がいる。
 それは言うまでもなく、元Sクラス生、つまり現「特別指導」クラス生25名である。
 学園側は、彼ら25名の「元」男子生徒から明倫学園高校生としての卒業資格を奪っただけではなく、本来同級生であるべきDクラス生、Fクラス生の晴れやかな卒業式後のパーティーに加わることを強制したのである。しかも同じ学生という立場ではなく、卒業生たちを接待し、給仕するウェイトレスとして、そしてパーティ終了後は、若い彼らのありあまる性欲を夜通し受け止める「性奴隷」としての役目を演じなければならないのだ。
 これほど残忍な仕打ちはあるだろうか。もしも学園長にわずかな同情心の欠片があったならこのようなことを思いつきはしなかっただろう。「特別指導」クラス生にとって不幸なことは、学園長が極度の加虐性嗜好の持ち主、つまり重度のS気質だったということだろう。  
 ただ唯一、「特別指導」生たちにとって救いだったのは、卒業生たちに自分たちの正体、つまり元Sクラス生であるということが伏されていることである。もしも正体がわかった上でその場に参加しなくてはならないとしたら、彼らの屈辱感は計り知れない。特に、山本明彦と兵藤良介と村瀬美穂のような親しい間柄の人間がいる場合には尚更である。
 幸か不幸か、今の「明菜」の姿を見て、「明彦」を連想できる者はいない。そもそも、本来は男性であるという事実を告げられても、真に受ける者は一人もいないに違いない。例え、それが親友の良介や元恋人の美穂であっても。
 現に、この後、良介はコンパニオン紹介の資料とDVD映像を観ることになるのだが、美少女コンパニオン「明菜」と親友の「明彦」を結びつけるようなわずかな糸口すら感じ取ってはいない。「明彦」の右目の下にあった小さな泣き黒子は、当然「明菜」にも残っている。だがそれは、美少女「明菜」の小悪魔性を強調するセックスアピールとしての要素になっているだけで、「明彦」と結びつけるためのきっかけにすらならなかったのである。
  
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 卒業式の打ち合わせも終わり、一人部屋に残った学園長は、デスクの奥からお気に入りのDVDを取り出すと、目の前のノートPCのスロットに挿入した。
『明菜 OL編』の映像がモニターに映し出される。
「明菜」のふっくらと厚い唇に男のペニスが押し込まれる場面に差しかかる頃になると、彼のズボンの前は痛々しいばかりの誇張を示していた。そして、二人目の男のペニスをDカップの谷間で挟み込んだ頃、彼はズボンを膝まで下ろし、いきり立ったペニスを露わにし、右手でそれを握った。
 そしていよいよ三人目、学園長お気に入りのシーンである。
 「明菜」のバージンアナルを巨根が襲う。挿入の瞬間の「アンッ」という甲高い叫び声と痛みに耐える眉間の小さな皺が、男の陵辱欲をかき立てる。
 学園長の右手の動きは激しさを増していく。そして画面の中の男がうめき声を上げ、最後に大きく腰を突き出し、「明菜」の体内に樹液を注ぎ込む瞬間、学園長のペニスからも勢いよくザーメンが吹き出した。
 乱れる呼吸の中で、「明菜」のロストバージン後のすすり泣く表情をしばらくぼうっと眺めていると、その切なく哀れな様子にまたさらなる陵辱欲がかき立てられそうになる。
 
 呼吸も落ち着き、PCの電源を落とした時、学園長の頭にある空想が浮かんだ。
 抽象的な空想は次第にリアリティを持ち始め、色の付いた映像に変わっていった。
 学園長の顔にサディスティックな笑みが浮かぶ。 
 「もし、これがうまくいけば、面白いことになる・・・」
 彼の脳裏に「明菜」の屈辱と羞恥に打ちひしがれ、涙を流す表情が浮かぶ。
 それは彼の加虐性の炎をわき上がらせるのに十分魅力的な光景だった。
 彼は果てたばかりのペニスに、再び血がたぎっていくのがわかった。

 10分後、学園長室に呼ばれた幹部職員の一人に、学園長の口からある計画が告げられた。
 職員はその中身を聞き、学園長という人物の病的なまでのS性を感じ、背筋に寒気が走った。と同時に、今日の卒業式打ち合わせの際に、山本明彦と兵藤良介と村瀬美穂の関係性を学園長に報告してしまったことを後悔した。
 しかし彼にはそれを拒否する勇気も力もない。ただ明彦という一人の生徒へのわずかばかりの同情心が沸いてきただけだった。

(第6章に続く)

私立明倫学園高校 第5章-1

 学園長室には2名の幹部職員が呼ばれ、2週間後に控えた卒業式の打ち合わせが行われていた。
 一人の職員からの進捗説明を聞きながら、学園長の顔は緩みっぱなしだった。
 今年度の進学実績が昨年度をさらに上回り、申し分のない結果だったからだ。
 しかも今年度に関しては男子Dクラスだけではなく、女子Fクラスの進学実績も昨年を大きく上回っていたのだ。学園長の顔から笑みが絶えないのは当然だった。
 学園長の手には、明日の卒業式で発表される「成績優秀者名簿」が握られていた。いずれも国内最難関大学への進学を決めた生徒の中から、とりわけ将来有望な男女が選ばれていた。
 男子10名、女子5名のリストの中には、明彦の親友の兵藤良介と、恋人の村瀬美穂の名が含まれていた。
 
 職員からは、「成績優秀者名簿」にリストアップされている生徒の詳細な情報が順次学園長に告げられていた。
「次に、男子Dクラスの兵藤良介ですが、彼は入学当初はデータ的にDクラスぎりぎりの成績でした。いずれかの数値であと少しでも劣っていれば、確実にSクラスということになった生徒です。ところが、彼の努力と指導陣の力によって、ここまでの成績を収めるに至りました。学力だけでなく体格面でも筋肉増強剤の効果が最もよく現れていて、今ではDクラス生の中でも、1、2を争うほどになっています。さらに精神面でも指導の効果が現れていて、支配性、独善性、男らしさといった要素はクラスでも1位でした。そういう意味では我が校男子の理想像とも言えるでしょう。」
 学園長は職員の話に満足そうな笑みを浮かべながら、リストのデータを見つめていた。
 身長190センチ、胸板の厚い、見るからに体力のありそうな筋肉質の体格、そして顔つきを見れば、知的な魅力と共に、学園の理想とする傲慢なまでの独善性と支配欲に満ちあふれた好青年の写真がそこにはあった。
「うむ。この生徒を見ていると我々の教育の方針が間違っていなかったことがわかるな。
彼らのクラス名を英語の『Dominence(支配、優越)』の頭文字から『Dクラス』と名付けたのも正解だったということだ。アハハ・・・」
 学園長は自らがネーミングしたクラス名を自画自賛するように相好を崩した。

「うん?ところで、この『重要補足事項あり』とあるのは何だね?」
 学園長は、良介のリストの右下に朱書された文字に気づき、職員に声をかけた。
「あ、はい。それは後ほど説明するつもりだったのですが・・・、では先にご説明いたしましょう。女子のリストに載っている村瀬美穂の項目をご覧ください。」
 学園長は職員に言われるまま、ページを繰った。
 身長170センチのスラリとしたモデル風の美しさと、知的な印象を併せ持つ美少女の写真がそこにはあった。
「この村瀬美穂も入学当初はそれほど目立った生徒ではありませんでした。ただ、元々頭も良く、遺伝的にも恵まれていたのでしょう。2年終了時点では学年成績優秀者になると共に体格、容貌の美しさも兼ね備えるようになりました。ご存じのように、我が校の伝統として、学年成績優秀者は男女とも一堂に会し、記念撮影を行います。その際にこの村瀬美穂と兵藤良介は再会しました・・・ああ、再会というのはですね、彼らは同じ中学校出身で、しかも親友同士だったからなのですが。彼らは同じ成績優秀者同士ということもあったのか、その場で意気投合し交際が始まりました。もちろん我が校は表向きには男女交際は禁じられていますが、成績優秀者同士であれば例外として認められていますので、彼らの交際については何ら問題がありません。」
 
 学園長は職員の説明を頷きながら聞いた後で、ゆっくり口を開いた。
「二人は中学生時代からも交際していたということかね?」
「いえ、あくまで親友同士でした。村瀬美穂には他に恋人がいましたので。」
「ほぅ・・では、その恋人とは別れたってことかね?」
「ええ、まあ・・・村瀬美穂はそのつもりですが・・・」
「んん?どういうことかね?相手の男はまだ別れたつもりはないということか?」
「ええ、それが『重要補足事項』ということなんですが・・・」
 学園長は職員の思わせぶりな口調に多少いらいらしながらも、曰くありげな話しぶりに興味をそそられていた。
「学園長は、旧Sクラス、現『特別指導』クラスに山本明彦という生徒がいることはご存じでしょうか?」
 学園長は職員の問いかけに一瞬ビクッと反応したが、表面上は平静を装いながら短く答えた。
「い・・・いや、覚えてはいないが・・・」
 
