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『再会』 その5

 二人の会話にしばらくの沈黙が流れた時をまるで待っていたかのように、ドアホンが鳴った。
「あ、彼だわ。今日はちょっと早く来るって言ってたから。ちょうどいいわ、慶子、彼に会って行ってよ。」
「え?うん、それは別にいいけど・・・。」
 慶子はコンパクトを取り出し、顔を映してみた
「大丈夫よ。そんなに赤くなってないから。それに気を使う相手でもないわ。」
「ん?どういうこと?」

 やがて、長身で体格のいい男性のシルエットが玄関先に浮かぶ。
 ドカドカという力強い足音がリビングに近づきドアが開いた。
「え?もしかして宮田くん?」
 慶子の素っ頓狂な声がリビングに響いた。
 ドアのそばに立ってこちらに微笑みかけているのは、元同僚で同期だった宮田雅明である。
「フフフ・・驚いた?私の今彼で~す。」
 有希江が悪戯っぽい笑顔で言った。
「へ~、驚いたわぁ。こういうことになってたんだぁ。」
「ハハハ・・そういうことです。俺も、まさかこんなことになるなんて予想もしてなかったんだけどね。まあ、運命の悪戯って言うか何て言うか。」
 
 雅明の言葉には含みがあった。
 雅明と有希江と慶子との3人は同期の中でも、配属された部署が同じで特に親しい間柄にあった。だが、それはあくまで友情の範囲であって、恋愛感情にまで発展することはなかった。と言うのも、入社当時、雅明には3歳年下でまだ大学に通う女子大生と熱愛中だったし、有希江も慶子もそれなりにボーイフレンドには苦労しているわけではなかったからだ。
 ところが、ある日雅明の恋愛関係に破局が訪れる。
 原因は雅明の仕事だった。多忙で残業も多かったため、女子大生の彼女は寂しさのため他の恋愛を求めてしまったのである。世間ではよくある話だが、純粋な雅明は思い悩み、思い切って直属の上司である坂下智則に相談した。だが、智則は恋愛に対するアドバイスをするでもなく、同情するでもなく、逆に雅明の勤務態度を叱責したのである。その叱責は確かに正しいものではあったのだが、恋愛に傷ついている若者の心には、傷口に塩を塗られるような痛みだったに違いない。
 雅明は何とか彼女の気持ちを取り戻そうと、彼女の誕生日に高級レストランを予約し、プレゼントを用意して、一世一代の勝負に気持ちを沸き立たせながら、就業終了時間である6時を待った。
 ところが、彼を待っていたのは、臨時の残業命令だった。
 今日だけはどうしても残業はできないと智則には伝えてあったにも関わらずである。
 もちろん、入社1年目の彼には残業命令を拒否する力などない。
 当然の結果として、彼の恋愛は終焉を告げた。
 確かに恨むのはお門違いなのかもしれない。だが、それでも若い雅明には怒りのぶつけ場所が欲しかった。雅明は密かに智則を恨み続けたのである。
 
 その後彼は何人かの女友達と恋愛関係になることもあったが、決して長続きはしなかった。どうしても失った彼女のことが忘れられなかったのである。
 ところが、そんな彼にも、身近に心を癒してくれる女性がいたのである。それまで親しすぎて気づかなかったが、望月有希江その人だった。
「いや、彼女はやめておけ。相当遊んでるみたいだし、わがままだし、苦労するぞ。」
 彼から恋愛相談を受けた友人は決まってそう言った。
 だが彼には、入社以来ずっと近くの席にいて、本当の有希江はそういう人間ではないような気がしていた。確かに放縦で、社交的で、美しい容貌も相まって、派手には見える。しかしその実、内面はしっかりとしていて優しさもあると雅明には思えたのである。
 
 残念ながら、この評価は「あばたもえくぼ」のようなものであった。
 有希江の内面は雅明の手に負えるような生やさしいものではない。
 放縦性と社交性に加えて淫乱性をも内面に秘めた、いわゆる悪女であって、若い雅明にかなう相手ではなかったのである。
 つまり、周囲の冷静な目の方が評価としては正しかったのだが、ひとたび有希江の魅力に嵌ってしまうと、それらの評価を肯定する勇気は失せていった。
 有希江の方はというと、そんな真剣な恋愛感情などは欠片もなく、言い寄ってくる男の中の一人として弄んでいたに過ぎない。
 
 そんな有希江が、ある日婚約を発表する。
 相手は自分ではなく、よりにもよって、あの坂下智則だと言う。
 雅明にとっては二重のショックだったのである。
 雅明の恨みは有希江ではなく、智則に向かった。
 入社1年目のあの恨みがまた再燃してしまったのである。
 だが、そんな恨みも決して表には出せない。内に秘めてじっと耐えるしかなかったのだ。サラリーマンとは因果な商売だと、雅明は酒で憂さを晴らしながら、時折呟くのだった。
 そんな経緯をすべて知っている慶子にとって、有希江の新しい恋人として雅明が今、目の前にいることが驚きだったのである。 


 3人の元同僚の前には、その日3本目のワインが置かれている。
 すでに2人で2本のワインを開けている有希江と慶子は、もっぱらサラダとオードブルに手を伸ばしている。ワインは雅明がほぼ独占しているようなものだった。
 3人は数年ぶりの「再会」を乾杯で祝すと、すぐに同僚時代の思い出話に花を咲かせた。

「あの頃もよく3人で飲みに行ったよなぁ。2人の方が酒が強くて参ったけどな。」
 雅明がワイングラスを傾けながら言った。
「何言ってるのよ。私じゃないわ。有希江が強かったの。私はすぐ赤くなる乙女だったわ。」
「よく言うわよ。私、赤くなってからが強いのなんて言って、それからボトル一本空けちゃった人が。アハハ・・」
「アハハ・・まあ、どっちもどっちだってことだ。ところで、慶子、会社うまくいってるの?」
「あ、うん、まあね、何とかやってるわ。一緒について来てくれた子たちもがんばってくれてるしね。」
「ああ、あの時な。こっちは結構優秀な人材抜かれてかなり困ったんだぞ。アハハ」
「それはまた失礼しました。でも引き抜いたわけじゃないのよ。みんな一緒にやりたいって言ってくれた人たちばっかりよ。」
「やっぱり、それは慶子の人柄よね。入社してすぐに人気者になっていたものね。慶子の周りにはいつも笑顔が絶えなかったしね。」
「アハハ・・それはどうも。でも、人気があるのは同性ばかりなんだよねぇ。もう~、男ってどうして見る目ないの~?」
「え?慶子って今フリーなの? いいやつ紹介しようか?」
「う~ん、今は間に合ってます。仕事がもう少し軌道に乗ってきたらね。お願いするわ。」
「もう~、そんなこと言ってたら、おばあちゃんになっちゃうじゃない。いいわよ、雅明、適当なの見つけて、慶子に押しつけちゃいましょう。」
「ひどいわね、有希江。適当なのってどういうことよ?」
 3人の笑い声がリビングに響いた。久しぶりの再会を心から喜んでいる屈託のない笑いだった。

 だが、談笑は慶子の一言をきっかけにぎこちない方向へ向かいだした。
「それにしても、あの頃飲み会行くと、宮田くんたち男子社員って、愚痴ばっかり言ってたわよね。女子社員はいつもその聞き役だったわ。」
「うんうん、そうだったわ。特に、慶子は聞き上手だったから余計でしょ?」
「うん、もう、母親じゃないよってつっこみたくなったわよ、本当に。フフフ・・」
「うん、まあ、とにかくきつかったからな。男子社員は特にな。」
「特にあの頃の坂下部長のしごきはすごかったよね。男子社員は陰で泣いてたもの。」
 慶子の言葉に、雅明と有希江が一瞬顔を見合わせた。

「ねえ、坂下部長の口癖って、私が退社した後も続いてたの?」
「ああ、あれね、ずっと続いてたよ。『恥をかけるだけかけ。恥は人を大きくする。恥を喜べ。そして恥辱を自分の宝とせよ。』だろ。」
「アハハ・・うん、そう。でも言葉はいいかもしれないけど、やり方がすごかったわよね。」
 慶子の言葉に雅明は黙って頷いた。

 智則は当時部下を厳しく叱る時、『恥をかけるだけかけ。恥は人を大きくする。恥を喜べ。そして恥辱を自分の宝とせよ。』を3回暗唱させ、土下座の姿勢でその日にあった「恥」を大声で告白させた。また時には「恥」を倍加させるために、女子社員のいる前でパンツ姿にさせ、やはり「恥」の告白をさせたりもした。
 雅明自身、その洗礼を受けたのは一度や二度ではない。ただでさえ恨みを抱いている智則に挑みかかろうとしながらも必死に感情を抑えたことも、一度や二度ではなかった。
 恐らく、これで業績が上がらず、また智則自身の評価も低ければ、すぐに問題視される事柄だったかもしれない。だが業績面も、智則の評価自体も顕著だったので問題として表面化することはなかったのである。
 
 慶子は話題が坂下智則に及んで、ハッとした。
 そう言えば、先ほどまで有希江との会話で取り上げていた「リリー」こそ智則その人なのだ。
 自分が部下の時代に、厳しい表情で叱りつけてきた坂下部長と、先ほど最後に見せられたランジェリー姿の美しい「リリー」が同一人物であるという認識を持ち続けることは難しかった。
 慶子は有希江の顔をのぞき込んだ。
(ねえ、どこまで話していいの? 宮田君は、どこまで知ってるの?)という問いかけの視線だった。
 有希江はその視線の意図を察してかどうか、黙って小さく頷くだけだった。
 慶子にはその頷きが肯定なのか否定なのかの判断がつかなかった。だから智則の話題にこれ以上深入りはしないよう口を紡いだ。

 リビングにわずかの間沈黙が流れたが、それを破ったのは有希江だった。
「あら?そう言えば、沙也香、出てこないわね。大好きな雅明おじさまが来てるのに。気づいてないのかしら。それとも疲れて寝ちゃったのかしら。」
 有希江はそう言うと、ゆっくりと立ち上がり廊下隅の部屋に向かった。

 慶子の位置からは、部屋のドアを叩いた後、中に入っていく有希江の姿が目に入った。見間違えなのか、光の加減なのか、有希江の顔に微かな険しさが浮かんでいる気がした。
 しばらくして部屋を出てきた有希江の後を追うように、沙也香が着いてきていた。
 有希江の影に隠れて服装はよく見えないが、どうやらどこかの高校のセーラー服のように見える。
 リビングの照明が当たる。
 やはり沙也香が身に纏っているのはクラシックスタイルのシンプルなセーラー服だった。だがよく見ると、シンプルなのは色合いや生地のデザインだけで、カットの仕方は独特だった。まず真っ先に気がついたのはスカート丈の極端な短さだ。シンプルなプリーツスカートなだけに余計に異様さが目立つ。前屈みになどならなくとも、今慶子の座っている低いソファからの視線だけで、ピンクのショーツの一部が覗いて見える。
 夏服セーラーのブラウスは伸びをしなくても、形のいい臍を露出するくらい短い。そして意図的に生地を薄く作っているのか、ピンクブラのフロントにある小さなリボンまで透けて見えている。
 視線を上げてみると、クラシックスタイルのデザインに合わせたのだろうか、髪を三つ編みに編み込んで、メイクもナチュラルで質素であった。

「沙也香ったら、今日は慶子社長さんがいらしてるので、お勉強の時間はなしにして欲しいなんて駄々こねるものだから、ちょっと今叱ってたところなのよ。」
 有希江の言葉を聞いて、改めて沙也香の俯く表情を見てみると、瞼が腫れているのがわかる。恐らく先ほどまで泣いていた跡なのだろう。
 怪訝そうな表情を浮かべる慶子に気づいて、有希江はさらに言葉を続けた。
「沙也香はね、雅明おじさまが大好きなのよ。特にお勉強を教えてもらって、良くできた時にご褒美をもらうのが特に好きなの。ね、沙也香ちゃん?」
 有希江の問いかけにも、沙也香は黙って俯きながら立っているだけだった。
「あら?どうしたの?沙也香はお返事もできない悪い子だったかしら?」
 言葉付きこそ優しげだが、有希江の口調には無言の強制力があった。
「あ、ご、ごめんなさい・・・で、でも・・今日は お願い、許して・・・ください。」
「まあ、そんなこと言って。おじさまお気に入りのセーラー服を着て、お勉強の時間待ってたくせに。」
「そ、それは・・・あの・・・社長様が・・・あの・・・」
「うん?慶子がいなくなってからのことだと思ったわけ?」
「は、はい・・。」

 2人のやり取りを見て、咄嗟に慶子が口を挟んだ。
「ああ、ごめんなさい。何か大事なお勉強があるなら、邪魔しないわ。だいぶ長居してしまったし、そろそろお暇するわね。」
 慶子はそう言って、腰を上げようとした。
「待って。まだ、座ってて。慶子には沙也香のお勉強ぶり見てもらいたいの。だって、今度から沙也香の雇用主になるんだもの。ねえ、雅明?」
 それまで、微笑みながら、無言でその場のやり取りを見ていた雅明は大きく一つ頷いてみせた。
「ああ、しっかりと見てもらった方がいい。沙也香がどういう子なのかってことを知ってもらうためにもな。」

 なかなか動こうとしない沙也香に有希江の叱責が飛んだ。
「沙也香! いい加減になさい。いつまでも駄々こねてないで、早くおじさまとお勉強をするの。ちゃんとできたらご褒美いただくんでしょ? ほら、いつものようにっ!」
 有希江の声にビクッと反応した沙也香はそのまま雅明の座るソファの元に近づき、震える声で言った。
「ま、雅明・・おじさま・・今日も、沙也香に・・お勉強教えてください。それで、もしいい子にお勉強できたら・・・いつものように ご褒美・・ください。」
 沙也香の言葉に雅明は相好を崩し、自分の右の太股の辺りを手のひらで二つ叩いた。

 〔続く〕

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『再会』 その4

「それで、手術はうまくいったの?」
「うん、うまくいったわ。2か月後にね。」
「え?何で、2か月もかかるの?」
「うん?準備がいるからよ。だって、彼はあくまで男なんだから、少し女性化に適応させた後で手術する必要があるの。つまりホルモン治療ね。エストロゲンを一定期間投与してから、手術するってこと。ああ、でも、もちろんそんなこと彼は知らないわよ。2か月間栄養補給のためにしっかり準備期間を取ってると思ってるわ。『今、準備期間で、毎日エストロゲンっていう栄養剤を飲んでます。早く手術して、お姉様に見て頂きたいです。』って書いてきたからね。フフフ・・・」
「うん、男性だとエストロゲンの名前知らないのも無理ないもんね。でもそれにしても、途中で考え直したり、もうやめようと思ったりしなかったのかしら?」
「ううん、あったわよ。手術が怖いって言ってきたこともあるしね。でもその度に励ましてあげた。『お姉様はいつでもリリーのそばにいるわ。お姉様の大好きなリリーになるために、ちょっとの怖さはガマンしなさい。手術が終われば、お姉様はリリーのそばにずっといてあげるから。』ってね。」
「何かひどいわね、そんな嘘言って。手術が終わったって、実際に会うわけじゃないのに。もうそこまで行くとやりすぎよ。」
「うん?何言ってるの?ちゃんと会ったわよ。そして約束通り、レズパートナーとしてベッドを共にしたわ。その時の彼、いえ、『リリー』の写真がこれよ。」

 有希江は再度ファイルを開くと、3枚目の写真を取り出し、すでに置かれている2枚の写真の横にそっと並べた。
 赤いランジェリー姿の20代後半位に見える女性が写っていた。
 髪は肩にかかるセミロング、微かに内巻きにカールしたスタイルが、細く小さな顎の線とマッチしている。
 メイクは非の打ち所がない。顔の色合いにきちんと合わせたファンデーションは違和感を全く感じさせない。クルンとカールした長い睫毛と、ふっくらと画いたローズピンクの口紅が印象的だ。
 赤いレースのハーフカップブラは、豊かな胸の膨らみをより扇情的に強調している。
 長らく続けたダイエットのためか、ホッソリとした手足がよりいっそう長く見える。
 そして、ウエストの薄さはバストの豊かさとは対極をなしていて、病的に映るほどだ。
 これがあの自分たちを叱りとばしていた坂下智則の姿とは、どうイメージしても重ならない。

「き、きれい・・・ホント綺麗ね。」
「でしょ?私もさすがにびっくりしたわ。それまでもメールの写真で少しずつ見ていたけど、ホテルで実際にこの目で見たときの驚きは今でも忘れられないわ。」
「肌の肌理とか白さとかはやはりホルモンのおかげ?」
「うん、そうね、きっと。あと髪の毛も艶々してない?」
「あ、ホントだわ。すごいわね、ホルモンの力って・・・。」

「でも、ホントに、このバスト綺麗ね。うらやましいくらいだわ。フフフ・・・」
「でしょ?Dカップなんだけど、感触も本物と変わらなかったわ。」
「感触? あ、そうか、有希江、ここで、この・・・『リリー』とレズプレイしたのよね?ねえ、どんな感じだったの?」
「う~ん、それはとっても変な感じ。だって、お互いに本当は誰だかわかっているのに、お互いに知らないふりをしているのよ。そこには有希江も智則もいないの。『リリー』にとっては『ラベンダー』という名のお姉様がいるだけ。そして『ラベンダー』にとっては『リリー』という妹がいるだけ。本当の年齢では逆なのに、それにも気づかぬふりをして、『リリー』の性別が本当は違っていることにも触れないで、二人はレズパートナーとして時間を過ごした。こんな不思議な感覚初めてだったわ。」
「う~ん、それって、良かったってこと?悪かったってこと?」
「ううん、どっちでもないわ。お互いの愛撫は無限に続くように深かったし、私の身体の下で身もだえる『リリー』は本当に可愛くていつまでも抱きしめていたいと思った。それに『リリー』のクンニは今までに一度も味わったことのない感覚だったわ。でも、やはり私は女。最後はペニスが欲しくなるわ。逞しいペニスで貫いて欲しくなるの、わかるでしょ?」
「うん、それはそうよ、わかるわ。だから『リリー』と最後は男女のエッチをしちゃったってわけ?」
「ううん、そうはならなかったわ。だって『リリー』にはペニスがあってはいけないんだもの。『リリー』はショーツだけはどうしても脱ごうとしなかった。どんなに興奮してきても、必至に顔を左右に振ってエレクトだけは避けようとした。それはもう哀れなほど健気だったわ。ホルモンの影響だったんでしょうね。『リリー』のペニスは以前の大きさも堅さも示すことはなかった。でも私が『リリー』の生まれたての巨乳に舌を這わせながら、ショーツの上から愛撫し続けると、小さな喘ぎ声をもらすようになっていった。少女のような切なく甘い喘ぎ声だった。いつしか快感に身を委ね、身体の力が抜けていくのがわかった。私はゆっくり『リリー』のショーツを引き下ろしたの。『リリー』は顔を両手で覆いながら震えていた。きっと男だということがばれてしまったと思ったんでしょう。そして私との関係もこれで終わりだと思ったのかもしれない。肩を震わせて泣き出したわ。」
「う~ん、運命の瞬間って感じね。で、どうしたの?『私を騙したわね』とか言って、突き放したりとか?」
「フフッ・・そんなことしないわ。両手で顔を覆いながら泣いている『リリー』の耳許で何度も囁いてあげたの。『リリーのクリちゃんって感じやすいのね。ほら、お姉様の愛撫にこんなに反応しちゃって。お姉様は感じやすいクリちゃんが好きよ。』って。そうしたら、少しずつ泣き声もおさまってきて、それがまた小さな喘ぎ声に変わっていった。『ごめんなさい、お姉様。リリーのクリちゃん大きくてごめんなさい。』って言いながら、また快感に身を委ねていった。私は、『大丈夫よ、謝ることないの。お姉様は、リリーの大きくて敏感なクリが好きよ』って言いながら愛撫を続けてあげた。それからすぐだったわ。『リリー』がイったのは。私の右手は『リリー』のクリから出た白い粘液で覆われていた。
その後、私たちは抱き合ったままお互いの身体を優しく撫でていた。『リリー』は私の胸に顔を埋めながら何度も『ごめんなさい、お姉様』と言いながらね。私は『リリー』の背中を撫でながら、『大丈夫。謝ることなんかないの。』って囁いてあげたわ。」
「う~ん、何かちょっとドラマチックではあるけど、その後はどうなったの?」
「うん?その後って?」
「だから・・お互いの正体を言って、ジ・エンドみたいな・・・。」
「ううん、そんなことはしないわ。私は『リリー』の正体のことなんて言わなかったし、『リリー』も何も言わなかった。」
「へ~、じゃ、『リリー』はもしかしたら、自分の正体はバレてないって思っていたのかしら?」
「う~ん、それはどうかしらね。そのことを口に出して、確かめるのが怖かったってことかもしれないわ。ただ、『リリー』と『ラベンダー』の関係はもう終わりだとは思ったかもしれないわね。」

「ふ~ん、何か不思議な経験よね。有希江の話聞いてたら、私も『リリー』と経験したくなっちゃったわ。」
「フフフ・・・それは残念ね。だってその日が『リリー』と会った最後の日だもの。つまり『リリー』とはその日でお別れ。」
「ああ、そうかぁ・・悪戯は6か月間だったって言ってたものね。そのレズプレイの日が6か月目ってことだったのね。」
「うん、そう。そういうこと。」
「でも、よくそれで納得したわね。だって、有希江と一緒に暮らすことを思って、仕事も辞めて、手術まで受けて、がんばってきたんでしょう?それがたった一回ベッドを共にしただけで満足して別れるなんてよくできたわね。」
「う~ん、でも仕方ないわ。私は『リリー』とのセックスでは満足できないもの。やっぱりどうしても男が欲しい。だから、『リリー』とは別れるしかないわ。」
「無責任ね~有希江も・・・。自分のS心満たすためだけに、男を弄んで、その運命も変えちゃって。本当にいい死に方できないわよ、フフフ・・・」
「フフフ・・・でもね、これでも『リリー』の最後の望みは叶えてあげたのよ。」
「ん?何?最後の望みって?」
「別れても私のことを忘れないように、思い出になるような物が欲しい、って言うのよ。
だから、その望みは叶えてあげたの。」
「へ~、何をあげたの?」
「タトゥー」
「え?」
「タトゥーを入れてあげたの。ラベンダーとリリーの花が絡み合ったデザインのタトゥーを『リリー』の右のお尻に入れてあげたのよ。」
「え?本物?フェイクではなくて?」
「ええ、本物よ もちろん。だって一生消えない方が心に残るでしょ。フフフ・・・」
「最後の最後にそんな残酷な贈り物をするなんて、やっぱり有希江は地獄行きだわ・・・。」

 〔続く〕

『再会』 その3

 ちょうどその時、ドアフォンが鳴った。ピザのデリバリーが到着した。
 キッチンでワインと食器の準備をしていた有希江は、大きな声を上げた。
「沙也香! 代わりに出て、おばさま、手が離せないの。お願いっ!」
 廊下奥のドアが静かに開き、ツインテールの沙也香が姿を現した。
「はい、おばさま、沙也香が出ます。」
 沙也香なりの精一杯の声だったのかもしれないが、キッチンにやっと届く程度の声量だった。
 よほど引っ込み思案なのか、今朝顔を合わせてから一度も大きな声を出す沙也香を見ていない。その様子を見ていると、確かに可愛いが、大胆なユニホームを着て受付をこなすことができるだろうかと、慶子は若干の不安を覚えた。
 
 ピザのケースを両手でかざしながら、沙也香がリビングに入ってきた。
デニムのマイクロミニとピンクのチューブトップというカジュアルなスタイルに変わっていた。マイクロミニはほとんどショーツのアンダーラインと同じくらいの長さしかない。
しかもチューブトップも幅が極端に狭い。形のいい臍をしっかりと露出するだけでなく、胸元にはくっきりとした深い谷間が見て取れる。Dカップ位かと思っていたが、もしかしたらEかFくらいあるのかもしれない。慶子の目は沙也香の豊かな胸に釘付けになっていた。
 それにしても、こんな露出度の高い服を着て人前に出るなんて、この子はシャイなのかそれとも大胆なのか、果たしてどちらなのか。慶子はそんなことを考えながら沙也香のスカートから伸びる美しく長い脚を見つめていた。身長は160センチほどで、慶子の165センチより低いが、脚の長さは沙也香の方が確実に長いだろうということが判る。男性クライアントたちの好みを言えば、もう少し肉付きのある方がいいのかもしれないが、モデル体型として見れば間違いなく一級の美脚である。
「沙也香ちゃん、本当に綺麗な脚してるわね。女の私からみても、ほれぼれしちゃうわ。それに、胸も形良さそうだし。ねえ、何カップ?」
 慶子の不意の言葉に、沙也香は思わずハッとして、スカートの裾と胸元に手を添えた。 そして、真っ赤になって俯きながら、
「あ、あの・・・ディ、Dです・・・」
とだけ、蚊の鳴くような小さな声で言った。

「フフフ・・また、嘘言って・・・本当はEでしょ? 恥ずかしがらなくてもいいのよ。」
 ワインクーラーを抱えてリビングに戻っていた有希江が口を開いた。
「ご、ごめんなさい・・本当は・・Eです。」
 沙也香の声はより一層小さくなった。
 慶子はその様子に少々気の毒になり、場の雰囲気を変えるために軽口を叩いてみた。
「ねえ、沙也香ちゃんみたいにスタイルのいい娘がそんな大胆な服で外歩いてると、男の人たちの視線が熱いでしょ? そんな時ってどんな感じ? 女に生まれて良かった~って感じ?」
「え? あ、あの・・・は、はずか・・・」
 沙也香はそこまで言うと、ピザを皿に取り分けていた有希江に視線を送った。
 有希江はその視線に微かに首を振って応じた。
「あ、あの・・・とっても・・・気持ち・・いいです。あそこが・・・ジュンってしちゃうくらい・・。だから、社長さんの会社で、エッチな制服着せてもらうの・・・楽しみ・なんです。」
 沙也香はそう言うと、もう一度有希江の表情を見た。有希江は今度は視線を合わさずに、ニコリと微笑むと、数回小さく頷いた。
「まあ、大胆ねぇ・・・これなら私の会社の受付大丈夫だわ。でもあんまり感じすぎないでね。仕事にならないから。フフフ・・・」
 慶子が冗談交じりに軽口を叩くと、有希江も呼応するように言った。
「本当にね、私たちの頃はこんな恥ずかしい格好で外歩いたら、エロ親父から「いくら?」とか聞かれたものよね。でも、今の娘は自分からこういう格好したがるんだから、時代は変わったわ。フフフ・・・」
 沙也香はそんな有希江に何か言いたげな視線を送ったが、逆に視線を返されると黙って下を俯いた。
  

「まあ、沙也香ちゃんって小食なのね?ピザ一切れも食べきれないの?」
 沙也香の皿にピザが残っているのを見て、慶子が言った。
「あ、あの、さっきお菓子食べちゃって・・・それで食欲がなくて・・・」
「もう~、またなの? この前も注意したでしょ?お菓子は食べ過ぎちゃダメだって。」
「ご、ごめんなさい・・おばさま。」
「じゃ、いいわ。またお部屋に戻ってなさい。おばさまたちは、まだ大事なお話があるからね。」
「は、はい・・・おばさま。」
 沙也香はゆっくりと立ち上がると、そのまま部屋に戻っていった。
 慶子には沙也香のお腹が微かに鳴っているのが聞こえたような気がしたが、あえて口に出して指摘することはしなかった。
 
 沙也香の姿が見えなくなると、慶子が口を開いた。時折右手のワイングラスを回しながら。
「ねえ、沙也香ちゃんって、ちょっと変わってるわよね?」
「うん?そう?どんな風に?」
「だって、あんな大胆な服とか平気で着たり、デリバリーの人の前にあのまま出たりするのに、私が指摘したりすると、すごく恥ずかしそうに真っ赤になったり、もう大胆なんだか、シャイなんだかわかんないわ。」
「う~ん、まあ、それが若い女の子の複雑さってやつじゃないの?私たちおばさんにはもうなくなった感覚かもね。」
「う~ん、そうかな~、それと、何か有希江のこと怖がってない?もしかして相当厳しく躾てるんじゃない?」
「うん、まあ、厳しいと言えば厳しいかもね。だって姉とは言え、人からの預かり物でしょ。いい加減な育て方はできないわよ。私みたいなしっかりした女性になってもらわないと。」
「アハハ・・・よく言うわ。まあ、反面教師としてなら参考になるかもしれないけどね。」
 二人はワインの酔いが回ってきたのか、より一層饒舌さが増してきた。


「ねえ、じゃあ、またさっきの話の続きして。元旦那への悪戯の話。」
「うん、えっと・・どこまで話したっけ? 彼がフルメイクした写真送ってきたことは言ったっけ?」
「え?何それ?お化粧した写真送ってきたの?」
「うん、そうなの。私がね、先に写真を送ってから、『そろそろリリーさんの顔見たいなぁ。』ってメールしたのよ。そうしたら、しばらく返事がなかったのよね。」
「それはそうよね。だって顔の写真送ったら誰だかわかってしまうものね。」
「うん、彼もそう考えたんでしょうね。いろいろいいわけして写真をなかなか送ってくれないのよ。私ももうこの辺が悪戯も潮時かなとも思ったんだけど、どうせ終わるんでも、もうちょっとやってみようかなってね。で、わざと怒ったふりしてメールを送ったの。『きっと写真も送ってくれないところを見ると、信頼してくれてないってことなのね。私はリリーさんと本当のレズパートナーになれるって思ってたのに。リリーさんがどんな顔していてもかまわない。信頼してくれてるかどうか、それだけが知りたかったの。がっかりです。もうこれっきりにしましょう。』ってね。」
「うん、そうしたら?」
「『ごめんなさい、私が悪かったです。ラベンダーさんのことは本当に信頼しています。だから写真送ります。ブスでも笑わないでください。』ってメールと一緒に写真が添付してあったわ。その写真がね・・・」
 有希江はソファから立ち上がると、マガジンラックの端から小さなファイルを取り出し、一枚の写真をテーブルに置いた。
「な、なにこれ? アハハハハ・・・  ひどいわね。これは・・・」
 それはメイクなどという代物ではなかった。ファンデーションを何重にも厚塗りし、ほとんど真っ白になった顔にこれでもかと思いついた色のシャドウと口紅を塗りまくっている。もう歌舞伎の隈取りよりも厚いメイクだった。
「でしょ?でもね、これだけ厚くすれば誰だか判らないと思ったのね、きっと。」
「う~ん、それにしてもね・・・だって、これじゃ相手に嫌われるから同じじゃないの。ねえ?」
「たぶん、最後の賭だったんじゃない? 写真送らなければ終わりだし、だったら送ってみて、どんな顔していてもかまわないっていう私の言葉に賭けてみようって。だから、『写真送ってくれてありがとう。私にはリリーさんが信頼してくれたことだけで嬉しいの。だから、これからもメール続けましょう。そしていつかもっとお互いが判ったら、本当のレズパートナーとして愉しみましょう』って送ったの。そうしたら、すぐに返事が来たわ。たぶん、とっても嬉しかったんだと思うわ。『許してくれてありがとうございます。もうこれからはラベンダー様の信頼を裏切るようなことはしません。リリーはラベンダー様の言うことには何でも従います。だからリリーのこと見捨てないでください。』って書いてあったわ。」
「あら~、もう完全に捨てられる直前の女のセリフね。それがあの自信に溢れていた坂下部長の言葉なの?何か信じられないなぁ。会社の子たちも、もしそれを知ったら驚くわよ。相当きつく叱られてた子もいるからね。アハハ」
「そうね、だいぶ厳しい上司だったもんね、会社では。でも私の魅力に嵌ったのが運の尽きってことかな?アハハ・・」
「はいはい、有希江様はお美しくて、魅力的でいらっしゃいますからね。」
「うん、判ればよろしい フフフ・・」

「で、その後はどうなったの?」
「私の言うことには何でも従うって言うんだから、それを利用しない手はないでしょ?『じゃ、リリーさん、私好みの女の子になること、誓える?』ってメール送ったわ。そうしたら『誓います。何でも命令してください。リリーはラベンダー様のものです』って返ってきた。もう、後は流れるように進んでいった。私は妹みたいなパートナーが欲しい、だから私のことは『お姉様』と呼びなさい、私は『リリー』と呼び捨てにするからね、とか。『リリー』のメイクは変だから、お姉様の言うとおり直しなさい、とか。それはそれは素直に従って来たわ。メイクだっていつの間にか、このレベルまで来たんだから。」
 有希江は再びファイルを取り出すと、先ほどとは別の一枚の写真を取り出し、その横に並べるように置いた。
「ええ?これ、本物?修正とかしてないの? へ~、これなら十分女性として通用するじゃない。美人って程じゃないけど、そこそこ魅力的じゃない。」
「でしょ?彼の面影も少しは残っているけど、レディス服を着ていれば、まず男と判ることはないレベルでしょ?」
「うん、確かに。ねえこの「オバケ」写真から、こっちの写真まではどの位の時間がかかったの?」
「う~ん、ちょうどひと月くらいかな。たぶん元々女性的な顔してたんだよね。だから、ちょっとメイクのコツ掴むと、どんどん綺麗になっていく感じだったなぁ。それにね、毎回毎回励ましてあげたからね。『リリーはどんどん綺麗になっていくのね。お姉様はリリーの成長ぶりが嬉しいわ。もっと綺麗になったリリーとキスしたり、ハグしたりしたいわ。』とかね。そうしたら必ず返事があって、『リリーもお姉様に早く抱きしめて欲しい。キスもたくさんして欲しい。リリーをお姉様の可愛い妹にして』なんて書いてくるのよ。なんか、一日ずつ心まで女性化していってるのがわかる感じだったわ。」
「キャー可愛い。それメールじゃなくて、目の前で実際に言わせたくなっちゃうわね。フフフ・・。でもそんな風になるなんて、元々心も女性的だったのかもしれないわね。」
「うん、そうね、もしかしたらね。」
「うん?この写真の頃で何か月目くらい?」
「う~ん、どの位だろ、そうね・・・4か月位かしら。」
「ふ~ん、じゃ、まだ2か月もあるのね、悪戯の期間が・・何か楽しみ~」
「何よ、慶子すっかり楽しんじゃってるじゃない。もうワインも開いちゃってるし・・ねえ、もう一本開ける?」
「うん、開ける~ ヘヘヘ」
「何か酒癖悪そうだな~ 大丈夫かな~ ハハハ」

 有希江は新たなワインボトルを開けると、慶子のグラスに注ぎ、次に自分のわずかにワインが残ったグラスにもつぎ足した。
「メイクが終わったら、今度は服装だったわ。ランジェリーも靴もアウターもすべて指示してあげた。私の好みの女の子になりたいなら、ちゃんと言われたものを着なさいってね。それ以外を着たら、もうお姉様のリリーじゃないからって。そうそう、途中で一回おもしろい話があったのよ。私が指示したランジェリーはどこで売ってるのって尋ねてきたから、どこどこのランジェリーショップよって返したら、ランジェリーショップは恥ずかしくて入れないって返事があったのよ。男の気持ちで返信しちゃったのよね、きっと。だから、『え?どうして?女の子がランジェリーショップ入るの当たり前でしょ?もしかしてリリーって女の子じゃないの?』ってね。」
「うゎっ~意地悪~。で、何て言って返してきた?」
「それがね、笑っちゃうんだけど、『リリーは貧乳だから、サイズとか計られるのが恥ずかしいんです。だからあんな返信しちゃったの。ごめんなさい。お姉様』って返してきたのよ。」
「へ~うまいこと言うじゃない。これじゃ、ドSの有希江もそれ以上意地悪言えないわね。ハハハ・・」
「フフフ・・・そうはいかないわ。この言葉で閃いたのよ。これはおもしろくなりそうだな~ってね。」
「へ~どういうこと?」
「返信メールにね『ええ~?がっかりだわ。お姉様は、オッパイの大きな女の子が好きよ。ペチャパイなんて幻滅。ペチャパイの子は男の子みたいでゾッとしちゃうのよ。そうか、じゃ、リリーとはレズパートナーにはなれないわね。このままメールフレンドでいましょ。』って書いて送ったの。そうしたらね、もうびっくりするような返事が返ってきたのよ。」
「ええ?どんな?」
「近いうちに豊胸手術する予定なんです、だからお姉様をがっかりさせることはありませんってね。」
「ええ~?うそ~? どこまで追い込まれちゃうの?彼?」
「うん、確かに普通じゃなかったかな。仕事は失敗続きだし、ダイエットでやせ細って元気ないし、髪の毛も爪も伸ばしていて、誰にも相手にされなくなっているから、きっと私が最後の頼りだったんでしょ?だから、豊胸手術なんて出任せ言ってでもなんとか私の関心をつなぎ止めたいと思ったんだわ。」
「う~ん、そこまで追い込まれちゃったのね。で、どうしたの? 『豊胸手術なんて出任せ言ってごめんなさい』とでも言わせて謝らせた?」
「ううん、謝らせたりなんかしないわ。」
「へ~、じゃ謝らなくても許してあげたんだ? 珍しいじゃない、ドSの有希江にしては。フフフ・・・」
「アハハ・・・許すわけないでしょ?」
「ええ?どういうこと?え?まさか本当に・・・?」
「フフフ・・ええ、そのまさかよ。本当に手術させちゃったの。」
「うそ~、ちょ、ちょっと・・それって・・・」
「え?何?犯罪だとか言いたいわけ?大丈夫、全部自分の意志で、しっかりとした病院で手術してるんだから。」
「どうやってそんなことができたの?」
「うん?まずね、
彼が豊胸手術って言ってきたから、どこの病院で?って聞いたのよ。そうしたら、洋順病院だって言うじゃない。きっと私が以前ヒアルロン酸注射打つ時に行ったのを覚えていたのね。でも、洋順病院の院長と私が昔とても『深い』仲だったってことを彼は知らなかったのよね。で、洋順病院なら安心よ、信頼して行きなさい、って返事したの。」
「でも、どうして?普通、手術する前に説明受けたら思いとどまるでしょ?何で受けちゃったの?」
「アハハ、それは簡単。院長に声かけておいたから。豊胸手術で入れたパックはいつでも取り外し可能だから、気楽に考えて大丈夫だと説明して欲しいって。もちろん、院長は最初拒否したんだけど、私、院長の秘密知ってるのよね、実は・・・・・フフフ」
「うわ~、どこまでも怖い人ね、有希江って。」
「確かに、自分でもそう思うわ フフフ・・・。」