 学園長の脳裏には25名の特別指導クラス生の中でも飛び抜けて可憐な容貌と、華奢な体格からは想像できない豊満なバストとヒップラインを合わせ持つ魅力的な美少女「明菜」の姿がはっきりと写っていた。
 彼にとって「明菜」は特別な存在だった。戸籍上は山本明彦という男子であることも熟知していた。時折、入学時の「明彦」の写真と現在の「明菜」の写真を並べて、これほどまでに美しく、魅力的に変身することがありうるのだろうかという思いの中で性的興奮を覚えたこともある。
 だから、毎月のように送られてくる特別クラス生たちの様々なコスチューム映像の中でも「明菜」のものは別格であり、さらにその中でも2枚のDVDは今もデスクの奥に忍ばせてある。
 一枚はフレンチメイド姿の「明菜」を撮影したものである。
 妖艶なフルメイクを施した童顔の美少女が、挑発的なフレンチメイドユニホームに身を包み、悪戯っぽく微笑みかけてくる、それはまるでカメラ越しに自分を誘っているかのようなリアリティがある。ロリポップキャンディーやミルクアイスバーを使っての「擬似フェラ」映像もエロチックで魅力的だ。だが、最も引きつけられるのは、下半身を露出した三人の男たちに囲まれながら、その一人に対して口と舌を巧みに使ってフェラ奉仕すると同時に他の二人の逞しいペニスに両手で微妙な愛撫を続けるシーンである。
 カウンセラーに聞くと、この場面は催眠状態で撮影されているという。本人には意識がないのだが、ある言葉のきっかけを与えることで、無意識の内にそのキャラクターに自己投影し演じてしまうのだという。しかも本人には、その間の行動は夢の中の出来事としての認識しか残らないということだった。
 だが、画面の中の「明菜」にはそんなことは微塵も感じさせないリアリティがある。
 特に、時折ペニスを口から離し、喘ぎ声を交えながら、甘い声で囁くセリフはとても演技とは思えなかった。
「ねぇ、ご主人様ぁ・・明菜に、ご主人様の・・熱くてドロドロのザーメンぶっかけて・・・お願い・・」
「明菜に・・ご主人様の精液・・ごっくんさせて・・お願い、お口いっぱいにザーメン、ごっくんさせてぇ・・・」
 そして、それらのセリフ通り、太くて逞しいペニスから大量の白濁液が噴出すると、それを嬉々とした表情で受け止める。
 学園長がそのシーンを食い入るように観ながら、年甲斐もなくオナニーに耽ったのは一度や二度ではなかった。
 今、もしこの場に二人の職員がいなければ、デスク奥から確実にそのDVDを取り出したに違いない。


「山本明彦は、今は『明菜』という名の『女子生徒』になっていますが、中学時代は兵藤良介の親友であり、村瀬美穂の・・・・『恋人』でした。」
「こ、恋人?」
 学園長は「恋人」という言葉に一瞬戸惑った。「恋人」という単語そのものに対してではない。リストに写る長身で理知的な美少女の恋人として「明菜」が、その横に並んでいる姿が想像できないのである。
 もちろん「明菜」が元々は「明彦」という男子生徒であり、村瀬美穂とは異性としての関係であったことはわかっている。また、徹底したカロリー制限と、一部薬物により明彦の身長が入学時の157センチのままであるのに対して、美穂の155センチだった身長が170センチにまで伸びたという事実もデータからわかっている。
 例えそれらを考慮しても、現在の二人のイメージが恋人であるという事実を打ち消してしまう。
 例えば、ノーメイクであれば女子中学生にも見える童顔のままの「明菜」と大人っぽい美女に成長した美穂。その反面で、豊かなDカップの膨らみを持つ「明菜」に対して、おそらくBカップ程度であろう美穂。強い男に従属することに喜びを見いだしつつある「明菜」に対して、強い自己意識を持って自信満々に見える美穂。
 この二人にもし、恋人としてのイメージを重ねようとすれば、それはノーマルな男女の恋人関係ではなく、レズビアンとしてのそれしかイメージすることはできない。それも美穂が「男役」で「明菜」が「女役」としての。
 学園長はあえて、美穂を抱く「明菜」の姿を想像してみた。せめてレズビアンの世界でなら、「明菜」が男役を演じることはできるのではないかと思った。
 無駄だった。一瞬たりともイメージが沸いてこないのである。

 実は、学園長のイメージを妨げている決定的なものがある。
 それは、彼のデスクにあるもう一枚のDVDに写る映像であった。
 「明菜」のビデオ撮影の中でフレンチメイド編と共に、学園長のお気に入りの一枚だ。
 そこに写っているのはOLの制服を着た「明菜」の映像である。
 3人の男を相手に痴態を演じる「明菜」は、ドジばかりしている新人OLが先輩男性社員から陰湿なセクハラを受けている姿を見事に演じていた。
「ごめんなさい・・明菜、何でもします。どうか許してください。」
 3人の男達の前で、おどおどした視線を落とし、震える「明菜」。
 男達は下半身を露出させ、「明菜」に奉仕を強要する。
 一人目の熱い樹液を口中で受け止めた後、二人目の硬く熱いペニスをDカップの谷間で愛撫しながら、糸を引くような白濁の直撃を首筋と頬で受け止める。
 そしていよいよ最後の男との絡みのシーンである。この男のペニスは三人の内で最も長く太い。
 次の瞬間、この男を3人目に設定した目的がわかる。
 男は「明菜」の「バージン」を要求する。男の巨根を目の前にして怯える「明菜」。目には涙さえ浮かんでいる。たとえ催眠状態を通してのものとは言え、男の陵辱欲を十分にかき立てる演技である。
 最初にこのシーンを目にした時、学園長はまさか実際のセックスシーンに至るとは思っていなかった。ヴァギナを持たない「明菜」のロストバージンがアナルセックスによるのだろうということはは簡単にわかる。いくら深い催眠状態にあるとしても巨根男を相手にしたアナルセックスの激しい痛みは、きっと「明菜」の目を覚ましてしまうに違いないと思った。
 だが、映像は確実にそのシーンを捉えている。四つんばいの姿勢で背後から男が乱暴に腰を前後させると、苦しそうな表情を浮かべながら、抑えたようなくぐもった声をもらす。
 それでも、決して催眠状態が覚めることはなかった。後に担任教師に確認したところ、長期間、アナルプラグを使うことで、十分にセックスに耐え得る身体を作った上で臨んだ撮影だということだった。
 長く激しいピストン運動の後、男の熱い情欲の固まりが体内深く注ぎ込まれたのを感じ取ると、「明菜」は顔から崩れ落ち、やがてすすり泣きをもらすのである。
 その姿はまさに儚く弱い「女」そのものだった。例え、その股間に小指の先くらいの男の証が認められたとして、もはやそれは「ペニス」ではなく「クリトリス」に思えるのだ。
 学園長の「明菜」へのイメージはこのシーンを通じて固定してしまったのだ。だからこそ、村瀬美穂との間に恋愛関係があるなどという事実を想像することができなかったのである。


「ええ、恋人です。山本明彦は村瀬美穂の恋人でした。」
 職員の声に学園長はハッとした。「明菜」の姿を思いながら一瞬我を忘れていたのである。
 慌てて、ズボンの前を押さえた。いつの間にか熱い膨らみを示していたからである。
「そうだったのか。しかし、なぜ村瀬美穂は山本明彦と別れる事を決めたんだね?もしかして、明彦が『明菜』に姿を変えてしまったことを知ったのか?」
 学園長の言葉にかすかな動揺が感じられた。秘密保持には万全を期している。万が一にも秘密が流出するはずがないという思いと共に、若干の不安もないわけではなかった。
「いいえ、その点は大丈夫です。美穂が明彦との別れを決めたのには、そんな深い意味があるわけではありません。女子Fクラスの生徒たちは、男子Sクラスがいわゆる下位クラスであることは知っています。もともと我が校の女子生徒の中には、将来の理想的な夫を青田買いする目的で入学してくる者もいます。美穂にはそういう意識はないと思いますが、Fクラス全体の雰囲気に染まって、Sクラス生を蔑視しDクラス生だけを注目するようになっていくのは当然です。まして、美穂のように年々成績も上がり、魅力的に成長していけば尚更です。きっとSクラス生である明彦に物足りなさを感じたのではないでしょうか。」
「うむ、まあ、そういうことなんだろうな。しかし、運命というのは皮肉なものだな。元々明彦と良介の入学時のデータにはほんのわずかの差しかなかった。その爪の先ほどの差が、かたや頭脳も肉体も精神も優れ、将来有望な好青年として卒業を迎え、かたや小学生並みの能力と従属性に満たされた心で、強い男に依存し、媚びを売り続ける人生が始まる。しかも恋人が自分を捨て、親友と交際をしていることすら気づいていない。こんな惨めなことはないではないか。」
 学園長の言葉にはある種の感慨も含まれてはいたが、決して本心から同情しているわけではなく、冷酷な嗜虐性の影が見え隠れしていた。
 