 〔続く〕


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「再会」 その2

 有希江は携帯電話を持つと、沙也香のいる部屋のドアをノックした。
 かちゃりとドアの開く音が聞こえ、沙也香のセミロングヘヤが、開いたドアの隙間から覗いた。
「まあ~、また一人でファッションショーしてたの? 沙也香ちゃん、ホントにお洋服好きよね。う~ん、でもそのお化粧、ちょっとそのお洋服には合わないかも。もうちょっと濃くしたら? その方がセクシーだと思うけど。」
 有希江はそう言うと、ドア付近に黙って立ちすくんでいる沙也香の背中を押し、リビングへと招き入れた。
 黒サテン地のミニドレスを身に纏った沙也香は先ほどの少女らしい雰囲気とは変わって、大人の色気を漂わせていた。メイクもナチュラルメイクからかなり濃いものに変わっていた。有希江はもう少し濃い方がと言うが、慶子にはすでに十分すぎる濃さに思える。むしろこれ以上の濃くすると、ある意味下品で卑猥になるような気がする。

「まあ、綺麗ね、沙也香ちゃん。会社でも時々そういう姿見せてもらおうかしら。フフフ」
 沙也香は、そんな慶子の言葉に顔を赤らめ、ただ黙って下を俯いた。
「もう~褒められたらお礼を言うんでしょ?何度言っても覚えないんだから。」
 有希江は、沙也香のドレスから大きく露出した背中を軽く叩いた。
「あ、ありがとうございます・・・社長さん。沙也香も時々会社でいろいろなお洋服着てみたいです。」
「うん、そうしてもらうわ。他の社員達もきっと可愛い沙也香ちゃんを着せ替え人形みたいにしちゃうかもよ。覚悟しておいた方がいいわよ。フフフ・・」

「そうそう、あのね、ピザを注文するんだけど、沙也香ちゃん、何かリクエストある?」
 有希江の言葉に沙也香は小さく首を振った。
「いえ、おばさま、お任せします。」
「あ、そう・・じゃ、こっちで決めちゃうわね。じゃ、いいわ。またお部屋でファッションショーの続きでもしていなさい。」
 有希江は慶子にメニューを手渡すと、沙也香の背中を目で追った。その目には満足そうな笑みが浮かんでいた。
 
 ピザの注文を終えると、有希江と慶子の「おしゃべり」が再開した。
「沙也香ちゃんって、有希江が預かってるの? 会社にはここから通うってこと?」
「うん、そのつもりよ。もう結構長く預かってるの。だから、洋服も下着も身の回りの物も部屋中一杯よ。ちょっとは片付けなさいって言うんだけど、それもなんか苦手なのよね。やっぱり頭の悪い娘って、そういうものなのかしらね。」
「姪御さんって言ってたけど、誰の娘さん?」
「うん?ああ、姉のね。姉夫婦が転勤で海外に行っているからその間だけ親代わりってことでね。」
「へ~、有希江に大事な娘さんを預けるなんて、相当勇気あるな~」
「ちょっと、それどういう意味よっ。」
「冗談だってば。ねえねえ、それはそうと、さっきの話の続き、聞かせてよ。」
「え?何だっけ?どこまで話したっけ?」
「もう~チャットの相手が元旦那だと判ってもやめなかったのは、ある悪戯を思いついたからだって言ったでしょ?ねえ、どんな悪戯だったの?」
「ああ、それね・・・フフフ・・・あのね、彼はハンドルネーム『リリー』という女性を演じているわけじゃない? だったら、もっと心ゆくまで演じさせてあげようかな~ってね。」
「うん?どういうこと?よくわからないわ。」
「う~ん、だからぁ・・・もっと『リリー』さんらしくしてあげようってこと。身も心もね。フフフ・・・」
「う~ん、なんかわかったようなわからないような・・・」

「フフフ・・・まあ、いいから聞きなさい。まず、私が彼にチャットで話したのはね、離婚の原因について。それまでもチャットでは何度も離婚の原因を尋ねてきたわ。たぶんそれ聞いて、原因を治せば復縁できるとでも思ったんじゃないの?もうそんなこと関係ないのにね?」
「それはそうよね、女は一度別れたら復縁なんて普通は考えないものね。まあ、彼はそれだけ有希江に未練があったってことね。 で?離婚の原因は何だって言ってやったの?」
「あのね・・レズだって・・・」
「ん?何?レズ?レズって、あのレズ?」
「うん、あのレズ。私がレズだからだって言ったのよ。もっと詳しく言うとね、結婚してしばらくして、自分がレズだと気づいた。思い悩んだけど、男の人を愛せない以上、離婚した方がいいと思って彼に別れを告げたって。」
「うんうん、で?なんて言ってきた?」
「それがね・・・フフフ・・『私も実はレズなんです』だって。アハハ・・笑っちゃうでしょう?もうそうまでして寄りを戻したいの?って思ったらなんか哀れになっちゃって。」
「うん?哀れになったから、それ以上はやめた?」
「ううん、やめない。アハハ・・・」
「もう~、ホント、有希江ってドSなんだからな~ で、その後は?」
「『ええ?リリーさんもレズだったなんて、うれいしいな~。これからも仲良くしましょう』って言ってやったら、『はい、こちらこそ。ラベンダーさんとレズフレンドになりたいです。』だって。アハハハ・・・」
「アハハハ・・、そんなこと言って、親しくなって会おうなんてことになったらどうする気だったのかしらね?」
「う~ん、そんなこと頭回ってなかったんじゃない?イッパイイッパイで。で、その後、しばらくチャットとメールの交換が続いたんだけど、ある日ちょっと、発展させたメールを送ってみたの。『こんなに親しくなったんだから、リリーさんのこと、もっと知りたいし、私のことももっともっと知ってもらいたいな。で、お互いの気持ちが合ったらレズフレンドじゃなくて、本当のレズパートナーになりませんか?』ってね。」
「な~んだ、それじゃ終わっちゃうじゃない。だって、実際に会えるわけないんだから、彼の方だってあきらめちゃったでしょ。もう、もうちょっと上手くやれば、もう少し楽しめたのに・・・」
「フフフ・・・そう思うでしょ? 私のそう思ったわ。メールした後失敗したなってね。でもね、びっくりしないでよ。『私も喜んでレズパートナーになりたいです』って書いてきたのよ。」
「え~本当に?何考えてるのかしら。」
「本当なのよ、それが・・・。もう、意味判ってるの?って言いたくなったけど、その代わりに、『うれしいな~、じゃ、私の好みのタイプを言いますね。あのね、私つるつるお肌の女の子が好きなの。むだ毛のある人は嫌い。リリーさんがつるつるお肌の女の子だったらいいけどな~』って返したのよ。」
「うんうん、そしたら?」
「5日後くらいかな?むだ毛のないつるつるの手足の写真送ってきたわ。」
「うそ~、それって誰か女の子の写真じゃないの?」
「ううん、間違いなく彼。だって、見覚えのあるホクロがちゃんと2カ所あったもの。」
「へ~、じゃ自分で処理したんだぁ・・・ハハハ、涙ぐましいわねぇ。で、彼の方は好みのタイプとか言ってきた?」
「うん、言ってきた。最初に言ってきたのがヘアスタイルだったかな。その時の私のヘアスタイルそのままだったわ。写真付きで返してあげたら、『私のタイプです。感激です~』って返してきたわ。当たり前じゃない ねえ? で、今度はこっちからね、『私、眉をきちんと綺麗にしている人が好きなの。たとえば、こんな風に。リリーさんがそうだったらうれしいんだけどな。』って、メイクアップのHPの写真添付してね。そうしたら・・・」
「ええ?眉毛処理した写真送ってきたの?」
「うん、きちんと写真通りの。すごいでしょ?私もびっくりしちゃった。」
「それどうしたんだろう?自分でやったのかしら?それとも美容院とかかな?」
「う~ん、どうだろう、自分では無理じゃない? 女装パーラーとかもあるし、人にやってもらったんじゃないかしらね。」
「うん、で、彼の方からはヘアスタイルの次に何を言ってきたの?」
「体型だったわ。また、私のその時の体型そのままをね。だから、こちらからも体型について返事したの。「私、細くて華奢な女の子が好きなの。もう折れちゃうんじゃないかってくらいの細い手足の子見ると、抱きしめたくなっちゃうの。リリーさんはどうかしら?」「へ~それは大変じゃない。だって、彼、確かに細かったけど、そんなモデルみたいに細くはなかったじゃない? さすがにもう返事がなくなった?」
「ううん、『本当は細くて華奢なんだけど、今ちょっと肥っちゃってダイエット中です。ダイエット終わったらまた写真送ります。』って返ってきたわ。」
「もう~、信じられないわ・・・どこまで従順なの?そこまでして有希江に好かれたいのかしら。こんな悪女なのに。」
「何よっ! 失礼ね。でも、まあ悪女であることは確かだからしょうがないか。アハハ」
「で、本当にダイエットしたのかしら?」
「うん、したみたいよ。それもかなりハードなダイエットね。だって4か月後の彼の姿はもう以前の面影もないくらい細くなっていたもの。本当に手足なんか折れそうなくらいだったわ。」
「ええ?この悪戯って4か月も続いたの?」
「うん?4か月じゃないわよ。このメールとチャットのやり取りは6か月続いたわ。」
「うそ~、信じられない・・ねえ、一体どこまでエスカレートしたのよ?」
「まあ、かなりのところまでね。で、次に言ったのはヘアスタイルのこと。『セミロングかミディくらいの髪の長さがタイプなんだけど、リリーさんはどう?』って書いたのよ。そうしたら『ごめんなさい、実は失恋して髪の毛切ってしまったの。だから、今また伸ばしている最中です。それまではウィッグを被っています。どうか嫌わないでください。』って返事が返ってきた。」
「何それ?失恋なんて、思いつきで言ったんだろうけど、もうメールの内容が女の子のメールみたいじゃない?もしかしたら、心の中まで女性化し始めちゃったとか?」
「あ、うん、私も何かそんな気がしてね、だから次のメールでもっと追い込んでやったの。『そうなんだ・・ちょっとがっかりだなぁ。でも爪は綺麗で長いよね?お願いだから、短いなんて言わないでね?』ってね。」
「うわっ、残酷~、だって男の人に長い爪なんか無理じゃない。」
「で、どうしたと思う?」
「うん?何かまた言い訳してきた?」
「ううん、ちゃんと長い爪で綺麗なフレンチマニキュアした指の写真を送ってきたわ。明らかにつけ爪なんだけど、メールにはね、『よかった~、嫌われなくて済みそう。だってリリーの爪はご覧の通り、長くて綺麗でしょ?』って書いてあったわ。よく言うわよね。慌てて付けてもらったくせに。」
「う~ん、すごすぎる・・・それにしても、髪の毛は伸ばす、爪はつけ爪にフレンチマニキュアでしょ?それに厳しいダイエットなんてしてたら、もう仕事にならないじゃないの・・? あ、そうか・・だから、元気なくなってきてたんだ。」
「フフフ・・多分そうよ。もう仕事なんて手に付かなくなってたんじゃない?」
「何か悲惨すぎるわ。私だったら、もうその位で・・・」
「んん?やめる?」
「う~ん、やめ・・・ないかな? やっぱり。アハハ」
「何よ~、慶子だって十分ドSじゃない? アハハ」
「それはそうよ。厳しい男社会でがんばってるんだもの。ドSくらいにならなくちゃ。」
「ハイハイ・・わかったわかった。 ハハハ・・・」

 〔続く〕

『再会』 その1


「はい、面接は以上です。結果は・・・合格よ、フフフ。 もうすぐにでも会社に来てちょうだい。いつからでもオーケーだからね。」
 上野慶子の言葉に、心配そうに俯いていた少女の顔が綻んだ。
「あ、ありがとうございます。私・・・がんばりますので、どうかよろしくお願いします。」
 少女は消え入りそうな小さな声で謝意を伝えた。
 二人の「面接」のやり取りを少し離れたところかから見ていた望月有希江が微笑みながら声を掛けた。
「よかったわね、沙也香ちゃん。やっと仕事が決まって。おばさんも安心したわ。」
 有希江の声に沙也香は小さく頷きながら笑顔で応えた。

****************************************
 
 上野慶子が、元会社の同僚であった望月有希江から突然電話を受けたのは、3日前のことだった。
 姪の就職をお願いしたいので、面接を兼ねて、自宅に来て欲しいというのである。ついでに、久しぶりにおしゃべりでもしましょうよ、という提案も付け加えての電話だった。
 慶子は今から5年前、ちょうど30歳の時に、それまで勤めていた会社の部下数名を引き連れて広告会社を立ち上げた。
 有希江は慶子と同じ会社の同期でデスクも隣にしていたが、この慶子の独立には参加してはいない。と言うのも、慶子が新会社を設立する2年前に寿退社をし、家庭に収まっていたからである。
 相手は、当時の上司、坂下智則であった。有希江や慶子よりも5歳年上で、当時の役職は部長だった。やり手で、将来重役のポストも約束されていたエリートでもあり、しかも年齢よりかなり若く見える、いわゆるイケメンでもあった。そのことが、当時他に多くの男性からアプローチを受けていた有希江の心を射止めた理由でもあった。
 しかし、同僚から羨望を込めた祝福を受けながらの結婚生活だったが、残念ながら長続きはしなかった。
 有希江の放縦な生き方と智則の生真面目な生き方にずれが生じていったのである。
 元々有希江には家庭に収まる意志はなかった。智則の説得に渋々同意し、一旦は専業主婦に収まりはしたが、持って生まれた社交性と放縦性が日に日に表面化し、外出も頻繁になっていった。外出はやがて、外泊になり、数日家を空けることも増えるようになると、いくら有希江の魅力に負けて結婚したとは言え、智則の怒りも爆発し、ついに別居ということになったのである。
 だが、この別居により有希江の行動が改まったわけではなかった。いやむしろ放縦性に拍車がかかったと言ってもいい。まだ離婚しているわけでもないのに、異性の友人も多くでき、身体の関係を持つことも珍しくはなくなった。もともと夫の智則はどちらか言うと性的には淡泊で、その点も有希江の心が離れていく一因でもあったのである。
 夫以外の男性との激しいセックスが、有希江の淫乱性をより引き出す結果になったとも言える。
 
 一方、夫の智則は自らが言い出した別居ではあったが、すぐに後悔の念に襲われるようになった。
 夜一人になって決まって思い出すのは、有希江の色気のある美貌とセクシーな肢体であり、その思いは日に日に強くなっていった。
 ある夜、智則は家に戻るよう説得するために有希江の元を訪ねたが、話をする機会すら与えられなかった。
 その後も約ひと月間、ほとんど毎日説得を繰り返したが、ストーカー呼ばわりの罵詈雑言を浴びたのを最後に智則の気力も折れた。
 彼が有希江との離婚を決意し、離婚届を提出したのはそれから約一ヶ月後のことだった。
 
離婚後の智則はそれまでと全く正反対の方向に人生のベクトルが向かってしまったようだった。
 慶子が元同僚から聞いた話によると、離婚後の智則はかつてのエリートの面影もなくなり、元気も気力もすっかり失せ、去年ついに会社を辞したらしいということだった。
 現在、慶子の起こした会社で働いている社員は、元々、そのほとんどが智則の部下であったので、彼の離婚後の変貌ぶりを信じられない思いで受け止めていた。
 一方、離婚後の有希江はまさに「水を得た魚」だった。以前からの伝で婦人雑誌のモデルをしたり、好きなファッションデザインを手伝ったり、化粧品のプロデュースをしたりと、忙しい毎日を送るようになった。さらに恋愛も充実し、今は特定の彼氏との深い交際が進行中であった。

 そんな仕事もプライベートも充実している有希江と、会社社長として忙しい日々を送っている慶子の元同僚同士が顔を合わせたのは3年ぶりのことだった。
 姪の就職の依頼という別の目的があったにせよ、気のあった同僚との3年ぶりの「再会」は二人の会話を弾ませるのに十分だった。 

****************************************

「ねえ、有希江、あの娘にはちゃんと話してあるの?うちの会社でやってもらう仕事の内容とか・・・」
 慶子は、有希江と二人きりになると、声を低めて言った。
「フフフ・・・大丈夫よ、ちゃんと話してあるわよ。今の子だもの、そんなのちゃんと割り切ってるわ。」
 有希江は、普通の声で言った。別室にいる沙也香に聞こえることを気にする様子はなかった。
 
 形ばかりの面接が終わると、沙也香は、「用があったらまた呼ぶから奥の部屋で待っていなさい。好きなDVDでも見ながら。」という有希江の言葉に従って、小さく頷くと、「はい、おばさま。」と可愛らしい笑みを浮かべてリビングを後にした。最後に会釈と共に「どうぞ、ごゆっくり。」という挨拶を残して。 


「そう?ならいいんだけど。この前もね、受付として採用した子が制服見て、『これは話が違います』とか言い出して、もう大騒ぎだったのよ。確かに会社の制服としては過激かもしれないけど。 私もちょっと頭に来て、『あなたの能力でこれだけのお給料もらえるなら、このくらいのことして当たり前じゃない?』って言い返してやったわ。そしたら、『じゃ、辞めます。』だって。もうあきれちゃったわ。」
「フフフ・・・でも、あの制服はちょっと過激すぎるんじゃない?レースクィーンじゃあるまいし、胸元もしっかり開いて、しかもタイトの超マイクロミニで、ちょっとでも動いたら下着が見えちゃいそうじゃない?」
「まあね。でもこれも男性クライアント獲得のためだから仕方ないのよ。だから頭なんてよくなくていいから、可愛くて従順で、スタイルも良くて、男の視線を楽しんじゃえるような娘がいないかな~って思ってたところなのよ。」
「フフフ・・・その話は聞いていたわ。だから、姪を紹介したのよ。あの娘、頭は悪いけど、素直で可愛くて、それにスタイルだって良かったでしょ?だから慶子の要望にはピッタリよ。」
「うん、それは認めるわ。胸とかもDくらいあるでしょ?脚も細くて綺麗だったし、あれなら派手な制服も着こなせるわ、きっと。」
「でしょ?それに本当はこっちが感謝してるのよ。実はあの娘、本当に頭悪くてね、普通の就職なんて考えられなかったのよ。ホント感謝してるわ。」
「いいのよ、そんなこと。だいたいうちの受付に頭なんていらないわ。何でも『はい、はい』って言って従ってくれるおバカな娘のほうがずっと助かるわ。」
「よかった。じゃ、ホントにこれからよろしくお願いね。気に入らないことがあったらどんどん叱ってやってね。言わないとわからない娘だから。」
「うん、わかったわ。そうさせてもらう。」


「ねえ、ところで、電話で話した彼とはうまくいってるの?」
 慶子はテーブルに置かれた紅茶を一口啜ると、微かに笑みを浮かべながら聞いた。
「ん?あ、うん。うまくいってるわ。もうつき合ってかなりになるけど、まだ飽きないもの。フフフ・・」
「もう、有希江っていつもそうなのね? 飽きたら、また男変えるつもり?結婚とか考えてないの?」
「アハハ、それはそうよ。飽きたら男なんて変えなくちゃ。でも結婚を考えないわけでもないわよ。もしかしたら、今の彼と明日にも電撃婚約なんてことにもなるかもしれないわ。」
「もう、ホント、気まぐれなんだから・・・。でもそれが有希江の良いところでもあるけどね。有希江って離婚してからますますいい女になっていく感じよね。なんか、うらやましいわ。」
「何言ってるのよ?慶子だって、どんどん恋愛すればいいじゃない。男なんてとっかえひっかえでいいんだから。第一、慶子、独身でしょ?だったらもっと自由に恋愛しちゃいなさいよ。」
「う~ん、そうなんだけどね、仕事も忙しいし、なかなかそうもいかないのよ。それに有希江みたいに切り替え早くないし・・・。」
「ふ~ん、そうか~、でももっと気楽に生きる方が充実してくると思うけどな~」

「あ、そうそう、『切り替え早い』って言えばさぁ、有希江の元旦那さん、坂下部長が去年会社辞めたの知ってる?有希江との離婚後、ずいぶん落ち込んじゃって、それこそ切り替えができなくて、仕事もミスが目立つようになって、上司からも見放されるようになったみたい。信じられる?あのエリート部長がよ。あ、ごめん、有希江の元旦那だったわよね。」
「フフフ・・・いいわよ、そんな事、気にしなくて。 うん、知ってるわよ。会社辞めたことも、全部。」
「やっぱり、有希江でもちょっとは罪の意識感じたりしちゃう?」
「ううん 全然。 フフフ・・・」
「ホント、冷たいわね~、有希江ってもしかして、ドS?」
「アハハ・・どっちかって言ったらね、ドSかもね。男苛めるの好きだし。でも、離婚なんてよくあることだもの。仕方ないじゃない。いちいち気にしてても始まらないわ。」
「まあ、それはそうだけどね・・・。」


 有希江は小さめのクッキーを口に入れ、ティーカップに口を付けると、一口紅茶を啜った。そして、わずかな間を置いてから、思わせぶりに口を開いた。
「それにね・・・」
「うん?それに、何?」
「うん、実は、元旦那とはその後連絡をとっていたというか、何というか・・・」
「え?どういうこと? 坂下部長と離婚後も連絡をとっていたってこと?へえ、それは意外ね。有希江がそんなことする人だとは思わなかったわ。もっときっぱりとクールなんだとばかり思ってたのに。」
「ううん、違うのよ。普通に連絡を取っていたわけじゃないの。私はあんな男、もう連絡なんて取る気もなかったわ。でも彼の方から取ってきたのよ。私のブログにね。しかも『リリー』なんてハンドルネームで女性のふりしてね。」
「へ~、何でそんなことしたのかしら?」
「私に未練があって何とかやり直したいと思ったんでしょ、きっと。だから何かきっかけを作るためにブログにコメント寄せたのよ。で、普通に自分の名前でメールしたり、コメントしたりしても無視されると思って、ハンドルネームまで使って。」
「なるほどね~、でも何で、『リリー』なんだろうね。それに何で女性のふりしなくちゃいけないの?」
「アハハ・・それがあいつの単純なところなのよ。私が花の『ラベンダー』をハンドルネームにしているから、同じ花の『リリー』がいいと思ったんでしょ、きっと。それと女性のふりをしたのは、男性だと警戒されて無視されると思ったんでしょ、たぶん。」
「フフフ・・なるほどね。確かに単純だわ。でも、それが彼からのものだってどうして判ったの?」
「ううん、最初は判らなかったわ。当たり障りのないコメントのやり取りだったからね。そのうち、ブログのコメントのやり取りだけでは物足りなくなったんだろうね、ツーショットチャットに誘ってくるようになったのよ。まあ私も暇だったこともあって、誘いに乗ったわけ。で、何回かチャットしていると、何となく変だなぁって思ってきたのよ。例えば、顔文字の使い方とか、語尾の言い回しとか、それに何より、趣味が彼と同じだったりね。」
「でもそれだけでは判らないでしょ?」
「うん、判らないわ。だからちょっとカマをかけてみたの。ファッションとかメイクとかブランドとかの話題をね。知ってると思うけど、彼ってそういうことは全く無頓着だったでしょ?だから何て答えるかな~てね。そうしたら案の定、全く答えられないの。たまに無理して知ったかぶりでブランド名言い出すから、つっこんで聞くと、また止まっちゃうの。もう、これは女ではないことは確かよね。」
「うん、だとしても女性になりすましてメールしたりチャットしたりする男は結構いるでしょ?」
「うん、それは私も知ってるわ。だからね、今度は彼かどうか確かめようと、決め手の話題を振ってみたわけ。 私ね、結婚していた頃、彼と映画の話題になって、記憶違いで嘘を教えちゃったことがあるのよ。出演者と原作者の名前ね。で、何気なく、その映画の話題を振ってみたら、その嘘の情報のまま答えるんだもの。これは確実でしょ。」
「うんうん、で、どうしたの? 怒って切ってやった?」
「いいえ」
「うん?どうして切らなかったの?騙されてたのが判ったのに?」
「うん。切らずに続けたわ。騙されているのも判ったままで。」
「ええ?どういうことよ?もしかして、有希江、彼に未練があったとか?」
「アハハ・・・そんなわけないでしょ? 私がチャットを続けたのはちょっとした悪戯を思いついたからよ。」
「悪戯?どんな?」
「フフフ・・・それはね・・・ねえ、ちょっと話が長くなりそうだから、ピザでも取らない?今日はゆっくりできるでしょ?久しぶりの再会なんだから、おしゃべりして盛り上がろうよ。」
「フフフ・・いいわね。何かおもしろそうな話だし・・盛り上がりましょうか。ワインでも飲んで。」


 〔続く〕


オリジナル小説 『再会』 連載を始めます。

オリジナル小説 『再会』 の連載を始めます。

前半は対話形式中心のワンシチュエーションで進みますが、中盤以降はいくつかの場面展開をしていきます。

例によって、すでに最後まで書き上げてありますので、途中での話の展開は変えようがありませんので、残念なが

らリクエストには答えられませんが、この小説とは別に様々なアイディアは大歓迎です。

小説自体の長さは、前回の「私立明倫学園高校」の4分の1程度で、中盤以降の展開は早めです。

おそらく推敲を終えた段階で掲載を進めていきますので、掲載回数は8回くらいになると思います。

では、主人公の追い込まれ感と、その妻のビッチ(bitch)ぶりを是非ともお楽しみください。


サテンドール

私立明倫学園でのキャプション画像について

「私立明倫学園高校」についてのコメント、また拍手等をいただきました。

ここに合わせて感謝の言葉を贈らせて頂きます。ありがとうございました。

さて、いただいた「拍手コメント」の中で、サテンが「私立明倫学園高校」を書くに始めるに当たって、インスパイアされたキャプション画像を紹介して欲しい旨の要望がありましたので、ご紹介します。

残念ながら、このキャプションの掲載されていたサイトは現在は閉鎖されています。
すごいいいサイトで、サテンも頻繁に訪れていたのですが、寂しい限りです。復活してくれないかな~^^ 
ちなみに ”XAXASISSY'S WEBLOG ”という名称でした。たぶんスペイン系かラテンアメリカ系の方が運営していたのだと思うのです(月名などがスペイン語でしたので)が、どこかで復活しているという情報を知っている方いましたら教えてくださいね。

キャプション画像自体はどなたか別の方のサイトから拾ったのでしょうが、その元もわからないのでお知らせすることができません。

さて、前置きはこのくらいにして、紹介です。


zzzzsocialmobility.jpg

比較的文章も短いし、英語自体も簡単なので、このまま紹介だけにしようとも思ったのですが、一応下にサテンの和訳をつけてておきます。下手な和訳は邪魔だぞ~という方は、どうぞ無視してください。

〔和訳〕

ブレイク先生のリフォームスクールが新入生たちに最初に行うことの一つは、男性として資格のある生徒(典型として強く、攻撃的で、大きい)と、男性である資格のない生徒(典型として弱く、服従的で、小さい)とを分離することである。
数か月間、生徒達は決して顔を合わせることはない。
彼らは、分離された建物で生活し、異なった活動をし、(大いに)異なった授業を受ける。最終的には生徒達は一緒になるわけだが、本当の男性たちは相応の休息が与えられる一方で、従順なSISSYたちは新たに身に着けた技能を見てもらわなければならない。
これ以後は、彼らは共に学ぶこととなる。
一方のグループは実業界や商業界での経歴によって自分たちの地位が高まることを知り、もう一方のグループはメイドや秘書としての新たな経歴によって自らの地位が低くなることを知るのである。

 以上です。

 
 いかがですか?結構妄想膨らむ話でしょ?
 というわけで、これにインスパイアされて「私立明倫学園高校」を書き出したわけですが、今思い直してみると、短編にしてストレートな話にしてしまった方が良かったかと反省しきりです。

 では、今日はこの辺で。


私立明倫学園高校 あとがき

「私立明倫学園高校」を最後までお読みいただきありがとうございました。

最初は、たった一枚のキャプション写真からインスパイアされて書き出した小説だったのですが、思いの外、長編になってしまいました。
最初からおつき合い頂いた方は、読み疲れてしまったのではないかとお察しいたします。

自分としてはそれなりのストーリー展開ができたとは思っていたのですが、残念ながら皆さんのテイストとはあまり合わなかったようですね。
終盤に向かうにつれ、拍手の数も減っていき、ブログランキングも急降下していきましたので、そのへんは実感していたのですが、なにぶん途中でストーリー展開を変えるような器用さを持ち合わせていないもので、今回は最後まで押し切らせて頂きました(汗)

次回どのような作品を発表できるかわかりませんが、皆さんからの共感を頂けるようなものになればと思っています。
今後ともおつき合いのほど、よろしくお願いします。

 サテンドール 

私立明倫学園高校 最終章-3 〔完結〕

 暗転したモニターの横に立つ兵藤良介が、微笑みを浮かべながら口を開いた。
「みなさん、いかがでしたでしょうか? 性転換した息子、いや娘の実の父親によるロストバージンショーは? ご堪能いただけたでしょうか?」
 一瞬の沈黙の後、一人の中年男性が感想の口火を切った。
「ああ。確かに面白いショーだったよ。ただ、明菜があまりにも美しすぎて元男だったと思えなかったのが玉に瑕かな?」
「う~ん、なるほど・・・しかし、それは難しい問題ですね。美しすぎるとリアリティがなくなるというのは・・・。わかりました。次回の参考にさせて頂きます。」
 別の男から声が掛かった。
「いや、私は十分堪能させてもらったよ。あの明菜って子は本当にすばらしい。今度プライベートでビデオ撮影させてもらえんかね? 金なら糸目はつけないよ。ハハハ」
「ご堪能いただけてよかったです。まあ、プライベートでの件は後日またお話させていただきます。決してご期待を裏切ることはございませんので。」
 ホストを横に侍らした女性客がたばこを片手に口を開いた。
「それにしても、最初、あの父親なかなか手を出さなかったでしょ。このまま何も起きないじゃないかって、私、気が気じゃなかったわ。」
「だが、息子の、いや娘のバージンを奪ってからは人が変わったように、荒々しくなったじゃないか。」
「ああ、確かに。二回戦でのイラマチオは壮絶だったな。明菜の喉奥までつっこんで、明菜も今にも戻しそうだったではないか。」
「そうそう、それに三回戦での顔面シャワーもすごかったな。さすがにあの年齢ではザーメンの量はたいしたことはなかったが、明菜の瞼を開かせて、わざとそこに射精するとはかなりの鬼畜な男だよ。まあ、あまり人のことは言えんがね。ハハハ・・・」
「でもそんなひどい目にあいながらも、明菜はまったく抵抗するそぶりも見せなかったわ。しかも、口元にはいつも笑みを浮かべて。いくら諭されているとは言っても、健気なものだわ。」
「おや、珍しい、Sで有名な女社長さんが、同情ですか?」
「フフフ・・違うわよ。健気だからよけい苛めたくなっちゃうってことじゃない。でしょ?」

「ところで、明菜はほとんどずっと涙を流していたね? あれはやはり君の言ったように、その・・・『明彦』とやらの意識が常にあったと言うことかね?」
 一人の落ちついた初老の男が、他の客の話が途切れたのを見計らって、良介に問いかけた。
「はい、おっしゃる通りです。常に『明彦』としての意識があったということです。涙はそれを物語っています。」
「と言うことは、自分が今父親に犯されているんだと気づいているということだね?」
「ええ、そういうことです。父親のペニスに貫かれる瞬間も、その熱いザーメンを受け止めた瞬間も、しっかりと意識の中にあるはずです。」
「う~む、何とも壮絶な近親相姦図だなぁ。」
 初老男の言葉を受けて、別の男が口を挟んだ。
「いや、壮絶なんてものではないですね。考えてみてください。『明彦』は父親に犯されていることがわかっているだけでなく、表面上はそれを喜んで受け入れている自分自身をも意識しているわけでしょ?しかもそれに抗うこともできない。これはもう壮絶というよりはあまりに残酷なことですよ。」
「うむ、確かに君の言う通りだ。だが、悪いことに我々はその残酷極まりないシーンを目にするのがたまらなく好きときている。性癖ってやつはどうにもならんもんだ。ねえ、皆さん?ハハハ・・・」
 初老男の言葉に客たちは笑い声を出すと、お互いを見て頷きあった。

「そうだ、今思い出したが、君は先ほどの説明で、明菜のロストバージンが終わった後で、父親に明菜の正体を知らせるというようなことを言っていたと思うが・・・。」
「そうそう、私も思い出したわ。ねえ、どうするの?直接言ってしまうの? 明菜は実は『明彦』だと。」
「うわぁ、それは残酷だわ。でも、父親がどんな顔するか見物だけど。」
「いや、わしはそういうやり方より、明菜に告白させる方が面白いと思うがなぁ。」
「いやいや、いっそのこと、これまでの映像記録を父親に見せるというのはどうでしょう?」

「ちょ、ちょっと・・・皆さん、お待ちください。」
 会場に思い思いの意見が飛び交う中、良介が口を挟んだ。
「皆さん、それぞれにお考えもおありでしょうが、ここはこちらにお任せいただけないでしょうか? いや、実は私もどのような展開になるかわかっていないのです。ここから先の展開は妻にすべて任せようと思っています。皆さんのご期待に応えられるかどうかはわかりませんけど、妻もそれなりに考えていると思いますので。」
 会場にいくぶん不満げな空気が流れたが、最終的には先ほどの初老男の「まあ、ここは若いオーナーに任せようじゃないか。」という言葉に皆同意した。


 それから約30分後、良介の呼びかけに客たちは皆席に戻り、モニター画面に注目した。
 程なく画面が明転すると、先ほどまで凄惨な「父子近親相姦ショー」の舞台となっていた部屋が、がらりと雰囲気を変えて画面に現れた。
 もちろん部屋の模様替えなどがなされたわけではない。映し出された人物の雰囲気が様変わりしていたのである。
 恐らくシャワーでも浴びた後なのだろう、こざっぱりとした明正が来室した際の服装に戻り、椅子に腰掛けている。
 その向かいにはチャコールグレーのパンツスーツを着た美穂が座っている。
 そしてその美穂に寄り添うように座っている明菜。
 白い花柄のチュールワンピースと頭につけたオレンジピンクのリボンがとてもガーリーな雰囲気を醸し出している。

 画像の中の美穂がまるで合図を待っていたかのように口を開いた。
「山本様、本当に今日はありがとうございました。明菜もとても喜んでいると思います。」
「あ、は、はい・・・そう言ってもらえれば、お引き受けした甲斐があるというものです。」
「で、いかがでした?山本様はご満足いただけました?」
「そ、それは、ちょっと、ここでは申し上げにくいですね。アハハ」
 明正は美穂の肩に頭を凭せ掛けている明菜を見て言った。
「ああ、大丈夫です。気になさらなくても。明菜はこういう子ですから、何を言われているのかわかりませんから。ね、明菜?」
 美穂は明菜の頭を優しく撫でながら明正に微笑みかけた。
「じゃ、遠慮なく言いますが、もう最高に興奮しましたよ。実は恥ずかしながら、年甲斐もなく3回も・・・ハハハ。」
「まあ、お元気なんですね。フフフ・・・・」
「最初は芝居のつもりでやってたんですけど、この子を見てるとなぜか段々本気になってしまうと言うか、本気でレイプしているような気になってくるんですよ。不思議なものですね。」
「フフフ・・もしかしたら、山本様はサディストなのかもしれませんね。マゾの明菜にはピッタリだわ。これからもよろしかったら時々お相手してくださいね。姉の私からもお願いします。」
「そ、それはもう喜んで。またこの子のすばらしい身体を抱けると思うと、こんばんは眠れそうもありませんよ。ハハハ」
「まあ、それじゃ今晩は、奥様も大変ですね。フフフ・・・。」
「いやぁ、もう妻とは・・・すっかりご無沙汰で・・・」
「ええ?ではそういう時はお一人で? まあ、それはお気の毒に・・・・。そうだわ。山本様ちょっとお待ちください。」
 美穂はそう言うと、ゆっくりと立ち上がり部屋を出て行った。
 立ち上がる際、明菜を驚かせないよう頭を軽くポンポンと叩いて合図した。
 