 (続く)

10,000アクセス ありがとうございます。

本日、10.000アクセスを越えました。

これもひとえに皆様のおかげと心より感謝申し上げます。

どうぞ、今後ともよろしくお願いいたします。

サテンドール

私立明倫学園高校 第4章-4

 フレンチメイドユニホームでの生徒全員のビデオ撮影が終了すると、「特別指導」はすぐに第三段階、第四段階へと流れるように進んでいった。
 その過程で様々なコスチュームでの指導とビデオ撮影は定期的に行われていった。
 セーラー服、ナース服、バニーガール、OL、ウェイトレス、また奇妙なものでは、まるで小学生のためにデザインされたかのようなフリルがふんだんに施された服にランドセルなどというものまであった。
 そのコスチュームに合わせたメイクはもちろん、立ち居振る舞いや話し方など指導は細部にわたった。そして各々ある段階に達すると、決まってビデオ撮影が始まるのだった。
 撮影のパターンはいつも決まっていた。
 コスチュームに合わせたシチュエーションが用意され、それに合わせた仕草や動きをカメラで収めると、最後はエロティックなシーンの撮影に入る。
 いや、決まっているのは撮影パターンだけではない。
 最後の部分の撮影がよほど疲れてしまうからなのか、真希の用意する紅茶を口にしながら、眠りに落ちてしまうのも毎回のことだった。
 眠りに落ちる直前にカウンセラーが口にする3つの呪文めいた言葉を耳にするのも、眠っている間に、現実の出来事と錯覚してしまうほどのリアリティを持った悪夢を見るのも、眠りから覚めたときの、得も言われぬ幸福感と恍惚感も、そして、最後にすっかり乱れてしまったメイクを直して、部屋を後にするのも毎回同じだった。
 だからと言って詳細まですべてが同じということではない。
 例えば、カウンセラーの言葉である。
 明彦の場合を例にすれば、セーラー服姿の時に耳にしたのは、「明菜」「女子高生」「従順」だったし、ナース服の時は、「明菜」「ナース」「献身」であり、幼児服にランドセルの時には「明菜」「小学生」「無知」だった。
 また、悪夢の内容も毎回微妙な違いがあった。
 夢の中で「明菜」が性的な奉仕をするのは常に三人の男だった。顔は覚えていないが、いつも同じ相手であろうことは何となくわかってきた。具体的に言えば一人は担任教師であり、後の二人はSPであった。夢の中の事とは言え、なぜいつも同じ人物が相手なのか何となく不思議な気がする。
 男たちの要求は毎回違っていた。「明菜」はその要求に素直に応えた。
 言われるまま応じることに快感すら覚えていた。
 フレンチメイドやバニーガールのコスチュームで、「明菜」自身が積極的に男たちを性的興奮へと導くときでさえ、クライマックスの手段は男たちの選択に委ねた。
 セーラー服の時、彼らが求めたのは指と唇を使っての奉仕だった。
 バニーガールの時は、Dカップの胸の谷間に彼らの熱いペニスを挟んで射精へと導いた。 そしてOLの制服時に彼らが求めたのが、アナルセックスだった。
 「明菜」は四つんばいの屈辱的な姿勢で男の情欲の証を体内深く受け止めた。
 
 眠りから覚めた時、明彦はなぜそんな夢を見たのだろうかと考えてみた。
 今までは悪夢を見た原因など考えたこともなかったが、今回ばかりは違っていた。 
 指や口また胸を使って男たちに奉仕するのと、アナルでその情欲を受け止めることは明らかに違う次元の行為だと思えたからだ。
 「女」でありながら、ヴァギナを持たない「明菜」にとって、そこは唯一の性器なのである。その部分で男の精を受け止めるという行為は、自分と相手の「性」が正反対であることを認め、「明彦」との永遠の決別を意味することにも繋がる行為に思えた。

 悪夢の原因はすぐに思いついた。
 実は、「特別指導」が第四段階に入ったと同時に、生徒たちには新たな義務が課せられたいた。  
それは、一日2回、朝と夕方の「浣腸」と入浴時を除く「アナルプラグ」の装着だった。
 アナルプラグは姿勢を整えるために必要で、浣腸はそれをスムーズにするために欠かせないというのが、真希と里佳の説明だった。
 装着初日に感じた苦痛と違和感は5日ほどで消えたが、その後も異物感と共に、アナルへの意識が消えることはなかった。その意識こそが、アナルセックスなどという悪夢を見させた原因なのだろうと明彦は自分なりの分析をした。
 
 ただ夢の原因はそれとして、新たに気にかかる出来事もあった。
 OLコスチュームでの撮影の日、つまりアナルセックスの悪夢を見た日、部屋に戻った明彦は、夕方の浣腸のためにアナルプラグを抜こうとした。その瞬間、ズキンという疼痛がアナルの内部から伝わってきた。その上、抜き取ったプラグの先には微かな血液の滲みも認められた。
 確かにこれまでも、アナルプラグの装着により痛みを感じることはあった。ただそれは、指示によってサイズを大きい物に変えた直後だけのことで、普段は感じたことがない。
 まして今のプラグはもう半月も装着していて、大きさにも慣れている。
 明彦は言いようのない胸騒ぎを覚えた。


 OLコスチュームでの収録を最後にビデオ撮影は終わった。
 最後に抱いた胸騒ぎも解消されることなく残ったまま、いつの間にか年も明け、「卒業」という言葉が話題に上るようになっていた。
(美穂も良介も元気だろうか?)
 明彦の脳裏に入学式以来会っていない恋人、村瀬美穂と親友、兵藤良介の姿が浮かんできた。きっとずいぶん変わってしまっただろうなと思った瞬間、ハッとした。
 最も変わってしまったのは自分自身なのだということに気づいたのである

 明彦は改めて姿見の前に立った。
 肩にかかるミディアムレイヤードヘアに包まれた、透き通るような色白の小顔。
 長く華奢な手足とはアンバランスなほどの豊かなDカップの膨らみ。
 今にもポキンと折れてしまいそうな、儚くか細いウエストの縊れ。
 そしてそのウエストから柔らかな曲線を画くヒップライン。
 そのいずれもが3年前の明彦にはなかったものである。
 誰がこの目の前の少女を明彦だと認識できるだろうか。

「美穂 良介  元気だった?」
 明彦は二人との再会を想像して声に出してみた。
 滑稽なくらいの高音だ。もしかしたら、中学生時代の美穂よりも甲高い声かもしれない。
「美穂 良介  元気にしてた?」
 できるだけ低い声を作ってみた。
 だが、男の声を真似する少女のそれとしか聞こえなかった。
 その後何回か試してはみたが無駄だった。
 明彦の顔には諦念がもたらすぎこちない笑みが浮かんでいた。

 (第5章に続く)


私立明倫学園高校 第4章-3

翌日から「第二段階」の指導が本格的に始まった。
 言うまでもなく、扇情的で挑発的なフルメイクは、毎朝自らの手で行わなければならない。教室では真希と里佳による厳しいチェックが待っているので、少しの手抜きも許されなかった。
 明彦は姿見で入念に確認し、最後に肩にかかるナチュラルボブの髪に白いメイドキャップを被ると、一つ大きなため息をついてから教室へと向かうのが日課となった。

 学園側の言う「第二段階」の指導は本当に不思議なものだった。
 12センチヒールと慣れないフレンチメイドユニホームでの歩き方、座り方、身のこなしなどの指導を2週間ほど行った後、生徒たちを待ち受けていたのはビデオによる撮影だった。
 後で反省点などをチャックするためと称して始まった撮影は、個人別に別室で行われた。 相当丁寧な撮影を行っているのか、なかなか順番が進まない。
 一日に2名から3名というゆっくりとしたペースに、待つ方の身としては、いったいどういう撮影が行われているのだろうかという緊張感に押しつぶされそうになる者もいた。
 