 戻ってきた美穂の手にはピンク色の布きれと数枚の写真が握られていた。
 美穂はそれらをこれ見よがしに広げて見せた。
 それがモニターカメラに捉えられることを意識した動作であることは明正の角度からはわからなかっただろう。
「こ、これは?」
「フフフ・・見覚えありません? 先ほどまでこの子が身につけていたショーツですわ。それから、写真はこの子の全身と顔のアップ、ちょっと過激なのもありますけど、どうぞお持ち帰りになってください。今日のお礼の代わりです。眠れない夜にでもお使いください。フフフ・・・」
「い、いや・・・これは・・・では、まあ、遠慮なくちょうだいしておきます。しかし自分の子供のような年齢、いやそれよりも下か。そんな娘さんの下着と写真をおかずにオナニーをするなんてちょっと気が引けますねぇ、ハハハ」
「フフフ・・そんなこと、気になさらずに。そりゃ、本当に『自分の娘さん』の下着や写真をお使いになったら、とんでもない変態ですけど、明菜と山本様は『アカの他人』なんですから。フフフ」
美穂はあえて、『自分の娘さん』と『アカの他人』を強調するように言った。
「アハハ・・私だって、そこまで変態ではないですよ。まあ、幸い私には息子しかおりませんしね。」
「あら、息子さんがいらっしゃるんですか? おいくつです? きっとお父様に似てハンサムな方なんでしょうね。」
「あ、いや、いるにはいるんですが・・・・、齢はだいたいあなたと同じくらいでしょうかね。実は今私の家にはいないのですよ。」
「ご結婚されて独立されたのでしょう?」
「いえ、そうではなくて・・・。他家に養子に入っておりまして。」
「あら、そうでしたか。婿養子さんになられたんですね。でも、ご長男では?」
「はい、おっしゃる通り長男です。ただ婿養子ではなく、普通の養子、つまり他家の子供になっております。」
「そうでしたか。何か事情がありそうですね。山本様、折角のご縁です。よろしかったらお話いただけませんか?」
「ええ、まあ・・・そうですね。身内の恥をお話するようで少々気が引けるのですが・・・。実は、明彦・・・あ、私の息子の名前ですが・・・明彦はあなた方と同じように以前、明倫学園に在籍しておりました。」
「明彦さん・・・ああ、午前中に喫茶店でお話しになったお名前ですね?あれは息子さんのことだったのですか?」
「ええ、そうです。・・・・・で、明倫はご存じの通り厳しい寮制度を採っていますので、入学後は一切連絡がなかったのですが、2年ほどした頃でしょうか、学校から重要な話があると連絡がありました。その内容を聞いてびっくりしたのですが、息子の明彦にはどうやら秘密の・・・何と言うんですか? そう、性癖とでもいいますか、そういうものがあるということが判明したと・・・まあそういう連絡でした。」
「秘密の・・・性癖? どういったものです? 差し支えなければお話くださいませんか。」
「ええ・・・あの、つまり・・・女装癖というか、女性になりたい願望があると・・・そういうことです。しかもそれにばかり熱中していて学業が疎かになり、この分ではとても卒業はできないと言われました。いやあ、私も慌てましてね、そのおかしな性癖は家に戻ってから家族の力で何とか治させるので、何とか卒業だけはさせてもらえないだろうかとお願いしました。明彦は我が家の一人息子ですし、高校中退などということはどうしてもさせられませんでしたからね。」
「で、学校は? 卒業させると言ってきましたか?」
「ええ。ただし、明倫学園高校としては無理なので、提携の高校の生徒としてということでした。ただ、それであっても絶対ではなく、今後一年間の明彦のがんばり次第だとも言われました。私は学校に、どんな手段を使ってもいいからがんばらせて欲しいと伝え、指導には一切口を挟まない旨の誓約書まで提出しました。」
「そうでしたか。ずいぶんご苦労されたんですね。でも、良かったじゃないですか、それで卒業できたんでしょ?」
「それが、その・・・ 卒業は・・できませんでした。」
「あら、何故です?」
「何でも、最後の卒業試験とやらに合格できなかったからだと聞きました。要は一年間頑張ることもできなかったということでしょう。実際、私としては家に戻ってくれば後は教育し直す自信がありました。ですから卒業さえしてくれれば家に迎えるつもりだったのです。しかし、それも叶わないとなると、もう私の堪忍袋の緒も切れました。親子の縁を切るから後は好きに生きろと、まあ勘当ということですよ。」
「まあ、それは随分つらいご決断をされましたね。」
「ええ、まあ。でも、それから数年後です。明彦を養子に欲しいという奇特な方が現れましてね。私も勘当したとは言え、気にはなっていましたから、乞われて養子に行くならそれも息子のためだと思って同意したというわけです。」
「そうですか。やっと納得しました。ご長男なのに養子にお出しになった理由が。」
美穂はそこまで言うと、肩に頭を凭せ掛けている明菜を起こし、顔を自分に正対させた。
「明菜ちゃん、聞いた?山本様、大変なご苦労されたのよ。息子の『明彦くん』が男のくせに女の子になりたがって、それで卒業もできなくなったそうよ。本当に親不孝な息子よね、『明彦くん』って。ねえ、明菜ちゃんもそう思うでしょ?」
 明菜の目がわずかに潤み始めた。
「まあ、山本様、明菜をご覧になってください。きっと山本様のご苦労がわかったんですわ。ほら、涙浮かべてますもの。」
「おお、ありがとう、明菜ちゃん。君に泣いてもらえるなんて思わなかったよ。君は本当に優しいんだね。俺もあんな親不孝の変態息子じゃなくて君みたいな優しい娘が欲しかったなぁ。ハハハ」
「それでしたら、山本様、『明彦くん』のことは忘れて、明菜のこと本当の娘だとお思いになられたらどうです?明菜もきっと喜びますわ。ね、明菜ちゃん。」
 美穂は明菜の目を見つめながら、優しく頭を撫でた。明菜の目から一筋の涙がこぼれた。
「ほら、ご覧になって。この子ったら涙流して喜んでいるわ。きっと山本様のこと本当にお父さんだと思っているんだわ。ね、そうよね?」
「オトーサン・・アキナ・・オトーサン・・スキ」
 明菜が小さな声で呟くように言った。
「嬉しいこと言ってくれるね。それじゃ、これからは明菜ちゃんのこと、自分の娘だと思うことにするかな?・・・・ あ、いや、やめとこう。」
「ええ?どうしてです?」
「いやぁ、実の娘の下着とヌード写真でオナニーするわけいかんじゃないですか。それに今度また会ったときに『レイプごっこ』なんてできないでしょう。ハハハハ」
「フフフ・・・そうですわね。実の娘とそんなことしたら、本当の変態ですものね。『明彦くん』のこと変態呼ばわりなんてできませんよね。フフフ・・・」
「ハハハ・・その通りですよ。 ところで、今思い出したんですが、どういうわけか明菜ちゃん、私のこと『お父さん』と呼んでいたんですが、何か特別なわけでもあるんですかね」
「さあ、何故でしょう。きっと明菜の中で山本様のことを『お父さん』と感じる何かがあったんじゃないでしょうか。」
「ううむ・・・それと、盛んに卒業証書を私に渡そうとしたんですけど、それはお姉さんがそうしろとでも?」
「いえ、そんなことは言っていません。 ああ、きっと大好きな『お父さん』に卒業証書を渡して何かを伝えたかったのかもしれません。でも、こういう子ですから、それが何なのかは私にもわかりませんけど。」
「う~ん、そうですか・・・一体何を伝えたかったのかなぁ。」
 明正は明菜の表情を見つめた。その瞳はいまだに涙で潤んでいた。

「ところで、山本様、もし『明彦くん』がその後、どこかの高校を卒業していたとしたら、お許しになりますか?」
「う~ん、もう今となってはそれも・・・。ただ、そうだとしたら『勘当』は取り消そうとは思います。」
「『勘当』は・・・取り消す?」
「はい、親子であることは認めるということです。でも、まあそんなことにはなっていないと思いますがね。」
「そうでしょうか? 案外そんなことになっているかもしれませんよ。いかがです?久ぶりにお会いになって、実際に確かめてみては?」
「ええ、まあ、確かにずっと気にはなっているんですが。ただ・・・」
「ただ?」
「ええ、ただ会うのが少し怖いのです。いまだにその性癖・・・つまり女装したり、女の真似をしたりしているのではないかと。もしそうだとしたら、例え高校を卒業しようと何だろうと許すわけにはいきませんからね。」
「では、事前に養父の方に確認されたらいかがです?いまだにその性癖が続いているなら会うのをやめればよろしいでしょ?」
「ええ、まあそれなら間違いないですが・・・」
「でしょ? そうされるのが一番ですわ。 山本様、善は急げと言います。今ここで連絡されてはどうですか? ね、そうしましょう。」
 美穂にせっつかれ、明正はしぶしぶ携帯を取り出すと、ボタンを押し始めた。
 相手先の電話番号をなかなか見つけ出せないのは、日頃ほとんど疎遠である証だろう。
 ようやく、ボタンを押し終えた明正は電話を耳に当てた。

 
 モニター画面で美穂と明正のやり取りを観ている客達の耳に携帯の着信音が聞こえてきた。
 その音源はモニター横に立っている兵藤良介の携帯電話だった。
 客達はすぐに事情を察知し、お互いに唇に人差し指を当て、「シーッ」のポーズをし合った。
 良介は客席が静まったのを確認すると、携帯電話のボタンを押した。着信音がピタッと止まった。
「はい、もしもし、兵藤ですが・・・」
「あ、ご無沙汰しております。私、山本明正ですが・・・」

 客たちの前で、会場の良介とモニターの明正との電話のやり取りが始まった。
「ああ、山本さんでしたか。初めまして、私、兵藤良介と言います。今、父は所用で電話に出られませんので、私が代わりに電話を取りました。」
「良介さん? 兵藤健作さんの息子さんですか?」
「はい、その通りです。明彦くんの兄ということになります。」
「ああ、そうでしたか。 それは失礼しました。 いつも息子がお世話になっております。」「いえいえ、こちらこそ。」
「今、お父様は電話には出られませんか?」
「ええ、あいにく重要な会議に出席中でして、2時間ほど電話には出られないと思います。用件は私から父に伝えますので、おっしゃってください。」
「そうですか、わかりました・・・あの、実はですね、できれば久しぶりに明彦に会ってみようと思っているんですが・・・」
「ああ、そうですか。それはいい。明彦くんもきっと喜ぶでしょう。いくら養子に出されたとは言え、実の父子ですからね。父も反対はしませんよ。ぜひ会ってあげてください。」
「ありがとうございます。そう言っていただいてなによりです。ただ・・・その前に確かめたいことがありまして・・・」
「確かめたいこと? 何でしょう? 私に答えられる範囲のことなら何でもお答えしますが。」
「ええ、もちろん良介さんならわかることです。きっと明彦の身近におられるのでしょうから。 あの・・・明彦は今でもその・・・女装とか・・・女のまねごととかしていますか?」
「え?女装?女のまねごと? それはつまり『男なのに』女の服を着たり、化粧をしたり、女のように振る舞ったり、ということですか?」
「ええ、それです。息子には高校時代にそういう性癖があったのはご存じだと思うのですが。」
「はい、それはうっすらと・・・。」
「どうです?今でも続いているのでしょうか?」
「それは、『男なのに』そういうことをしているかどうかということですね?」
「はい、その通りです。」
「ハハハ・・大丈夫です。そんなことはしていませんよ。ご心配には及びません。」
「そ、そうですか・・それを聞いてホッとしました。一番気にしていたことなんで・・
ではついでにお聞きしたいのですが、明彦はその後、心を入れ替えてどこかの高校を卒業したなどということはあるのでしょうか?」
「ええ、卒業しましたよ。どこかではなく、あの明倫学園高校です。」
「え?明倫ですか? 一度中退した明倫を卒業したのですかっ?」
 明正の顔が綻んだ。明倫学園高校「男子」卒業生が、どれだけ心身共に男らしい姿であり、また将来有望な人物であるかを明正は熟知していたのである。
「ええ、少し時間はかかりましたが、今年卒業しました。お会いになった時に卒業証書をご覧に入れますよ。」
「そうでしたか。いや、もう本当に兵藤家にお世話になったおかげです。本当に感謝しております。いやぁ、そうでしたか、あの明倫を・・・。 では、きっと身体も鍛えられ、見違えるほどでしょうねぇ?」
「『鍛えられ』・・・? ああ そうですね、確かに学校でも我が家でも『鍛えられ』ましたからね、今ではりっぱに成長してますよ。バス・・いや、『胸囲』なんて私よりあるんじゃないでしょうか。それに『腰回り』だってりっぱなものです。ただ、『胴回り』は私ほどではありませんけどね、フフフ・・・」
 良介の言葉に会場からクスクスと笑い声が漏れた。良介はとっさに唇に人差し指を当て、沈黙を促した。
「そうですか、あんなに細かった子がそこまでに・・・」
「ええ、それに容貌も性格もいいので、『異性』にもモテモテなんですよ。ほとんど毎日違う『異性』とデートしてますからね。ハハハ・・・」
「う~ん、それはちょっと困ったものですね。会ったときに注意しておかないと。アハハハ・・・」
「で、山本さん、いつお会いになりますか?」
「ええ、そこまで聞けば、すぐにでも会いたいのですが、そちらのご都合もあるでしょうから・・・。」
「では、ちょうど一週間後、午後1時頃にお越しください。父と私はもちろんですが、妻も、それから『妹』も一家全員でお迎えいたしますので。」
「そうですか、それは恐縮です。 では一週間後必ず伺いますので、どうぞよろしくお願いします。」
「はい、お待ちしております。どうぞ、お気をつけていらしてください。」
 モニターと会場との電話のやり取りは終わった。
 良介と明正が電話を切ったのはほぼ同時だった。

 その途端、会場からはどっと笑い声が漏れた。
「いやぁ、オーナー、君も嘘が上手だねぇ。あれじゃ誰だって騙されるよ。」
 一人の客が良介に声を掛けた。
「いいえ、嘘は言っていませんよ。多少脚色はしましたが。フフフ・・」
「しかし、今、女装も女のまねごともしていないって言ったじゃないか。見てみなさい、明菜の姿。あれは女そのものじゃないか。」
「ええ、ですから嘘は言っていないと申し上げたのです。明菜は性転換手術を受け、戸籍も女性になっています。つまり疑いもなく女性なのです。だから、明菜がしていることは、『女装』でも『女のまねごと』でもありませんよ。フフフ・・・」
「それにしても、バストを胸囲と言い換えた時には、私、吹き出しそうだったわ。『私より、胸囲が大きい』ですって、そりゃまあ、そうかもしれないけど。フフフ・・・」
「そうそう、それに『異性』にモテモテで、毎日違う『異性』とデートしてるっていうものなかなか面白かったわ。フフフ・・・」
「きっとあの父親の頭の中では、筋肉隆々の男らしい息子が、毎日のように美女をとっかえひっかえ遊び回っている場面を想像しているんだろうな。ところが実際に会ったら、筋肉隆々どころか、プルンプルンの巨乳美少女に変わっていて、毎日違った『男』とデートしているっていうんだから、これは驚くだろうねぇ。」
「あら、そんなことないわ。だって明菜とは今日会ってるんだもの。そりゃ、明菜が息子だってわかったら驚くだろうけど、今日のセックスの良さを思い出して、その場でも我慢できずに襲っちゃうんじゃない? ハハハ・・・」
「どちらにしても、これは面白いことになりそうだな。オーナー、当然来週のその劇的再会シーンもここで観ることができるんだろうね?」
「ええ、そのつもりですが・・・。ただ、急なことなので、何名の方にご参加頂けるか・・・。参考までに、お客様方の中で、来週も参加ご希望の方はいらっしゃいますか?」
 良介の言葉に会場中の客から一斉に手が挙がった。
「ありがとうございます。 どうやら予約で満席になったようですね。フフフ・・」



 モニター画面の中では、笑みを浮かべながら携帯電話をしまった明正に美穂がさりげなく問いかける。
「いかがでした? 会うことになったんですか?」
「ええ、会うことにしました。どうやら明彦も明倫学園を卒業して、りっぱな男に成長しているようです。養子に出したことが間違いではなかったということですね。本当に良かった。ハハハ」
「そうですか、それは何よりでしたね。やはり電話をかけてみて良かったですね。」
「ええ、おかげさまで。美穂さんのアドバイスに従って良かったですよ。本当にありがとうございました。」
「いえいえ、こちらこそ。お力になれて幸いですわ。」
 美穂はそう言うと、じっと目を瞑って肩に頭を凭せ掛けている明菜の顔を上げ、自分に正対させた。そして、頭を撫でながら優しい口調で話しかけた。
「明菜ちゃん、よかったわね。『明彦くん』に会うこと決めたんですって。『明彦くん』、とっても男らしくなっているそうよ。明菜ちゃんも、そんな男らしい『明彦くん』に会ってみたい?」
 美穂の問いかけに明菜は黙ったままで何も応えなかった。
 焦点の定まらない視線とぎこちない笑み、そして止めどなく流れる涙だけが、この時の明菜の取りうる応答手段のすべてだった。
「まあ、明菜ちゃんたら、こんなに泣いちゃって。きっと山本様と『明彦くん』の再会に感激してるんだわ。フフフ・・・」
 美穂は明菜の頭を優しく撫で、もう一度、自分の肩に凭せ掛けた。

 帰り支度も終え、部屋を出て行こうとしする明正に美穂が声をかけた。
「山本様、息子さんと再会したら何をなさりたいですか?」
 明正は、しばらく考え込んでから言った。
「そうですね、逞しく成長した息子と温泉にでも浸かりながら将来の夢でも語り合いますかな?アハハハ」
「フフフ・・それは結構ですわ。 ただ、山本様、それでしたら『混浴』の温泉を予約なさらないと。フフフ・・・」
 明正は一瞬怪訝そうな顔したが、すぐに笑顔になって、
「いや、いくら俺の息子でもそこまではスケベではないでしょ。それに話によると女には不自由してないみたいなんでね。アハハハ」
 と言い残して、部屋を出て行った。
 明正の笑い声は、部屋を出てからも続いていた。
 それは心の底から満足した快心の笑い声だった。
 
「アキナ・・・ミンナ・・・・キライ」
 明菜の消え入るような囁きは誰の耳にも届いてはいなかった。

 〔完結〕

私立明倫学園高校 最終章-2

「みなさん、いよいよショーが始まります。前面のモニターにご注目ください!」
 兵藤良介のひときわ大きな声が会場に響いた。

 彼が代表を務める特殊会員制クラブ「クラブR」はこの日、ひっそりとオープニングセレモニーを迎えていた。
「ひっそりと」というのは、運営の内容上あまり公にできない部分もあるからで、この日のセレモニーにも、招待されたVIP会員は30名程度であった。
 ただしそのメンバーはいずれもVIPの名に恥じない人物ばかりであり、実名を公表されればマスコミが飛びつくような人物も混じっていた。
 彼らは今それぞれのソファにくつろぎながら、横にお気に入りのコンパニオンやホスト、またニューハーフやレディボーイといった者たちを置いて、正面にある大きなモニターに視線を送っている。
 これから行われるショーの内容が、性転換手術を受け男性から女性へ変身した「元息子」のバージンを実父が奪うという前代未聞の内容だと聞いた時、会員達の多くは期待に胸を躍らせて、ショーの始まりを待っていた。

「もう間もなく父親がマンションに到着する頃です。これより先シナリオはございません。リアルな世界をご堪能ください。」
 良介の言葉を待って、室内の照明が落とされ、同時にモニター画面が明転していった。


 いかにも女子高生らしいパステルカラーに統一された部屋が映し出された。
 部屋の隅に配置してあるドレッサーの椅子に腰掛けて、シャンパンゴールドのロングヘアを丁寧にブラッシングしている少女がいる。
 ドレッサーの鏡に映る少女の顔にカメラが寄っていく。
 ナチュラルなライトメイクにローズピンクのシャイニーな口紅がいかにも女子高生らしい雰囲気を漂わせているが、ブラウンの瞳とヘアーカラー、そしてクラシックなブレザー型の制服を合わせてみると、ハーフの生徒か、または外国からの交換留学生のようにも見える。
 少女の視線はどことなく焦点が定まっていない。口元の笑みにも不自然なぎこちなさがある。そこに独特の神秘的な美しさを感じるが、それは「知性」の輝きとは真逆の、「無垢の美」、あるいは「白痴美」と呼ぶべき種類のものであった。

「こ、この美しい少女が『明菜』という子なのか?本当にこの子が元男だったというのか?」
 客の一人が呟くように言った。少女の美しさに心を奪われ、皆が沈黙していた中での呟きは十分会場中に届いた。
「はい、それについては私が保証します。彼は、いや彼女は元私の教え子であり、名前も『明彦』と言いました。」
 別の囁き声が他の席から漏れた。声の主は明倫学園高校学園長だった。
 彼はモニター横に待機している良介に視線を向けると小さく頷いて見せた。
「この子がいわゆるその・・・・知恵遅れというのも本当なの?」
 一人の女性客が良介に向かって小さな声で質問した。
「はい、それも本当です。おそらく映像を通じて徐々にお分かりになろうかと思います。」
 良介は微笑みながら丁寧な口調で答えた。


 映像の中の明菜が一瞬表情を変えた。
 どうやら、部屋のドアを叩くノック音がしたようだ。
 明菜は立ち上がると部屋のドアに近づき、ゆっくりと開けた。
 長身の知的な美女が部屋に入ってきた。
 彼女は微笑みながら明菜の髪の毛を撫でると、ベッドの端に座らせ、何やら話を始めた。
 音声は絞られているので流れては来ないが、話している表情を見ると、長身美女が明菜に何かを諭しているように見える。


 会場に良介のマイク越しの声が流れた。 
「この女性は、一部の方はご存じかもしれませんが、私の妻で「美穂」と言います。今、彼女が明菜に行っていることは、本来は皆さんにお見せする予定ではなかったのですが、なにぶんリアルタイムで映像は進行してますので、多少の不手際はお詫びするとして、まあ生放送の臨場感とでも受け取っていただければ幸いです。さて肝心なその内容ですが、二つあります。いずれもこれから行われるショーを盛り上げるためのちょっとした演出ですが、まず一つ目は、これからこの部屋を訪れるのは『お父さん』という呼び名の男性で、明菜にとって大切な人物である、そして彼の行為はすべて明菜のためにしてくれることなので喜んで受け入れなさい、と教え諭しています。そして二つ目は明菜の心に残る『明彦』を目覚めさせるためにある呼びかけを行っています。実はそれをすることで普段は隠れている『明彦』の感情が『涙』という形で現れます。これからショーの間、明菜の目から涙溢れれば、それは『明彦』の涙だということです。」
 良介の説明を受けて、一人の客が口元を弛めながら言った。
「ううむ、なるほど・・・それはかなり面白い演出だ。つまり明菜の中の『明彦』は相手を本当の父親と認識しているということだね?」
「はい、その通りです。」
「まあ、すごい残酷なことをなさるのねぇ」
 一人の女性客が高めの声で言った。その口元には言葉とは裏腹にサディスティックな笑みが浮かんでいた。
「確かに二つ目の演出は面白そうだが、一つ目はどうかね?『お父さん』と言わせることで何か面白いことが起きるのかね?」
「フフフ・・ええ、まあ、これは私自身もどう展開するかわかっていないので何とも申し上げられませんが、これからこの部屋を訪れる人物、つまり『明彦』の実父ですが、彼にとって自分を『お父さん』と呼ぶ人間は一人息子の『明彦』しかいません。その言葉を明菜から聞いたらどのような反応を見せるでしょう。結果は私にもわかりません。ただ、面白くなりそうな気がしませんか?」
 良介の説明に言葉を発する者はいなかったが、ほぼ全員が一様に笑みを浮かべながら頷き合った。
「さあ、そろそろ妻が退室するようです。これより先は音声も流しますので映像と共にお楽しみください。」


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 明正は指定された部屋の前で部屋番号を確認した。
「1605」号室。間違いはない。
 一階のエントランス部分でも同じ番号を押したが、何の返事もなく、ただ入口が開けられただけだったのだ。
 ドアノブに手を掛けた。美穂との打ち合わせでは鍵は開いているはずである。
 確かに鍵は掛かっていなかった。
 室内に入るとすぐに長めの廊下があった。
 人の気配はしない。美穂の話では明菜しかいないとのことだったので当然と言えば当然だった。
 足音をさせないよう廊下を進んでいると、本当に自分が婦女暴行犯にでもなったような気がしてくる。
 ピンクのネームプレートが掛かっている部屋の前に立つ。
 プレートの文字は「AKINA」だった。
 明正は大きく深呼吸をすると、ドアをノックしようとし、ふとその手を止めた。
 これからレイプしようという男がノックをするのもどうかと思ったのだ。
 だが、いきなりドアを開ける勇気も出ない。明正は躊躇いながらもドアを2回ノックした。
 ドアはすぐに開いた。
 あの写真の美少女がそこにいた。写真と寸分違わず、いやそれ以上の輝きをもって、そこに立っていた。
 明正は息を呑んだ。バストアップの写真ではわからなかった全身の姿が立体となって目の前に飛び込んできたのである。明正の驚嘆は当然と言えば当然だった。
「オトーサン・・・?」
 小首を傾げた明菜の視線は微妙に外れ定まっていない。その様子が口元のぎこちない笑みと相まって、無垢の美しさを醸し出している。
「あ、うん・・・そうだよ。」
 明正はそう答えた。
 明菜が何故自分のことを「お父さん」と呼ぶのかはわからない。ただ恐らくこの子は、自分のような年齢の男を一律にそう呼ぶ習慣があるのだろう。彼はそう判断し、明菜の言葉に合わせることにした。
 だが、その返事がまずかったのか、明菜の目が一瞬見開き、彼の目にその焦点が合った。気のせいかその瞳の奥に驚きと恐怖の入り交じった光が見えたような気がした。
 明正も明菜のその意外な反応に一瞬戸惑ったが、それもすぐに消えた。
 明菜の表情にまた無垢の美しさが戻ったからである。 
 
 明正はすっかり出鼻をくじかれてしまった。マンションに到着するまでは部屋に入るや、そのまま押し倒し、衣服をはぎ取り、陵辱するつもりだったのである。
 ところが実際に明菜の折れそうなほど細くしなやかな肢体と無垢な表情を見ていると、つみ取ってはならない一輪の可憐な花に見えてくる。
 この子が、自分にレイプされることを望んでいるなどとはとても思えないのだ。
 明正は取りあえず、様子を見ることにした。いや、もしかしたらこのまま何もできまま部屋を後にすることになるかもしれないとさえ思い始めていた。

 明正は小さなテーブルに置かれたコーヒーカップに口を付けた。それはおそらく姉の美穂が用意しておいたものなのだろう、「山本様へ 明菜のこと、よろしくお願いします。」と書かれた小さな紙片が添えられてあった。
 明正はコーヒーカップを口に運びながら、明菜の様子を目で追った。
 ドレッサーの前に腰を下ろした明菜は、シャンパンゴールドのロングヘアに数回ブラシを通すと、急に思いついたようにポニーテール風に持ち上げてみたり、ツインテール風に束ねてみたり、片側にまとめて胸の前に垂らしてみたりとヘアスタイル遊びに没頭した。
 その間、時折鏡を通して明正の視線と交錯することがあったが、故意なのか偶然なのか明菜の目が悪戯っぽく微笑んでいるように思える瞬間があり、明正の心をドキリとさせた。 ヘアスタイル遊びが終わると、次はメイク遊びだった。
 何種類かの口紅をつけては落とし、つけては落としを繰り返した後、濃いめのピンクに落ちついた時には、鏡越しにその様子を見ていた明正の鼓動は高鳴っていた。
 これも故意なのか偶然なのか、それぞれの口紅をつけながら唇をすぼめたり、半開きにしてみたり、パフっと音をたててみたり、しまいには舌先を覗かせて唇を舐めてみせたりするのだ。
(この子は、やはり俺を誘っているんだ。俺にキスを・・・いや、もしかしたらフェラチオをしたがっている。)
 明正は目前の美少女の唇に自分のペニスが飲み込まれているシーンを妄想し、股間が熱く滾り始めたのを感じた。
だがそれは明正の誤解だった。明菜にとって、そのような一見蠱惑的な仕草をすることはすでに身に付いた習慣になっていたに過ぎない。だからもしこの場に明正がいなくても同じような仕草をしていたに違いない。
 とは言え、明正の誤解を責めるわけにはいかない。男である以上、そして目の前の美少女が自分の実の息子であるという事実を知らない以上、欲情するのは当然だった。

 明菜の無邪気な「誘惑」はその後も続いた。
 何と、明正の足許にクッションを置くと、そこに腰を下ろし横座りになったのだ。そしてアイスキャンディを片手に、ファッション雑誌をめくり始めた。
 何故か制服の白いブラウスのボタンが外されていて、明正の角度からだと薄いピンクのブラと深い谷間がはっきりと目に飛び込んでくる。
 それだけではない。横座りをしているためにタイト気味のスカートが持ち上がり、細く長い美脚が、これでもかと言わんばかりに自己主張をしている。
 明正はここ数年経験していないほどのペニスの硬化を感じた。
(どうして自分の足許に座っているんだ? どうして胸をそんなに開けているんだ? どうしてそんなにアイスキャンディを思わせぶりに舐めてるんだ?)
 明正は心の中で明菜に問いかけた。
(フフ・・決まってるじゃない、あなたを誘っているのよ。ねえ、早く、明菜を襲って。レイプして!)
 明正の妄想の中で明菜がセクシーな声で囁いた。

 明正が身体の向きを整え、襲いかかる準備をした瞬間、明菜は急に何かを思いついたように立ち上がると、机の上に置いてあった革製のケースを取り上げた。
 そしてもう一度彼の近くに寄ると、今度は立ったままの姿勢で、胸の前でそのケースを広げて見せた。
「オトーサン・・ショーショ・・ソツギョーショーショ   アキナ・・・ソツギョー」
 アルバムのように見えたそのケースは、証書入れだったのだ。
 そこには明倫学園高校の卒業証書が収められていた。
 
 明正は真剣な表情をしながら、一歩前に出た。
 彼の視線の先には卒業証書・・・・ではなく、その卒業証書の向こう側に見えている深い胸の谷間だった。彼には卒業証書などどうでもよかったのだ。
 だが、明菜には「オトーサン」の目に情欲の光が宿ったのを感じ取ってはいない。
「オトーサン・・・ショーショ・・・・アキナ・・・ソツギョー」
 明菜が言い終わった時、運悪く片手に持っていたアイスキャンディが溶け崩れ、ちょうど露わになった深い胸の谷間に落下した。
 明菜の指先が咄嗟にそれをすくい上げ、半開きになった口に導いた。
 無垢な表情で舌先を出し、ペロペロと舐める仕草を目にした時、明正の我慢は限界に達した。

「アッ・・・」
 その手から卒業証書がむしり取られた時、明菜の口から無意識の声が漏れた。
 明正はそれを無造作に放り投げると、明菜の細い身体をベッドに投げ飛ばした。  
クッション性の高いベッドの上で、軽い明菜の身体は一回バウンドした。
 明正は明菜の身体に覆い被さると、
「こいつ、男をさんざんたぶらかしやがって、犯して欲しくてしょうがないんだろうが」
 と言い、白いブラウスを力づくではぎ取った。
「アアッ・・・」
 ボタンが飛び散ったのと同時に明菜の声が漏れた。先ほどよりもはっきりとした声だった。
 淡いピンクのブラのホックを外すのは、若干手間どったが、それでも明正の動きには淀みがなかった。
「おお~こんな大きなオッパイしてたのかよ。それもこんなに形がいいなんて・・・。」
 明正は明菜の豊満な美乳を乱暴に揉みしだいた。
 明菜の眉間に小さな皺が寄る。痛みや苦痛に耐える時、明菜が見せるあの表情だ。
 この表情が何人の男の陵辱欲を駆り立ててきたかわからない。
 今その一人に明正も加わってしまった。

 スカートを抜き取ると、後はブラとセットのピンクショーツだけだ。
 明正は荒々しい息づかいをしながら、ショーツに手をかけ、一気に膝までずり下げた。
 明菜の無毛の股間が晒された。そこにはあの小指の先ほどのペニスも二つの小さなビー玉大の睾丸も姿を消していた。代わりにあるのは本物と見紛うばかりに完成度の高い「ヴァギナ」だった。
「ほう~ずいぶん経験している割にはきれいな色してるじゃないか。」
 明正は明菜のヴァギナを指先で広げたり、つまんだり、擦り上げたり、好き放題に弄んだ。しまいには2本の指を乱暴に挿入し出し入れを始めた。
「ンンッッン・・・」
 明菜の眉間の皺が深くなった。苦痛が広がったのがわかる。
「うむ、明菜の『女の子』は締まりも良さそうじゃないか。へへへ・・」
「アキナ・・・・オンナノコ・・・オトーサン・・・アキナ・・・オンナノコ」
 明菜が苦しみ悶えながら言った。
「ハハハ、そんなこと言われなくてもわかってる。お前が男なわけないだろう? バカだな、お前は・・・」  

 明正は明菜の若く美しい裸体を、手と指と舌で十二分に満喫すると、その身体をベッドの中央に移動させた。いよいよ挿入の準備に入ったのである。
 だが身体が移動したことで明菜の左手に先ほど放り投げられた卒業証書ケースが触れた。
 明菜はそれを掴むと再び明正に開いて見せた。
「オトーサン・・ソツギョーショーショ・・・アキナ・・ソツギョーショーショ」
「わかったと言ってるだろうが。何故そんなに見せたがるんだ? 姉さんに、見せるように言われたのか?」
「アキナ・・・ソツギョー・・・オトーサン・・・アキナ・・・・ソツギョー」

 パシーッ・・・・明正の平手打ちが飛んだ。
「キャッ」という小さな悲鳴と共に目を丸くする明菜。
「やかましいと言っただろうがっ!俺の息子が卒業できなかったことへの当てつけか? ああ、確かに『明彦』は女になりたいとか言い出した変態息子だ。『明彦』がそんな変態野郎に育ったのは俺の責任だとでもいいたいのかっ!?」
 パシーッ・・・・二発目の平手打ちが飛んだ。
 明菜の大きな瞳から涙が溢れてきた。その涙の源が、突然の平手打ちへのショックと痛み、そして怒鳴られたことへの驚きであったのは確かだ。だが、それ以上に大きかったのは、その言葉の中に『明彦』の名が出たことだった。
 明正の訪問前に美穂によってほぼ呼び覚まされていた『明彦』が、明正の言葉によってさらに表面化してしまったのである。
 一方明正の方は、最初演技で始めた婦女暴行犯役がいつしか空想の垣根を越え、現実の自分の人格に思え始めていた。
 それもやはり無意識の内に、男の陵辱欲をかきたててしまう明菜の持つ天性の被虐性が招いた結果だとも言える。 

 明正は反射的に逃れようとする明菜のか細い手首を掴むと、あっという間に後ろ手に絞り上げた。
「ン、ンゥッ・・・」
 痛みに耐える明菜の口から声が漏れた。
 だが決して抵抗はしない。美穂からきつく言われているからだ。
「お父さん」のする行為は、例えどんなにつらいことでも明菜のためにしてくれているのだから、喜んで受け入れなさいと。 
 無抵抗のまま、ただ涙だけ流す明菜の姿を見て、明正の心はますます高ぶっていく。
 自分のどこにこんなサディスティックな一面があったのかと、彼自身知りたい思いだった。
 
 明正は右腕を明菜の細く折れそうなウエストに回し、自分に引き寄せると、そのままベッドに倒れ込んでいった。
 明正の身体に組み敷かれながらも、手足をばたつかせるわけでも、押し返そうとするわけでも、大声を上げようとするわけでもなく、ただ大粒の涙をこぼすだけ。
 もしも普段の明正なら、そしてもしも相手が明菜でなかったら、おそらくここで陵辱の手を止めたかもしれない。同情心が陵辱欲を上回ってしまうからだ。
 だが、その二つの「もしも」が消えてしまった今、明正の向かう方向は決まっていた。
 
 明菜の細く長い両脚を割り開くと、すでに誇張のピークに達している自らのペニスを、一気にヴァギナに突き刺した。
「アンッ・・・」
 明菜の眉間にこの日一番深い皺が刻まれた。
 同時に、瞑った目尻から一筋の涙が流れ、耳の後ろを通り、シャンパンゴールドのロングヘアの奥へと落ちていった。

 明正の腰の動きは、50を越えた中年男のそれではなかった。
 まるで性に飢えた若者がテクニックなどお構いなしに、ただ自分の性欲を満たすためだけに腰を振る。明正の動きは正にそれだった。
 欲求に任せて性を貪ろうとする行為は長くは続かない。
 明正の絶頂はあっという間にやってきた。
 熱い精の第一撃がヴァギナを襲った瞬間、それまで閉じられていた明菜の瞼が開いた。 明正は恍惚とした快感に浸りながら、明菜の瞳にそれまで目にしたことのない悲しみの色が浮かんでいるのがわかった。
 もう一度瞑った明菜の目頭からは涙が溢れ、印象的な小さな泣きボクロの上を伝って落ちた。
「オトーサン・・・アキナ・・・オンナノコ」
 ぎこちない笑みを湛えた明菜の口元から小さな声が漏れた。 
 
 (続く)

私立明倫学園高校 最終章-1

 山本明正は、あるマンションに向かって歩いていた。
 彼の胸中は高鳴る興奮と期待とで満ちあふれていた。
 
 2年ほど前に、突然のように届いた一通のメール。
 それは「明菜」と名乗る一人の女子高生からのものだった。
 文面を読むと、どこかの駅の階段で転びかけたのを助けられ、その後も何回か同じ駅で顔を見ている内に、異性として好きになったのだと言う。
 そんなことあっただろうか、しかも50を越えた中年男に女子高生が一目惚れ? 
 そんな夢みたいなことが起こるはずがない。明正は当然そう考え、即座にメールを削除した。
 だが、メールはその後も続き、文面にも、ただの出会い系やアダルト系とは違った真剣さが込められていた。中年男を引っかけるためには絶対に必要な写真の貼付もなかった。
 むろんそれだけで信じたわけではないが、明正の携帯の保存メールには発信者「明菜」のメールが溜まっていった。同時に明正から明菜宛の返信メールも増えていった。
 明菜は、二人の名前に同じように「明」の文字があるのは、きっと運命的なものなのかしら、などと中年男を刺激するような可愛いことまで言ってくる。
 明正は、君のことを信じないわけではないが、できるなら写真を送ってくれないかとメールしてみた。それは文面通り相手が本当に信頼できる人物であるかを確かめたいという思いもあったが、それ以上にどんな顔をした女の子なのか見てみたいという単なる下心の現れでもあった。
 ところが、返信は明正にとってとても意外なものだった。
 自分はとても不細工だから人に写真を見せたくない。きっと見せたら嫌われてしまうから、と。
 このメールは明正の気持ちを信頼に変えた。騙すつもりなら不細工などと言うわけはない。そして誰か別の可愛い娘の写真でも送れば済むことである。
 この娘は本気なんだ、と明正は思った。恐らく彼女の言うように顔は美しくはないのだろう。でもそれでもいいと思った。若い女子高生とのメールの交換はそれだけで中年男の心に新鮮な喜びを与えて余りある出来事だった。
 学校のこと、趣味のこと、テレビドラマのこと、仕事のこと、そんなとりとめのない話題も、女子高生明菜とのメールだとわくわくするような魅力的なものに感じられた。
 それに明菜の文面からはとても知的な匂いが感じられ、今時のいわゆる「おバカ女子高生」とはまったく異なる存在に感じられた。
 いつしか明正の中の明菜像は「優等生だが、男子からは人気がない地味でちょっと不細工な女の子」になっていた。
 