 明彦は、撮影を終えて教室に戻ってきた親友の裕樹に密かに声をかけた。
「ねえ、裕香、ずいぶん長くかかったけど、どういう撮影だったの?」
 だが、裕樹の反応は意外なものだった。
「え?何言ってるの?他の人はわからないけど、わたしはすぐ終わったわ。たぶん20分くらいでしょ。きっと明菜もその位で終わるわよ。」
 裕樹はクスッと小さな笑い声をもらすと、読みかけの少女コミックに目を落とした。
 撮影のない生徒には課題図書が与えられ、読み終えた後感想を発表することになっていた。小説でなく、典型的なラブロマンスを扱った少女コミックを課題にしているのは、むろん彼らの読書力を考慮してのことである。
 
「ええ?裕香こそ、何言ってるの?2時間以上もかかったじゃないっ」
 明彦は少女コミックを楽しげな表情で読み進めている裕樹に向かって思わず声を上げた。
 その声に気づいて、教卓近くに立つ宮田里佳の視線が明彦に向けられた。
 その視線に威圧され、二人の会話は途切れた。
 裕樹は不思議そうな表情を明彦に向けはしたが、そのまま無言で読書を続けた。

 確かに教室には時計はない。だから2時間以上というのが正確かどうかはわからないが、そんなに外れている気はしない。少なくとも20分などという短時間でなかったことは確かだ。
 明彦はその後、撮影を済ませた数人の生徒に裕樹にしたのと同様の質問をしてみた。
 驚いたことに答えはほぼ同じで、撮影は短時間だったという。ただ、撮影そのものはかなりハードで終わった時にはメイクも落ちてしまって、教室に戻る前にメイク直しをしなければならなかったと笑って答えた者もいた。
 そう言えば、撮影を終えて帰ってきた生徒は皆、メイクがリフレッシュして戻ってきていたような気がする。
 メイク落ちするほどの撮影って一体どういう撮影?それに何でみんな時間を短く感じてるの?
 明彦の心には何やら抑えようのない不安がわき上がってきたのだった。

明彦の順番はその2日後に回ってきた。
 不安を払拭することのできないまま、臨時の撮影室として準備された部屋のドアをノックした。
 部屋の中は、明彦たちの教室と同程度の広さだったが、ほとんど物が置かれていないためかなり広く感じる。
 向かって右奥にソファとガラステーブルが置かれている以外はほとんどがオープンスペースと言っていい。
「準備ができ次第、すぐに撮影を始めるから、その間にメイクのチェックをしておいて。」
 真希の声だった。 
 ソファとはちょうど対角線の位置に、小さな折りたたみ椅子が3脚置かれているのが目に入った。真希はその一つに脚を組ながら腰掛けていた。
 他の2脚の椅子には担任教師と、なぜかカウンセラーが座りながら談笑している。
 さらにその椅子の近くには二人のSPが無言で立っている。
 ただのビデオ撮影になぜこれほどまでの人数が必要なのか、明彦には全く見当もつかなかった。
 もしかしたら撮影などというのはただの口実で、全く別の目的のために呼ばれたのでは、とさえ思え、不安は一層募っていった。

 だが、5分後にはそれも杞憂であったことが判明する。
 真希の言うように、カメラの準備終了後に、すぐに撮影が始まったからだ。
 ハンディのビデオカメラを持った担任教師が、準備ができた旨を真希に告げ、撮影は始まった。
 フレンチメイドユニホームでの立ち姿から始まったビデオ撮影は、真希の細かい指示に従って、ウォーキング、ポージング、さらには客に見立てたSP二人をソファに座らせ、そこに飲み物を運ぶ様子にまで及んだ。
 ウォーキングでは背筋をしっかり伸ばすことと共に、一本の直線の上を歩くことをイメージするよう指示された。
 明彦はこの歩き方が好きではなかった。特に12センチピンヒールでこの歩き方をすると、ヒップの上下左右の揺れが大きくなりセクシーさを強調しすぎてしまうのだ。しかも今身につけているのはペチコートの重ね着でフワリと膨らんだマイクロミニなのだ。それはもうセクシーを通り越して、男を挑発する卑猥で隠微な印象すら与えるものだった。それでも何とかやり遂げた時、明彦の顔にははっきりとした羞恥の赤みがさしていた。
 次のポージングでは、真希からの指示はさらに詳細に及んだ。
 トレイを持って微笑む仕草から始まり、客からの注文を待ちながら黙って俯く仕草、客に対して膝を落として行うお辞儀のポーズ・・・その度に真希からの細かい指示が間断なく降り注ぐ。それは叱責にも似た強い口調だった。
 ポージングはさらに続いたが、その内容は、徐々にメイドとしてのポーズからかけ離れていった。
 スプーンを床に落とし、それを拾ってみせなさいという指示があった。
 明彦は一瞬戸惑いながらも、言われるままスプーンを床に落とすと、普通に身をかがめてそれを拾おうとした。
「ダメよっ。それじゃ・・」
 真希の鋭い声にビクッとし、明彦の動きが止まった。
 なぜ制止されたのか、どこが悪かったのか全くわからなかったが、それを考えることは意味のないことだった。明彦には真希の指示に従うより他に選択肢はないからだ。
「膝を曲げてはダメ。それから、背中をカメラに向けて・・・そう。で、膝を伸ばしたまま、上半身だけかがめて・・・そう、ゆっくりね。で、手を伸ばして拾う・・・・はい、それでいいわ。拾ったらそのまま顔だけこっちに向けて・・・そう。はい、スマイル・・・いいわ オーケー」
 姿勢を戻した明彦の目に飛び込んできたのは、担任教師ら、その場の男性たちの情欲を秘めた笑みだった。
 明彦は、真希の言われるままに取ったポーズを思い返し顔を赤らめた。
 裾の広がった超マイクロミニ姿で、膝を伸ばしたまま思い切り身をかがめたのである。
 ショッキングピンクのソングショーツはきっとその姿を現していたに違いない。さらにその姿勢のまま、フルメイクに覆われた顔に扇情的な笑みを浮かべて、挑発的に振り向くのである。男性であればその姿に「性」を連想しないはずはない。
 明彦自身、明倫学園へ入学する以前には、そんな挑発的なポーズが収められた写真集を眺めながら、幾度となく熱く硬くなったペニスを擦り上げ、果てたことがあった。
 その時の明彦にとって、そんな挑発的なポーズを取るモデル女性は、人間性を持って「人」ではなく、単なる性の対象としての「物」だった。
 一体何という変わりようだろうか。
 今自分は明らかに、「物」の側に立っている。男のペニスを硬くし、果ては射精へと導くという目的しか持たない存在。しかも自分にはエストロゲンの作用によって熱く硬くなるようなペニスすらなくなっている。そこに残っているのは性的興奮の証すら示さない、小指の先ほどの哀れな「突起物」だけだ。
 明彦の心は表しようのない屈辱感に占められた。
 いっそのこと、催眠状態のままにしておいてくれていたらどんなによかっただろう。そうすれば、こんな屈辱感を抱くこともなかったのに。
 そう思うと、この時ばかりは学園側のすべての人間への恨みを抑えることはできなかった。

 屈辱的なポージングはその後いくつかのパターンをカメラに収めて終わった。
 肩にかかる髪をかき上げながら、挑発的な視線を送り、唇を舌でなぞって見せるポーズでは、真希からのこんな言葉を背に受けながら演じて見せた。
「ダメダメそれじゃ・・・もっとセクシーに、男がキスしたくてたまらなくなるように・・・そう、ゆっくり、誘い込むように。」
 
 また、ブラウスのボタンを外しDカップの谷間を示しながら、悪戯っぽく微笑むポーズでは、こんな言葉に耐えなければならなかった。
「ほらぁ・・・もっと大胆に胸を突き出しなさい。男の人がその谷間でパイズリしてほしいって思うように・・そう、もっと、誘うような目で・・・いいわ、その調子」

 だが、明彦にとって最も屈辱的だったのは、ロリポップキャンディーとアイスキャンディーを使用した、いわゆる「擬似フェラ」のポーズだった。
 最初ピンク色のロリポップキャンディーを真希から手渡された時は、愚かにも、疲れを癒すために甘い物でも食べなさいという意味だと判断し、普通に口に含んでしまった。
「ハハハ・・バカね、普通に口に入れてどうするのよ? 前にも教えたでしょ?あんたたちの唇はD・S・Lだって。ロリポップキャンディーは男の人のアレの代わり。そのエロい唇と舌を使ってフェラの練習してごらんなさい。」
 明彦は真希の声にハッとした。以前見た写真集の中で、グラビアアイドルがセクシーな表情で、ロリポップキャンディーを口にしているものがあったのを思い出したのだ。それは真希の言うように、男性読者にフェラを連想させることだけを目的とした写真であることは明らかだった。
「んん?どうしたの?それとも明菜ちゃんはキャンディーでなくて本物の方がいいのかしら? いいわよ、ここにはたくさん本物が揃ってるし・・・フフフ」
 躊躇っている明彦に真希の容赦ない言葉が投げかけられた。
 拒否することなど許されないことはわかっている。であるなら、少しでも早くこの恥辱的な撮影を終えなければ・・・。
 明彦は意を決して、キャンディーへの口唇奉仕を始めたのだった。
「ダメよ、そんな嫌そうな顔してたら。 もっと嬉しそうに・・・そう、舌を思い切り出しておいしそうに・・・全体をなめ回すように・・・うんうん、上手じゃない。明菜ちゃん、才能あるわ フフフ」
 
 その後、「擬似フェラ」の撮影は真希の指示通り順調に進んでいった。
 カメラのスイッチが止められた時、明彦の手にはすっかり溶けてしまったミルクアイスバーが握られていた。途中でロリポップキャンディーから置き換えられていた。
 明彦の唇の端からは、純白の筋が滴り落ちていた。
 それはもちろんアイスの溶けた名残である。だが、途中何度も「アイスを男の人のペニスだと思ってご奉仕してみなさい」との真希の言葉を聞きながら演じ続けた明彦にとっては、その純白の筋は他の男のザーメンそのものに思えたのである。
 いや、「他の男」という表現は正しくないのかもしれない。
 撮影の途中で明彦が躊躇いを見せた時、真希が口にした言葉が耳にこびりついて離れない。
「他の男に奉仕してるなんて考えるからできないのよ。女の子の明菜から見たら『他の』男の人なんていないの。いるのは『ある一人の』男の人だけ。女の子の明菜が男の人に奉仕するのは当たり前よ。恥ずかしがることなんて何もないの。」
 この言葉を認めることは、自分を完全に女として認識することと同じである。
 そのことには心のどこかでまだ躊躇いがあった。しかし今こうして撮影されている自分を「他の」男と認識してくれる人はいるだろうか。担任教師もカウンセラーもそして二人のSPも皆、自分を性の対象として見なしているのは明らかだ。それは自分に向けられる情欲の視線からもわかる。特に「擬似フェラ」の撮影時の最後に担任教師が見せたズボンの前を押さえる仕草は、明彦にそのことをはっきりと認識させるのに十分な行動だった。 明彦の脳裏には真希の言葉が何度も繰り返し浮かんできた。
 口の端から滴り落ちる「擬似ザーメン」が「他の」男の物ではなく、「ある一人の」男の物に思え始めた瞬間だった。 

「撮影はひと通り終わったわ。ご苦労様。じゃ、ひと休みしてお茶でも飲みましょうね。」
 真希はそう言うと、明彦をソファに座らせ、用意してあった紅茶の準備を始めた。
 撮影は一体どのくらいかかっただろうか。時計がないので何とも言えないが、体感的には短くて20分、長くて30分程度のような気がした。
 これで撮影終了ということは、やはり裕樹たちの感覚の方が正しかったのだ、自分の時間感覚がずれていたのだろう、と明彦は思った。
 
 だが、その判断こそが誤りだったのである。
 勧められるままに紅茶を口にし、真希との会話を一言二言交わしていると、撮影の疲れが出たのか虚脱感にも似た感覚が襲ってきた。
 まどろみの中で明彦が目にしたものは、いつの間にか真希の横に座っていた白衣のカウンセラーの姿だった。
 カウンセラーの手から、コインの付いたチェーンのようなものがぶら下がっている。
 それが明彦の目の前でゆっくり左右に揺れている。
 カウンセラーが何やら言葉を発している。静かで穏やかな口調である。
 しかし、その言葉がどんな内容なのかはっきりとはしない。
 遠のく意識の中で、明彦が最後に目にしたものはサディスティックな笑みを浮かべる真希の姿であり、最後に耳にしたのはカウンセラーの口から呪文のように発せられた、「明菜」「フレンチメイド」「淫乱」という三つの単語だった。

 
意識の戻った明彦が最初に感じたことは、不思議なくらいの快活な気分とすがすがしさだった。それは初夏の森の中、心地いいそよ風に吹かれながらの熟睡から覚めたような気分と似ていた。
 だが、それとは決定的に違っていたことがある。
 すがすがしい気分とは裏腹に、明彦はこの間ずっと悪夢を見ていた。それは夢と言うにはあまりにリアリティがあり、もしかしたら現実に起こっていたことなのではないかという気さえしてくるのだ。
 夢の中に「明彦」はいなかった。そこにいたのは挑発的で淫らで扇情的なフレンチメイドの「明菜」だった。「明菜」はその場にいる男たちに悪戯っぽい微笑みを投げかけながら、その蠱惑的な身体をちらつかせ、彼らの関心を引きつけていった。
 男たちの顔ははっきりとはしない。だが、今目を覚まして周囲を見回してみると、それが担任教師と二人のSPのイメージと重なってくる。
 その後夢の中の「明菜」が男たちに対して取った行動を思い出すと、羞恥心が全身を駆けめぐっていく。
 「明菜」は男たちの情欲を、自ら進んで受け止めようとしていた。
 二人の男のペニスを左右の手でゆっくりと愛撫しながら、もう一人の男のそれに唇と舌での奉仕を重ねている。そして時折口を離しては卑猥で扇情的な言葉を投げかける。
「ああん・・・明菜に、ご主人様のザーメンください・・・いっぱいいっぱい・・お口にも、お顔にも・・・明菜を、ご主人様の精液処理係にしてくださいィ・・」
 やがて一人の男がくぐもった声と共に絶頂を迎える。粘性の白濁の第一撃が「明菜」の右の瞼から頬を襲った。脈打つペニスから第二、第三の襲撃が後を追う。そしてやっと脈動が収まったときには、「明菜」の顔は白濁で覆われていて瞼を開けることもできないくらいだった。
 休む間もなく、二人目、三人目と白濁の襲撃は続いた。
 一人は「明菜」の口中深くに発射した。大量の精液を嚥下するのが無理だったのか、ふっくらと官能的な唇の端から、一条の白い筋が糸を引くように流れ落ちる。
最後の一人は、「明菜」の左瞼が未だ白濁の洗礼を受けていないことを確認し、そこをめがけて発射した。
 この一連の行動を「明菜」は自ら進んで行っていた。三人の情欲を受け止めた「明菜」の顔には満足の笑みが浮かんでいた。まるで自らも絶頂を迎えたかのように恍惚とした微笑みだった。
 夢の中の「明菜」は、どこまでも淫乱で色情的で、どん欲なフレンチメイドだった。

 明彦はハッとして自らの顔に手を這わせた。
 あまりにもリアリティのある夢だったために、もしかしたら現実の出来事だったのではとの思いだった。もし現実だったら、明彦の顔には彼らの情欲の証が残っているはずだからだ。
 明彦の胸に安堵感が広がった。顔には何の証も残っていなかったのだ。
「あら?気づいたみたいね。どう気分は?」
 真希の優しげな声に明彦はハッとした。
「は、はい・・・気分は、とってもいいです。」
 正直な感想だった。悪夢を見ていたにも関わらず、気分の良さは言葉にできないほどだった。
「そう、よかったわ。慣れない撮影で疲れたんでしょう。すっかり眠っちゃってたわよ。
もう、大丈夫だったら、起きてメイク直しなさい。汗ですっかりメイクも落ちちゃってるから。フフフ」
 明彦はソファから立ち上がると、真希に案内されるまま、部屋の片隅に設置されてあるドレッサーの椅子に腰を下ろした。
「うっ・・ひ、ひどい・・・」
 明彦の口から思わず声が漏れた。
 真希の言うようにメイクはすっかり落ちていて、半ばスッピン状態に近かった。所々にメイクの名残があることでかえって荒んだ感じが強調されている。