 だから実際の明菜の写真を見た時は、心臓が止まりそうな衝撃だった。
 見るからにハーフとわかる美少女で、そのレベルはトップアイドル並み、いや明正の知る限り彼女を越えるアイドルなどいないと思った。バストアップの写真だったので、全体はわからないが、すっきりと鎖骨が見えているところを見ると、かなり華奢な体型に感じられた。たが一方で微かに胸元から覗く谷間の深さを見ると、相当にふくよかな胸をしていることもわかった。
 もちろんその写真が、明正の要求によって送ってきたものなら、かえってメール交換をやめるきっかけになったかもしれない。
 ところが、明菜からのメールでは、その写真は友達に送るのをアドレス間違いでこちらに送ってしまったのだという。
 その日を境にメール交換が単なる「楽しみ」から下心のある「期待」へと変わっていったのは、明正が男である以上やむを得ないことだった。
 その後のメールで、何度も明菜をデートに誘い出そうと考えたが、その度にギリギリのところで自制した。明菜は落ちついた中年男性だから自分を好きになったのだ。焦って行動して嫌われたら元も子もない、という心理が明正に働いたのである。

 そして今日、その我慢が報われる時がやって来た。
 明菜からメールではなく「電話」がかかってきたのは一週間前のことだった。
 高校も卒業し、大人の仲間入りをしたので、これからはメールだけでなくデートもしてみたい、と言ってきたのである。
 初めて聞く明菜の声はメールの文面の通り、知的で落ちついた大人っぽい声だった。そういう意味では違和感はなかったのだが、写真のイメージからすると大いにギャップがあった。そもそも、メールと写真との間に違和感があったのだが、写真の明菜に魅せられていた明正にとって、それは単に意外性の魅力にしか映っていなかったのである。
 あのハーフの美少女が「大人の仲間入りをしたので、デートがしてみたい」などと古風なことを言ってくるのだ。それは中年男の下心を刺激するには十分すぎる口説き文句だった。

 だが、明正の待つ待ち合わせ場所の喫茶店に現れたのは明菜ではなかった。
 170センチ程の長身で知的な印象の美人ではあったが、明らかに写真の「明菜」とは別人だった。第一、高校を卒業したばかりにしては大人過ぎる。
 明正は咄嗟に騙されたと思い、その場を立ち去ろうとしたが、「美穂」と名乗ったその女性は、席に近づくなり明正に向かって深々と頭を下げ、丁寧な謝罪の言葉を口にした。
 その様子と曰くありげな雰囲気に、取りあえず話だけは聞こうと、明正は上げかけた腰をもう一度下ろした。
 
 実は自分は明菜の義姉であり、ある事情があって明菜の身代わりをしていた。騙していたことを心から謝罪したい、と美穂は言った。
 狐につままれたような顔をしている明正に、美穂はさらに話を続けた。
「妹があなたを好きになったのは本当のことです。それに写真も本当の彼女のものです。この後、デートをしていただくのも彼女です。もちろん、山本さんに異論がなければの話ですが。」
「なぜ、このようなことをしたのです? いくら妹のためと言っても、あなたがメールの代行までするのはおかしくないですか?」
「はい、実は写真でご覧の通り、妹はハーフで日本語があまりできません。」
 明正は胸をなで下ろした。もっととんでもない秘密でも隠されているのではという不安があったのだ。だが自分を好きになってくれたのも、今日デートしたいと思ってくれたのも、そしてあの美少女の存在も本当のことだと聞いて不安はすっかり消えていた。
「なるほど、それであなたが代行をなさったと。ずいぶん妹思いのお姉様ですね。そんなに甘やかしていると、後が大変ですよ。ハハハ」
「ええ、それはわかっているんですが、どうしても甘やかし気味になってしまうんです。・・・・・実は妹に関して、もう一つお知らせしておかなければならないことがありまして・・・。妹の明菜は少し『知恵遅れ』なのです。ですから、デートと言っても、会話はほとんどできませんし、あまり楽しくはないかもしれません。」
「・・・ほう・・・そうですか。」
 明正はできるだけ冷静に答えようとしたが、動揺は隠しきれなかった。
 会話も交わさずに過ごすデートが想像できなかったし、『知恵遅れ』の少女と時間を過ごした経験もなかった。
「でも明菜が明倫学園高校を卒業し、その卒業祝いとしてデートをしたいという彼女の思いは叶えてあげたいのです。いかがでしょう、山本様、お力を貸して頂けませんか?」
 明正は、美穂の言葉に一瞬ドキッっとした。そこに「明倫学園高校」の名が出てきたからだ。彼の脳裏に10年ほど前に勘当し、その後乞われて兵藤某という男の養子となった息子「明彦」の姿が浮かんだ。
「失礼ですが、そういうお子さんが、よく明倫学園高校に入学し、また卒業なさいましたね? あの学校は女子学生にとってもかなり大変だと聞きますが。」
「ええ、それは私も同じ明倫出身ですので存じ上げています。ただ、そこはあくまで私立学校のことでもあるので・・・・。」
 明正は美穂の言葉の含意を読みとった。恐らく寄付金か個人的な人脈によって、入学も卒業もさせたのだろう。それが世間ではよくある話だということくらいわかっている。
 ただ、美穂も同じ明倫出身と言うことで、先ほどから少し気になっていたことを口に出してみようと思った。
「ちょっと伺いますが、美穂さん・・・・とおっしゃいましたね。あなた、以前私とどこかで会ったことはありませんか?」
「いえ、初対面ですわ。」
「そ、そうですか・・・では、多分あなたと同じ頃に明倫にいた生徒で「山本明彦」という生徒はご存じでしょうか?」
「山本・・・明彦・・・・、いえ、残念ながら存じ上げません。」
「そうですか・・・それなら結構です。いや、変なことを尋ねて失礼しました。」
「いえ、お気になさらずに。」
 美穂は小さく微笑んだ。最大の難関を通り抜けた安堵の笑みだった。
 実は、美穂はこれまでに何回か明正に会っている。中学生時代に明彦とのデートの帰り、たまたま駅で明正と会い挨拶を交わしたことがある。また良介と共に明彦の部屋に遊びに行った際、リビングでくつろぐ明正と世間話をしたこともある。
 だが、いずれも10年以上も前のことであり、すっかり大人の女性に変貌を遂げた美穂を明正が認識できないのは当然だった。   
 
「いや、やはりせっかくですが、今回の話はなかったことにさせてください。妹さんに好きになってもらって嬉しい限りなんですが、正直言って、どのように時間を過ごしたらいいのかわからないし、自信がないのですよ。」
 明正は、会話が途切れたのをきっかけに思い切って心の内を口にした。
 いくら下心があったとしても、高校を卒業したばかりの美少女との初デートで性的な体験ができるなどと思っていたわけではない。あくまで絶世の美少女との会話を楽しんだり、若さ溢れる肉体の一部、例えば洋服越しの胸の膨らみとか、ミニスカートから伸びる美しい脚とか、そういったものを目にできるだけで十分だった。その先のことは会話を重ねていくことで、もしかしたらいつかその恩恵にあずかれるかもしれない。明正はその程度に考えていたのだ。 
 しかしその会話が成立しないのであれば、たとえどんな美少女であろうと共に過ごすことは難しいと思ったのだ。
「そうですか・・・残念ですわ。きっと明菜も悲しむと思います。お慕いしている山本様に、今日身体を捧げるんだと言ってましたのに・・・。」
「な、なんですって・・・?」
 明正は美穂の言葉に動揺した。聞き間違いだと思った。
「何しろ、ああいう子ですから、デートというのは好きな男性とセックスをすることだと思い込んでいるのです。しかも女は男性の望むまま、どんなことでも受け入れる。それが女の幸せなんだと、明菜は信じ込んでいるんです。それにあの子ったらどこで手に入れたんだか、こんなものを見て・・・・フフフ」
 美穂は思わせぶりに笑うと、バックから一冊の本を取り出し、テーブルの上に置いた。

『ザ・レイプ・・・陵辱! 暴行! リンチ!』と書かれたアダルト写真集だった。
 表紙には、縛られ自由を奪われた女性が無理矢理犯されている画像や、涙を流しながら仁王立ちの男のペニスを口に含んでいる女性の画像などが並んでいる。 
「な、何ですか・・これは?」
「あの子ったら、セックスとはこういうものだと思っているみたいなんです。おかしいでしょ? でもああいう子ですから、一度思い込むと一途なんですよ。」
「し、しかし・・・これがセックスだと知ったら、いや、デートがこういうことをすることだと知ったら、当然嫌がったでしょう?」
「それが・・・あの子ったら、こういうことをされてみたいって言うんです。好きな人に力づくで犯されたいって、そんなこと言うんですよ。」
「そ、それは・・・本当ですか? 本当に言ったんですか?」
「ええ、本当です。ですから山本様、お嫌でしょうけど、明菜のためにお力を貸していただけないでしょうか。どんな乱暴をなさってもかまいません。それが明菜の望みなのですから。」
 明正は目の前の写真集を捲りながら、いくつかのレイプシーンを見つめた。
 そしてその女性モデルを頭の中で明菜に置き換えてみた。
 あの、性とは無縁なところにいるような美少女が無理矢理犯され、陵辱される姿を想像すると、図らずも明正の男の情欲が沸々とわき上がってくるのだった。
 しかも本人はそれを望んでいるのだと言う。恐らくこんな美少女を堂々と犯せるチャンスは2度と巡ってこないだろう。もし、ここで拒否すれば、その恩恵はきっと誰か別の男にもたらされてしまうに違いない。そうなったら後悔してもしきれないではないか。
「わ、わかりました・・・お引き受けします。 ただ、一つだけ確認しておきたいのですが、彼女はすでに男性経験はありますよね? もし未経験だとしたら、さすがに罪悪感を感じますから。」
「男性経験・・・・ですか? フフフ・・・ええ、もちろんあります。でも、彼女にとってこれまでは『ノーマル』な体験ばかりだったみたいですわ。」
「そうですか、それで安心しました。では明菜さんのためにもがんばらなくてはなりませんね。アハハハ」
 美穂は、写真集を興味深そうに眺める明正を穏やかな笑顔で見つめた。
 だが、内心は大声で笑い出したい気分だったのだ。美穂は心の中で明正に語りかけていた。
「あなたは誤解しているみたいだけど、明菜は正真正銘のバージンよ。でも私、嘘は言っていないわ。だって『男性経験』と聞いたでしょ?『男性経験』は豊富ですもの。それにヴァギナを持つ前の明菜にとって『ノーマル』なセックスはアナルセックスのことよ。フフフ・・・。 あなたは今夜、明菜のバージンを無理矢理奪うことになるの。その明菜が本当はあなたの息子『明彦』だとも知らずにね。」
  

 美穂から指示されたマンションまでは徒歩で10分ほどの距離だった。
 彼女は明正に、自分は準備のために先に行くので、1時間後にメモを頼りに来て欲しいと告げ、彼に地図とマンション名及び部屋番号が書かれたメモを手渡したのだった。

 明正はエントランスにあるドアホンを押そうと指を伸ばして、引っ込めた。
 喫茶店での別れ際に美穂が残した言葉を思い返すためだ。
「山本様、明菜は本当にかわいそうな子なんです。たとえ間違った思い込みをしていようとあの子の望みは叶えてあげたいんです。無理矢理犯されることが幸せだと思っているあの子の望みをどうか叶えてあげてください。決してひるんだり躊躇ったりしないでください。あの子は敏感ですからすぐに気づきます。そして悲しむでしょう。あなたから愛されていないと思って・・・。お願いします。あの子を悲しませないためにも本気で演じてください。たとえあの子が変なことを口走ろうと、本心はあなたに無理矢理レイプされることを望んでいるのです。そのことだけは忘れないでください。」

 明正は大きく深呼吸をした。
(よし、今日だけは、俺も暴行魔になりきってやる。女を徹底的に陵辱する暴行魔に。)
 明正はそう心に言い聞かせると、改めてドアホンのボタンを押した。
  
 (続く)

 

私立明倫学園高校 第10章-6

 明菜と二人きりになるや、学園長はすぐにドアをロックし、カーテンを閉め、それからゆっくりと明菜の前に立った。
「さあ、明菜、お礼の時間だ。 心を込めてお礼をしなさい。」
「ハイ・・・センセ アキナ・・・スキ・・・オレイ・・・スキ・・・センセ・・スキ・・・」
 明菜はその場に跪き、ズボンのベルトに手をかけたかと思うと、手慣れた手つきでそれを外し、ズボン、トランクスと少しの滞りもなく脱がしていった。
 現在の明菜の能力にも関わらず、これほど手際よく進められるのは、きっとこの作業を身体に染み込むほど何度も経験しているからなのだろうと、学園長は思った。
 だが明菜がその経験値の高さを実証したのは、その後だった。
 舌と唇を微妙に使い分け、押したり引いたりの手管を駆使し、男の敏感な部分を巧みに刺激するそのテクニシャンぶりに学園長は驚いた。
 
 彼は以前、某ニューハーフクラブで「彼女」たちのフェラテクニックに舌を巻いたことがある。そこで、一人の子に、どうやってそんな巧みなテクニックを身につけたかを聞いてみたところ、「それは元男だからよ。どこを舐められたら気持ちいいか、経験しているんだから当然よ。」と答えくれた。
 彼は、明菜のテクニックを堪能しながらそのことを思い出していた。
(なるほど、明菜がこんなに上手なのは、元男だからだ。経験しているんだから当然か。)
 彼はそう思いかけて、ハッとした。
 明菜には今までに男としてフェラチオされた経験はないのだ。いや、これからだって経験することはない。きっと明菜のテクニックはすべて実践で身につけたものに違いない。
 ここに至るにはおそらく様々なテクニックを試してみたことだろう。
 
 ここを舌で刺激したらどうかしら? あ、よかった。感じてくれたみたいだわ。
ここはこんなふうに舐めてみたらいいのかしら? だめね、あまり喜んでくれない。
 この辺は? ちょっと強めに吸ってみたら? ああ、うれしい、声を上げてくれてる。
 強く吸い込んだ方がいいの?それともゆっくり繰り返した方がいいの? あ、いけない、強くしたら止められちゃった。わかったわ。ゆっくりなのね。
 もっと喉の奥まで飲み込んだらいいの? 苦しいけど・・・すごい喜んでくれてるみたい。
 え?今度は速くしろってこと? こう? こうでいいの? ジュルジュルって音が出てるけど・・・あ、この音がいいのね。わかった。もっと音たててあげる。
 よかった・・・イッてくれた・・・でも、これってどうしたらいいの?飲み込んだ方がいい? それとも・・・・え? あ、わかったわ。あなたの目を見ながらコクッてすればいいのね。

 そんな思いを明菜はこれまで何十回何百回と経験してきたに違いない。
 自分が男でありながらフェラチオされる快感も知らないまま、他の男にその快感をもたらすためだけに努める。
 男として生きていれば絶対に必要のない試行錯誤を明菜はこれからも、し続けなければならないのだ。
 そう思うと、懸命に奉仕を続ける明菜の姿がいたいけで、儚くて、哀れにも思えてくる。 だが、そんな学園長の微かな同情心を打ち消したのも明菜自身のテクニックだった。
 同情心はその数倍の大きさの陵辱欲に代わっていった。

 ジュルジュル、シュポシュポと隠微な音をたてながらの奉仕は、喉奥まで迎え入れるディープスロートに変わった。
 学園長のうめき声の変化とペニスの膨張ぶりに、絶頂を察知した「ベテラン」明菜の適切な判断だ。
「ううっ・・ううむ・・」
 ペニスの先端が喉奥に飲み込まれる快感に学園長は思わずうめき声を上げた。
「ング、ングングゥ・・」
 苦しそうな声と共に、明菜の眉間に小さな皺が寄った。
 学園長お気に入りの表情だ。いかにも苛めてくださいと言わんばかりの表情を見ているだけで果ててしまいそうになる。
 このまま明菜の喉奥に大量のザーメンをぶつけてしまおうと思った瞬間、さらなる邪心が学園長の心にわいた。
 学園長は明菜の口から暴発寸前のペニスを引き抜いた。
「ベテラン」明菜にはそれが何の合図かすぐにわかった。顔で受け止めろということだ。
 明菜は目の前のペニスを右手で握ると細い指先で巧みにストロークを始めた。
「アキナ・・ザーメン・・スキ・・・ザーメン・・・ゴホービ・・・アキナ・・・スキ」
 明菜は右手でストロークを繰り返しながら、左手で睾丸を刺激し始めた。
 男がただ仁王立ちするだけで、女が自ら射精に導き、そしてそれを顔で受ける。それが多くの男が好むスタイルであることを明菜は身につけていたのである。
 だが、このままただの顔面シャワーでフィニッシュを迎えようと思うほど、学園長の心は純粋ではなかった。明菜の被虐性にすっかりSごころを刺激された彼に自制心はなくなっていた。
「いいか、『明彦』、今からお前は私のザーメンを浴びるのだ。自分で私のペニスをしごき、自ら進んで浴びるのだ。お前をこのような運命に導いた憎むべき男のザーメンを。どうだ?『明彦』、それでもお前はうれしいのか?」
 学園長の残酷な言葉に、明菜は一瞬ピクッと反応し、両手の動きを止めた。
 だが、次の瞬間には、再び虚ろなまなざしとぎこちない笑みが戻り、
「アキナ・・スキ・・ゴホービ・・ザーメン・・スキ・・タクサン・・ホシイ」
 と、カタコトのアクセントで言った。
「そうか、明彦はそんなに俺のザーメンが好きか。よし、明彦、好きなだけしごけ。そして好きなだけ浴びればいい。ほら、明彦、しごけ!」
「アキナ・・スキ・・タクサン・・ザーメン・・スキ・・ホシイ・・・」
 明菜の瞳が照明に照らされてフルフルと揺れ始めた。涙がこみ上げいるのが見下ろす学園長の目からもわかった。
「いいか、明彦、これからお前は毎日ここに来て、俺のザーメンを浴びるのだ。それが、勉強の全くできないお前が唯一合格できるテストだ。いいか、明彦、毎日だぞ。」
「アキナ・・マイニチ・・ザーメン・・スキ・・イッパイ・・ホシイ」
 明菜の目から溢れた涙が止めどなく流れ落ちた。
 その儚げな涙を見た瞬間、学園長の欲望の堰が決壊した。
「う、うっ、い、いくっ・・・明彦ぉ、う、うけとめろっ・・・」
「アキナ・・スキ・・ザーメ・・ウッっ・・」
 白濁の第一撃が言いかけていた明菜の微かに開いた口元を直撃した。
 すぐに第二撃、第三撃が後に続いた。
 形のいい鼻腔から右瞼にそって白い筋ができた。
 そこには男の陵辱欲をかき立てて止まない泣きボクロがあった。
 明菜の目から溢れ出す涙と白濁が混じり合い、泣きボクロを消した。

 
 大量のザーメンを放出したことで一時は鎮まった学園長の情欲は、白濁を浴びたまま床に横座りになって、涙を流しながらも口元に笑みを浮かべている、そんな明菜の姿を前に、再びその炎を燃やし始めたのだった。
 明菜の巧みなフェラテクニックによって硬度を回復した彼のペニスの新たなターゲットは、言うまでもなく明菜のアナルだった。
 だが学園長は、いきなり明菜を四つんばいにさせバックからペニスを突き入れるほど若くはないし、「ノーマル」でもなかった。
 学園長は明菜の服を脱がせた。美穂から服は汚さないようにとの要望があったこともあるが、何よりも裸を見てみたかった。もちろん、DVDでは何度も見ている。だが、実物を目の前で見たことはない。
 もしかしたら9年間の苦境が明菜の身体を衰えさせているかもしれないと思うと、多少の不安もあるが、それでもやはり見てみたかった。
 だが、実際に目にした明菜の裸体は、その予想を良い意味で裏切った。
 明菜の身体は9年前とほとんど変わっていなかった。
 細く長い手足と折れそうな程華奢な骨格、乳首の先端がわずかに上を向いた美乳は縊れを強調するウエストの細さとのバランスで、Eカップ以上のバストサイズに見せている。プリンとした小山を持つヒップラインはうっすらと脂ののった太股へと流れるような曲線を描き、そのラインはキュッとしまった足首まで続いている。
 その見事なまでに整った「女体美」は9年前にほぼできあがっていて、9年経った今、完成形にたどり着いたのだ、それが明菜の裸体を目の前にした学園長の印象だった。
 だが、その完成された女体美にあってはならないたった一つの異物が、今も明菜の股間にはある。小指の先ほどの小さな異物だが、確かにそこに現存している。
 今、明菜の裸体を写真に収め、それを知らない誰かに見せて、感想を求めたら、恐らく10人が10人同じ感想を述べるだろう。
「これは、どこかのハーフのグラビアアイドルの写真に、誰かがいたずらでペニスを合成したんだよ。でも違和感ありすぎだよ。どうせ悪戯するならサイズ調整はきちんとしなくちゃ。ペニスのサイズ縮小しすぎだよ。」と。

 学園長は裸の明菜の腕を掴むと、部屋の隅に導いた。
 そして自分はそこに置かれた予備の椅子に腰掛けると、明菜の細い身体をむき出しの膝の上に乗せた。懸命なフェラ奉仕によってすでに臨戦態勢のペニスが明菜の太股を下から突き上げた。
 彼はキャスター付きの椅子をわずかに移動させ、目の前の姿見と正対した。
 鏡には学園長と彼に抱きかかえられ横向きになった明菜の姿が映し出された。
「さあ、今度はご褒美の時間だよ。ご褒美は好きか?」
 明菜は定まらない視線を鏡の方に向け口を開いた。
「アキナ・・・ゴホービ・・スキ・・イッパイ・・・ゴホービ・・・スキ」
「そうか、では、明彦はどうだ? 明彦もご褒美は好きか? 俺のチ○ポがお前のアナルを犯すんだぞ。それでも好きか?」
 明菜の身体がピクっと反応し、視線が動いたように見えたが、すぐに元の表情に戻った。
「アキナ・・スキ・・ゴホービ・・ホシイ・・・ゴホービ・・・イッパイ・・ホシイ」
「そうか、明彦も欲しいか。お前をこんな目にあわせた男のチ○ポで女にして欲しいというのだな。よし、わかった。望みを叶えてやる。」
 学園長は明菜の身体の位置を調整し、鏡に正対するように座り直させた。
 明菜の細い両脚は、彼の二本の太股に割り裂かれ、ぶらりと宙に浮いている。
 学園長は固くなったペニスが明菜の柔らかい尻肉を下から押し上げているのを確認すると、Eカップの美乳を後ろから鷲づかみにし、荒々しくもみ上げた。
「アンッ・・・」
 明菜の口から本能の声が漏れた。
「そうか、明彦は胸を揉まれるのが好きか?男のくせに女も羨むような巨乳娘になって、男をたぶらかすのがそんなに好きか?見てみろ、お前のせいで俺のチ○ポは暴発寸前だ。」
 学園長は明菜の身体を持ち上げ、いきり立ったペニスを鏡に映るように晒した。
「アキナ・・チンチン・・スキ・・・ゴホービ・・・ホシイ・・・イッパイ・・スキ」
「フフフ・・・そうか、チ○ポが好きか? 明彦は男のくせに男のチ○ポが好きか。しかしお前だって、ここに持っているではないか? 明彦、これはお前のチ○ポではないのか?」
 学園長は右手を胸から離すと、明菜の股間にある小さな「突起物」に触れた。
 明菜の瞳が徐々に潤み始めているのが、鏡越しに見て取れた。
「どうだ?明彦、これはお前のチ○ポではないのか?答えろ、明彦!」
「アキナ・・チンチン・・・アキナ・・・チンチン」
「そうだ、これはお前のチ○ポだ。ということは、明彦、お前は男なのだ。お前はチ○ポを使って女を犯すことのできる男なのだ。どうだ、それでもお前は男に犯されたいのか?」
「アキナ・・ホシイ・・ゴホービ・・・ホシイ・・・ゴホービ・・・スキ」
「フフフ・・・そうか、それでもお前は犯されたいというのだな。つまり、これはお前にとって不要ということだ。よかったな、明彦。お前の姉さんと兄さんは近々これを取り除いてくれるそうだ。そうなれば思う存分、ご褒美がもらえるぞ。よかったな、明彦。」
 明菜の目尻から涙が伝って落ちた。鏡越しに自分の涙を見た明菜の目には、それ故に新たな涙が誘発されていた。
 
「よし、お前にご褒美をくれてやる。心ゆくまで味わえ。いいな、明彦。」
 学園長は明菜の身体を一旦持ち上げると、今度は自らのペニスの先端に向け、明菜のアナルを引き寄せた。
「アアッン・・・」
 明菜の口から甲高い悲鳴が漏れた。
 学園長は明菜の両脚を抱え上げた。鏡に挿入部分が映るように、姿勢を微調整したのだ。 そしてそのまま下から突き上げるようにピストン運動を始めた。
「アン、アンン・・・」
 明菜の本能の声が、身体の動きに合わせて断続的に漏れてくる。
「ほら、見てみろ、明彦。俺の太いチ○ポにお前は犯されているのだ。それに比べてお前のチ○ポの哀れなこと、俺の動きに合わせて、プルプルと上下しているだけでないか。確かにこれでは女を犯すことなどできないな。アハハハ」
 学園長の突き上げる速度が徐々に上がってくる。それに伴って明菜の漏らす甲高い声は小刻みな喘ぎ声へと変化していった。
「アン、アン、アアンン・・・」
「目を開けろ、明彦。お前が一生犯される側の人間になったことをその目に焼き付けるのだ。たとえ相手が憎むべき男でも、その力に屈服し、嫌でもそれを喜びとしなければならない、そんな弱い女に、お前はなったのだ。明彦、しっかり見ろ!」
 学園長の激しい言葉に、明菜は目を開け鏡を見つめた。その瞬間大粒の涙が堰を切ったように頬を伝って落ちた。

 それから間もなく、学園長の口から絶頂を告げる叫び声が漏れた。
 明菜はアナルに小さな震えを知覚し、次の瞬間、その震えはビュビュっという脈動に変わり、身体の奥に届く熱い樹液の迸りを感じた。
「イ、イク、イクゥッ・・・」
 明菜の口からも本能の叫びが漏れた。そしてその声と前後して明菜の「突起物」の先端から透明な液体がツツーと糸を引くように流れ落ちた。それは男としての「射精」とは似ても似つかない、惨めで哀れな現象だった。
 
 明菜の虚ろな目は、鏡越しにその様を捉えていた。
 ほんの短い間だったが、明菜の口元のぎこちない笑みは消えていた。
 もしかしたら心の中の「明彦」がこの時はっきりと何かを認識したのかもしれない。
 絶望なのか、無力感なのか、諦観なのか、あるいは全く違った感情なのか、それはわからないが・・・。  

 明菜の表情に彷徨うような視線とぎこちない笑みが戻り始めた時、学園長の携帯電話が鳴った。
「はい、もしもし、おお美穂くんか?・・・・・ え? ああ、もうすっかり堪能させてもらったよ、ハハハ。え?ああ、明菜もまだここにいる。・・・・ん?化粧直し?そりゃまあ、必要だろうな、ハハハ・・・・・ うん?何だって?・・・・病院?・・・・え?去勢手術?明菜はそのことは?・・・・・うん、そうか、わかった、大丈夫だ、黙ってるから・・・・うん、じゃ、10分後に・・・うん、では・・・・」
 学園長はそこまで話すと、電話機を明菜の耳に当てた。
 明菜の耳許に「美穂お姉様」の優しい声が聞こえた。
「明菜ちゃん、お礼済んだみたいね? 先生満足なさっているみたいよ。よかったわね。もうすぐ迎えに行くからね。ちゃんとお化粧直して待っていなさいね。今日はね、これから病院に行くのよ。あ、でも、心配はいらないからね。ちょっと明菜ちゃんの『ご病気』を診てもらうだけだから。」
 明菜は、美穂の話を時折小さく頷きながら聞いていた。そして最後に「ハイ、オネエサマ」と答えると、電話機を学園長に返した。

 ソファに置かれたままの化粧ポーチを手に出口に向かおうとする明菜の背中に、学園長が声をかけた。
「明菜!」
 明菜は一瞬足を止めた。
「良かったな、お前。優しいお姉様を持って。今日はお前の『病気』を診てもらうために無理して病院の予約も取ってくれたそうだ。」
 明菜は元気よく振り返ると、虚ろな視線とぎこちない笑みを浮かべ、小さく小首を傾げながら口を開いた。
「アキナ・・・ビョーキ?」
「ああ、お前は『病気』だ。だからお姉様の言うことをよく聞いて、ちゃんと『病気』を治してもらいなさい、いいね。」
「ハイ、センセ・・・アキナ・・・オネエサマ・・・スキ・・・ビョーキ・・キライ・・オネエサマ・・・・ダイスキ」
 明菜は学園長にクルリと背を向けると、そのままドアを開け、部屋を出て行った。
 学園長の耳に、化粧室までの長い廊下を小走りに進むピンヒールの靴音が聞こえてきた。
 
 (最終章に続く)

私立明倫学園高校 第10章ー5

 一通り話も終わり、誰からも話題の口火を切る者がいなくなったのを見計らって、良介が美穂に向かって言った。
「他になければそろそろお暇しようか。美穂。」
「ええ、そうね・・・・あ、でも、ちょっと待って。あの件はお願いしなくていいの?」
 立ち上がろうとする良介を美穂の一言が止めた。

 学園長は正直、美穂の言葉にホッとした。美穂が言い出さなければ、何かの話題を振って引き留めようと思ったからだ。
 学園長が引き留めようとする理由は、何も良介や美穂とまだ話がしたかったからではない。正直言えば、明菜だけを残して二人とも帰宅してくれるなら最高だった。
 美穂に見せられた映像で、すっかり陵辱欲が刺激されてしまったのだ。
 もちろん、デスク奥には明菜のDVDが忍ばせてある。3人がこの部屋から出て行けばすぐに楽しむこともできるかもしれない。だが、今、目の間にはせっかく本人がいるのである。しかもDVDでは見たことのない明菜の新バージョン「ハーフの美少女」として立っている。 
 何とかしたいとは思っても、自ら口に出すわけにはいかない。学園長という立場もあるし、今さっきまで彼らの明菜に行った行為を批判していたこともある。
 口では偉そうに言っていたのに、結局は明菜と遊びたいだけじゃないの、と二人に思われるのも気が引ける。

「何だね、お願いって? 今さら一つ願いが増えたところで変わりはないよ。言ってみなさい。」
 学園長の言葉に良介は小さく頷くと、「では」と言って、もう一度腰を下ろした。
「お願いって言うのはですね、やはり明菜の件なんです。いや、実は入学させて頂いてからまた後日ご相談させて頂こうとも思っていたのですが・・・、もちろん、普通に入学させて頂くだけでも十分なんですが、できれば、先生・・・明菜を3年に編入というわけにはいかないでしょうか?すでに2年までは一応終了しているわけですし、なんとか1年間で卒業ということにさせていただけないでしょうか。」
「なぜだね?何か卒業を急ぐ理由があるのかね?」
「実は、先ほどお話しした『特殊会員制クラブ』なんですが、来年にはオープンしたいと考えているんです。で、そのオープニングイベントに明菜を使ったショーを計画していて、なんとかそれまでに卒業させておきたいのです。」
「よくわからんな。卒業とイベントのショーと何の関係があるのかね?」
「いえ、そのショーは企画上、明菜の卒業後でないと意味がないんですよ。」
「まあ君のことだから、私が拒否したとしても、また何かのネタで脅しをかけてくるのだろうけど、一応どういう企画か教えてもらいたいものだね。」
「先生も人が悪いなぁ。脅したりなんてしませんよ。来年以降は大事な人材を送って頂くのですから、いわばビジネスパートナーみたいなものです ハハハ・・。」
 良介のとってつけたような言い方に多少不快になりながらも、学園長は黙って次の言葉を待った。
「わかりました。それじゃ企画内容をご説明します。実は明菜には近々、性転換手術を受けさせようと思っているのです。つまり完全に女性器を持った女性になるということです。」
「うむ、まあここまで女性化を進めてしまったのだから、それが自然なのかもしれんな。明菜もその方が幸せだろう。」
 学園長は他人事のような言い方をした。それは暗に、明菜の女性化は自分ではなく、良介たちに責任があるのだとでも言いたそうな口ぶりだった。
「ええ、まあそういうことなんですが。それで美穂たちの法律事務所の方々にもお力をいただいて、法的に性別変更と兵藤明菜としての改名も行います。つまり「明彦」はこの世から消えることになるわけです。」
「うむ、それがショーとどういう関係があるのかね。」
「先生、せっかく明菜が本物の女性に生まれ変わるのですよ。これをオープニングイベントの目玉にしない手はないでしょう?」
「どうも君の話は遠回しでいけない。具体的に何をしようと言うのかね。」
「ハハハ・・・それは失礼しました。つまり、完全に女性となった明菜のロストバージンをショーとして招待客に見てもらおうというわけです。もちろんステージなどという形ではなく、明菜と相手の男性には個室で普通に過ごしてもらいます。当然本人たちにはショーであることなど知らせません。招待客達は隠しカメラで映された映像をスクリーンを通じて目にすることになります。」
「なるほど、サディストの君が思いつきそうなことだ。大方、どこかの巨根男かなんかに相手をさせようとでも思っているんだろう?まあ、確かにスリリングなショーにはなるかもしれんが、きみがそれほど力説するほどのものでもないような気がするよ。それにそれだけなら明菜の卒業は関係ないではないか。」
「ちょ、ちょっと待ってください。話はまだ終わってません。 問題は、その明菜の相手です。先生の言うようなどこかの巨根男に相手をさせて、安っぽいAVみたいなものにするつもりはありませんので。」
「では、誰に相手をさせるというのかね。」
 学園長は自分のアイディアをあからさまに否定されたために、多少投げやりな口調で言葉を返した。
「ええ、最高の適任者が一人いるんです。企画はその人物抜きには成り立ちません。幸い、現在、明菜の写真とメール、とは言っても、メールはこちらで勝手に作ったものですが、それを使ってその男性に徐々に接近しています。彼も美少女明菜には随分関心があるようで、今のところ順調に進んでいます。おそらくイベント当日にデートとして呼び出すことも、個室で明菜のロストバージンの相手となることもうまくいくでしょう。・・・・その人物は 山本明正 現在54歳既婚者です。」
 良介は、話を一旦止めた。学園長の反応が見たかったからである。
「うむ、なぜ、そんな中年男を相手に選んだのだ? もっと若くて精力の有り余った奴らの方がショーとしても盛り上がるのではないか?」
「いえ、そんな奴らより、その中年男の方が絶対に面白いショーになるはずです。」
「う~ん、君たちの考えにはついて行けないな。」
「学園長、もう一回言います。その人物は 山本明正、54歳です。いかがです?ピンときませんか?」
 良介の含みのある言い方が気になり、学園長は何度かその名を口にしてみた。
 そして次の瞬間、
「ああ、そうか・・そうだったのか。なるほど、それは確かに面白いショーになりそうだ。実の父親にロストバージンの相手をさせるとは、君たちも恐ろしいことを思いつくね。」
「ハハハ・・・お気づきになりましたね。先生も当日ご招待いたしますので、ぜひショーをお楽しみいただければと思いますが。」
「ほぅ、そうかね。それはうれしいね。ぜひ見てみたいものだ。ハハハ」
 学園長はそう言って笑った後、口元に笑みを浮かべたまま、さらに言葉を継いだ。 
「だが、やはり明菜の卒業とは何の関係もないではないか。」
「先生、明菜が父親から勘当された理由をお忘れですか?」
「理由? それは・・つまり・・・女になりたいと言いだした変態息子が卒業もできず・・・ハハハ・・・なるほど。きみは筋金入りのSだね。大したものだ。」
「わかりましたか、先生。卒業できなかったことが勘当の大きな理由でした。ですから、息子としては卒業できなかったけれど、今度は娘として改めて卒業して再会させるんですよ。もちろん正体を明かすのはロストバージン終了後ですけどね。これは見物ですよ。」
「確かに、それは見物だ。私も絶対に見に行かせてもらうよ。」
「ですから、先生、ぜひ3年に編入という形を取って頂いて、1年間で卒業ができるようにしてくださいませんか?。」
「うむ、わかった。君たちの頼みだからな。そのように処理させてもらうよ。」
学園長の言葉に敏感に反応したのは美穂の方だった。
「どうもありがとうございます。 ただ、先生、私たちの頼みだからではないでしょう?
本当はご自分がショーを見たいからではないですか?フフフ」
 美穂は時折、学園長のズボンの前にチラチラと視線を送りながら、無遠慮な口調で言った。
 その瞳には、(どうせ、あなたも私たちと同じSなんでしょ?明菜の苦しむ姿を想像してズボンの前を膨らせているんじゃない。もうわかっているのよ。)とでも言っているかのような含みのある光が宿っていた。


「まだ他に何か言っておくことはないかね?」
 学園長は、帰り支度を始める良介と美穂に向かって声をかけた。時折その目は隅で立ちつくしている明菜に向けられていた。
 彼は良介達から出るであろうある言葉を心待ちにしている。すでにズボンの中で熱く滾ったペニスがその言葉を欲していた。
「いえ、今のところはありません。また何かありましたら、ご連絡を差し上げますので。」 良介はそう言うと、ソファから立ち上がり、美穂と共にドアに向かった。明菜もその後を小さなステップで追った。
「本日のお礼は、後日改めて私どもの方からさせていただきますので・・・。」
 美穂はドア付近で握手を求めて手を差し出した。
 学園長は求めに応じて手を出ながら、耐えきれなくなったのか、とうとう自分からその言葉を口にした。
「いや、君たちからのお礼はそれでかまわんのだが、できれば今、明菜からの『お礼』をいただくわけにはいかないだろうか?」
「明菜からの・・・お礼?・・・ ああ、なるほど、わかりましたわ。」
 美穂は満面に笑みを湛え、大きく頷いた。そして学園長の股間に目を向けながら、
「嫌だわ、先生。そうならそうと、もっと早くおっしゃってくださればよかったのに。」
 と悪戯っぽく言った。
 良介の言うように、最もS性を秘めているのは美穂なのかもしれないと、学園長は思った。
「明菜、どうする?先生、今『お礼』が欲しいんですって。『お礼』して差し上げる?」
 美穂が優しい口調で明菜に語りかけた。
「アキナ・・・スキ・・・オレイ・・・スキ・・・オレイ・・・シタイ・・」
 明菜は学園長の方に顔を向けながら言った。定まらない焦点とぎこちない笑みは相変わらずだったが、それが彼にはたまらなく魅力的なものに感じ始めていた。
(くそっ!この娘は俺をどこまで悩ませるんだ?)
 学園長は、どこまでも男の陵辱欲を刺激し続ける明菜の魔性を感じ取りながら、そう心の中で囁いた。
「先生、明菜もお礼がしたいって言ってますので、ここに置いて行きますわ。30分後・・・いえ、1時間後に他の所用を済ませて迎えに参りますので、それまでごゆっくり『お楽しみ』ください。 ただ、先生、その後行くところがありますので、くれぐれもお洋服だけは汚さないでくださいね フフフ」
 美穂はそう言い残して、良介と共に学園長室を後にした。

 (続く)

私立明倫学園高校 第10章-4

「かわいそうに・・・」
 学園長は、虚ろな表情で黙って立ったままの明菜を見てポツリと言った。
 良介がそれに気づき、学園長を見た。
「今、何ておっしゃいました?」
「い、いや・・・かわいそうにと言っただけだ。」
「かわいそう・・・と、先生がおっしゃるのですか?」
「ああ。こんな悲惨な目に会わされるなんて、かわいそうと言わず他に何と言ったらいいんだ?」 
「先生、それはおかしいんじゃないですか? 元々は学校側がSクラス生に行ったことが原因ではないですか。それを今になって、悲惨だとか、かわいそうだとか言うのはお門違いではないですかっ?」
 良介は声を荒げた。
 学園長はその言葉をただ黙って聞くより他になかった。確かに元を辿れば学校側に責任のあることだし、その最高責任者であり、現在の指導方針を作った自分に最大の責任があるのは明らかである。たとえ明菜のような悲惨なケースが生じるなどとは思っていなかったにしても、だからと言ってその責任が減免されようはずがない。
 学園長の心に沸いた自責の念は、明菜の哀れな姿を目にした瞬間、押しつぶされそうな罪悪感へと変化していった。
 しかし、今、明菜に対して贖罪として自分にできることは何もない。それならせめて自分の罪を少しでも減じるための方便が欲しかった。
「まあ、せめてもの救いと言えば、明菜に手術前の意識が残っていないということだね。
現在の意識しかないのであれば、カタコトしか話せないことも、虚ろな表情も、そして性的な行為だって当然のことと受け止めているだろう。決して屈辱的とか恥辱的とか思うこともない。それはそれで一つの幸せとも言えるわけだ。そうだろう?」
 学園長は、自分に言い聞かせるように言った。

 学園長の言葉を聞いて美穂と良介は顔を見合わせた。そしてどちらともなく頷き合うと、美穂がソファから立ち上がり、明菜のそばに歩み寄った。
「ねえ、明菜、先生がね、あなたは幸せかって聞いているわ。どうなの?本当に幸せ?」
 美穂は明菜の長い髪を撫でながら、優しい口調で話しかけた。
 明菜は定まらない虚ろな視線のまま何回か瞬きをした後、ぎこちない笑みを浮かべながら口を開いた。どうやら何かを話すときには必ず口元に笑みを浮かべることが身に付いているようだ。
「センセ・・・アキナ・・・シアーセ。 アキナ・・ウレシイ、シアーセ」
「そう、それはよかったわ。お姉様も明菜が幸せって聞いてうれしいわ。」
 美穂はそう言うと学園長の方に微笑んでみせた。彼もそれに頷いて返した。明菜の笑みに自分の罪もわずかばかり免じられた気がしたのである。
 だが美穂は良介と目配せをすると、さらに言葉を続けたのだった。
「では、明彦くんはどう? 明彦くんも幸せ?」
 学園長の目が丸くなった。美穂の思いがけない言葉に息を飲んだ。
「アキナ・・・シアーセ・・・シアーセ・・・ウレシイ・・・」
 明菜の言葉は先ほどと変わらず、笑みも虚ろな目も同じだった。
「そう、明彦くんも幸せなの? 自分の話したいことを話せなくても? 近所の男の子達に苛められたり、バカにされたりしても?」
「シアーセ・・アキナ・・・シアーセ・・・ウレシイ・・」
「今日みたいに運転手さんにお礼する時も? 本当は男なのに、他の男のペニスをフェラチオする時も? お顔にいっぱいザーメンをかけられても、それでも明彦くんは幸せ?」
「シアーセ・・アキナ・・・ウレシイ・・シアーセ」
 明菜の様子に微妙な変化が現れてきた。言葉つきは変わらない。表情も相変わらずだ。
 ところが、瞳をよく見てみると、うっすらと涙が浮かんできたのがわかった。
「本当は男なのに、娘としてパパに甘えたり、パパの好きなエッチな服を着せられたり、ベッドでパパのお相手をする時も、明彦くんは幸せ?」
「アキナ・・・シアーセ・・ウレシイ・・・シアーセ・・」
 明菜の瞳の涙は大粒の固まりとなって頬を伝って落ちた。
 美穂はそれを指先で拭うと、明菜の頭を優しく撫でてから再びソファに腰を下ろした。 その瞬間、明菜の細い顎先から次の涙の滴が落ちた。

 怪訝そうな顔を浮かべる学園長に美穂は微笑みかけた。
「先生、ご覧になった通りです。 明菜の心には今も『明彦』が残っているのです。言葉や表情には表せませんが、『明彦』としての屈辱感や恥辱感を涙で伝えてきます。特に今のように『明彦くん』と呼びかけながらの時ははっきり現れます。」
 学園長は、明菜の顔をのぞき込んだ。
 虚ろな視線、無理矢理作った笑み、そして今なお流れ落ちている涙の筋。
 もしも美穂の言うことが正しいのであれば、心の中の「明彦」の屈辱はまだ続いているということだ。
「こ、これは、君たちが意図して行ったことなのか・・・? つまり・・・・手術後も『明彦』の心を残したままにするということは?」
「フフフ・・・当然ですわ。 こちらの意図を、お医者様と相談しながら進めた結果です。」
「そ、それでは、いくらなんでもひどすぎるではないか? だってそうだろう? いついかなる時も、表面上は『知恵遅れのハーフ娘』であり続け、内面でそれを屈辱と思っても、表情すら変えられず、たった一つの表現方法が涙だけ。もしもこれを意図してやったのだとしたら・・・・君たちはそんなに明菜のことを恨んでいたのか?」
「恨み? 先生、それは誤解ですわ。私たちは明菜に恨みなんてまったく持っていません。
だって、卒業式の時だって、明菜が私たちを騙そうとしたわけではありません。すべて学校側が仕組んだことでしょう? 私たちに明菜を恨む理由なんて一つもありません。」
「で、では、なぜここまでの仕打ちをするのかね? 元親友である明菜を苦しめる理由が私にはわからない。」
「理由・・・ですか? それは簡単です。明菜の涙が見たいから・・・それだけです。」
良介が美穂に変わって言った。口元には含みのある笑みが浮かんでいた。
「どういうことだ、それは・・・?」
「先生、実は私には父親譲りの性癖、つまり強度のS性があったようです。それを学園の指導によってすっかり開花させられたってことです。先ほどお話しした新しいビジネス、『特殊会員制クラブ』なんていうのを思いついたのは、そんな性癖に気づいたからなんですよ。とにかく常に誰かを征服したい、屈服させたい、陵辱したいという気持ちがあって、弱者が見せる苦悶や悲しみや恥辱の表情は私の性的興奮をおさえようもないほど高めてくれます。特に明菜のような儚げなか弱さを持っている者なら尚更です。その上、元親友の女性化した姿だと知ったら、もう抑えることができませんでした。明菜の悲しむ顔、苦悶に歪む顔、恥辱に赤くなる顔、それはすべて私にとって魅力的なものです。明菜の涙はそんな私の陵辱欲を十二分にかき立ててくれるものなのです。」
「つまり、君は自分のS性を満足させるためだけに明菜を苦しめているということなのか?」
「ええ、まあ、そういうことになるでしょうね。」
 良介は事も無げに言った。自分がS性を持ったのは学園にも責任があるのですよ、とでも言いたげな表情だった。

「うむ、百歩譲って、君のS性を引き出したのが学園の指導のせいであり、それによって明菜をこのような境遇に導いたということは認めるとしても、村瀬くんの場合はどうなのかね? 君に明菜をかわいそうだと思う気持ちはないのかね? 仮にも君の元恋人ではないか?」
 学園長は美穂の目を見て言った。
 だが、美穂はちょっと照れくさそうに口元に笑みを浮かべるだけで言葉を発しはしなかった。彼女に代わって口を開いたのは良介だった。
「う~ん、先生はまた誤解していますね。私と美穂とそして私の父の3名の中で、明菜の涙、つまり『明彦』の心の涙ですが、それを最も見たがっているのは誰だと思いますか?・・・実は美穂なのです。美穂は事ある毎に『明彦くん』と呼びかけながらいろいろな行為をします。その度に明菜はぎこちない笑みを浮かべ、ボロボロと涙を流します。それを見ると美穂はたまらなくなるみたいで、ますますエスカレートしてしまうようです。要するに美穂が我が家で一番S性が強いってことかもしれませんよ。ハハハ・・」

「信じられんな、そんな話・・・。」
 学園長はポツリと呟くように言うと、美穂の方に視線を送った。
 確かに美穂は長身だし、知的だし、姉御肌でもあり、一見するとS女性に見えなくもない。ただ、それはあくまで外見から受ける印象であって、彼女のこれまでの性格から言って、弱い者を苛めることに性的興奮を得るような女性には思えなかったのだ。
「いえ、良介の話は本当ですわ。確かに私が一番S性が強いのかもしれません。明菜の涙を見てるともっと苛めたくなって、興奮が止まらなくなることもありますから。それに仕事中も時々明菜の涙を思い出して、一人で慰めてしまうことだってありますからね。そんな時はノートPCに入れてあるお気に入りの動画で・・・・・・あ、そうだわ。先生、もしよかったらご覧になります?」
 美穂はそう言うと、学園長の返事も待たずに、傍らに置いたバックを手元に引き寄せ、中から小型のノートPCを取り出した。
 学園長は呆然と美穂の様子を見ていた。美穂自身の口からS性の話や、オナニーの話が出るなどとは予想もしていなかった。性的に大胆になったのは良介とつき合うようになったからなのか、明菜を「妹」として迎えるようになったからなのか、それとも隠れた本性だったのか、その答えはわからないが、いずれにせよ美穂が自分の思い描いていたような知的で美しく、真面目で性的に奥手というイメージの女性でないことだけは確かだった。

 映像が始まった瞬間、学園長は「あっ」と一声上げると、目をこれ以上ないほど見開いた。
 チャコールグレーのパンツスーツを颯爽と着こなしている美穂と、アメリカのカトリックスクールの制服を模したような白ブラウスとタータンチャックのプリーツミニスカート姿の明菜が映しだされていた。明菜のハーフのような外見が制服のイメージにとてもマッチしている。
「明菜、お姉様にお礼なさい。」
 仁王立ちになった美穂が、そばに立っている明菜に声をかける。
「オネエサマ・・・アキナ・・・オレイ・・・スキ・・・オレイ・・・スキ」
 明菜は美穂の足許に跪くと美穂のパンツに手をかけ、ゆっくり脱がしていく。
 次の瞬間、映像は美穂の股間に本来あってはならないものを捉える。
 ディルドゥ・・・それも色といい形といい男性の巨根を完璧にコピーしたようなものだ。
 明菜は美穂の指示を待つことなく、その巨根に丁寧な奉仕を始める。
 舌と唇を巧みに操り、時折夢見心地の笑みを浮かべながら行う姿は、まさに天性の淫乱性をさらけ出しているように見える。
 ジュルジュルという猥褻な音が映像から間断なく漏れてくる。
 しばらくして、美穂の声がする。
「さあ、明菜、今度はお姉様がご褒美を上げるわ。ベッドで四つんばいになりなさい。」
「ハイ・・オネエサマ」
 明菜はそう言うと、ベッドに乗り、言われるまま四つんばいの姿勢をとる。
 マイクロミニのプリーツスカートの裾が捲れあがり、ピンクのショーツが露わになる。 美穂は明菜の背後に回ると、ショーツをゆっくりと脱がし、膝まで達した後は一気に抜き去った。
 そして、跪いてディルドウの先端を明菜のアナルに向けると、
「さあ、ご褒美の時間よ。明菜はご褒美好き?」
「オネエサマ・・・アキナ・・・スキ・・・ゴホービ・・・スキ」
 明菜はそう言いながら、自らの形のいいヒップをディルドウに近づけるかのように動かしていった。
「フフフ・・・相変わらず、淫乱なのね、明菜は・・・。」
「アキナ・・・ゴホービ・・・スキ・・・アキナ・・・インラン・・・・スキ」
 明菜はさらにディルドウの先端を求めて身体を動かすが、美穂はわざと身体をずらし、その動きをかわす。
 美穂は口元にサディスティックな笑みを浮かべて言った。
「明彦くんはどうなの? 好きなの? お姉様に犯されるの好きなの?」
 その言葉に明菜は一瞬ピクっと反応したが、すぐに
「スキ・・・アキナ・・・スキ・・・ゴホービ・・・スキ」
 美穂はもう一度態勢を整えて、ディルドウの先端をアナルに合わせると、今度は焦らすことなく、一気に腰を前に押し込んだ。
「アアッッ・・・」
 明菜の口から小さな悲鳴が漏れた。      
「ほら、明彦くん、あなた今、昔の恋人に犯されてるのよ。男なのに、女として犯されてるの。どんな気分?」
「スキ・・・ゴホービ・・・アキナ・・・・ゴホービ・・・スキ」
 明菜の目が微かに潤み始めたのを映像は捉えている。
 美穂の腰の動きが少しずつ早まっていく。
「アアン・・・アア・・」
 明菜の声が徐々に高くなっていく。教え込まれたものではない本能の声だ。
「明彦くん、あなたは男として私を犯したくはないの? それとも女として私に犯されたいの?」
「アアン・・・アキナ・・・スキ・・・・ダイスキ   アンンン・・・アキヒコ・・キライ・・ダイキライ・・・アア」
 明菜の言葉に喘ぎ声が混じっていった。同時に潤んだ瞳から一筋の涙が右頬を流れ落ちた。
「フフフ・・・可愛いわよ、その涙。お姉様にもっとみせてちょうだい。その泣きボクロにとっても似合うわ。」
「アアアンン・・・アアン・・・・」
 明菜の喘ぎのオクターブがさらに上がっていった。
「フフフ・・・もう、イキそうなのね。いいわよ、イッチャなさい。明彦くん、女になってイッチャいなさい。明彦くん!」
「アアアアアンンン・・・アアア・・・イク・・・イクゥ・・・・」
 瞼を閉じた明彦の目尻から、涙の筋が幾重にも重なって落ちた。
 固定カメラなので、アップでは捉え切れていないが、かろうじて映し出された明菜の股間には、小指の先ほどの「クリトリス」の先端から白濁とはほど遠い透明の樹液が滴り落ちていた。


「先生・・・先生!」
 映像に釘付けになっている学園長を美穂が呼んだ。 
「あ、うん、す、すまん・・・」
 学園長は映像の終わったモニターにまだ視線を残したまま答えた。
「いかがでした?先生。私のお気に入り映像です。明菜の可愛くて弱そうな所がそそられません?」
「あ、ああ、なかなかの映像だな。」
「でしょ?先生のご趣味にも合うんじゃありません?フフフ・・・」
 美穂は意味深な物言いをすると、PCをバックにしまった。  

 確かに美穂の言う通りだと思った。元カノの美穂に女として犯される屈辱を明菜の涙はすべて表していた。
 学園長はソファに座りながら体勢を整えた。ズボンの前が異様に膨らんでいる様を隠すためだ。
 学園長にとってその映像は9年越しに手に入れたようなものである。
 9年前のあの卒業式の夜、明菜と良介のいる部屋に美穂が押しかけてきた時、明菜が元カノ美穂に犯されるシーンを期待した。できればディルドウでも使ってくれたらと内心ドキドキしながらテレビモニターを睨み付けていた。
 冷静に考えてみれば、一般の女子高生がそんなものを持っているわけはなく、ただの妄想に過ぎなかったわけだが、9年の歳月を経た今現実にそのシーンを目にすることができた。
 できれば、今この目の前で再現してもらいたいと言い出しそうな自分を、学園長は何とか抑えて、できるだけ冷静を装った。
 だが、そう思えば思うほどかえって、興奮が抑えられなくなってしまう。
 もし、この場に明菜と二人きりなら、もうとっくに襲いかかっているにちがいない。
美穂の物言いは、そんな学園長のS性をすっかり見抜いているかのようだった。

 (続く)

私立明倫学園高校 第10章-3

 およそ1時間後、学園長室のドアを叩く音がした。
「あら、やっとだわ。ずいぶん遅かったわね。」
 美穂は雑談を切り上げソファから立ち上がると、ゆっくりドアへと向かった。
 ドアを開けると、その細い隙間から一人の中年男の姿が見えた。
「あら?前田さん。明菜は?」
 美穂はドアから外に出ると、そのまま後ろ手に閉めた。
 そして5分も経たない内に、再びドアが開き美穂が部屋に戻ってきた。
 美穂は顔にあきれたような笑みを浮かべながら良介の座るソファに戻ると、その耳許に何やら囁いた。
 良介はわずかに頷くと、美穂同様あきれ顔を浮かべ、小さく「しょうがないなあ。」とだけ言った。  
 美穂は怪訝そうな顔で二人のやり取りを見つめている学園長に向かって小さく微笑んだ。
「先生・・申し訳ありません。もう少々お時間いただけますか。おそらくあと30分くらいだと思うのですけど・・・。」
「うん?何かまずいことでもあったのかね?」
「いえ、ちょっと、『お礼』がすぎたみたいで、メイクを全部やり直さなくてはならなくなったみたいなんです。」
「うん?何だね?『お礼』っていうのは?」
 学園長の問いかけに、美穂は意味深長な笑みを浮かべ、良介の方に視線を送った。
「いや、明菜にはですね、運転手に送り迎えをしてもらった時は必ずお礼をするように言ってあるんですよ。最近では運転手もそのお礼が欲しくて、やたら送り迎えをしたがって困ったものです。」
 良介の言葉を継ぐように美穂が口を開いた。
「でも、お外の時はやりすぎないように注意していたのに。お化粧直しが大変だからって。ね?」
「ああ、でも、前田も何日かぶりだから、きっと『溜まって』たんだろう。ハハハ・・」
 二人のやり取りを聞いていた学園長の頭には、送り迎えの「お礼」と称して、運転手のいきり立ったペニスに懸命なフェラ奉仕をする明菜のイメージが浮かんだ。そしていつもなら口中で受け止められるはずが、運転手の大量の「溜まった」ザーメンが明菜の顔を直撃。夥しい量の白濁にまみれた明菜の顔は口紅直しだけでなく化粧直しが必要だった。
 そんな想像をしている自分に気づき、学園長は小さく頭を振った。
(いくら何でも、この二人が明菜にそんなことをさせるわけはないだろう。仮にも明菜を苦境から救い出すために力を尽くし、その身を守ってやるために養子の話までまとめ上げ、さらにこうして高校入学のために訪れている。第一、彼らは元々親友同士だったではないか。何を考えているんだ、俺は・・・。)
 学園長は心の中でそう自分を戒めた。


 しばらくすると、再びドアを叩くノックの音がした。先ほどとは違って小さく弱い音だった。
 今回も立ち上がったのは美穂である。
 ドアを開けた美穂が優しい口調で言った。
「うん、ちゃんとお化粧も直っているみたいね。さあ、学園長先生もお待ちかねよ。お入りなさい。」
「ハイ・・・オネエサマ」
 
(んん?)
 学園長は一瞬、妙な感じに戸惑いを覚えた。彼の座っている位置からは、小さく開いたドアの向こうにいるであろう明菜の姿は確認できない。
 声は確かに聞き覚えのある甲高い少女らしい声だった。ただアクセントに妙な抑揚があったような気がしたのだ。
(気のせいだな、きっと?)
 学園長は明菜の入室を待った。

 学園長の目に最初に飛び込んできたのは、美穂の後に見え隠れするオレンジベージュのミニワンピースだった。
 かなり高めのヒールを履いているのが見えるが、それでも長身の美穂の後ろだと、こちらからはその姿を完全に捉えることはできなかった。
 二人がソファのそばまで来て、美穂が少し立ち位置をずらした時、学園長の目はその全身の姿を捉えた。
 小さな白いバックと共に両手をスカートの前で合わせ、じっと下を俯いているので表情は全くわからない。ただ、ヘアスタイルが9年前とはっきり違っていた。
 アンダーバストまで届くロングで、毛先にはふんわりとしたウェーブがかかり、全体がシャンパンゴールドに染められている。そこにパールをあしらったカチューシャとネックレス、そして大きめのピアスがアクセントをつけている。顔は見えないが、明らかに9年前より大人びた印象だ。
 だが、ミニワンピースから露出している細く長い手足や、折れそうなくらいの華奢なスタイル、そしてそれに似つかわしくない豊満なバストとヒップラインは、全く変わっていないように見える。いや、ワンピースの胸の膨らみを見ると、ワンサイズくらいアップしているように見えなくもない。

「先生、明菜・・・兵藤明菜です。」
 美穂の言葉に学園長はドキッとした。
 明菜の全身をなめ回すように見つめている内に、顔に下卑た笑みが浮かんでいることに自分でも気付いたからだ。
明菜がようやく俯いていた顔を上げ、ゆっくりと瞼を開いた。
 相変わらずの童顔だった。服と合わせたオレンジベージュの口紅の艶々した輝きがふっくらとした唇によく映えていた。
 だが、瞳にはブラウン系のカラーコンタクトが施されていて、シャンパンゴールドのヘアーカラーと、元々のスキっとした鼻筋とを合わせると、一見ハーフのような印象を受ける。
 さらに言えば、そのカラーコンタクトのせいなのか、視線がしっかりとこちらに向けられず、どこか無関係の方向を見据えているように見える。
 その視線と口元のぎこちない笑みが与える印象は、もし言葉を選ばずに言うなら、どこか知恵遅れの少女の無感動な表情にも見えた。
「白痴美」・・・・それが、学園長の9年ぶりに見た明菜の第一印象となった。

「先生?いかがです?9年ぶりに会った明菜の印象は?」
「あ、ああ・・・ずいぶん・・・変わったように思うが・・・」
「あら、先生? 先ほどは明菜のことは覚えていないとおっしゃいませんでしたっけ? フフフ・・・ 本当は覚えていらっしゃったんですね。まあ、無理もないですわ。だって、あの時の明菜の美少女ぶりは際立ってましたもの。男性なら誰だって注目していたはずです。」
 学園長は美穂に指摘され、顔を赤らめた。うっかりしたと思った。
 しかし、明菜を「覚えている」どころではなく、そのDVD映像でいまだに自分を慰めることがあるくらい「ご執心」だという事実が露見しなかっただけまだましだと思った。

「あの当時より、日本人離れしたと言うか・・・ハーフのようなと言うか・・・」
 学園長は話題の中心を、もう一度明菜の印象に戻そうとした。
「はい、それが兵藤のお父様のお好みなんです。お父様が結婚前に関係を持っていた少女はハーフの子だったのです。この明菜の姿を見て、お父様はかなり似ているとおっしゃっていました。」
 学園長は美穂の言葉を聞きながら、明菜の顔に目をやった。
 相変わらず、口元にぎこちない笑みを浮かべ、視線もどこか遠くに向いたままだ。
(自分のことが話題になっているのに、なぜ口をきこうともしないんだ?関心すら示さないのはどうしてだ?)
 学園長の心に疑問がわいてきた。
「もしかして、この子は口がきけないのか? 9年間の間に何か大きな病気とか、精神的な病とか・・・」
 学園長は美穂に向かって直接疑問をぶつけた。
「いえいえ、そういうことはありません。ただ、ちょっと普通ではないと言いますか・・・明菜、先生は明菜がお話できないのでないかと心配なさってるわ。自分の口でちゃんとご挨拶なさい。先生はね、明菜の入学を許してくださったのよ。ちゃんとお礼をいいなさい。」
 と、その時だった。
 それまでどこか別の所に向いていた明菜の視線が学園長に向いた。
 そして、その視線は彼の顔から徐々に下に下がり、ズボンの股間に止まった。
「オレイ・・オレイ・・・」
 明菜の小さな呟きは、学園長の耳にはほとんど意味不明の音にしか聞こえなかった。
 
 明菜は学園長の近くに歩み寄ると、静かに跪き、ズボンの太股に手を添えた。
「ちょ、ちょっと待って・・・明菜、ちがう、ちがう。そのお礼じゃないの!」
 美穂の慌てた言葉に明菜は手を止めた。右手はもう数センチでズボンの股間に触れるところだった。 
「もう、本当にびっくりしたわ。その『お礼』じゃないことくらいわからないのかしらね。
ごめんなさい、先生。私が悪かったんです。『お礼』なんて言葉使ったから。この子、『お礼』をするように言われて、さっき運転手にした『お礼』と勘違いしちゃったみたいです。」
 学園長は美穂の言葉で、先ほど抱いた「お礼」のイメージは妄想ではなかったことがわかった。
 だが、そんな性的奉仕をなぜ明菜がしているのかがわからない。美穂の言葉を聞くと、美穂がやらせているようにも聞こえる。そう考えると、彼らの関係性がますますわからないものに思えてくるのだった。

「さあ、明菜、立ちなさい。改めてご挨拶のやり直しよ。」
 美穂の言葉に促されるように、明菜は静かに立ち上がると、「ハイ、オネエサマ」と妙なアクセントで囁くように言った。そして、軽く膝を曲げてお辞儀をすると、学園長の目を見つめながらうっすらと笑みを浮かべ、小首を傾げて見せた。
「センセ・・・アキナ、ガッコ・・アリガト アキナ ウレシイ・・・アリガト」
 明菜の口調は日本語をほとんど知らない外国人のようだったが、言い終わった後のどこか遠くを見つめるような視線と口元だけを無理して動かしたような笑みを見ていると、先ほど抱いた「知恵遅れの少女」のイメージが間違っていないようにも思えてくるのだった。

「こ、これは・・・どういうことかね?」
 学園長はなるべく冷静な口調で聞いた。気持ちのまま慌てた口調で尋ねたら、とんでもなく恐ろしい解答が返ってくるような気がしたからである。
「どういうこと・・・と申しますと?」
 しばらく黙って様子を見ていた良介が久しぶりに口を開いた。
「いや、この話し方だよ。まるで外国人のような・・・。それに表情も、まるで・・・」
 学園長は「知恵遅れ」という言葉を言いかけて止めた。
「『知恵遅れ』みたいだと、そうおっしゃりたいのですね?」
「ああ、まあ・・・。」
「先生、ご推察の通りです。父の心に残っている女性は、ハーフでほとんど日本語ができず、その上多少『知恵遅れ』の少女だったらしいのです。父はその少女のいわゆる『白痴美』に魅了されたのはもちろんですが、男の陵辱欲をかき立てる儚い美しさと本能から湧き出る淫乱性にすっかり溺れてしまったそうです。」
「で、その少女の代用を明菜にやらせることで、養子の話をまとめようとしたわけか?」
「ええ、まあそういうことです。父のお気に入りの少女なら断らないだろうということです。」
「し、しかし、それでは、娘とは名ばかりで実際には愛人のようなものではないか?」
「ええ、そうですよ。完全に愛人です。現に明菜の部屋にはベッドはありません。夜は父のベッドで一緒に休みますし、リビングでくつろぐ時も明菜は決まって父の膝の上です。それに、家族の中で父を『パパ』と呼ぶように言われているのも明菜だけです。」
「うむ、それはもう愛人そのものだ。つまり性的関係もあるということだね?」
「ええ。父は昔の少女との忘れられない体験を明菜で再現しているということです。まあ、明菜にしてみれば、たとえ、娘とは名ばかりの『愛人』であっても、自分を守ってくれる強者が必要だったということです。心の中に根付いた従属性は、明菜に他の選択肢を与えなかったということでしょう。ですから、外見をこのように変えていく時にも明菜はとても協力的でしたし、積極的でもありました。」
「うむ、確かに外見もそうだが、先ほど私に迫った時に見せた「淫乱性」を表す芝居とか、ハーフの子のようなたどたどしい話し方や、知恵遅れの子のような視線や表情の芝居はなかなかのものだ。」
「芝居・・・ですか?」
「うん? そうだろう? 芝居でなければ演技とでも言ったらいいのか?とにかく大した演技力だ。習得するのに相当練習をしたんだろうな。」
 学園長はそう言うと、そばで立っている明菜の表情を見た。虚ろな視線と笑みは相変わらずだった。
「先生はこの明菜の様子を芝居や演技とお思いですか?」
「え?違うというのか?芝居や演技でないなら何だって言うんだ?」
 
 学園長はふとあることが頭をよぎった。それは当時だけでなく今のSクラス生たちの指導にも用いられている「催眠療法」という手段だった。明菜がその「催眠療法」の効果の比較的出やすい生徒だったことは、当時の担当教師からも聞いていた。
「もしかして、『催眠療法』を使っているのか?もしそうであるなら、今は解いてやってくれ。私も普通の状態の明菜と話がしたいからな。」
「先生、『催眠療法』なんて使ってませんわ。ですから解くとか解かないとか、そういうことではないんです。」
 良介に変わって美穂が口を挟んだ。良介は口をつぐみ含意のありそうな笑みを浮かべた。 どうやらこの点に関しては主導権を美穂が握っているらしかった。
「では、一体どういう手段を使っているというのかね?」
 美穂は学園長の問いかけには答えず、そのまま立ち上がると、立ちつくしたままの明菜に近づいた。そして明菜の頭を優しく撫でながら、「いい子ね。」と笑顔で言うと、美しいウエーブのかかったロングヘアーの一部を静かに持ち上げた。シャンパンゴールドが照明に照らされてキラキラと光った。
「先生、ここ、おわかりになりますか?」
 美穂はそう言うと、学園長の方に向かって、後れ毛の中に透けて見える明菜の頭皮の一部を指さした。
 学園長は身を乗り出すようにして、明菜に近づくと美穂の指さす部分を凝視した。
 長さ2センチほどの切り傷の跡らしきものがうっすらと見えた。
「んん?何かの傷跡のように見えるが?」
 美穂は髪の毛から手を離すと、もう一度明菜の頭を撫でてからソファに戻った。
 明菜の虚ろな視線とぎこちない笑みは、この間も全く変わることはなかった。

「ええ、確かに傷跡です。今はほとんど消えかけていますが、3年ほど前の手術痕です。」
 美穂は冷静な口調で言った。
「え?手術・・手術痕? 手術の跡なのか?」
「ええ。」
「何かの病気か、それとも怪我でもしたのか?」
「いえ、どちらでもありません。執刀されたのは兵藤のお父様の旧友で脳外科医をなさっている先生です。やはり持つべきものは友ですわね。私たちの無理なお願いを快く引き受けてくださいました。」
 学園長の頭の中では、バラバラになったいくつかの単語が徐々に一つにまとまり始めていた。
「手術痕」「旧友」「脳外科医」「無理なお願い」・・・・・そして明菜のあまりにも自然すぎる「演技」
 それらのジグソーパズルのピースが、彼の頭の中で一枚の絵にまとまった瞬間、その口から叫びにも似た声が漏れた。
「ええ?ま、まさかっ!・・・」
「フフフ・・・お気づきになりましたか? ご推察の通り、その、まさかです。明菜の脳には外科手術が施されています。この手術を通じて明菜は・・・・・・・」
 その後、美穂の口からは明菜の脳に施された手術の内容と手術後現在に至るまでの経緯が約30分にも渡り説明があった。
 要約すれば、手術によって言語、能力、性質、明彦としての記憶などに関する部分を取り除き、手術後は白紙になった部分にハーフ少女の特質を訓練によって植え付けたのだという。もちろん言葉で聞くような簡単なものではなく、手術から訓練までの一連の処置が終了するのに約1年半ほどの期間が必要だったらしい。ただすべての処置が終了した時、明菜は、演技ではなく真の「知恵遅れのハーフの美少女」として生まれ変わったのだった。
 説明の間、学園長は一言の言葉も発することなく、ただ呆然と聞いていた。
時折専門用語を交えての説明は、専門外の学園長にとっては理解を超える部分もあった。ただ、理解できる部分だけをつなぎ合わせても、手術が明菜にもたらした悲惨な運命だけは容易に想像することができた。

「しかし・・・・」
 学園長は、美穂の説明が一段落するのを待って、呟くように言った。
「しかし、なんだって明菜はそんな手術を受けることに同意したんだね?そこが私には理解できないのだが。」
「あの・・・明菜が手術に同意したと、私、申し上げました?」
「い、いや、直接は言っていないが、先ほど明菜は自ら進んで、その少女になりきろうとしたと言ったではないか?」
「ええ、それは確かに申しました。ただそれはあくまで外見を似せる段階までのことです。」
「うん?ということは、手術については明菜は同意していないということか?」
「ええ、同意など得ていません。第一、手術結果がこのような状態になることを知っていたら、明菜が同意するはずはないでしょう。」
「なに?ということは、君たちは本人の意志を無視して強制的に行ったというのか?」
「いえ、それも違います。明菜は最初、このカタコトの話し方と表情の作り方など、少女の特質を一生懸命身につけようとしていました。そうすることで安心して暮らせる環境、つまり養子として迎えてもらえると思って、それはもう涙ぐましい努力でした。でもどうしても自然に演じるまでにはいかなかったのです。明菜は私に泣きながら相談しにきました。何でもするから力を貸して欲しいと。それで私は兵藤のお父様と相談して、手術という手段を選びました。明菜の『何でもするから』という言葉、つまりその意志は十分尊重したということです。」
「そ、それは・・・詭弁というものだ。結果がどうなるか承知の上で、誘導したようなものではないか?」
「そうでしょうか?私はそうは思いませんけれど。」
「君たちのおかげで明菜は一生、ハーフのようなカタコトの話し方と知恵遅れのような虚ろな表情から逃れられないのだぞ。そこに罪の意識はないのか?」
「でも、先生、そのおかげで明菜は望み通り、養子として安心して暮らせる生活を手に入れ、今またこうして高校に戻ることもできるようになり、望んでいたように私たちの妹にもなることができたんです。これは幸せなことだと思われませんか?」
 淡々と笑顔で語る美穂を見ても、またそばで微笑みながら話を聞いている良介を見ても、学園長の心には何やら言いようもない恐ろしさが沸いてくるのだった。
 彼らが、街娼にまで身を落とした明菜を救い出し、安心して暮らせる生活を与えようと養子縁組の話までまとめようとしたのは、純粋に無二の親友を心配してのことではなかった。いや、もしかしたら最初はその純粋な思いだったのかもしれない。ただ、少なくとも今は彼ら二人にその思いはなくなっていることだけは確かだった。

 (続く)

私立明倫学園高校 第10章-2

「そろそろ、君たちに学園の秘密を漏らした人物を知らせてもらえないか?」
 学園長はしばらくの沈黙の後で、口を開いた。
 すでに「取引」が成立してしまった以上、どうすることもできないが、少なくとも今後のトラブルを事前に防ぐ意味でも、「機密漏洩者」の名前だけは押さえておきたかたのだ。

「それを聞いてどうなさるつもりです?」
「い、いや・・・まあ、念のためってことだ。」
 良介は隣の美穂に視線を送った。美穂はそれに応え大きく頷くと、口を開いた。
「先生は、9年前のSクラス生の中に『山本明彦』という生徒がいたのを覚えてらっしゃいますか?」
(もちろん知っている。君たちの恋人でもあり親友でもあった生徒だろう?その後「明菜」という魅力的な美少女に変わり、君たちと卒業式の日に再会したのも知っているし、良介と「明菜」の性行為も見ている。それに・・・俺のデスクにはいまだに「明菜」のDVDが大事にしまってあるんだ。)
 と、学園長は心の中で囁いたが、実際に口を開いて出た言葉は、「いや、あまりよくは覚えていないな。」であった。
 美穂は、「そうですか、では少しお話ししますが・・・」と切り出して、説明を始めた。
 良介と美穂と明彦の3人が小学生時代からの友人であり、高校入学式の日までは常に一緒に行動していたこと。卒業式後のパーティで偶然再会したが、美少女ウエイトレス「明菜」に変身していたため、良介と美穂は気づかなかったこと。その夜の「イベント」でどういう偶然か、良介の相手を「明菜」がすることになったこと。その夜、これもどういう巡り合わせなのか美穂の元に「明菜」からの告白の手紙が届いたこと。その手紙の内容が「明菜」と明彦は同一人物であり、いままで美穂たちを騙していたことを告白するものだったこと。そして怒った美穂が二人の部屋に乗り込んで、友情の決別を迎えたこと・・・
 それらを美穂は弁護士らしい理路整然とした話しぶりで端的に纏めながら話した。

「ただ、その後しばらくして、卒業式の日のことが、やはりどこかおかしいという思いがこみ上げてきたのです。あまりにもおかしな偶然が重なりすぎている。何か第三者の手が入っている気がする。それは良介も同じ考えだったようで、確認するためにも明彦、いえ明菜に会わなければならないと考えました。けれでも明菜の行方は全く掴めません。家を訪ねても、勘当した変態息子のことは知らん、と冷たく言われるだけでした。でも、それから1年くらいしてからでしょうか。偶然にも街で・・・とは言っても、夜の繁華街ですけど、立ちつくしている明菜に会いました。濃いメイクに胸元の大きく開いたチューブトップ、今にもショーツが見えそうな超マイクロミニ、そして歩くのもままならないような高いピンヒール姿で、もうどこからどう見ても「夜の女」そのものでした。私に気づいた明菜は、最初驚いた様子でしたが逃げ出そうともしませんでした。いえ、むしろ私の胸に顔を埋めて泣き出しました。お姉様、会いたかった、と何度も言いながら。その後私の部屋に明菜を連れて帰り、良介の到着を待って話を聞きました。聞くと、暴力団風のヒモがいて無理矢理客を取らされているということでした。私も良介も、それも自業自得ではないかという思いもあったのですが、明菜が高校3年間での出来事を話してくれた時にすべてが誤解であったことがわかったのです。と同時に明倫学園高校の闇の部分が明らかになりました。」
 美穂はそう言うと、目の前で動揺する学園長の顔を見つめた。その額には再び汗が滲んでいた。
「つまり、明菜の口からすべての秘密が暴露されたということだな?」
「ええ、そういうことです。もちろん、その後何人かの旧Sクラス生の元を訪ね、裏付けを取っています。それはそれは、皆さん、可愛い美少女ぞろいでこちらがかえってドキドキしてしまいました。先生たちの丁寧なご指導の賜物ですね?フフフ・・・」
 美穂の皮肉に学園長はあからさまな嫌悪感を浮かべたが、心の中はどうにもならない後悔で満ちあふれていた。
 考えてみれば、自分が何もしなければ、たとえ3人が再会したとしても、気づくのは明菜だけであり、それ以上のことは起こらなかったはずだ。明菜が自ら二人に告げるはずはないからだ。
 それを、明菜の苦悶に歪む顔が見てみたい。そして元恋人、親友との屈辱の再会に、大粒の涙を流しながらうなだれる姿を見てみたい。
 そんな邪な欲望を満たさんがために招いた結果なのだ。まさに自業自得だった。
 だが、一方で自分にそんな陵辱欲をかき立てた明菜の滲み出てくるような被虐性を、学園長は恨みたい気持ちだった。