 それにしても、こんなに汗をかくなんて・・・
 明彦は元来、あまり汗をかく体質ではない。さらにその体質はエストロゲンによって女性化が進んでいる今、より顕著になっていたはずである。
 心に微かな疑問がよぎったが、そのことよりも目の前の醜い顔を何とかしなければという思いが行動を速めさせたのだった。
 明彦はメイクの名残を落とすと、改めて念入りにメイクを始めた。指示されるまでもなく、官能的でアダルトなフルメイクで、仕上げのリップもD・S・Lを意識したものだった。
 明彦はメイクを終えるとゆっくりと椅子から立ち上がり、今度は姿見の前に立った。
 ユニホームの乱れがないかをチャックするためである。
「んん?」
 黒サテン地のユニホームの胸元と肩の部分に3カ所ほど、5ミリほどの小さくて白い染みがあるのに気づいた。漆黒の黒サテンに白い染みは、例え小さくても目立つ。
 リキッドファンデーションでも落ちたのかしら?でもちょっと色が違うような・・・
 明彦は違和感を覚えながらも、ボルドーレッドにマニュキアされた長く伸びた爪の先で白い染みをこそぎ落とそうと試みた。完全というわけにはいかなかったが、なんとか目立たなくすることはできた。

 明彦が部屋を出ようとした時、それまで一連の動作をただ黙って微笑みながらみつめていた真希は、明彦に近づき声をかけた。
「明菜ちゃんは、本当に優秀だわ。飲み込みも早いし、素直だし。きっと卒業したら誰よりも早く『幸せ』を手にできるはずよ。」
 真希は『幸せ』を強調するように言うと、意味ありげな笑みを浮かべた。
 その瞳の奥には「あなたにとっての『幸せ』がどんなものかわかってるわよね?」という皮肉を込めたサディスティックな光が見て取れた。
「あ、ありがとう・・・ございます。明菜、これからもがんばります」
 明彦は、他人から褒められた時にただ一つ許されている返事の言葉を口にすると、深くお辞儀をして部屋を後にした。
 
 (続く)

コメント・拍手 感謝しております

連載の途中ですが、今回、皆様に感謝の気持ちをお伝えいたします。

ブログ立ち上げ当時は、ご訪問頂く方の数も少なく、拍手もわずか、コメントに至ってはほとんど皆無というような状況でしたが、最近ではお越しいただく方の数も増え、拍手・コメントもたくさん頂けるようになりました。心から感謝しております。

自分のブログなんですから、自分の書きたいことを書けばいい。という考え方もあるかもしれませんが、やはり書く方の立場から言うと、反応の少ない文章ほど書いていて虚しいことはありません。特に反応ゼロなんて時は、もう書くのやめようかななどと考えてしまうこともありました。世の多くのブログがいつの間にか更新されないまま閉鎖されるようになってしまうのも、それが理由なんだろうなぁと思ったりもします。


もちろん、拙い文章が多く、拍手やコメントの送り甲斐がないということもあるかもしれませんが、それでも頂いたときには嬉しい気分になりますし、励みにもなります。
またいただくコメントは、貴重な情報や感想、そして励ましまで様々ですが、その全てに心から感謝しております。すぐに返信できないこともありますが、これからも懲りずにいただければ幸いです。

多忙が重なり、なかなか更新できないこともあると思いますが、皆さんからのコメントや拍手がある内は続けていけるのではないかと思います。
どうぞ、これからもよろしくお願い致します。

以上、皆さんへの感謝の言葉とさせて頂きます。

サテンドールより





私立明倫学園高校 第4章-2

「明日からいよいよ第二段階に入る。明日は『スタイル7』で来ること。それとメイクは教室でするので不要、以上。」
 担任教師の声に促され、生徒たちは教室を後にした。
 第二段階とはどういうものなのだろうか、そんな素朴な疑問が生徒たちの表情には浮かんでいたが、それも長くは続かなかった。
 第一段階は上手くできたんだし、心配することはないだろうという楽観的な思いが生徒たちの心を支配していた。

 明彦は部屋に戻ると、スタイルブックを手にした。
 スタイル7は初めての指定である。
 ページを開いてみると、そこに写っていたのは黒サテン地のフレンチメイド服に白いエプロンを身につけたモデルの姿だった。
 以前指定されたスタイル3もメイド姿だったが、パステルカラーのユニホームで、スタイル7に比べると子供っぽいイメージだった。
 明彦はその時の指導がどのようなものだったか思い出してみた。
 教室の片隅に簡単なソファとテーブルを置き、職員を客に見立てて、飲み物や食事を運ぶ。その際にきちんとした言葉使いと応対をする。
 確かその程度のことだったと記憶している。
 いくつかの厳しい指導があった中で、この時は比較的楽だったことを思い出し、自然と口もとが緩んだ。
「第二段階と言っても、大した変わりはないのね。」
 明彦は一人呟くと、衣装ダンスの扉を開けた。
 右端から4番目にそれらしきデザインの服が確かに掛かっていた。

 
 翌朝、黒サテン地に白エプロン、白キャップのフレンチメイド姿の明彦は教室へと向かう廊下をゆっくりと歩いていた。
 顔は羞恥に赤らんではいるが、同時に微かな笑みも浮かんでいる。あの無意識のうちに羞恥を楽しんでいるはにかんだ微笑みだ。
 羞恥の原因は無論、今身につけているフレンチメイドのユニホームである。
 実際に袖を通してみると、スタイルブックの写真の印象より遙かにスカート丈が短い。
 しかもその短いスカートはペチコートの重ね着によってふわふわとした広がりを示し、
バックシームのストッキングを止めるピンクのガーターベルトを露わにしている。
 その露出の高いユニホームの仕上げは、12センチピンヒールのパンプスである。
 もはや実用的なユニホームとはとても言えない代物だ。あくまでプレイのためにデザインされたものであることは誰の目にも明らかだった。
アダルトなセクシーさを匂わすユニホームとノーメイクの醸し出す幼さのアンバランスがより卑猥な印象を強調している。

 教室にはすでに数名の「フレンチメイド」が輪になって談笑している。
 中には教室後ろの姿見でユニホームの着こなしをチャックしている生徒もいる。
 皆一様に顔を紅潮させ、時折俯いて視線を避けようとする者もいるが、以前のように黙り込んで顔を覆っているような生徒はいない。ある種、羞恥を楽しんでいる様子が隠しきれなかった。

 やがて高岡真希と宮田里佳が教室に入ってきた。手には相変わらず、短いスティックが握られている。時折ヒュゥっという鋭い音を立てながら、生徒たちの怯えた顔を冷笑を湛えながら見つめる表情は、教師のそれではなく、まさにSMクラブの女王様のそれだった。
  
 白いネームプレートが配られた。
 何も書いていない真っ白なプレートである。
 そこに名前を記入し、胸に付けるように言われた。
 明彦は左手にピンクのサインペンを持つと、慎重にペンを走らせた。
 実は明彦は本来右利きである。だが、この特別指導では明彦に限らず、利き手を使って文字を書くことは禁止されている。しかも正確なペンの握り方は許さず、書く文字もマル文字のみという徹底ぶりである。
 こうして不自由な手で書かれた文字は、およそ授業のノートなど取ったことのない、おバカ女子高生の文字そのものだった。
 明彦は、そこに「Akina」と妙な曲線を交えながら書いた。もちろん「i」の文字の点をハートマークにすることも忘れなかった。

「ネームプレートの準備もできたようだから、レッスンを始めましょうね。みんな言われた通り、ノーメイクで来てるわね。あなた達にノーメイクで来るように言ったのは、ここでメイクをしてもらうためよ。今回はそのすてきなユニホームに合わせたメイクをしてもらうわ。ちゃんとマスターして次回は自分でできるようにすること、いいわね。」
 真希はそう言うと、二人の生徒を指名し、教室の後方に予め用意されていた二台の椅子を指さした。
 水野純一と佐伯良平は、緊張感を滲ませながらも真希の指示に従って指示された椅子に黙って腰掛けた。
 椅子の周りには、移動式のキャビネットが置かれ様々なメイク道具が並んでいる。
 純一の後方には真希が、良平の横には里佳が位置した。二人の「女性教師」の目は期待感で輝いているように見えた。
「あなたたちが今まで身につけてきたメイクというのは、まあ女の子の身だしなみみたいなもの、つまり自分のためにするメイクってことかな。でも、今日身につけてもらうのは人のためにするメイクよ。」
 真希は純一の顔に丁寧に化粧水を施しながら言った。里佳も真希の手順に合わせるかのように良平の顔に化粧水を施していった。
(人のためにするメイクって?)
 明彦は真希たちの手の動きを追いながら自問した。
 そんな疑問を持っているのが明彦だけでないことがわかったのか、真希はメイクを進めながら口を開いた。
「何か、みんな不思議そうな顔してるわね。人のためって言うのは、人を喜ばせるためってこと。みんなにとって、その『人』っていうのは、強い男の人のことよ。だってあなたたちは強い男の人に頼って幸せにしてもらうしかないんでしょ。だったら、その人たちに喜んでもらうのは当たり前よね。」
 ファンデーションからチーク、アイライン、マスカラ、アイシャドウと真希の念入りなメイクは淀みがなかった。真希に比べ里佳は少々手間取ってはいるが、それでもその手際は十分洗練されていた。
 