「その後、良介のお父様の力も借りて、その暴力団風の男との一件はきれいに解決しました。後で聞いたところによると、多少の金銭と縁故の伝を使って解決させたということでした。でも、これですべてが解決したわけではありません。明菜がその後どうやって生きていくかが問題でした。明彦が明菜に変わった経緯を知った私と良介に彼、いえ、彼女を見捨てることはできません。明菜に、『これからどうする?』って聞いても、『二度とあんな生活には戻りたくない。怖い思いはしたくない。できることは何でもするから、お姉様、助けて、お願い。』と泣きじゃくるばかりでした。私のことを『お姉様』、良介のことを『お兄ちゃま』と何度も口にしながら、長い睫毛をフルフル揺らして見つめてくる明菜を見て、私はふとある考えが浮かびました。良介に打ち明けてみると、驚いたことに彼も同じような考えが浮かんでいたようでした。つまりそんなに妹として振る舞いたいなら、本当の妹にしてあげようということです。」

「本当の・・・妹?」
学園長は美穂の説明に口を挟んだ。聞き間違いだと思ったからだ。
「ええ、本当の妹です。つまり良介の兵藤家か私の村瀬家の籍に入るということです。簡単に言えば養子ということですね。私と良介は大学卒業後結婚することが決まってましたから、どちらになっても明菜は妹ということになります。幸い誕生月の関係でもそうなるので、後は養子縁組さえ成立すれば正式に『兄妹』『姉妹』の関係になります。ところが、これがなかなか難しい問題で、まず私の両親は取り合ってもくれませんでしたし、兵藤のお父様も話は聞いていただいたものの、結局は同意してはくれませんでした。ただ、お父様は明菜の可憐さと可愛らしさには関心を持たれたみたいで、私の友人として一緒に良介に会うために兵藤家を訪れることは反対なさいませんでした。そんな時でした。良介からお父様の昔のお話を聞いたのは・・・。 良介、ここからはあなたが話して。あなたのお父様の話なんだから。」
 美穂はそう言うと、良介の方に顔を向けた。
 学園長は曰くありげな話にじっと耳を傾けていた。
 たとえどのような話であっても「取引」は成立してしまったのだという諦めもあったが、もしかすると話の流れの中で、少しでも自分に有利な条件でも出れば、それを逆手に「取引」のやり直しができないだろうかという目論見もあった。

 美穂から引き継ぐ形で良介が話を始めた。
「実は、これは母から父との離婚寸前に聞いていた話なんですが、父は母と知り合う前、かなり深い交際をしていた女性がいたのです。普通の男女交際というよりはほとんど身体だけの関係だったらしいのですが、父はその女性の魅力に溺れていたそうです。まだ10代という若さと類い希な美しさ、そして珍しいある性質に惹かれていました。年が離れ過ぎていることと、その性質によって結婚ということにはなりませんでしたが、その後も父の頭からはその女性の記憶が消えたことはありませんでした。父はよく母にその女性の姿や振る舞いを真似させたそうです。そうしないと性的興奮を得られないこともあったそうです。母は、それも離婚原因の一つだと言っていました。それで私と美穂はある案を思いつき、実行することにしました。簡単に言えば、明菜にその女性の真似をさせることでした。幸い母から聞いたその女性の外見的特徴は、明菜と似ている部分もかなりあって、これはいけると思いました。父が気に入ってくれさえすれば、養子の話も進むはずだと思いました。
明菜にその計画の話をすると、少し心配はあったようですが、最終的には自ら進んでやってみる気になったようです。よほど元の生活に戻るのが怖かったのでしょうね。早く誰かに守られ安心できる生活がしたいという明菜の本心からの願いが父の養女になることを望ませたのでしょう。それからは私と美穂が母の話を参考に明菜を少しずつその女性に似るよう手直ししました。と言っても、メイクとか髪型とかアクセサリーとか洋服の範囲ですけどね。
それは十分効果があったようです。父の明菜を見る目は、日を追う毎に変わっていきましたから。 後はその女性の持っていたある性質を身につけさせることができれば完璧でした。ただ、そのためには私と美穂の力だけ足りないので他の人の力もかなり借りることになりましたし、時間も相当かかりました。でも何とかやり遂げたときには父の気持ちは完全に固まったようでした。明菜を養女にすることを決めたのです。もちろん正式には法律上の問題など難問が残っていましたので、それらを処理するために美穂が弁護士として主体的に動けるまで待ちました。そして昨年ようやく兵藤明菜、つまり私の妹として家族の一員に加わったというわけです。・・・・ですので、学園長、本日こうして私の妹、兵藤明菜の入学をお願いにまいったというわけです。」
 
「え?な、なんだって?」
 学園長は良介の話に思わず声を上げた。
「に、入学させたい妹というのは・・・明菜のことだったのか?」
 明菜の退寮後の話にすっかり引きつけられていたため、「出来の悪い妹」の入学依頼の件は頭の片隅から消えていた。
 それが良介の話の最後に、あっさりと両者を結びつける言葉が出て、学園長は急に現実に引き戻された感じだった。
「ええ、そうですよ。そうでなければ、ここまでお話する必要はないでしょう。」
 良介は事も無げに言った。
「つ、つまり・・・一回入学した学校にもう一度再入学をするということか。」
「ええ、入学はしましたが、卒業はしていませんのでね。高校を卒業するのが明菜の夢でもあったのですから、それを叶えてあげるってわけです。ただ今度は女子Fクラス生としてですがね。つまり、『美穂お姉様』の可愛い後輩になるってことですね。ハハハ」
 
 二人のやり取りを聞きながら、時折時計を気にしていた美穂が良介に言葉をかけた。
「ねえ、良介、そろそろ明菜をこちらに連れてきたらどう? 学園長先生にも、入学前に会っていただきたいし。」
「うん、それがいい。美穂ちょっと連絡してみてくれよ。」
 美穂は小さく頷くと、バックから携帯電話を取り出し、通話を始めた。
「ああ、前田さん? ええ、そう、美穂。悪いんですけど、明菜を連れて学園長室まで来てくださる?ええ、お願い。 あ、ちょっと待って、明菜に代わってもらえる?・・・・・・あ、明菜ちゃん? そう、お姉様よ。今から運転手の前田さんに連れてきてもらってこっちまで来なさい。いいわね。 ええ、そう。でもその前に前田さんにしなくちゃいけないことあるわよね? うん? ええ、そう。お礼ね。お世話になったときはお礼をするのよね? うん、いい子。 ちゃんと自分からお礼をさせてくださいって言うのよ。いい?それで、お礼がちゃんと終わったら、前田さんに連れてきてもらいなさい。ああ、そうそう、お礼が終わったら、もう一度口紅直さなくちゃダメよ。そのままだとみっともないからね。いいわね。・・・・ うん、じゃ、後で。」
 美穂の電話はまるで母親が子供を教え諭すような話しぶりだった。
 学園長は含意のありそうな電話のやり取りに耳を傾けながらも、9年の歳月を経て、明菜がどのような姿になって目の前に現れるのかを想像すると胸の高鳴りを抑えることができなかった。

 (続く)

私立明倫学園高校 第10章-1

 9年後の2月某日・・・・・

 私立明倫学園高校の学園長室に、2名の男女が訪れていた。
 入学試験や卒業式といったイベントの準備に追われ、学園全体が慌ただしい雰囲気のなかでの来室であったが、何しろ元成績優秀者同士の婚約の報告であり、結婚式への主賓としての出席の要請でもあるというのだから、学園長自身は迷惑より喜びの方が大きかった。
 来訪者の名は兵藤良介と村瀬美穂。
 9年前に卒業した成績優秀者同士である。

 二人は、まだ少し早いのですが、と前置きした上で6月に予定されている結婚式への主賓としての出席と挨拶を依頼した。
 もちろん、学園長に欠席する理由はない。喜んで出席させてもらうよ、と返事をし、話題は近況報告へと移っていった。

「ところで、兵藤君は大学を卒業してからお父様の会社に就職したんだったね?しかももうすでに取締役になっているそうじゃないか、大したものだね。」
「いえいえ、血縁入社というだけですから、自分の力ではないですよ。」
「いや、噂では聞いているよ。君が入社して以来、会社の業績も右肩上がりだというじゃないか。それでこそ、学園の卒業生だよ。私も鼻が高い。アハハハ」
「まあ、たまたま私が関与したプロジェクトが成功続きなだけで、明日はどうなるかわかりませんよ。ハハハ」
 良介は、言葉こそ謙虚に聞こえるが、その話しぶり、態度には傲慢さと自信に溢れていて、その点も学園長から見れば好ましく見えたのである。

「そう言えば、村瀬さんも大学現役中に司法試験にパスして、今では優秀な弁護士として活躍していると聞いているよ。美人な上に優秀なんだから、依頼も殺到しているんじゃないかね?」
「ええ、まあ、おかげさまで。かなり忙しくさせてもらってます。」
「こりゃあ、二人の間にできる子はさぞかし頭のいい子になるだろうな。ぜひとも、我が明倫学園高校に入学させてもらいたいものだね。ハハハ」
 学園長の言葉が誘い水になったのか、良介が声を低めて言った。
「実は先生、今日は先生にお願いがあってやって来ました。」
「うん?お願いって、結婚式の件とは別のことか?」
「ええ、先生のお力で一人入学を許可して頂きたい生徒がいるんです。」
「ほう、誰だね、それは?」
「はい、私の妹なんですが。」
「ほう、兵藤君の妹さんね。だったら成績も優秀だろうし、私の力など不要ではないのかね?」
「いえ、それがひどい成績でして、普通に入学試験を受けたところで、とても合格できるような力はないんですよ。」
 良介が美穂に目配せをすると、美穂はそれに応えてバックから折りたたんだ紙片を取り出すと、テーブルに広げて見せた。そこには最近5回の模擬試験の結果がデータとして掲載されていた。

「いやぁ 言っては何だが、これはちょっとひどすぎるね。兵藤君の妹さんとは思えないな。」
 学園長の感想は決して言い過ぎではなかった。
 英語・国語の2教科はそのほとんどがひと桁、選択問題のない数学は5回中4回が零点で、後の一回が4点、という信じがたいものだった。
「この成績では、我が明倫学園高校はもちろん、日本中を探しても入学できる学校はないのではないか?」
「ええ、だから先生にお願いしているのです。どうぞ先生のお力で入学させてください。」「ううむ、そうは言われてもなぁ・・・。第一、君の家のような裕福な家庭なら、無理して高校など行かせずに、花嫁修業でもさせて、いいお婿さんでも探した方がいいのではないか?」
「いや、そうはいきませんよ。兵藤家に中卒がいたんでは世間体が悪すぎます。」
「ううむ、それもわからんでもないが・・・、いや、しかしこの成績ではどうにも・・・」
「どうしても無理でしょうか?」
「うん、君たちの頼みなので何とかしてやりたいのはやまやまだが・・・・」
 学園長の言い訳めいた言葉を聞いて、良介は美穂に目配せをした。
 美穂は小さく頷くと、バックから数枚の紙片をクリップ留めした資料らしきものを取り出し、テーブルに置いた。
「うん?何だね?これは・・・?」
「これは、ある方面から私に依頼のあった事案に関する証拠資料の一部です。これをご覧になれば、先生は私たちの要求を受け入れて頂けるのではないかと思いますが。」
 美穂は頬に微かな笑みを浮かべながら学園長の顔を見つめた。
 
 資料を読み進める内に、それを持つ学園長の手は激しく痙攣を始めた。同時に額には汗が浮かび、顔色も蒼白になっていった。
 資料は、学園がSクラス生に対して行ってきた様々な「処置」内容が、詳細に渡り記されていた。誇張も歪曲もなく事実のみが記された文体に、かえってその行為の残虐性が強調されているように思えた。
 いずれにせよ、この資料が外部に漏れれば、学園はもちろん自分自身にも取り返しのつかない災禍が振りかかることは目に見えている。
 学園長の声が恐怖に震えたのは当然だった。
「こ、これは・・・い、一体、誰から・・・・?」
「それは、今は申し上げられません。ただ、私たちはこの資料をいつでも外部に流す準備ができているということだけは覚えておいてください。」
「き、君たちは・・・私を脅迫しようというのか?」
 学園長の恐怖にひきつった顔が良介に向けられた。
「いえ、脅迫しようなどとは思っていません。ただ、ちょっと取引をさせて頂こうと思いまして・・・。妹の件はそのうちの一つです。」
「と、取引・・・?」
 学園長はもう一度資料に視線を向けた。
 考えてみれば、この資料の重要性から見て、たかが一人の出来の悪い生徒を入学させるくらいのことで釣り合うわけがなかった。
 現に学園長は、この資料の外部への漏洩が避けられるのなら、一人と言わず、二人でも三人でも、たとえ自分の名前さえ書けないような生徒だって入学させる覚悟ができていたくらいである。
「実は、私と彼女は、今、ある事業を共同で始める計画を立てているのです。すでに土地・建物その他の準備は整いつつありますし、法律上のことは、何しろ強い味方がおりますので滞りなく進んでおります。」
 良介はそう言うと、隣の美穂に微笑みかけた。
「じ、事業というのは・・・一体・・・?」
 学園長の声にはまだ動揺が残っていた。
「まあ・・・『特殊会員制クラブ』とでも言ったらいいのでしょうか。そこにはある特殊な性的嗜好を持った男女が、顧客として集まります。むろん会員制ですので資格を得たVIP会員のみですが、もう一つ会員資格として必要な要素は、いわゆるニューハーフ、レディボーイ、シーメールといった者に対する性的嗜好を持っていることです。したがって、彼らの欲求を満たすための魅力的なニューハーフやレディボーイ達が必要で、現在それを各地でスカウトしている最中です。ここまでだと単なる会員制のニューハーフクラブと同じように感じるかもしれませんが、実は私にはもう一つ計画していることがあるんです。
それは、まだ完成していないレディボーイの卵のような子を、自分好みに育てていきたいという欲望を持っている客のためのものです。客はその子の人生を金で買い取ります。オークションですので相当な高額になるでしょう。ただ、ひとたび落札したら後は欲望次第です。豊胸手術や整形手術も、場合によっては性転換手術や、もっと過激な肉体改造手術だって思いのままです。これは相当な呼び物になるでしょう。ただ問題はその子たちをどのように集めるかです。秘密裏に行わなければなりませんし、家族からも見捨てられてしまったような子でなくてはなりません。そこで・・・・・」
 良介は学園長の目を見た。学園長は小さく頷いた。良介の話ですでに見当はついていたのだ。
「Sクラス生を斡旋しろってことだな?」
「ハハハ・・さすが察しがいいですね。切れ者学園長と言われただけのことはありますね。」
 良介の皮肉を込めた物言いに多少イラッとはしたが、学園長にはそれに反応しているゆとりはなかった。
 学園長は良介の申し出を大筋で受け入れた。いや、受け入れざるを得なかったのである。
 斡旋する人数、その他詳細については後日詰めることとし、「取引」は成立した。
 もはや些細なことになっていた、出来の悪い妹への入学許可もついでのように合意した。

  (続く)

私立明倫学園高校 第9章-3

 やがて部屋のドアをノックする音がした。
 静かなゆっくりとしたノックだった。
「はい、どうぞ。 開いてるよ。」
 良介が言った。ドアの向こうに美穂が立っていることを前提にした返事である。
 ドアがゆっくり開いた。入ってきたのは学生服のブレザー姿の美穂であった。
「今、いいかしら? おじゃま・・・じゃなかった?」
 美穂は部屋の照明がピンク系なのと、全体の雰囲気も何となく淫猥な感じがして、一瞬入室を躊躇った。
「お姉様、いらっしゃい。」
 明彦は出来るだけ明るく挨拶をした。この後、騙さなければならないのだが、せめて挨拶くらいは自分の気持ちに正直になりたかった。
「ええ。」
 美穂の返事は冷めていた。明彦の方に視線すら送っては来なかった。
(何?この子、私がここに来たこと驚かないの? ああ、そうか、私がまだ手紙を読んでいないと思っているんだから、当たり前ね。)
 美穂は心の中で考えを纏めていた。

「何だよ? 明菜のことで話があるって?」
 良介が立ったままの美穂に向かって言った。
「ええ、実はね・・・」
 美穂は言いかけてやめた。この部屋に来るまでは、いやノックをするまでは、開口一番、明菜に罵声を浴びせるつもりだった。
 だが、部屋の中を見た時に最初に感じた独特の空気感、つまりこの部屋で恐らく今まで繰り広げられていたであろう良介と明菜の痴態を想像すると何となく気圧されるような気がするのだ。    
 
「じゃあ、そっちの話は後で聞くとして・・・。明菜、お前の方から話をしなよ。美穂に何か言いたいことがあるって言ってただろう?」
 良介が明彦に話を振った。
 明彦は小さくため息をつくと、意を決したように口を開いた。少しでも早く始めて、少しでも早く終えたい、その一心だった。
「あのね、お姉様、実は言いにくいんだけど・・・明菜とお兄ちゃま・・・あ、ごめんなさい、良介さんね・・・おつきあいすることにしたの。良介さんも同じ考えよ。ね、お兄ちゃま・・・じゃなくて、良介さん?」
 美穂には、「明菜」に呼びかけられて、うれしそうな笑みを浮かべながら頷く良介が見えた。  
「ど、どういうこと?」
 美穂は一言だけ発すると、「明菜」の顔を睨み付けた。
 明彦は、良介の方を見た。(もう、いいでしょ?もうネタばらししましょう)と目で訴えた。だが、良介はその視線を無視し、美穂の様子を眺めていた。
 明彦にはお芝居を続けるしかなかった。
「だから、お兄ちゃまは明菜の方がいいんですって。お姉様と違って、胸も大きいし、可愛いし、それに・・・エッチだって上手だからって。」
 明彦は打ち合わせ通りのセリフを言った。
「わ、私とは・・・別れたいってこと?」
 美穂の手と唇は小さく震えていた。明らかに怒っているのがわかった。
「うん、そういうことね。お兄ちゃまも・・・ああん、もういいわね、言い慣れてるから、お兄ちゃまで。お兄ちゃまも別れたいって。だから、あきらめて、お姉様。」
 
 美穂の顔が一気に紅潮した。
(やはり、明彦は明菜になって人間が変わってしまったんだわ。手紙も全部本当のことなのね。許せないわ。私や良介を騙そうとするなんて。絶対に許せない。) 
 美穂の感情が爆発した。
「いい加減にしてよ!」
 日頃の冷静で理知的で大人っぽい美穂は、その瞬間消えた。
 明彦は初めて目にする美穂の姿に声を失った。その反応は良介も同じだった。
「もう、騙されないわよ。何が、『お姉様』よ。何が『お兄ちゃま』よ。甘えたふりして近づいてきて、あなたの正体はわかってるのよっ! あなたは手紙を5日後に渡すつもりだったみたいだけど、残念だったわね、ほら、ここにあるわ。全部読んだし、CDも見た。悪いことはできないものね。」
 美穂はそう言うと、手にしていた封筒をかざして見せた。
「て、手紙? CD? 何のこと? お姉様、それって何のことなの?」
 明彦の声は震えていた。全く身に覚えのないことだった。
「しおらしい声出しちゃって。さっきまでの人をバカにしたような言い方はどこに行ったの? 」
「あ、あれは・・・お兄ちゃまがやれって・・・・」
 明彦は思わず、言い慣れた言葉を使ってしまった。それが美穂の心をかえって刺激した。
「ハハハ、『お兄ちゃま』なんて言って恥ずかしくないの?仮にもあなたの親友でしょ?まあ、元カノの私を『お姉様』なんて呼べるくらいだから、平気なのかしら?明彦くん?」
 明彦は美穂の言葉に凍り付いた。今、確かに「明彦」と呼ばれた。昔の中学生時代のように。
 明彦は思わず、良介に視線を送った。彼もまた呆然とした表情で視線を返してきた。
 二人の間にはもう美穂を騙す「ゲーム」はとっくに終了していた。

「い、今、何て言った?明彦って言ったのか?」
 良介は真剣な表情で美穂を見た。
「そうよ。ほら、この手紙読んでみて。」
 美穂はそう言うと、手にした手紙を良介に手渡した。

 良介は顔面蒼白になりながら、手紙を読み進めた。表情がどんどん険しくなっていった。 明彦はそばによって手紙をのぞき込もうとしたが、思いとどまった。手紙の中身がどうであれ、自分の本性が明かされていることは確かなのだ。誰が書いたのかとか、どのように書かれているかはもはや大した問題ではない。
 美穂と良介が自分を「山本明彦」だと知ってしまったことが問題なのだ。

「し、信じられない・・・本当に・・・明彦なのか?」
 良介は明彦を真剣に見つめながら言った。その目には先ほどまでの好色の光は消えていた。
 明彦は小さく頷いた。
「じゃ、じゃあ、この手紙に書いてあることは・・・全部本当なのか?」
 明彦は一瞬答えを躊躇った。手紙の中身を知っているわけではないからだ。
「本当に決まってるでしょ?でなかったら、親友の良介を相手にこんな恥ずかしいことできる?」
 躊躇っている明彦に代わって、美穂が横から言葉を挟んだ。
「そ、それは・・・そうだけど・・・それにしてもこの明菜が明彦だなんて・・・」
 良介は美穂から「恥ずかしいこと」と指摘され、少し慌て気味に言った。
 確かに美穂に指摘されるまでもなく、自分が親友の明彦相手に行った行為は恥ずべきことである。いくら美少女「明菜」に変わっていようとその事実は消せない。自分は親友を性の対象として扱い、弄び、犯したのである。その罪悪感は一生消えないかもしれない。 そう考えると、自らの欲望のために親友を騙し、恋人を裏切った、目の前の『明菜』を許せない存在に思えてくる。
 美穂の言うように、明彦は明菜に変わったことで人格まで変わってしまったのだ。美少女の仮面の奥に汚れた邪淫な心を宿してしまったのだろう、と良介は思った。

「良介もこのCD見てみる? これを見たら、明彦から明菜に変化していく過程がとてもよくわかるわ。」
 美穂は徐々に憎しみの表情に変わっていく良介に話しかけた。
 良介は小さく頷いた。別にそんなものを見てみたいとも思わない。ただPCのないこの部屋で見ることはできないので、見るためにはこの部屋を後にしなければならない。
 良介は一刻も早くこの部屋から出たかった。これ以上いると、親友の「明彦」を力一杯殴りつけてしまうかもしれない。いや、「明彦」なら殴っていた。目の前にいるのはか細く華奢な「明菜」である。もしも今の自分の腕力で思い切り殴ろうものなら命の危険さえあるのではないか。そんな思いが良介を支配していた。

 美穂と良介は部屋を出た。
 美穂の腕は良介のそれに絡んでいた。勝ち誇ったような笑みがその顔に浮かんでいた。
 部屋を出る時、良介はベッドの上ですすり泣いている明彦に向かって声をかけた。
「すまないけど、お前の気持ちに答えることはできないよ。俺はゲイではないからな。」
 
 顔を上げた明彦の目にはテーブルの上に置きっぱなしになった「手紙」が映った。
 最後に読んだ良介がそのまま置き忘れてしまったのだろう。
 明彦はそれを取り上げると、涙でかすむ目でタイプ文字を追った。
 そしてすべてを読み終えた時、すすり泣きは嗚咽へと変わっていた。
 長い間培った親友との友情、恋人との愛情、そして新たに築くことのできた「姉妹」として敬慕、それらがすべて音を立てて崩れていくのを、明彦ははっきりと感じ取っていた。
  

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 学園長室のテレビモニターはベッドで泣き崩れる「明菜」を映し出していた。
「いかがでしたか? 学園長?」
 幹部職員の片桐が学園長の様子をうかがいながら聞いた。自分の描いたシナリオが高評価であることを期待しながらの質問だった。
「うん、まあまあだな。確かに『明菜』と良介の絡みはなかなかだったが、できれば美穂にも加わってもらいたかったなあ。例えばディルドウか何かで『明菜』のアナルを犯すとか。元恋人同士の逆転プレイとしてな。アハハハ・・・」
「先生、ちょっとAVの見過ぎだわ。いくらなんでもあの優等生の美穂が、そんなことするはずないじゃないですか。フフフ・・・」
 学園長の下卑た言葉に、真希が口を挟んだ。

「しかし、明菜の表情は何度見てもそそるなぁ。この子とも間もなくお別れだと思うと寂しくなるよ。」
「でも、先生、今回の映像もDVDにしてストックなさるんじゃないんですか?フフフ」
「ああ、まあそれはそうだが。やはり実物には適わんよ。」
「では、卒業する前に、一度明菜を呼び出して、楽しまれてはどうです?」
 片桐が二人の会話に割って入った。
「バカを言ってはいけないよ、君。いくら私でも生徒に手を出すわけにはいかんじゃないか。もしどこかに漏れたら大問題だろうが。」
 学園長は真顔で言った。だが、内心は片桐の提案に乗りたい気持ちで一杯だった。
 自らの熱く誇張したペニスが明菜のふっくらとした唇に包まれたり、豊かな胸の膨らみに挟み込まれたり、しまりのいいアナルに飲み込まれている場面を妄想すると知らず知らずのうちにズボンの前が膨らんでいるのだった。


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 5日後、明倫学園高校は3年生退寮の日を迎えた。
 Dクラス生25名、Fクラス生27名は順次正門から出て、帰路についた。
 彼らの顔には新たな未来へ向けての希望の光が満ちあふれていた。
 その中には、もちろん兵藤良介も村瀬美穂の顔もあった。
 
 一方、同様に退寮の日を迎えた元Sクラス生は、ひっそりと裏門を出て帰宅の途についた。
 彼らの顔には笑顔はなかった。美しく施されたメイクも思い思いのフェミニンな服装も彼らの不安を取り去ってはいなかった。
 だが、それでも「追試合格」により卒業資格を取ることのできた彼らには戻るべき家があった。そのことに微かな希望を見いだし、無理に微笑みを浮かべる者もいた。
 元Sクラス生25名中20名はこうして明倫学園を後にした。

 しかし、この輪の中に加われない5名の生徒がいた。
「追試不合格」となった者たちで、その中に明彦の名もあった。
 彼らはいまだに寮内に留め置かれているが、内2名は入院中のため寮を出ている。
 入院の理由は怪我の治療である。いずれもパーティ後のイベントの夜、「客」から受けた暴力的行為によるものだ。
 一人はジュース瓶を無理矢理アナルに押し込まれたこと、もう一人はベルトで全身をむち打たれたことによる傷害だった。
 いずれも「客」に原因があるにも関わらず、「追試不合格」とされた。途中で逃げ出したことで、「客」の要望を満たしきれなかったことが理由だった。
 病室のベッドでそのことを知らされた彼らの絶望感はどんなに深かったろう。
 そのことを想像すると、同じ「追試不合格」であったにせよ、身体に障害を受けなかった分自分はまだ幸せだと、明彦は無理に思いこもうとしていた。
 
 明彦の不合格理由は単純だった。客からクレームが付いた、ただその一点だけだった。
 明彦にはもちろん想像がついている。怒りの収まらない良介と美穂、とりわけ美穂の激しい感情が「クレーム」という形になって表されたのだろう。
 その「クレーム」が、明彦の「追試不合格」に繋がり、引いては親からの「勘当宣告」に至ったことを、彼らが予め知っていたのかどうかはわからない。
 ただ、明彦にとっては、少なくとも2週間後には、「学業不振により高校を中退した女子高生」というレッテルをつけて、寮を出なければならないという厳然たる事実があるだけだ。
 たとえ、行く当てがなくとも、入寮時と同じようにボストンバック一つを持って、今度は出て行かなければならない。
 ボストンバックの中身は3年前とはすっかり変わっているだろう。
 トランクスや下着類は色とりどりのランジェリー類に、ノートPCはメイクアップキットとアクセサリーケースに、お気に入りのミステリー小説は読みかけのラブロマンスコミックに、そしてサッカーユニホームはお気に入りのピンクのミニワンピに・・・。

 そのボストンバック以外は何もない。
 このまま資格も能力もないまま放り出されれば、何を頼りに生きていけばいいんだろう。 3日前、明彦はそんな不安な思いを高岡真希にぶつけた。
 真希は、そんなこと心配することないわ、と笑って答えると、明彦のクリッとした瞳を見つめながら諭すように説明した。
「いい?明菜。あなたは気づいていないかもしれないけど、あなたが外を歩けば男の人はみんな注目するわ。フルメイクでマイクロミニでも履いて、ピンヒールで歩いてみなさい。
そうそう、それにロリポップキャンディでも舐めながら立っててごらんなさい。食べるものも泊まるところもそれにお小遣いだって、全部手に入るわ。多少はイヤなことも、危ないこともあるかもしれないけど、そのくらいは覚悟しなくちゃね。それに危ないなって思ったら、そのクリクリした瞳に涙を溜めて『許して』ってお願いすれば、きっと何とかなるわよ。ああ、でもやり過ぎちゃダメよ。かえって興奮するような変態もいるからね。」
 
 明彦は真希の言葉を聞きながら、心の底から祈った。
「誰か助けて! 強い人なら誰でもいいの。お願い、明菜のこと守って。」
 この時、明彦の意識下に植え付けられている「強者」への従属性が、形を変えて結実した瞬間だったのかもしれない。

 (第10章に続く)

私立明倫学園高校 第9章-2

 良介の携帯電話のメール着信音は確かに鳴った。
 だが、その部屋の二人の「住人」はいずれもその音を認識することができなかった。
 小さな着信音は、二人の発する喘ぎ声にかき消されてしまっていたのである。
 部屋の照明は落とされ、ベッド上の二人のシルエットは微かな外光にぼんやりと浮かんでいた。
「アア・・・お、お兄ちゃま・・・もっと、奥まで・・・奥まで、ちょうだいぃ・・・アアン・・」
 四つんばいの姿勢で顔をベッドに埋めながら、喘ぎ声を上げる「明菜」の背後には、跪き激しく腰を前後させている良介の姿があった。
「ううぅ・・・すごいぞ、明菜・・・うう、いい・・・」
 良介の低く、くぐもった声が、「明菜」の甲高いよがり声に重なっていた。

 明彦のアナルはすでに悲鳴を上げていた。良介の巨根を受け入れた瞬間に全身を走った激痛は確かに薄らいでいるが、直腸を刺激する鈍い痛みとアナルを擦られる疼痛が断続的に明彦を襲っていた。
 ただそれ以上に明彦を苦しめていたのは、ついに良介の「女」になったという心の痛みだった。頬を流れる涙は、それを表していたのである。
 だが、良介の目にはそうは映っていない。まるで少女がロストバージンの際に見せる、苦痛と恥じらいの涙に映ったのである。それは良介のような嗜虐性を持つ男の陵辱欲を刺激するには十分過ぎる「演出」だった。

 明彦は、むろんアナルセックスを避けるつもりでいた。
 だが、すでに「口内発射」と「顔面シャワー」を満喫した少年の性に対する有り余る程の好奇心は、当然のように「本番」を求めた。
 明彦の頭には真希から受けたアドバイスが浮かんでいた。
 自分の本性を露わにすることなしに、客の要望に対処する方法である。
 執拗に「ヴァギナ」を求める良介に、明彦は最も使いたくなかった言い訳も口にした。
「ごめんね、お兄ちゃま、明菜、今日『女の子』なの。だから、『アナル』でガマンして。ね、お願い。」
 だが、顔を赤らめる「明菜」に刺激されたのか、良介は意地の悪い返事を返した。
「うん?『女の子』ってどういう意味だ?」
「もう~意地悪ね。『女の子』っていうのは、生理のこと。だからね、お願い、今日は『アナル』で許して、ね、お兄ちゃま。」
 良介は「明菜」の媚態に満足そうな笑みを浮かべると、黙って小さく頷いた。

 しかしそれで問題が解決したわけではない。
 良介にイニシアチブを取られてはならないのだ。
 良介の巨根が硬度を増すまでは、唇と舌を使って、全身に懸命な奉仕を続ける。 
 ある程度の硬度を確かめたら、今度は心を込めたフェラに移る。
 アナルセックスの苦痛を少しでも短くするには、絶頂寸前まで導いておかなければならない。でもやりすぎてはいけない。良介をそのまま果てさせては何にもならないのだ。表情と反応を見ながら、押したり引いたりを繰り返す。
 口の中に「先走り」を察知したら、四つんばいの態勢を取って、背後の良介の固くなった巨根を自らの手で導く。
 貫かれる瞬間に激痛が走ることを知っていながら、「お願い・・・イ・レ・テ・・・」と甘えた声で囁かなければならない辛さ。
 そして「痛いっ!」という言葉を押し殺して、「ああッン・・・」とよがり声で反応しなければならない惨めさ。
 挿入後も、油断はできない。ほとんど小指の先ほどの大きさしかないとは言え、股間には「明菜」にあってはならないものが存在しているのだ。右手の覆いをそこから外すことはできないのだ。
 しかしそのことにだけ集中しているわけにはいかない。
 少しでも早く苦痛から解放されるためには、良介を刺激し続けなければいけない。
「ああん、お兄ちゃまのチ○ポ、いいのぉ・・・」「明菜の奥に当たってるぅっ・・・」
「ああ、すごいのぉ・・・こんな、感じるの初めてよぉ・・・」
 といった言葉を喘ぎ声混じりに口にし続けなければならないのだ。

 懸命な努力の甲斐あって、ようやく良介が絶頂を迎えた時、明彦は体内に熱い精液の迸りを感じつつ、演じなければならない大事な「芝居」が残っていた。
「アアンン・・明菜、いっちゃう・・・お願い、一緒に・・・一緒にイッてぇ・・アアン、イ、イくっ、イくぅぅ・・・」
 同時に絶頂を迎えたことを示すのが、どんなに「客」を喜ばせるかは真希から強く指示されていたことだった。

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 良介が美穂からの着信メールに気づいたのは、アナルセックスの快感の余韻にまだ浸っている時だった。
 着信時刻を見ると、約15分程前だった。幸い美穂が来室する予定時刻まではまだ多少のゆとりがあった。 
「明菜、なんか、美穂がここに来るらしい。明菜のことで何か話があるって。」
 良介はドレッサーの前でセーラー服を整えている明彦に向かって言った。
「え?お姉様が? ここに・・・ですか?」
 明彦は多少の動揺を感じながらも、比較的冷静だった。
 自分が今、良介とここにいることは美穂も知っているし、ここで何をしているのかもわかっているはずだ。それに何より、自分が良介の相手で良かったとさえ言ってくれたのだ。
 何も心配することはない。もしかしたら、「ありがとう」の一言でも言いに来てくれるのだろうか、と明彦は思った。

「なあ、明菜、ちょっと美穂のこと、からかってやろうか?」
 精の放出で多少他のことに気が回るようになったのか、良介が妙な提案を口にした。
「え?からかうって?」
「いや、美穂にヤキモチやかせてみようかなってね ヘヘヘ」
「ヤキモチ・・・?」
 良介は自分の思いつきを明彦に話した。

 要約すれば次のような話だった。
 卒業式後のパーティと今までのプレイを通じて、お互いを好きになってしまった良介と「明菜」が交際宣言をし、美穂に別れを告げる。そして美穂が本気にし、動揺を見せたところでネタばらしをしようという、単純なシナリオだった。
 良介は話にリアリティを持たせるために「明菜」に芝居を要求した。寝取られた美穂を思いきりバカにして欲しいと言うのだ。
 信頼している「妹 明菜」と良介に裏切られた美穂はきっとショックを隠しきれないだろう。その顔が見てみたいと良介は言った。

 もちろん最初、明彦は反対した。
 たとえすぐにネタばらしをするにしても、美穂の悲しむ顔は見たくないと。
 だが、良介はそれに反論した。
 多少の刺激は美穂にも必要である。そして卒業後は美穂にはもう少し「性」に対して、積極的になって欲しいので、これはそのための第一歩みたいなものだと。
 明彦はしぶしぶ同意した。「客」の要望を拒否することはできないし、ちょっとでもおかしな雰囲気になったら、すぐにネタばらしをするからという約束ももらったからだ。
 それに、しっかりとした大人の女性になっている美穂のことだ。ネタばらしの後はきっと笑い話として受け止めてくれるだろうという思いも明彦にはあった。

 それから数分間、明彦と良介は細かい打ち合わせをしながら、美穂の来るのを待った。
 逃げられないこととは言え、話をすればするほど、気乗りがしなくなって来る。何か冗談では済まないような、とても悪質なことに自分が加担しているような気がする。
 第一、良介だって、こんなことを面白がるような人間ではなかったではないか。
 この3年間で、彼が外見だけでなく、内面もすっかり変わってしまったようで、明彦の心には言いようのない寂しさが広がってくるのだった。

 (続く)

私立明倫学園高校 第9章-1

 村瀬美穂は学生寮の自室で目を閉じ、音楽に耳を傾けていた。
 卒業式を終え、高校3年間の生活に思いを馳せているわけでも、一週間後に出発する親友との卒業旅行を思い描いているわけでもない。
 彼女は動揺を抑えようとしていたのである。
 