 純一と良平の顔が徐々に仕上がりに向かっているのがはっきりとわかる。
 それはこれまで生徒達が身につけてきたメイクとは明らかに一線を画すものだった。
 これまでのメイクを「女子高生らしい健康的な美」を意識しているものだと言うならば、今、純一と良平が向かっているのは「アダルトで妖艶な美」を目指しているものだと言えるだろう。そしてその奥に見え隠れするセクシーな雰囲気は卑猥という言葉を連想させるほどである。
「さあ、仕上げは口紅よ。アイメイクと口紅は一番大切な部分だからしっかり見ておくのよ。まずこのペンシルでしっかりと輪郭を取って・・・・いい?大きめに輪郭を画くのがコツ。それから口紅をブラシにとってしっかりと・・・・うん、いいわ、これで。で、最後にグロスをたっぷりつけてと・・・・。フフフ、我ながら上出来だわ。どう、みんな?」
 明彦は純一の顔から視線を外すことはできなかった。明彦の知っている水野純一の面影はほとんど残っていない。胸のプレートが示す「JUNNA」という名の幼く可愛いらしい印象とは違う、セクシーで官能的な表情がまるで別人のイメージを作り上げている。
「ねえ、みんないいこと教えてあげるわ。こういうセクシーな唇、英語の俗語ではD・S・Lっていって男性にとても人気があるの。 Dick Sucking Lipsの頭文字なんだけど、Lipsは唇のこと、で、Dickは男の人のアレ・・・ペニスのことよ。あと・・・Suckingはね・・・フフフ、いいわ誰か調べてみて。いくらおバカちゃんでも辞書くらい引けるでしょ?スペルは黒板に書いてあげるから。」
 真希はみんなの反応を楽しんでいるかのような笑顔で黒板に「Sucking」と書いた。
 
 しばらくの後、電子辞書で調べていた生徒の一人が「あっ」と小さな声を上げた。
 声の主は中村由和だった。
「フフフ・・わかったみたいね。じゃ、由佳ちゃん、みんなに教えてあげて。」
 由和はゆっくり立ち上がると、顔を赤らめて黙って下を見つめた。
 「Yuka」と書かれた胸のプレートが微かに震えているのがわかる。
「あ、あの・・・『吸う』とか『しゃぶる』とか・・・という意味です・・」
 由和は消え入るような小さな声で言った。
「フフフ・・そうね、よくできました。つまり、フェラのことよ。男性はこういうセクシーな唇を見ると自分のペニスをしゃぶらせたいって思うものなの。君たちだってそう思うんじゃない?・・・・あ、ごめんなさい。君たちに男の気持ちを聞いても無駄だったわね。フフフ・・・。 とにかく、こういうメイクをしていれば男性を引きつけられるってこと。さっき男の人のためのメイクって言ったのはそういう意味よ。わかった?」
 真希は満足そうな笑みを浮かべながら、生徒たちを見回した。
 中には顔を赤らめ、黙って俯いている生徒もいた。
 明彦もその一人だった。露出度の高いユニホームを着ることで抱く羞恥心と、今感じているそれは明らかに異質なものに思えた。
 本来は同性であるのに、一方は「強い男」として支配する側に周り、一方は「弱い女」として服従する側になる。そして弱い女は強い男に媚びを売るためだけのメイクをする。それは自ら男性の「性の対象」になるための行為である。
 その「弱い女」の立場に自分は置かれている。その屈辱的な行為を避けることすらできずに。
 明彦の心は羞恥を越えた屈辱感に襲われていたのだった。

 その日の「特別指導」は、新たなメイクテクニックの習得に特化したものとなった。
 少ない者でも3回、多い者だと7回ものやり直しが命じられた。
 真希も里佳も完璧な仕上がりに達するまで決して妥協をしなかった。
 明彦も里佳から合格をもらうまでには5回のやり直しをしなければならなかった。
 アイメイクやチークや微妙なアクセントは完璧だったのに、どうしても唇のメイクにオーケーが出ないのだった。
 輪郭を大きめに取り、濃いめのルージュでふっくらとした唇を演出し、さらにたっぷりのグロスで扇情的なウェット感を強調する。 
 不合格の度に、そう心に言い聞かせながらやり直した。でも、それをD・S・Lと言うのだという真希の言葉を思い出すと、どうしても思い切ったメイクができなかったのだ。
 自分の唇を見て、他の男が自分のペニスを「しゃぶらせたい」と妄想することを想像すると背筋が凍る思いだった。
 しかも、不合格の度に里佳から投げかけられる言葉は、明彦の屈辱感を増幅させ、余計に遠慮がちのメイクに向かわせてしまう要因となった。
 とりわけ、最後の不合格の時に里佳の口から出た言葉には涙が出るほど悔しい思いがした。
「もう、何度言ったらわかるの? そんなおとなしいメイクじゃ、男の人は興奮しないわ。あんたに意志なんていらないの。ただ男の人のエロい妄想をかき立てるための『おもちゃ』、ううん、明菜という名の『ラブドール』だと思いなさい。わかったわね。」
 明彦には「ラブドール」の意味はわからなかったが、ご丁寧にも里佳はその意味を耳打ちして説明した。
 その瞬間、明彦の顔から血の気が引いたのは言うまでもない。

 (続く)

私立明倫学園高校 第4章-1

「特別指導」が始まって約2か月が過ぎていた。
 担任教師によると、今日で第1段階が終了したとのことである。
「特別指導」が始まる前に、あれほど抱いていた不安も今ははほとんど消えている。
 きっと、カウンセラーがくれた錠剤と毎晩ゆっくり5回唱える『明菜は従順で可愛い子。自分の意志はいらないの。強い人の言う通りにしていれば間違いはないの。』の「お祈り」の言葉のおかげだと明彦は思った。

 食時ごとに飲んでいる「スペシャルドリンク」も一日も欠かしたことはない。
 その主成分がエストロゲンという女性ホルモンであることを告げられ、一時は飲用を拒否したこともあったが、それも長続きはしなかった。
 飲まなかった日の夜は、決まって悪寒、冷や汗、頭痛、嘔吐が襲ってきて、翌日には耐え難いレベルにまで到達してしまう。そしてその症状は再び「スペシャルドリンク」を口にするまで続いたのである。
 このような症状は、ドリンクの飲用を拒否した生徒たちに共通した症状だった。
 明彦は彼らを代表してカウンセラーに質問した。
「ああ、それは当然だよ。だって、スペシャルドリンクには『依存症』を引き起こす成分も入っているんだから。」
 カウンセラーは事もなげに答えた。
「い、ぞ・・・ん、しょ・・・」
 明彦は「いぞんしょう」の意味を尋ねようとすると、カウンセラーはクスッと笑い、
「明菜ちゃんには難しい言葉だったね。まあそんな言葉は知らなくてもいいんだよ。気分が悪くなったときこそ、『スペシャルドリンク』を飲めばいい、それだけのことだよ。」
 と言って、そのまま立ち去った。
 明彦は詳しいことを自分で調べてみようかとも思ったが、そんな気持ちも教室に戻った時には消えていた。
 そんなことより、昨日のドラマに出ていた男性アイドルの話題の方が気になる。

 難しいことは、「偉い人」「強い人」「目上の人」が考えてくればいい、自分みたいに頭が悪くて、弱い人間はいわれるままに行動している方が幸せなんだ。
 いつからか、そういった考え方が、明彦の心には自然と沸いてくるのだった。
 それは明彦だけではない。クラス全員に共通した心の動きだった。
 教室に戻ってみると、案の定、カウンセラーの返事がとのようなものだったかを尋ねる者もいなかった。
 明彦は男性アイドルの話題で盛り上がっているグループの輪の中に何事もなかったかのように笑顔で加わった。  
 
 その日以来、明彦はスペシャルドリンクの飲用を拒否したことはない。いやむしろ積極的に飲用するようになった言っても良い。飲み忘れたときに襲ってくる苦しみがトラウマのように心に残ったからである。
 例え肌の色が白くなり肌理が細かくなっても、例え髪の艶とコシが増し、豊かなセミロングにまでなっても、例え身体全体が柔かでふっくらとした女性らしい曲線になっても、例えウエストとのか細い括れに反して豊かなヒップラインが目立つようになっても、明彦は飲用を止めようとは思わなかった。
 ただ、ブラのサイズがCカップに変わったのがわかった時と、ショーツの中で小指大にまで矮小化したペニスがもう半年もエレクトしていないことに気づいた時は、さすがに一瞬恐れを感じたが、それも苦しみのトラウマを越えるほどの力にはならなかった。