 
 およそ2時間前、すでに卒業式後のパーティも終え、自室に戻っていた彼女にある封筒が届けられた。
 通常、郵便物は一階にある部屋別ポストに入れられるのだが、どういうわけか、ある職員が直接部屋に持参してくれた。しかも、本来は退寮の日、つまり5日後に手渡すように指示があったのだが、忙しさに紛れて渡し損ねるといけないので、今日持参したとのことだった。
美穂は何となく妙な気がして気持ちが悪かったが、差出人欄を見て、そんな気持ちも吹き飛んだ。そこには、タイプ文字で「明菜」とあった。
(あら? 明菜からだわ。 何かしら? もしかしてピンチを救ってあげたお礼?)
 美穂は、パーティ会場から無断で抜け出したことを、責任者である真希に見咎められ動揺していた時の明菜の姿を思い出していた。
 クリッとした大きな瞳に困惑の色を浮かべ、長い睫毛をフルフルと震わせていた姿は抱きしめたくなるほど可愛かった。
 自分を姉と思っていいかと恥ずかしそうに尋ねた表情も、もう一度頭を撫でてとねだった姿も美穂の脳裏にしっかりと刻まれていた。
(いやだわ。私、明菜のこと、本当に妹みたいに思ってるみたい。)
 美穂の顔に自然と笑みがこぼれていた。
 自分も随分変わったものだと美穂は思った。
 中学時代の美穂は決してリーダー的な存在でも、姉貴的な気質も持っていなかった。むしろ、誰かの陰に隠れ従っていることが多かった。それが今では人から頼られたり甘えられたりすることに快感すら感じている。まして明菜のような可愛い「妹」に頼られると何としてでも守ってあげたいような母性本能にも似た思いを感じるのだった。

 封筒の中には、淡いピンクの便せんに書かれた手紙と一枚のCDケースが入っていた。 美穂はCDケースを脇に置くと、畳まれた便せんを開いた。 
『美穂お姉様へ』で始まるその手紙は、すべてタイプ文字で書かれていて、何となく妙な感じもしたが、そんな些細な違和感は、やがて文面の内容の衝撃度がすべて打ち消してしまうことになった。   
 手紙を読み進めていく美穂の表情は、優しい笑顔から無表情、そして驚きへ移り、ついには怒りへと変化していった。
 
『美穂お姉様へ
 改めて卒業おめでとう。今日はいよいよ寮を出て、新しい人生の始まりですね。
 寮を出たら、さっそく良介さんと楽しいデート? でも、それはちょっと無理かもしれないな。何故って?それはね、これから明菜の手紙を読んでくれたら、きっとわかってくれるはずよ。 
 パーティの時、明菜に優しくしてくれてありがとう。お姉様が明菜のこと、妹のように思ってくれて本当にうれしかった。だって、それって明菜のこと、信じてくれたったことだものね。でも、お姉様、人のことあまり簡単に信じない方がいいわよ。明菜はお姉様が考えているような「いい娘」ではないわ。お姉様がこの手紙を読んでいる頃、お姉様はきっと大事なものを失っているはずよ。なんだかわかる? それはね・・・お姉様の大事な恋人、兵藤良介さんの「心」よ。お姉様は、良介さんと明菜はひと晩だけの遊びだったと思っているかもしれないけど、明菜は良介さんを手放すつもりはないわ。だから明菜の持ってるすべてのテクニックで良介さんを夢中にさせてみせる。お姉様は良介さんの「心」は変わらないって思ってるかもしれないけど、良介さんみたいな童貞の男の子なんて、明菜のテクニックにかかればイチコロよ。きっと明日のデートでは、お姉様に「好きな人ができたから、別れて欲しい」って言うはずよ。覚悟しておいてね。
 
 でも、もしかしたらお姉様は不思議に思ってるかもしれないわね。
 知り合ったばかりの良介さんを、なんで明菜がそこまで好きになったのかってこと。  それはとっても簡単よ。だって、明菜、良介さんのことは昔から知っているんですもの。ううん、それだけじゃないわ。お姉様のことだって昔から知っているのよ。ずいぶん会っていなかったから、二人の変わりようにびっくりしたけど、それでもすぐにわかったわ。
でも、二人は明菜のことはわからなかったでしょうね。だって一番変わったのは明菜の方だもの。ねえ、お姉様?「明菜」の「明」っていう字で、何か感じない?二人の知り合いに「明」の字が名前に入っている人いない? ううん、女の子と決めたらダメよ。だって、明菜は本当は女の子ではないんだもの。 もうわかったでしょ? そうよ。明菜の本名は「山本明彦」よ。驚いた?もしかして手紙落としちゃったりしていない?無理もないわ。恋人だと思っていた「明彦」がすっかり女の子の「明菜」になって目の前に現れたなんて信じられるわけないものね。でも、本当なの。同封してあるCDを見てみて。それを見てもらえれば、嘘じゃないってわかるはずよ。・・・・・・・・』

 美穂は脇に置いてあったCDケースを手に取り、開けようとした。手の震えと激しい動悸のためにそんな簡単な動作さえ困難だった。
 それでもなんとか傷つけることもなくCDを取り出すと、ノートPCのスロットに差し込んだ。
 そこに収められていたのは「明彦」から「明菜」へ変化していく過程が写された数十枚にも及ぶ画像であった。
 撮影日付順に並べられてあるので、スライドショーで見ると変化の過程がはっきりと見て取れた。皮膚の質感や髪の毛の長さ、毛質の変化、そしてすべてがノーメイクであるにも関わらず、徐々に女性らしい表情へと変わっていくのもわかった。
 画像を見つめる美穂の顔からはすっかり血の気が引いていた。背筋を何度も冷たい汗が流れ落ちた。
 だが、そんな美穂に追い打ちをかけるような画像が、次のファイルには収められていた。
 細身の「明彦」のボクサーパンツ姿が浮かび上がると、それに続くスライドショーは「明菜」の身体に変化していく過程を写し出していた。
 手足が徐々にか細くなり、鎖骨の線が浮き出るほど華奢になっていくのに反して、胸とヒップの周囲には「筋肉」とは違う、「脂肪」を連想させる増加が現れていく。そして、その変化はボクサーパンツ姿がブラ・ショーツセットの姿に変わると一気に加速していく。
 それは、美穂も含めた少女全員が体験する思春期以降の成長過程を描いているかのようだった。
 だが、それもある時点を越えると、美穂には未体験のゾーンに入っていく。
 Bカップの美穂の胸には、一度も刻まれたことのない、深く長い谷間が明菜のそこにはあった。
 いや、胸だけではない。ヒップから太股にかけての柔らかな曲線は童顔な顔とはアンバランスな成熟美を醸し出している。そしてウエストはその部分の脂肪をすべて胸とヒップラインに移植してしまったかのように細く括れている。
 肉体の成熟度という点で計れば、明菜は明らかに自分の「姉」だった。
 その明菜が、今恋人である良介と一夜を共にしているのだ。
 その魅力的な身体とテクニックを駆使して、良介の性欲を満たしているのだ。
 美穂の心に言いようのない不安が広がってきた。

(私ったら何考えてるの? 問題はそんなことじゃないでしょ?)
 美穂は自分の妄想があらぬ方向に展開していることに気づき自戒した。  
 問題はこの「明菜」が本当に「明彦」なのかということなのだ。
 確かにこの画像を追えば、同一人物が変化していく過程を捉えているように見える。
 だが疑ってかかれば、修正や偽造などの方法がないわけではない。

(第一、なんで女の子にならなければならないの? 良介の心を奪うって? 良介のことが好きだって?)
 画像を見た美穂の頭は混乱していた。次から次へと沸いてくる疑問が頭の中で山のように堆積していった。

 美穂は再び手紙に目を落とした。夥しい量の疑問に対する答えを一つでも見つけたという思いだった。
『・・・・・明菜は小さい頃から女の子になりたかったの。その気持ちはずっと隠していたけど、小学校で良介さんに会ってからは、もう耐えられなくなっていた。いつか本当の女の子になって良介さんと結ばれたいって考えるようになったわ。明倫学園高校を選んだのはね、親から離れて生活ができるから。3年間の寮生活の中で女の子のいろいろなことを勉強して、すっかり女の子になった姿で良介さんと再会するのが夢だった。寮では先生達やカウンセラーの人たちもとても親切にしてくれたわ。明菜がそういう子だってわかってからは女の子として扱ってくれたし、それに明菜のためにって、とても役にたつお薬もたくさんくれた。毎日がとても楽しかったわ。
 でも、3年生になる時、先生から信じられないことを聞いたの。明菜だけの良介さんを奪った女がいるって。それがお姉様だったなんて・・・。
 何日も何日も泣いたのよ。でも、おかげで決心がついた。学校をやめて、お姉様よりずっと魅力的な女の子になってもう一度奪い返してみせるって。本当は高校は卒業したかった。お勉強はどうでもいいけど、卒業はしたかったわ。でも、お姉様のせいでそれもダメになった。
 お姉様は、きっと思っているかもしれないわね。3人いつも一緒で、あんな仲がよかったのにって。でもね、明菜にとって、本当に大事な人は良介さんだけ。ただ、二人だけでいると他の人に同性愛だと思われるから、お姉様を入れてごまかしていただけ。内心はお姉様なんていなくなればいいと思っていたわ。恋人のふりをするのも本当にイヤだった。それがどんな気持ちかわかる?
 明菜はお姉様たちが、つまらないお勉強をしている間に、女の子に必要なお勉強をたくさんしたわ。その成果を良介さんに見せていくつもり。お姉様がこの手紙を読んでいる頃は、きっと明菜にメロメロになってるはずよ。案外結婚も早いかもしれないわよ。そうそう、その時はお姉様、ブライドメイドになってくれる?
 明菜はまだ、完全に女の子の身体にはなってないけど、近いうちに病院に行くつもり。そして本当の女の子になって、良介さんにバージンを捧げるの。お姉様がバージンなのに妹が先にロストバージンなんて順番が逆だけど、許してね。

 最後に、たぶんお姉様が疑問に感じていることだと思うから言っておくけど、明菜が卒業イベントにコンパニオンとして潜り込んだだけじゃなくて、良介さんの相手ができるようにしてくれたのは、職員の皆さんのおかげよ。 え?どうしてそんなことができたかって?そんなの簡単よ。真面目なお姉様にはわからないかもしれないけど、明菜のオクチってとっても役に立つんだから・・・。

 明日から新しいスタートって時に恋人に振られちゃうなんてかわいそうだけど、大丈夫よ、お姉様ならすぐに恋人が見つかるわ。その時はしっかりつなぎ止めておかなくちゃダメよ。もしよかったら、明菜が役に立つレッスンでもしてあげましょうか?

                            妹 明菜より   』
 
 手紙を読み終えた美穂の手はプルプルと震えていた。
 悲しさと悔しさと怒りが入り交じった複雑な感情が、人生経験の浅い18歳の少女の心に渦巻いていた。
 本来5日後に手渡されるはずだった手紙が今日自分のもとに届けられたのは何かの引き合わせに違いない。
 すぐに、良介と明菜のいる部屋に乗り込んで行って、明菜を問いつめることだってできる。建物の見当はついている。後は部屋を探すだけだ。それほど難しいことでもないだろう。もしかしたら、職員の中には自分に協力してくれる人もいるかもしれない。
 だが、美穂はすぐに行動には移さなかった。冷静さを欠いて衝動的に行動するほど子供ではなかった。
 まずは心を落ち着かせなければならない。
 美穂は好きなCDをプレーヤーに挿入し、ベッドに身体を預けて目を瞑った。

(落ちついて、もう一度ゆっくり考えてみるのよ。「明彦」と「明菜」は、本当に同一人物なの?)
 美穂は目を瞑りながら自問した。
 パーティでの明菜との会話を思い返してみた。
 内容についてではなく、明菜の話しぶりやその声についてである。
 あの鈴を鳴らすような甲高い声が、明彦の、いや、そもそも男性のものだなんて信じられないではないか。
 女子トイレの中で自分に慰められ、嗚咽しながらもらした弱々しい泣き声がどうして男のものだと思えるだろう。
 それにハンカチで涙を拭いてあげた時、小さく小首を傾げながら、「ありがとう」と言ったあの可愛らしい声をどう考えたら男の・・・・・
 
 美穂はハッとした。
 涙を拭く時、明菜の目の下に小さな泣き黒子があったのをはっきりと思い出したのだ。
 そして同時に中学時代の明彦にも同じ場所に泣きボクロがあった記憶が甦ってきた。
 なぜ、今までそれに気づかなかったのだろう。 
 それはきっと明菜のそれが儚いばかりの美しさを際だたせるチャームポイントになっていたからだろう。
 現に、美穂はそのホクロをとても可愛いと思った。泣きボクロに涙がとても似合っていた。それが美穂の母性本能をより一層刺激したとも言えるくらいだ。

(ああ、やはり、明彦と明菜は同一人物なんだわ・・・)
 美穂はそう結論づけた。
 あの明彦が女の子になりたがっていたというのは確かに驚きであるし、なぜ中学時代に告白してくれなかったのかと情けない思いもある。
 だが、世の中にはいわゆる「性同一性障害」という人たちがいるのも事実だ。美穂自身、そういった立場の人に何の偏見も持っていない。むしろ困難に立ち向かって生きている姿に感動すら抱いている。だから、明彦がそうだったとしても彼を拒絶したり軽蔑したりするつもりは全くない。たとえこれまでの恋人関係を継続するのは無理だとしても、新たに同性同士としての友情関係は築けたかもしれないし、明菜の言うように姉妹のような関係にだってなり得たかもしれない。さらに言えば、もしも良介が自分より明菜の方を想うのであれば、つらいことだけど、その恋愛関係を壊す権利は自分にはないとも思う。

(それなのに、この手紙は何?)
 美穂の心の中で、いったん収まりかけていた怒りが再び燃え上がり始めた。
 なぜここまで人の神経を逆なでするような手紙を寄こしたのだろう。あの思いやりのある明彦はどこに行ったのだろう。明菜に生まれ変わったことで人格まで変わってしまったということなのだろうか。
 いや、そうではないはずだ。パーティの時に自分に見せた涙も、透き通ったような瞳にも嘘はなかったと思う。あの明菜がこんな手紙を書いたとはどうにも納得ができないのだ。 いや、でも実際コンパニオンに紛れ込み、まんまと良介の相手に収まっているではないか。このことを偶然と呼ぶにはあまりにも無理がある。
 やはり、あの涙は嘘だったのだ。プロ娼婦となった明菜の手管に自分はすっかり騙されてしまったのだ。
 
 美穂は決断した。しかしそれは間違った決断だった。
 次々に解決できない疑問が襲ってきたことと、抑えきれない怒りのために最後の最後で冷静さを失ってしまったのである。
 この時、もしも冷静な判断ができていれば、いくつかの矛盾に気づいたはずだ。
 その一つは、なぜ5日後に渡すはずの手紙が今日、しかも、良介と明菜が一夜を共にしているこの時に渡されたのだろうか。これではまるでその部屋に乗り込んでいってトラブルを起こして来いと誰かに誘導されているみたいなものだ。
 そしてもう一つは、手紙の真偽についてである。明菜には残念ながら、タイプを打つ能力はない。第一、文面を読んでみれば、小学生並みの能力しかもたない者の書く手紙ではない。そのことに気づきさえすれば、手紙が第三者の手によるものであることが明確になったに違いない。
 とは言え、冷静さを失った美穂を責めるべきではない。いくらしっかりしていて、大人っぽいとは言え、あくまで世間知らずの18歳の高校生なのである。
 責めるべきは彼女をそのように導く巧みな奸計を企てた大人達の邪な欲望にあるのだ。
  
 心を決めた美穂には、躊躇っている時間はなかった。
 とにかく一刻も早く良介のもとに行き、目の前の明菜の正体を明かすと共に、その明菜に自分の怒りと悲しみと情けなさをぶつけないことには、収まりがつかなくなっていたのだ。
 ただ、かろうじて美穂の理性的な特徴が現れた点として、すぐに二人の過ごす部屋を直撃するのではなくて、事前に良介宛にメールを送ったことが上げられるだろう。

『良介へ
 今からそちらに行きます。明菜のことで言っておきたいことがあるので。
 職員の人に部屋を聞いてから行きます。30分後くらいになると思います。
                               美穂  』
 
 (続く)

私立明倫学園高校 第8章-5

 淡いローズピンクの口紅、それもグロスも付けないシンプルなメイクなのに、それがもたらす安心感は絶大だった。もしかしたら、第三者から見れば大して変わりはないというかもしれない。だが、当の明彦にとっては、安心して「妹、明菜」を演じられるかどうかの境目でもあったのだ。
 
「おお~、可愛いね~、そのツインテールも似合ってるよ。こっちに来て、お兄ちゃんにもっとよく見せてごらん。」
 シャワールームから出てきた「明菜」を、良介は満面の笑みで迎えた。
「は、はい・・・お兄ちゃま・・・」
 明彦は、バスローブ姿でソファに座っている良介の前に歩み出た。
 緊張感からの膝の微かな震えも、12センチピンヒールではなくローファーだったので、気にせずに済んだ。 
「ここに座ってごらん。3年ぶりに再会したんだから、お兄ちゃんに明菜の成長ぶりを見せてごらん。」
 明彦は「3年ぶりの再会」という言葉にドキッとした。もしかして良介は自分が「明彦」であることに気づいたのかと思った。
 だが、それは全くの杞憂だった。良介は卒業して3年ぶりに自宅に戻った兄とそれを迎える妹という設定での「お芝居」をしたいだけだったのだ。
 明彦は良介の考えるシナリオに合わせようと思った。「強者」である良介の考えに従うことが、弱者である自分には自然なことのように思えたからだ。
 
 明彦が隣に座ると、良介は躊躇することなく、その肩に手を回し自分の方に引き寄せた。
「あっ」
 明彦の口から思わず声が漏れたが、抵抗は見せない。 
「昔もこうやって仲良く抱き合いながら、話をしたよなぁ?」
「う、うん・・・そうだね、お兄ちゃま・・・」
 明彦は良介の横顔を上目遣いで見つめた。自分の演じ方に良介が満足しているのかどうかを確かめるために。
「そう言えば、話だけじゃなくて、お兄ちゃんが明菜にいろいろ教えてあげたよな?」
「う、うん・・・・いろいろ・・・お兄ちゃま、明菜に優しく教えてくれたね。」
「例えばどんなこと教えてあげたっけ?」
 良介の顔に含意のありそうな笑みが浮かんだ。
「どんなって・・・あの・・・えっと・・・お勉強とか・・・だっけ?」
 明彦は良介の反応を確かめるように質問で返した。
「アハハ・・・そうじゃないだろう?明菜はお勉強が嫌いで、教えてあげてもすぐに忘れちゃって、テストも零点ばかりだったじゃないか。だからお兄ちゃんも明菜にお勉強を教えるのはあきらめたんだ、そうだったろ?」

 良介の求めている「妹」像がまた一つはっきりした。優秀な兄とは正反対な「おバカな妹」である。
「あ、うん、そうだったね。明菜、おバカだから・・・お兄ちゃまを困らせてばっかりだったんだよね?」
 明彦は明るい笑顔を作った。まるで自ら「おバカ」であると口にすることに何の躊躇もないかのように。
「明菜の頭の中は、ファッションとお化粧と音楽、それと・・・・エッチのことだけだったじゃないか。だから、ファッションやお化粧のことはわからないから、お兄ちゃんが教えてあげたのはエッチのことだっただろう?」
「う、うん・・・そうだったわ、お兄ちゃま。明菜、今思い出した。エッチのことや男の子のこと一杯教えてもらったね。」
「ハハハ・・やっと思いだしたね? 明菜が『キスってどうやってするの?』って聞いてきた時、お兄ちゃんが実験台になってあげただろ?まさか忘れてないよな?」
「あ、うん・・・覚えてるよ。お兄ちゃまが・・・・実験台に・・・なってくれたの。」
「うん、では、忘れていないか、テストしてみよう。もし、忘れていたら、お仕置きだよ。フフフ・・・」
「お、お仕置き・・・?」
「本当に明菜はおバカなんだなぁ。それも忘れちゃったのかい? 昔、明菜が間違えたりいけないことしたら、お仕置きしただろう? お兄ちゃんに膝の上でお尻ペンペンされたの忘れたのかい?」
「えっ?あ、あっ・・・・」
 明彦は言葉に詰まった。彼の脳裏に「特別指導」で高岡真希や宮田里佳から受けた屈辱的なスパンキングの光景が甦ってきた。あの無防備に裸のお尻を晒し、震えながら叩かれるのを待つしかない無力感、泣きながら許しを請う屈辱感、そして終了時に心にもない感謝を口にしなければならない恥辱感を思い出すと、身体の震えが止まらなくなるのだった。
 だが、そんな動揺を表に出すわけにはいかない。明彦の返事を待つ良介の顔に厳しさが増している。

「ううん、明菜、ちゃんと覚えてるよ。明菜が悪い子の時、お兄ちゃまがお尻叩いてくれたの。すごく痛くて、いつも泣いちゃったもん。」
「そうだ。だから、お仕置きされないように、ちゃんと教えられたことを思い出しながらやってごらん。さあ、早く。」
 良介はそう言うと、明彦の肩から腕を解き、顔を正対させた。
 明彦の目の前に良介の目が、鼻が、そして唇がある。
 その唇に今から、自分の唇を触れさせなければならない。
 そう思うと、明彦の心に忘れかけていた羞恥の炎が再び燃えさかっていくのがわかった。
 ほんの1時間ほど前には、この唇で、良介のペニスに奉仕し射精まで導き、さらにそれを燕下するという行為まで行ったというのに、どうしてキスくらいのことに、こんな思いを抱くのだろう。
 
 明彦の頭の中に、どこかで聞いた話が甦ってきた。
 自らの身体を売って生活をしている娼婦の中には、お金のためならどんな要望にも応えるが、ただキスだけは許さない。なぜならキスは本当に愛している恋人にだけ許すものなのだから、という考え方を持っている女性が多くいるということだった。
 
 今、明彦の心にはその娼婦の考え方に近いものが芽生えていたのかもしれない。
 確かに、良介は親友ではある。だが、当然ながら恋愛感情など抱いたことはない。
 それなのに、「愛」を基にしなければならないキスという行為を、愛情のない良介と行わなければならないのだ。それはもしかしたら娼婦に身を落とす以上の堕落なのだろう。 明彦に芽生えた羞恥の源は、意識下にあるそんな思いだったのかもしれない。
  
 明彦は動揺する感情を抑え込もうと固く目を閉じ、良介の唇に自らのローズピンクのそれを近づけた。
 チュッ・・・・
 唇と唇が一瞬触れただけのライトなキスである。だが、それでも明彦には決して「ライト」には感じられなかった。身体の震えが止まらなかった。
 
 しかし、そんな明彦に良介は残酷な言葉を投げかけるのだった。
「おかしいな~、お兄ちゃんが教えたキスはそんなのではなかったと思うけどなぁ。」
 明彦は良介の思いがけない言葉にハッとして閉じていた目を開けた。
「今みたいな軽いキスは、真面目な優等生たちがするキスだろ? 明菜みたいな、エッチで頭がいっぱいの子は、どういうキスをしろって教えた?」
 良介がどういうキスを求めているかはすぐにわかった。
 舌を絡ませ合うようなディープキスを、良介は求めているのだ。
 だが、今回ばかりはそれをすんなり行動に移すような割り切った心にはなれなかった。
明彦はただ黙って俯くしかなかった。
「おや?どうしたのかな?明菜はお仕置きが欲しいのかな?」
 言葉付きは優しげだったが、口調には明らかな苛つきが感じられた。
 それでも明彦は黙ったままだった。何か言い訳をするよりも、俯いたまま、自分にその意志がないことを示した方が相手に伝わるのではないかという思いだった。
 それに、明らかに嫌がっている「弱者」に対して、無理強いするような良介でないことは親友である自分が一番わかっているという思いもあった。

 しかし、3年間の歳月は良介の精神を根本から変えてしまっていたのである。
 良介は無言のまま明彦の細い腕を掴むと、一気に自分の方に引き寄せ、両膝の上に明彦の上半身を俯せにさせた。
 あっという間のことだった。抵抗の意志すら持つ間もなかった。二人の間には歴然たる「力」の差があった。
 
 その後、「兄」の「妹」に対する「お仕置きスパンキング」は20発に達した。
「明菜は悪い子でした。これからはいい子にしますから・・・許して・・・お兄ちゃまぁ・・・」という「明菜」の嗚咽混じりの叫び声を最後に、ようやく解放された。
 スパンキングの痛みの中で、明彦は良介が3年の間にすっかりS性向を身につけていることに気づいた。それは、明彦がいくら泣き叫ぼうとスパンキングの力を緩めなかったという事実だけではない。俯せになった明彦の細いウエスト部分に当たっていた良介のペニスがスパンキング中、徐々に硬度を増し、最後の頃には脈動まで伝わってきたのである。 良介は自分を「性の対象」としてだけでなく「嗜虐の対象」としても見ているのだ。 
そう思うと、スパンキングによる肉体的な痛みにだけでなく、精神的な痛みも襲ってきたのだった。

 スパンキングは終わったものの、真の苦しみはその後にあった。
 明彦は真っ赤に腫れた臀部を手でさすりながら、良介にそばに歩み寄ると、泣き顔の上に無理矢理笑顔を乗せ、屈辱のセリフを口にした。
「ねえ、お兄ちゃま・・・いままで、ずっと、お兄ちゃまがいなかっから、明菜とっても寂しかったの。だから、お願い、前みたいに明菜に・・・キスして。」
「明菜は、本当に甘えん坊なんだなぁ。しょうがない可愛い妹の頼みだからな。キスしてやるから、こっちにおいで。」
 明彦は笑顔で頷くと、良介の膝に、まだジンジンとした痛みが残っている臀部を乗せた。
 そして、良介の方に顔を向けると、わずかに小首を傾げ、目を閉じた。
 良介は笑みを浮かべた唇を、緊張のために微かに震えている「明菜」の唇に重ねた。
 チュゥッ・・・
 良介のキスは、先ほどのライトキスよりは長かったが、決して濃厚でディープなキスではなかった。
 良介は嫌がる「明菜」を見て、考えを変えたのだろうか? 
 いや、そうではない。良介の身に付いたS性はより残忍な思いつきをもたらしたのだった。「明菜」自らディープなキスを求めろと言っているのだ。そしてその思いつきから逃れることは、もはや明彦には不可能だった。

「イヤ、そんな軽いキスじゃ・・・。明菜、お兄ちゃまともっともっと、エッチなキスがしたいの。お願い、もう一回して。」
 明彦は屈辱感で涙が零れそうだった。半ば強制的とは言え、自分の意志とは異なる言葉を滞ることなく口にできてしまう自分が情けなかった。
 唇を割って良介の舌が進入してくるのを、明彦は背筋に寒さを感じながら受け止めた。
 異物のようにうごめく良介の舌の動きを、もちろん押し返すことはできない。
「明菜」のようなエッチな女の子は男の舌を積極的に迎え入れるようにしなさい、との「教え」だったからである。
 明彦は、美穂とも経験したことのない長く、濃厚なディープキスを、この時生まれて初めて経験した。ただし、唇を奪う側としてではなく、奪われる側としてであったが。


 本当の娼婦でさえ避けると言う、「客」との愛のないキスまで経験したことに罪悪感すら抱いていた明彦に、良介はさらなる「お芝居」を要求した。
「明菜は、学校でイジメられてるのかい?」
 明彦は隣に座る良介の横顔を見た。その顔には含意のある笑みが張りついていた。
「え?うん・・・今も・・・イジメられてるよ。」
 どうやら答えは間違っていなかったようだ。良介の笑みはまだそこに残っていた。
「妹、明菜」に「おバカ」「エッチ」が加わり、さらに「イジメられっ子」も足さなければならないようだ。

「ふ~ん、そうか。でも、何でみんなは明菜のこと、イジメるんだ?」
「えっと・・・、明菜、みんなよりお勉強できないし・・・それに運動も苦手で、ドンくさいし・・・失敗ばっかりするし・・・」
 どうやらこの答えも正解だったようだ。良介は黙って頷いている。
「でも、それだけじゃないだろう?もっとイジメられる原因があるんだろう?」
 明彦は良介の目を見つめた。視線の動きから含意を探ろうと思った。
 良介は暗示的に視線を動かし、白いブラウスの胸の付近で止めた。
 明彦はその部分を手で覆いながら、良介の表情を伺った。良介は小さく頷いてみせた。
明彦には良介の含意がわかった。
「あのね、お兄ちゃま・・・本当は他にもあるの。」
「ふ~ん、やはりそうか。で、何なんだ?」
「あの・・・明菜、クラスの中で一番大きいから・・・」
「大きいって、何が?」
「・・・・オ、オッパイ・・・」
 良介の顔が綻んだ。どうやら彼の描いたシナリオ通りの答えだったようだ。

「みんなね、明菜のオッパイが大きいってからかうの・・・。」
 明彦は悲しそうな表情を浮かべて、俯いて見せた。
「そうか、それは大変だなあ。よし今度お兄ちゃんがみんなに注意してやろう。だが、その前にお兄ちゃんも調べておかないといけないな。明菜のオッパイがどのくらい大きいのかを。」
「え? で、でも・・・恥ずかしいよぉ・・・」
「何を言ってるんだ?3年前には、『どうしたらオッパイが大きくなるの?』って聞きながら、いつもお兄ちゃんにオッパイ見せてきたじゃないか。」
 良介は「明菜」に「露出狂」のイメージまで付け足したいらしい。
「う、うん・・・わかった・・・じゃ、見せるから、よく調べてね、お兄ちゃま・・・。」

 ブラウスのボタンが外され、淡いピンクのブラが露わになると、良介の目はEカップの豊かな膨らみが作る深い谷間に釘付けになった。
「ね、お兄ちゃま、明菜のオッパイ、そんなに大きくないよね? みんながからかうほど大きくないでしょ?」
「いや、ブラジャーを外してみないとわからないよ。」
「あ、そっか・・・そうだね。これじゃ見えないもんね。」
 明彦は明るい笑みを作って、躊躇うことなくブラのホックを外した。
「露出狂 明菜」に躊躇いは似合わない。いくら心の中の「明彦」がどんなに恥ずかしい思いをしていようとも。

「ねえ、お兄ちゃま、どう? やっぱり明菜のオッパイ、みんながイジメたくなるくらい大きい?」
 明彦は、形のいい巨乳を良介の目に晒すと、自ら両手で弄びながら、屈託のない笑顔で聞いた。 
「う~ん、ずいぶん発育したなぁ。こんなにデカイんじゃ、イジメられてもしかたないなぁ。」
 良介はそう言うと、大胆にも片方の乳房に手を伸ばした。
 明彦の背筋にゾクッとする悪寒が走った。
「これじゃ、からかわれるだけじゃなくて、男子なんか、こうやって触ってくるんじゃないか?」
「あっ、いたっ・・・」
 良介の荒々しい手の動きに、明彦の口から思わず小さな声が漏れた。
 だが、良介はその声を聞いても全くひるむそぶりなど見せず、より一層力を込めてもみ上げてくるのだった。
「お、お兄ちゃま・・・イヤ、痛い・・・お願い・・やめて・・・」
「フフフ・・止めて欲しかったら、正直に答えなさい。男子からはどんなことをされたんだ?」
 良介の指先が突起した乳首をつねり上げた。
「い、痛いっ・・・言うわ。言うから許して・・・お願い・・・・」
 良介の荒々しい手の動きがようやく収まった。
 明彦は頭の中を少し整理しようとした。良介のイメージする「明菜」はどのように答えるのだろうか。
 十分過ぎるほど発育した肉体を持ちながら、知識と知能が伴っていないために、それが男性にどのように見られているのか、どうしてイジメられるのかもわかっていない。男性の持つ強さを畏れ、何でも言われたことに従ってしまう・・・・・明彦の中でそんなイメージが固まった。

「あのね・・・放課後、男の子たちに呼ぶ出されて、胸を見せろって言われたの。」
「うん、そこで見せたのか?」
「うん、だってみんなすごく怖い顔で言うから・・・で、ブラ取って見せたらね、変な長い棒持ってきて、これを胸の谷間に挟んでみろって言うの。」
「変な棒?どんなものだ?」
「あ、うん、その時に『持って帰れ』って言われたから、今、ここにあるの。ちょっと待ってね。」
 明彦はガラステーブルの下に置かれた、小さな箱を開けると、中から男性自身を模したと思われるディルドゥを取り出した。
「ふ~ん、これを胸の間に挟めって言われたのか?」
 良介は明彦からディルドゥを受け取ると、口元をゆがめながら言った。
「うん、そうなの。 ねえ、お兄ちゃま、これっていったい・・・何なの?」
 いくら何でもやりすぎかもしれないと思ったが、良介の好みには合っていたようだ。
 明彦はそのままのキャラクターを演じようと思った。
「いや、明菜はそんなこと知らなくていいんだよ。 で、それから何をしろっていわれたんだ?」
「あ、うん、よくわかんないんだけど、胸に挟みながら、先っぽの方を舐めてみろって。」
「う~ん、よくわからないな。その時のように、ここでやってみてくれよ。」
「うん、わかった。」
 明彦は胸の谷間にディルドゥを置くと、両手で巨乳を寄せながら、しっかりと固定した。
 そして、ディルドゥの先端を顎の下にくるようにすると、首をもたげ、舌先を出し、それをチロチロと舐めてみせた。
明彦には良介の目にギラギラした光が浮かんだのが見えた。
「それからみんなはどうしたんだ?」
「うん、みんな、写メ撮ってたよ。なんか、『おかず』にするんだって? ねえ、お兄ちゃま、『おかず』って何?」
「いや、そんなことは知らなくていい。で、どうしたんだ?その後は?」
「うん、あのね、『この棒を使って毎日練習しておくんだぞ』って明菜にくれたの。それから、みんな怖い顔して『今日のことは絶対に先生に言うなよ』って」
「それで、明菜は毎日それを使って練習しているのか?」
「うん、してるよ。だって、『練習してるよ』って答えると、みんなイジメないでくれるから。」
「そうか・・・じゃ、その練習の成果をお兄ちゃんにも見せてもらおうかな。」
「うん、いいよ。毎日練習してるから、上手になったよ。よく見ててね。」
 明彦はそう言うと、もう一度「擬似パイズリ」の演技に入ろうとした。
「いや、そうじゃない。そんな偽物より、本物の方がいいだろう?」
 良介は力づくで明彦の身体をソファに倒すと、自分はその上に跨ぐような姿勢を取り、バスローブの前をはだけた。ペニスはすでに半ば興奮状態を示していた。 
「お、お兄ちゃま・・・明菜、怖い・・・」
「フフフ・・・そんなこと言ってるが、本当はお兄ちゃんのチ○ポが欲しくてたまらなかったんだろう?明菜がどんなに淫乱でMっ娘なのか、お兄ちゃんは知ってるんだぞ。ほら、しっかりパイズリしてみろ。うまくできなかったらお仕置きだぞ。」

 明彦は差し出された良介のペニスを、柔らかな巨乳で包み込むと、両手を使って左右の乳房をリズミカルに動かした。
 良介の反応は早かった。谷間の奥深くに飲み込まれたペニスはすぐに硬度が増し、長さも太さも最高潮に達した。
 明彦は自分の体勢を少し下にずらした。胸の谷間の上部にペニスの先端を出すためだ。 その先端は早くも先走りの粘液で濡れていた。そのせいでピストン運動に合わせて、ネチュネチュという隠微な音がしている。
 明彦は先端を顎の下に確認すると、頭をわずかに上げ、舌先をそこに触れさせた。
「ん、んんっ・・・」
 良介が小さな呻きをもらした。
「ああん・・お兄ちゃまの・・・おチ○ボ熱いの・・・明菜のオッパイに熱いの伝わってくるぅ・・・」
 明彦は時折ペニスから口を離すと、喘ぎ声まじりの扇情的なセリフを、良介の目を見つめながら口にした。
「明菜のような悪い子には、お兄ちゃんの熱いザーメンでお仕置きだ・・・いいな」
 良介は激しく腰を前後させながら低い声で言った。
「うん、お兄ちゃまの熱いザーメンで、明菜にお仕置きして・・・たくさん、たくさん、お仕置きしてぇ・・・」
 良介の呼吸と鼻息が荒くなっていくのがわかった。
 明彦はその時に備えて目を瞑った。きっともうすぐ、熱く白い樹液が襲いかかってくるだろう。
 だが、良介は意外な行動に出た。胸の谷間から暴発寸前のペニスを引き抜くと、ソファの前に仁王立ちになったのだ。
 薄目を開け身体を起こした明彦の目の前に、良介の脈動するペニスがあった。
 良介は明彦の右側のツインテールを持つと、顔を「巨根」に引き寄せた。
 明彦はもう一度目を閉じた。良介が自ら巨根を擦り上げ、自分の顔めがけて射精するのだと思ったからだ。
 しかし、ここでも良介は意外な行動に出た。明彦の右手を掴むとペニスを握らせたのである。
「明菜、お前の手でしごけ。お前の手で射精させてみろ。」
 明彦はやっと良介の意図がわかった。
 自らの手で射精に導き、その噴出を自らの顔で受け止めろというのである。

 明彦の心の中に消えかかっていた羞恥の炎が再び燃え始めた。
 顔で男性の情欲の証を受け止めるという行為自体は同じでも、男性が主導権を握り自分はじっと目を瞑りながら受動的に待つのと、自分が主導権を握り能動的に「顔射」に導くのとでは大きな違いがある、と明彦は感じていたのだ。
 一言で言えば、それはひどく下劣で、堕落した行為のように思われ、自分はそこまで落ちてしまったのだという思いが明彦の心にわき上がってきたのである。
 しかし、そこまでの思いがあっても、良介の要求に逆らうことはできない。そのことが一層惨めな気持ちに拍車をかけるのだった。
  
「ねえ、お兄ちゃま・・・明菜の『手コキ』気持ちいい? ね、気持ちよかったら、そのまま、お顔に・・・明菜のお顔にザーメンかけて・・・たくさん、たくさん、かけてぇ・・・」
 手のひらに伝わる脈動と、良介の恍惚とした顔つきから、近づきつつある絶頂の時を感じ取った明彦は、精一杯の媚態を良介に向けた。同時にしごき上げる手の動きも速めていった。
 良介の反応は速かった。
「う、い、イクぞぉ・・・」の声と共に、ブルっと震えたかと思うと第一撃の噴出が始まった。
 明彦はそれを左頬から左瞼にかけてしっかりと受け止めた。
 良介の若い精の迸りは、この日二度目とは思えないほど大量だった。
 第2撃、第3撃の噴出が明彦のほとんどノーメイクの顔に白濁の化粧を施した。