 思い返してみると、この2か月間で本当の「苦しみ」を感じたのは、そのドリンクを拒否した時だけだったかもしれない。
 もちろん、すべてが快適だったなどと言うつもりはない。 
 例えば、「スタイル1」と指示されたセーラー服が、実際に着てみるとモデルの写真と違って、ブラウスとスカート丈が極端に短く、形のいいお臍を露わにし、少しの前屈みでもレモンイエローのショーツの顔を覗かせてしまう、そんなデザインであったことだ。
 サイズミスなのではという疑いはすぐに否定された。クラス全員の制服が同様のデザインだったからだ。
 全員が「同性」であるにもかかわらず、羞恥に顔を赤らめ、身体を固くして、超マイクロミニの裾とブラウスの縁を気にしてる姿は異様な光景だった。
 教室に入ってきた高岡真希と宮田里佳の新任女性教師は、そんな生徒達の様子を見て、お互い顔を見合わせると、密かにサディスティックな微笑みを交換した。
 だが、教室全体を覆う羞恥心は、すぐに解消することとなる。
 遅れて入室してきたカウンセラーが音楽を流しながら、何やら意味不明の言葉を囁き始めたのである。
 聞き覚えのない不思議な旋律とカウンセラーの穏やかな声。
 教室全体の羞恥心は安堵感へと変わり、やがて睡眠を誘う幸福感へと変わっていった。
 明彦は無意識の内にカウンセラーの言葉を繰り返していた。
 どんな言葉だったか、また何回くらい繰り返したのかはっきりとした記憶はないが、睡眠から覚めた時、教室全体を覆っていた空気は明らかに変わった。
 みんなの顔を見渡すと、相変わらず顔を赤らめたままではあったが、先ほどまでのひきつった表情が、はにかんだような笑みに変わっている。
 もちろん羞恥心が消えたわけではない。羞恥心の質が変わっていたのである。
 「恥ずかしさ」を打ち消そうとしていた心に、「恥ずかしさ」を楽しもうとする心が取って代わった感じがだ。
 「恥ずかしさ」は快感、「恥ずかしさ」は幸福・・・そんな関連づけがすんなりと心に入ってきていた。 
 それは、露出度の高い大胆な服を着る際に「恥ずかしさ」よりも人の視線に晒されることに「喜び」や「快感」が優先する微妙な女心と同種のものかもしれない。
 いずれにせよ、この日以降、新たに指定されたスタイルに恥ずかしさのあまり身体を固くし、ただ俯いたままというような彼らの姿は消えた。
 ナース服やメイド服やバニースタイルを指定された時も、彼らの顔は羞恥心に紅潮しながらも、一様にはにかんだ笑みが浮かんでいた。そして時にはお互いの着こなしを褒めあったり、わざと少し意地悪を言ってみたり、授業前の教室はにぎやかな「女子高生」のおしゃべりに満ちあふれていた。

 身体的に辛かったことと言えば、やはり「ボイストレーニング」だったかもしれない。 もちろん、12センチピンヒールでのウォークレッスンや立ち居振る舞いの指導は決して楽ではなかったし、少しでもぐらついたり、指示通りの姿勢が取れなかったりした時に高岡真希や宮田里佳から受けるきつい罰則(たいていは生徒のスカートをまくり上げ、教卓にかがませた状態で、細いスティック状の杖を使ったスパンキングである。その回数と強さはミスの程度による。)も、屈辱的で辛いものではあったが、幸い2年生までの「教養の時間」で基本的な動きはマスターしていたので、ピンヒールでの動きもすぐに身に付きミスが出てしまうことも少なくなっていった。
 だが、「ボイストレーニング」はそうはいかなかった。
 やはり2年生までの「教養の時間」で女性らしい話し方、いわゆる女性言葉の使い方はマスターしていたし、滅多に男性言葉が出ることはなくなっていた。
 しかし、ある一定の高い声ををキープするための発声法のマスターには予想外の困難さがあった。
 男性の腹式呼吸を抑えるため、ウエストをきついコルセットで締め上げ、呼吸を小刻みな胸式呼吸に変える。その上で、ある一定の高さまで声のピッチを上げ、その高さをキープしたまま発声練習を行う。最初は1分間、次には3分間、5分間とキープする時間を伸ばしていき、最終的には15分間までのキープを可能にさせる。
 実は、この段間までならほとんどの生徒は何とかクリアすることができた。
 ところが第二段階として、そのキープした声で自己紹介をしたり、文章を朗読したり、最終的には授業中に突然指名されて発言までしなければならなかった。
 咄嗟のことに声のトーンが下がったりしようものなら、真希と里佳による容赦のないスパンキングが待っていた。
 さらに辛かったのは小刻みな胸式呼吸が自然にできるようになるまで、入浴時間を除いて、コルセットの着用が義務づけられたことである。
 
 真希は苦しむコルセットの締め付けで苦悶の表情を浮かべる生徒たちに、冷たい笑みを浮かべながら言った。
「コルセットは胸式呼吸を作るだけじゃないのよ。みんなのウエストラインを今以上に引き締める効果もあるの。長期間着けていれば、身体の方もちゃんとフィットするようになるわ。だからレッスンが終わってコルセットを外したら、みんなきっと驚くわよ。オッパイとヒップはどんどん発育してるのに、ウエストはキュゥっとしまって、もうどこから見てもグラビアアイドル並みの女の子。その上、可愛いてセクシーな声で話すようになるのよ。もう男の子たちが放っておかないわよ。ハハハ・・」
真希のこのサディスティックな言葉を真剣に受け止める生徒はいなかった。
 彼らの神経は、一日でも早く「ボイストレーニング」を終え、スパンキングの屈辱と、コルセットの苦しみから解放されることだけに集中していたのである。

 だが、この真希の言葉は決して嘘や冗談ではなかった。
 入浴時に鏡に映る姿は日に日に形を変えている。ウエストラインの縊れが増すにつれ、バストとヒップラインの膨らみがより強調されいくのがわかった。
 その上、小刻みな胸式呼吸を取っているために、Cカップの膨らみも呼吸に合わせ小刻みに上下している。その姿はまるで何かに怯えた少女が緊張のあまり小さな呼吸を繰り返すか弱い姿にも見えた。

 長期に渡る「ボイストレーニング」を終えた時、教室には一斉に歓声が上がった。
 そこには男性の太く低い声は一切なく、ただ女性特有の嬌声にも似た甲高い声だけだった。
 明彦はもはやコルセットに対する違和感すらなくなっている自分に気づいた。
 あえて腹式呼吸をしたり、低い声を出したりする行為は、もはや意識的に無理をしなければできなくなっていた。
 自分の昔の話し方がどんな風だったかの記憶もなくなっている。
 明彦がそんな物思いに耽っていると、マイクロミニのプリーツスカートのヒップに触れてくる手の動きを感じた。
「キャッ・・・」
 明彦の口から甲高く細い悲鳴が漏れた。それは発した本人さえ驚くような、本当に少女が発したように自然で可愛らしい悲鳴だった。
 振り返ると、そこには宮永裕樹がにこやかに微笑みながら立っている。
「明菜ったら、『キャッ』だってぇ~、可愛い声だしちゃって・・・フフフ」
「もう~何よ~、裕香だって、同じでしょっ、ホラ・・・」
 明彦は笑顔で言い返すと、裕樹の胸の膨らみに手を伸ばした。
 裕樹は身体を翻すと明彦の手の動きを避けた。
 なおもその後を追う、明彦。
 二人のじゃれ合いと甲高い悲鳴の交錯が続いた。
 そこにいたのは二人の男子学生の姿ではない。
 山本明菜と宮永裕香という二人の美少女の姿だけだった。

 (続く)

プロフィール

サテンドール

Author:サテンドール
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女性化小説なら国内・海外を問わず大好きです。

特に屈辱系・羞恥系・強制系・寝取られ系・立場逆転系・年齢退行系・SISSY系などなど・・・。

happy よりは、unhappy ending が好み。
(ちょっと、性格がゆがんでるのかも^^)

私事ですが、以前某サイトに 
「高野奈緒美」のペンネームで
『ある性転者の告白』という拙い小説を掲載させて頂いておりました。事情があって途中で掲載を止めましたが、その完結編も当ブログでご紹介できればと思っています。

それとランキングにも参加させていただきますので、
ポチッとクリックいただければ幸いです。

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