「ほら、笑顔とお礼はどうした? 明菜の好きなザーメンを浴びたんだろう?」
 屈辱に耐えている明彦に良介の冷酷な言葉が飛んだ。
「お、お兄ちゃま・・・明菜にたくさん、ザーメンかけてくれてありがとう。明菜、お兄ちゃま、だーい好きぃ・・・」
 明彦は口元に笑みを作った。
 惨めだった。心の中では嗚咽の声を上げていた。もしも今、ザーメンが入るのを避けるために瞼を閉じていなかったら、きっと瞳が大粒の涙で濡れているのがわかっただろう。

(第9章に続く)

私立明倫学園高校 第8章-4

 学園長室では3人の男女が、無言のままテレビモニターに視線を向けていた。
 あまりに隠微でエロチックなシーンに、皆一様に言葉を失っていた。 
 女性である高岡真希は、自分の指導と精神操作の成果が顕著に表れていることへの満足感と共に、「明菜」が醸し出す退廃的な妖艶さに畏れにも似た感情をもって眺めている。
 男性である学園長と片桐幸夫は、「明菜」のスレンダーでありながら、豊満な胸を持つスタイルと、ヘビーなフルメイクの下で時折見せる無垢な幼さが共存しあったアンバランスの美しさに性的興奮をもって眺めている。

「いやあ、それにしてもすごい光景を見せてもらいましたな。」
 学園長は室内の沈黙を破るように口を開いた。
 不自然な姿勢だった。年甲斐もなく反応しているのを恥ずかしく思ったのか、デスクの下に身体をずらしズボンの股間を見せないようとしているのが明らかだ。
「やはりこの子は特別ですわ。表情、仕草、言葉付き、態度、どれをとっても女の子そのものです。その上に、徹底的な心理操作によって従属性を植え付けられているのですから、S男性にとってはたまらなく魅力的な女の子と言えるでしょうね。まあ、その代わり、もし女性の集団に明菜が入ったら、一番最初に嫌われるタイプなんでしょうけどね。フフフ」
 真希が冗談交じりに言った。

「しかし、親友の兵藤良介を相手によくここまで自然に振る舞えるものですね。まさかこの子、精神操作のやりすぎで記憶を失っているっていうことはないでしょうな?」
「フフフっ・・・そんなこと、ありませんわ。『明菜』は相手を良介だとはっきり認識しています。でも、それを心の奥に封じ込めることのできる能力を身につけているのです。」
「それは・・・つまり、忘れようと努めるということですか?」
「いえ、忘れようと努めている間は忘れられません。 簡単に言えば、別人格になりきる能力ということです。」
「う~ん、それは俳優が役で別の人になりきると・・・そういう意味ですかな?」
「ええ、それに近いかもしれません。よく役が乗り移るという言い方をするみたいですが、
意識しなくてもその人格になっている状態ってことでしょうね。」
「うむ、なるほど・・・それならわかるような気がするな。」
「昔から『女は皆、女優だ』といいますでしょ?つまりこの子は典型的な女性的特徴を持っているってことですわ。」

 テレビモニターには、ベッドサイドに腰掛けながらスタイルブックに目を落としている明菜が見える。
 良介の姿は見えない。恐らくシャワーにでも入っているのだろう。

「ところで、例の準備は大丈夫だろうね?何しろ、今日のメインイベントだからね。」
 学園長は片桐に声をかけた。
「はい、そこのところはご心配なく。今頃は、村瀬美穂が女子学生寮で明菜からの『告白文』を読んでいるところだと思いますよ。」
「うむ、それだよ。何しろ村瀬美穂は頭のよい子だ。疑念をもたれないような『告白文』が書けたのだろうね?そこが失敗したのでは、今までの苦労が水の泡だからね。」
「どうか、お任せください。先ほども言いましたが、ここにいらっしゃる真希先生だけでなく、小西詩織の力も借りてますから、矛盾のない告白文になっているはずです。」
「うむ、わかった。じゃ、その結果を楽しみして待つことにしよう。」
 3人の視線が再び、テレビモニターに向けられた。
 シャワーから戻った良介のバスローブ姿が映し出された。


****************************************

 シャワールームの中で、明彦は緊張に震えていた。
 良介は自分がシャワールームに入る前、スタイルブックを見ながら、「明菜」の次のコスチュームを指定した。
 スタイル6・・・クラシックなセーラー服だった。
 実は、スタイル6はこれまで一度しか袖を通したことがない。スタイル1のパステルカラーのセーラーとは違って、本当にどこかの学校の制服を模したようなデザインで、それ故に着たときの緊張感は他のコスチュームより高かった記憶がある。
 ただ、今明彦の感じている緊張感はそれが原因ではない。
 良介は、兄と妹の設定でのプレイを指定し、さらにノーメイクを希望した。
 明彦は当然断った。
 兄妹の設定でのプレイはかまわない。むしろ別人格を指定された方が気持ちは楽だ。ただノーメイクが不安だった。自分の本性が露見してしまう可能性が高くなる。
 髪の毛は確かに長くなっている。眉も綺麗なアーチ状に整えてある。エストロゲンの影響で肌の肌理も、白さも昔の面影はない。だからと言って、整形手術を受けたわけではないのだ。小さな特徴から良介が親友「明彦」を発見してしまうこともあるのではないか。
 さらに、明彦がシャワーに向かおうとした時に、良介が言った言葉もその緊張感に拍車をかけた。
「どうせなら兄と妹の『近親相姦プレイ』ってのもいいかもな。アハハハ・・・」
 

 明彦の脳裏に、3日前真希からアドバイスを受けた時のことが浮かんできた。
「いい?あなた達は『本当の』女の子ではないということを忘れてはダメよ。もしもお客にそのことがわかったら、『追試』は不合格になるということを覚えておきなさい。だから、どこまでいっても、ショーツだけは着けたままサービスしなさい。あなた達は手や口やオッパイを使ってお客を満足させることのできるテクニックは十分身に付いているんだからね。それでもお客がセックスを求めてきた場合には、当然『アナル』でお相手しなさい。ただし、お客にリードさせてはダメよ。あなた達のリードでお客に『秘密』が発見されないように注意しなさい。まず、照明はできる限り落とすこと。それから・・・・・」
 真希のアドバイスは詳細に渡っていた。
 確かに言われたようにすれば、「秘密」が露見することはないだろうとも思った。
 だが、そのアドバイスには大事な点が抜けていた。
 もしも、お客が「本当の」セックスを、つまりヴァギナへの挿入を求めてきたらどのように対処したらいいのかという点である。
 一人の「コンパニオン」からその質問を受けた時、真希は自信に溢れた表情で答えた。
「あなた達のメッセージ文に『アナルセックスが好き』って書いたのは何のためだと思うの?お客たちはきっとそれを求めてくるはずよ。それでももし『本当の』セックスを求められたら・・・・今日は、『女の子』だからごめんなさいって言って断りなさい。」
 全員のぽかんとした顔が真希の方に向けられた。
「あら?わからないの?『女の子』っていうのは、生理のことよ。生理だから、今日は許してって言いなさいってこと。わかった?フフフ・・・」
 明彦の顔が羞恥で赤くなった。
 これまでいくら女性化が進んだとしても「生理」という言葉を意識したことは一度もない。それは本当の女性と自分を分ける最後の一線のように感じられる言葉だった。
 その言葉を口にしろと言う。しかも男を騙すために使えと言うのだ。
 明彦は運命のステップをまた一段上がった気がしたのだった。
「とにかく、お客と言ったって、童貞の男の子ばかりでしょ?お勉強はできるかもしれないけど、あっちの知識はゼロみたいなものよ。それに比べて、あなた達はお勉強は全然ダメだけど、あっちの知識とテクニックはプロ並みよ。平気、平気、簡単にだませるって。
自信を持ってやりなさい。」
 皮肉とも励ましとも取れるその言葉で、真希のアドバイスは終わった。 
 明彦の紅潮が一層増したのは言うまでもない。


 明彦はドレッサーの鏡に向かってあれこれと髪型を作ってみた。
 クラシックなセーラー服に似合う少女らしい髪型って・・・・
 今のままのミディアムレイヤードでは・・・・・・少し大人っぽいかもしれない。
 それに、さっきまでと同じ髪型ではやはりダメ。
 シュシュで後ろに纏めてみる・・・・・あまり似合ってないような気がする。
 それに、ノーメイクだと少しボーイッシュなイメージになってしまうような。
 明彦は、思い切ってツインテールを作り、大きめのピンクのリボンで結んでみた。
 いかにもガーリーな女の子らしさを強調した出来映えに、我ながら恥ずかしくなった。 だが、それでいくことに決めた。
 極端な女の子らしさを全面に出すことで、できるだけ「明彦」のイメージから遠ざけようと考えたのだ。
 ただ、外見をそのように作るというとは、ガーリーな女の子を演じなければならないということでもある。
 明彦は頭の中にイメージを画いてみた。
 男の前では声のトーンが上がり、瞬きの回数が増え、話し方も甘えた口調に変わり、「天然」であることを強調するような、いわゆる同性に最も嫌われるタイプの女の子のイメージができあがった。

 ツインテールのヘアスタイルを作った明彦はセーラー服に袖を通した。
 クラシックな夏用セーラーである。多少クラシックなイメージとかけ離れている点を言えば、スカート丈の短さである。膝上20センチほどのプリーツスカートは今でこそ、一般的だが、やはりクラシックなデザインからすると、多少の違和感がある。とは言え、他のコスチューム類のように、立っているだけでショーツの露出を気にしなければならないほどの丈の短さではない。明彦には、久しぶりに「安心して」着ることのできる衣服だと言えた。
 
 全身を姿見に映してみた。
 ノーメイクではあるが、「明彦」の面影は見えない・・・・・ように思う。
 完璧なツインテール美少女に仕上がっている・・・・ように見える。
 だが、明彦の不安は消えなかった。
 せめて口紅だけでも・・・ローズピンクの少女らしい口紅だけでもできたら、安心できるような気がする。
(そうだ、頼んでみよう。うまく頼めば許してくれるかもしれない。でもどうやって?)
 明彦は頭を巡らしてみた。ガーリーな妹が男らしい兄にお願いするイメージが浮かんできた。
「ねえ、お兄ちゃん・・・」
 ドアの向こう側にいる良介に、明彦は思いきって声をかけてみた。
 返事はなかった。聞こえなかったのだろうか?
「ねえ、お兄ちゃんってば・・・」
 少し声を上げてみた。
 やはり返事はない。
 もしかしてやりすぎだったのだろうか、それとも演じ方が足らないのだろうか?
 明彦は一応後者だと決め、もう一度だけ声をかけてみることにした。それで返事がなければ仕方がない。
「ねぇ、お兄ちゃまぁ・・・明菜、お願いがあるんだけど・・・」
 先ほどと比べて、少しだけトーンが上がり、鼻にかかった舌足らずの声を作ってみた。
「うん?なんだぁ?」
 良介の間延びした声が返ってきた。顔は見えないがきっと笑みが浮かんでいるだろうことが声の調子からもわかる。
 明彦は良介の前で自分が演じなければならない「妹」のイメージがはっきりと掴めた。

「あのね、お兄ちゃま・・・明菜、口紅だけしたいんだけどなぁ・・・ね、いいでしょ?」
「うん?どうしてだ? お兄ちゃんは、素顔の方が好きだけどなぁ・・・」
「う~ん、でもぉ・・・」
 何か、良介の喜ぶような理由を言わなくては・・・と明彦は思った。
「だって、お兄ちゃま・・・オチ○チ○、ペロペロする時、明菜の唇、綺麗な方が好きでしょ?だからね、お願い・・・」
 ノーメイクの顔が紅を差したように真っ赤になっていた。
 咄嗟のこととは言え、いや、咄嗟に出た言葉だからこそ、そんな男の性欲を刺激するような言葉が自然に口をついて出たことに抑えようのない羞恥心が沸いてきたのだった。

(続く)

私立明倫学園高校 第8章-3

「さて、最初は何をして楽しませてもらおうかな?」
 バスローブ姿の良介はソファに腰を下ろし、大股開きでくつろぎながら、卑猥な笑みを浮かべた。
「はい・・ご主人様、何なりとお申し付けください。」
「フフフ・・・明菜は、このペニスが欲しいか?」
 良介ははだけたバスローブから露出したペニスを指さした。
「はい・・・明菜はご主人様のペニスが欲しいです。」
 明彦には他に答えの選択肢はない。
「明菜は、このままのペニスが好きか?それとももっと大きくて固くなったペニスの方がいいか?」
「はい・・・明菜は・・・・大きくて固くなったペニスが・・いいです。」
「フフフ・・よろしい、では、お前のやり方でお前好みのペニスにしてみなさい。30分以内にできたら、ご褒美をやる。ただしできなかったら、お前をチェンジすることにする。」「チェ・・・チェンジ?」
「そう、チェンジだ。気に入らなければ、相手をチェンジができると聞いているからな。」
 明彦はすっかり忘れていた。今、自分は「追試」の真っ最中だったのだ。
 もし良介が自分に不満を持ち、チェンジを申し出れば、それはすなわち「追試不合格」を意味することになるだろう。
 余りにも多くのことがたった一日に集中して起きたので、もっとも肝心なことが明彦の頭から消えていたのだった。 

「ご、ご主人様・・・お願いです。明菜、気に入っていただけるように務めますので、チェンジすることだけは・・・お許しください。」
「フフッ・・では、今言ったように30分以内に、俺のペニスをお前好みの『勃起チンポ』に変えてみろ。」 
「は、はい・・・ご主人様。」
 明彦は良介のそばに歩み寄った。どうすれば良介の命令を果たすことができるだろう。 明彦は持っている限りの「テクニック」を頭の中にイメージした。
(最初は手を使って・・・それでダメなら、おクチと舌で・・・ )
  
「ちょっと待て。それ以上近づくな。」
 良介の声に、明彦は足を止めた。
「俺の身体に一切触れてはいけない。それからそのメイドの制服を脱いでもいけない。言葉と演技だけで俺を興奮させてみろ。」
 明彦は良介が30分という比較的長い時間を指定した意図がわかった。直接的な方法ではなく間接的に想像力をかき立てる方法、つまりイマジネーションだけで性的興奮に導けというのである。
「は、はい・・・かしこまりました。ご主人様。」 
 明彦には具体的に何かの方法が浮かんだわけではない。だが、良介の命令を拒否することができない以上、他に返答のしようもなかったのである。

「どうした?じっとしていても、時間が過ぎていくだけだぞっ。」
 何も頭に浮かばないまま、立ちつくしている明彦に良介がいらいらした口調で声をかけた。 
 明彦は部屋を見回してみた。細長いガラス瓶に入った数本のカラフルなロリポップキャンディが目に入った。その瞬間、脳裏にある考えが閃いた。
「あ、あの・・・ご主人様、明菜のお願い聞いてくださいますか?」
「うん?何だ?」
「あの・・・いくつか道具を使っていいですか?」
「道具?うむ、まあいいだろう。」
「あ、ありがとうございます。では・・・」

 明彦は目を瞑って、心を静めるように深く息を吐いた。
 そして、(あなたは娼婦、お客様を興奮させるのが、あなたの役目なのよ。恥ずかしいなんて思ってはダメ。恥ずかしさを幸せだと思いなさい。)と心に念じると、もう一度目を開けた。その目には、はっきりと「娼婦明菜」が宿っていた。
 
 明彦は身体を斜めにして、流し目を送りながら、誘い込むような笑みを浮かべた。
「ねえ、ご主人様・・・これから、とってもエッチな明菜をご覧に入れますね。だからお願い・・明菜をじっと見つめて・・・そして、感じて欲しいの。」
 明彦は、身体をゆっくり前に傾けながら、両肘を内側に寄せ、胸の谷間を強調する。
 表情は、薄目を開け、唇を突き出し、時折舌先でゆっくりと舐めてみせた。
 良介のニヤついた顔が見えた。

 身体を斜めに向け、お尻をわずかに突き出してみせる。ウエストの縊れからヒップのラインの曲線を強調することが、どれだけ男性へのセックスアピールになるかはこれまでの「指導」で十分学習済みだ。
 その姿勢をキープしたまま、肩越しに悪戯っぽく微笑んでみせる。
 膝を伸ばしたまま、足先だけ方向を変える。ヒール部分が良介の目に入っているはずだ。 ピンヒールの細さは女らしさの象徴であると何度教えられたかわからない。

 さらに前傾姿勢を深くする。もちろん膝は絶対に曲げない。
 ペチコートで広がったスカート裾がゆっくりとせり上がっていく。
 良介の視線がそこに集中する。
 そのまま続ければ、バックシームのストッキングを止めている赤いガーターベルトと同系色のタンガショーツが現れるはずだ。
 良介の視線に熱がこもってきている。
 明彦は、クスッと小さく笑みをもらすと、さっと身体を元に戻す。
 そして声には出さず、唇の動きだけで「ア・ト・デ・・・」と囁きかける。

 良介の股間に少しずつ変化が見えてきた。
 明彦はくるりと身体を反転させて背中を向ける。
 サイドテーブルの脇にあるロリポップキャンディに手を伸ばす。メインのガラステーブルのキャンディでなく、こちらに手を伸ばすのは、その方が低い位置にあるからだ。
 膝を伸ばしたまま、ゆっくりと手を伸ばす。右手の方が近いのはわかっているが、あえて左手を伸ばす。その方がウエストの曲線が強調されるし、何より前傾姿勢が深くなって、先ほど「お預け」にしたままの「絶景」を良介にプレゼントすることができる。
 キャンディはあえて、白い物を選ぶ。
 白色の上のボルドーレッドのキスマークはきっととてもセクシーに映るだろうと知ってのことだ。 

「ご主人様ぁ・・・このキャンディをご主人様の大切なペニスだと思って、明菜、精一杯ご奉仕しますね。だから、もし感じてくださったら、後で明菜に本物のペニス・・・ううん、ご主人様の おチ○ポさまをくださいね。」
 明彦はかすれ気味の声で囁くように言うと、キャンディの球状の頂点を唇で包むように銜えた。
 チュッチュッという口づけの音がリズミカルに続く。
 一旦唇を離すと、意図していたように濃密なキスマークが白色の上に映えている。
 良介の目が釘付けになっているのがわかる。
 明彦はその熱い視線を感じ取ると、わずかに首を傾け流し目を送りながら、舌先をゆっくりと伸ばしてみせる。
 ボルドーレッドのキスマークを舐め取るように舌先をキャンディに這わせていく。

「うんんぅ・・・」
 良介の呻きにも似た声が聞こえた。
 明彦は薄目で良介の反応を確かめた。
 その表情からは笑みは消えている。呼吸もいくぶん荒くなっているような気がする。
 でも、肝心な・・・・
 明彦は良介の股間に視線を送った。
 明らかに反応している。太さも長さも増している。
 良介は自分の演技に興奮しているのだ。まるでアダルトビデオでも見ているかのように。

 明彦の演技が大胆になっていった。
 伸ばした舌でキャンディー全体をペロペロとなめ回し、それを唇に銜えると、そのまま舌先だけ唇の周りを這わせる。
 そして、潤んだ瞳を良介に向けながら、時折、シュポッシュポッという音を立て、キャンディを出し入れする。
明彦は夢中だった。羞恥心はもはや消えていた。それを振り払うための自己暗示の呼びかけも必要なくなっていた。

「よし、合格だ。」
 目を瞑ったまま「演技」をしていた明彦の耳に良介の低い声がした。
 キャンディを手にしたまま、うっすらと目を開けた。
 ソファにふんぞり返りながら、バスローブの前をはだけている良介の姿が目に入る。
「さあ、ご褒美だ。明菜の好きな、ご主人様のペニスだ。お前の好きにしていい。」
 明彦は、良介の股間に目をやった。
「お、大きい・・・」
 明彦は息が詰まりそうだった。
 それは、想像を遙かに超えていた。エレクトした良介のペニスは、これまで相手にした3人の誰と比べても圧倒的な迫力だった。

「フフッ・・どうした? 望み通りの『勃起チ○ポ』だ。きっとキャンディより美味いはずだぞ。」
 明彦には、次に何をすべきかは当然わかっている。
 ソファに近づき、両膝を揃え、フロアに跪いた。
 目の前で見ると、その巨大さには恐怖さえ感じる程だ。
 明彦は自分が微かに震えているのがわかった。もしかしたら恐怖心が顔に表れているかもしれない。
 それが、単にペニスの巨大さだけが原因だったのか、それとも、ついに良介のそれに触れ、奉仕をしなければならなくなったことへの罪悪感のためなのかはわからない。
 ただ、それを表に出すことは絶対に許されなかった。なぜなら「娼婦明菜」にとって、その行為は「ご褒美」でなくてはならないからだ。

「ご主人様ぁ・・明菜、うれしいです。こんなに感じてくださったなんて。明菜、ご主人様の、太くて逞しくて男らしい、おチ○ポさま、大好きです。心を込めてご奉仕させていただきますので、ご主人様も、もっともっと、感じてくださいね・・・」
 明彦は上目遣いで良介の顔を見つめながら、唇を「巨根」の先端に近づけていった。
「うっんんっ・・・」
 明彦の「ファーストキス」に、良介は敏感に反応した。小さなうめき声と共に全身をピクっと痙攣させたのだった。
 チュッチュッと音をさせながらキスを重ねる。そのすべてに良介は反応した。
 ここまで堂々とした態度で振る舞っていただけに、その反応の仕方は、明彦にとって意外な感じがした。
 だが考えてみれば、厳しい寮生活の中ではたとえ美穂という恋人がいたにせよ、セックスの経験はないはずだし、ましてや「フェラチオ」の経験などあるはずもない。つまり、この瞬間が純粋童貞の良介にとっては初の性体験ということになるのだ。どんなにりっぱなペニスを持っていようと、わずかの刺激で敏感に反応するのは当然のことだった。
 
 明彦にはふとある思い出が蘇ってきた。
 中学3年になって間もない頃のことだが、良介の部屋で一緒に勉強していた時、良介が隠し持っていたアダルト写真集を持ち出してきた。それはフェラチオ、イラマチオ、口内射精などオーラルセックスに特化したものだった。
 それを見ながら、興味津々の表情で、良介は言った。
「フェラチオって気持ちいいのかな?」
 もちろん、そんなことを知るはずもない明彦は、「さあ」と答えただけだったが、良介はさらに言葉を継いだ。
「何か、ある本で読んだんだけど、フェラチオっていうのは男にとって女を征服し、屈服させる行為だから興奮するんだって。特に射精したザーメンを飲ませる時にはそう感じるらしいよ。でも、それってどういう感覚なのかな?」
 その質問にも、明彦は答えることはできなかったが、その時心の中で思ったことは今でも覚えている。
「女を征服し、屈服させるってどういう感じなんだろう?僕もいつか、そんな経験をして、興奮するようになるのかな?」

 明彦の心に押さえ込まれていた羞恥の炎が、再び燃え上がってきた。
 良介の長いペニスの茎を舌先で巧みに刺激しているその動きに、一瞬の躊躇いが生まれた。
 良介は3年越しの疑問を今まさに解決しようとしているのだ。きっと「女」を征服し、屈服させる行為がどれほど興奮することなのか実感しつつあるに違いない。
 自分を高い位置から見下ろすその目には、情欲に混じった征服欲の光が見て取れる。
 それに対して自分はどうだろう。
きっと一生涯疑問の解決などできないまま終えることになるのだ。しかも女を征服する経験を持たないまま、女として征服され屈服させられる経験だけを重ねていくことになるのだ。そう思うと改めて、情けなさと羞恥の思いがこみ上げてくるのだった。 

 しかしその羞恥心も長くは続かなかった。
 明彦は自分の心に問いかけた。
 そして自分には女を征服し、屈服させること以前に、誰かを征服したり屈服させたりする欲求そのものがないことに気づいたのである。
 つまり自分にあるのは強者に征服されることを自然なこととする考えであり、その征服者が征服欲を満たすことにこそ、自分の幸福があるのだという思いだった。

 自分は、良介に征服されることを望んでいるんだ。弱者として屈服させられることに幸せを感じているのだ。
 その思いを悟った時、明彦の躊躇いは消えた。
 良介のすでに脈動を見せている巨根への、熱のこもった奉仕が再開された。
 明彦のボルドーレッドの唇が、巨根の先端を飲み込んでいく。
「おうっ・・」
 良介の、言葉にならない声が漏れる。
 明彦は顔を上下させながら、時折上目遣いに良介の顔を見つめる。
 その切なげな視線は、良介にとっては、
(お願い、ご主人様、明菜のオクチでイって・・・明菜にザーメン飲ませてぇ・・)
 と語りかけているように見えた。
 良介は目を瞑った。明菜のあまりに妖艶な表情にすぐに果ててしまいそうだったからだ。
 
 だが、その抵抗を明彦は許さなかった。
 明彦はペニスから唇を離し、拗ねるように言った。
「イヤ・・・明菜のこと、じっと見ていてくれなくちゃ・・・。ね、お願い、明菜の瞳を見て。もっともっと、感じて・・・」
 良介がその言葉に反応して、もう一度自分に視線を向け始めたのを確認すると、小さく微笑みを浮かべ、奉仕を再開した。
 実践的なテクニックという点で言えば、催眠術下で植え付けられたものに過ぎないのだから、決して経験豊富とは言えない。だが、フェラチオ初体験の良介にとってはそれでも十分な技巧だったに違いない。
 良介は自慰では味わったことのない、まるで下半身全体を揉みしだかれているような感覚だった。
 そしてその感覚が一点に集中した瞬間、ペニスから全身へ痺れるような電流が走った。
「うっ、うっう・・・い、イクッっぅ・・・」
 
 良介の痙攣が明彦の唇に伝わってきた。喉奥に熱い樹液の第一撃が襲った。
 まるでビュゥビュゥと音を立てているかのような襲撃が続いた。
 明彦はその波が収まるまで、じっと目を閉じて待った。
 なぜか、途中で燕下することはしなかった。いや、してはいけないと思ったのだ。

「お客様が口中で果てた時、その最後の一滴までじっと受け止めなさい。痙攣が収まったら、ゆっくり口を開いて、すべてを受け止めたことを示す。そしてお客様の目を見ながら、
コクッと音を立てながら飲み込んでみせるの。いいわね、しっかり覚えておくのよ。」
 きっと催眠状態で真希に言われた言葉だったのだろう。それが無意識の内に明彦の心の中に残っていたのである。

 明彦はその心の声に従った。
 指示通りできなかったことは、良介のザーメンがあまりに大量だったために、一部が口許から流れ落ちてしまったことだ。
 ただ、それは良介に悪い印象をもたらすものではなかった。
 その妖艶な様は、ザーメンをコクッと燕下する瞬間、眉間に刻まれた微かな苦悶の皺と共に、良介の征服欲を満たすのに十分な効果をもたらしたのだった。

 (続く)

私立明倫学園高校 第8章-2 

 トン・・・・トン・・・・・トン   

 ドアを叩くノック音がした。一音ずつ間をおいた特徴のあるノック音だった。
 明彦は、その瞬間ビクッとして、一気に鼓動が高鳴るのがわかった。
 自分を納得させたつもりだったが、やはりいざとなると平常心ではいられない。
 明彦は、もう一度鏡を見つめて呟いた。
「大丈夫よ。あなたは明菜なの。心の中の明彦は、この瞬間に消えたわ。だから、自信をもって・・・ほら、微笑んで。」
 明彦は大きく一つ深呼吸をすると、口角を意識的に上げてスマイルを作った。

 ドアをゆっくり開けた。
 徐々に詰め襟学生服が部分的に目に入ってくる。
 少しずつ視線を上げていく。日に焼けた首筋が目に入ってきた。そして顎、口、鼻、目・・・
 先ほどパーティ会場で目にした良介の顔がそこにあった。
 
 大きい・・・・
 それが明彦の率直な感想だった。
 パーティ会場ではこんな間近で顔を合わせてはいない。だからこれほどまで大きな身体だとは思わなかった。
 12センチピンヒールを履いているのに、その健康的な笑顔を見つめるには、遙か高く見上げなければならない。
 首筋の太さも胸板の厚さも肩幅の広さも、すべて圧倒的な存在感だ。
 
 良介はドアの外でじっと立っている。笑顔を湛えたまま、何も話そうとしない。
 明彦は思わず、「あっ」と小さな声を上げた。あまりの存在感に、彼が「客」であることを忘れていたのだ。
「ご、ごめんなさい・・・お客様・・・・ど、どうぞお入りください。」
 明彦は軽くお辞儀をすると、壁側に身体を寄せて、通り道を作った。
「こんにちは・・・さっきはどうも。今日はよろしくね。」
 良介は明るい笑顔で言うと、明彦の前を通り過ぎていった。
 その瞬間、若い男子の汗の匂いがした。決していい香りではない。でも、なぜか鼻腔の奥を刺激する心地よさがある。それが、フェロモンというものなのかはわからない。しかし明彦の身体からは決して発散することのない香りだった。

「明菜ちゃんっていい匂いがするね。それにこの部屋も・・・同じ香水?」
 明彦はドキッとした。
「明菜ちゃん」と呼ばれたこともそうだが、匂いのことを言われたからである。
 自分が今良介の匂いに心を奪われていたのを見透かされているような気がしたのだ。
「あ、はい・・・あの・・・ミッドナイトプアゾンっていう香水です。ディオールの・・・・。ローズ系で・・・・」
 明彦は言いかけて言葉を止めた。香水の成分やブランドの話なんて男性が興味を持つわけはない。そんな男性の心理すら、すっかり忘れてしまっている自分に明彦は恥ずかしくなった。

 飲み物を用意している明彦の後ろ姿に、良介がさりげなく声をかけた。
「明菜ちゃんって、本当に綺麗な脚しているね。それにお尻も可愛いよ。」
「え?あっ・・・」
 明彦は咄嗟にスカートの裾を抑えた。飲み物に集中していて前屈みになっているのに気づかなかったのだ。
「アハハ・・そんあ仕草も可愛いけど・・・だけど、俺のリクエスト聞いているよね?だからそのユニホーム着てるんだよね?」
 明彦は良介に言われてハッとした。
(何を普通に振る舞っているの? 自分に求められているのは、セクシーで挑発的なフレ ンチメイドでしょ? しっかりしなさい、明菜!)
 明彦はそう心に呟くと、飲み物を準備する手を止め、ゆっくり振り向くと思わせぶりに微笑んでみせた。
「もう~お客様・・・せっかちなんですね? これから明菜、少しずつセクシーモードに入っていこうと思ってたのに・・・」
「ふ~ん、そうかぁ・・でも、そんなじれったいことしてられないよ。」
「フフッ、でも、お客様。夜は長いんですもの。もっとゆっくり楽しみましょ。」
 明彦はアイスティーをテーブルに置きながら、上目使いで良介の顔をのぞき込んだ。
 良介の視線が胸元の深い谷間に注がれているのがわかった。
(だめよ、隠しちゃ もっと見せつけるの。)
 明彦は胸元を押さえようとした右手の動きを途中で止めると、胸を少し突き出して、舌先で唇をなぞってから、悪戯っぽくウィンクをして見せた。

「なあ、明菜、その『お客様』っていうの、やめてくれないか。たった一日だけのこととは言っても、もっと親しみを込めて、名前で呼んでくれよ。」
 良介の口調が少しずつ変わってきたのがわかった。自分への呼びかけも呼び捨てになっている。
「では・・・・良介様・・・でいいですか?」
「いや、もっと気楽に。」
「では・・・良介さん・・・?」
「う~ん、いいよ、呼び捨てで。恋人同士みたいに。」
「ええ? り、良介・・・?」
「うん、それがいい。」
 
 明彦の心に急に動揺が広がった。中学時代にずっと慣れ親しんだ呼びかけ方をしたことで、客としてではなく、親友の「良介」としての意識が甦ってきてしまったからだ。そしてひとたび意識すると、今はほとんど残っていない面影を無意識の内に見つけ出そうとして、かえって心が苦しくなるのだった。
「い、いいえ・・・それはダメです。」
「どうして?客の要望は絶対なんだろ?」
「は、はい・・・でも・・・」
 明彦は何か言い訳をしなければと思った。嘘を付いてでも、「良介」と呼ぶことだけは避けなければと思った。
 でも、頭がまとまらない。上手い言い訳が思いつかないのだ。

「ああ、わかった。なるほどぉ。」
 良介はそう言うと、ニヤリと大きな笑顔を見せた。先ほどまでのさわやかで健康的なものではなくて、少し邪気の加わった笑顔に見えた。
「明菜はMっ娘だったもんな。手紙でわざわざ『イジメテ』ほしいなんて書いてきたくらいだしな。イジメテもらう客に呼び捨てはできないよなぁ。アハハハ・・・」

 明彦は咄嗟に否定しようとした。「それは私の書いた手紙ではなくて・・・・」と言いかけたが止めた。下手な言い訳をするより、良介がそれで納得しているなら、そのままにしておいた方がスムーズに進むと思ったからだ。
 だが、それは間違いだった。「娼婦明菜」のレッテルに、この後は「Mっ娘」の冠まで付加して演じなければならなくなったからである。
 
「わかったよ。それじゃ、俺のことは『様』付けで呼びなさい。俺は、お前のことを『明菜』と呼び捨てにする。いいな?」
「は、はい・・・」
「声が小さい! はっきりとご主人様の目を見ながら、答えなさい!」
「はい、ご主人様、それで結構でございます。」
「フフフ・・まあ、いいだろう。」
 明彦は良介の変わりように戸惑いを感じながらも、流れに身を任せるしかなかった。
「Mっ娘娼婦 明菜」には躊躇いも逡巡も、ましてや抵抗も許されないからである。

「では、明菜、最初の命令だ。こちらに来て、ご主人様の着替えを手伝いなさい。」
 良介は、ソファから立ち上がると、両腕と両足を少し広げた姿勢で直立した。
「は、はい・・・ご主人様。」
 明彦は、良介のそばに歩み寄ると、「失礼します。」と言って、詰め襟制服のボタンに手をかけた。 

 震える指先で制服の上着を脱がし終えると、次に純白のワイシャツのボタンを外していった。一つまた一つと、徐々に良介の素肌が露わになっていく。最後に袖のボタンを外し、ワイシャツの前を大きく広げた。
 明彦は息が止まりそうだった。
 日焼けして健康的な肌色と、鍛えられた無駄のない筋肉は、制服越しに想像していた姿を遙かにしのぐ存在感だった。
 太い首筋、広い肩幅、厚い胸板、割れた腹筋、そのどれもが見事なまでのバランスで調和している。それはまるで一枚の画のような美しさだった。
 明彦はその逞しい身体からワイシャツを抜き取るために、両襟を後ろに回した。
 だが、上手くワイシャツを抜き取れない。
 12センチピンヒールを履いているにも関わらず、約20センチもの身長差があるのだ。
 明彦の両手が良介の背中に回らないのは当然だった。

 すでに限界に近いつま先立ちに最後のひと伸びを加えようとした時、明彦の身体のバランスが崩れた。
 半ばはだけかけた良介の逞しい上半身に、明彦のか細い身体がもたれ掛かった。
 良介の筋肉質の腕が、咄嗟に明彦を支えた。ウェストの縊れに力強い握力を感じた。
 明彦は露出した胸に唇が触れるのを避けようと、顔を横にずらした。
 姿見に映る二人の姿が、明彦の目に鮮やかな映像として飛び込んできた。

 それは一瞬の映像だった。
 良介が、「危ないじゃないか、気をつけなさい。」と言って、明彦を引き離すまでのほんの刹那の時間を切り取ったものに過ぎない。だが、明彦にとってはその刹那が永遠に思えるほど衝撃的な映像だった。
「コントラスト」という単語で表現するなら、これほど適切な例は他にないかもしれない。
 背の高い逞しい男性に身を任せる小柄な女性。女性の細い腕は男性の太い首に回って、ピンヒールの片足がピョンと空を蹴り上げている。それはまるで洋画のキスシーンのようだった。 
 細部を見れば、日焼けした肌と、抜けるような白い肌。筋肉質の腕と、筋肉の欠片も見えないか細い腕。そして何より、咄嗟の出来事にも慌てることのない自信に満ちた笑顔と、ハッとして目を丸くした頼りない表情。
 そのいずれもが明彦と良介の「立場」の違いを象徴的に表しているように感じられたのである。

「それにしても、明菜のウェストは細いなぁ。俺の太股より細いんじゃないか?」
 良介は明彦の身体を引き離すと、ワイシャツを脱ぎながら言った。
 明彦は無意識に、良介の鍛え抜かれ、腹筋の割れたウェスト部分に目を向けた。
 腹筋運動くらいなら永遠に続けられるのではないかと思えるほどの逞しさだった。
 明彦は自分の腹筋運動の限界が2回、それも腕を頭から離した状態でしかできないことを思い出し、顔を赤らめた。
腹筋だけではない。首だって、肩だって、腕だって、胸だって、明彦の筋肉のサイズダウン分が良介にそっくり移植されサイズアップしてしまったのではないかと思えるほどだ。
(だけど、バストだけは・・・そう、バストサイズだけはアップしているわ。力強さも、逞しさも、筋肉もないけど・・・・)
 明彦は、半ば自嘲気味に心の中で呟いたが、そもそも「胸囲」を「バストサイズ」と当然のように捉えている自分に気づき、より一層赤面するのだった。

 
「今度は下だ。」
 上半身裸になった良介は、腕組みをしながら仁王立ちになった。
「はい、ご主人様。」
 明彦は跪いて指示に従った。
 
 筋肉質のいかにもスポーツで鍛えられたような太股が現れる。
 確かに良介が言うように自分のウエストより太いかもしれない、と明彦は思った。
 トランクスに手をかけて、一瞬躊躇った。
 このまま続けると全裸になってしまう。もしかしたらバスローブか何かが必要なのでは、と思った。   
 明彦は上目遣いに良介を見た。良介はそれに力強い視線で返した。
「どうした?続けなさい。」
「は、はい・・・かしこまりました。」
 トランクスにかかる指先にもう一度力を入れる。
 腹部から臍の下にかけての太く濃いヘアが見えてくる。明彦の身体にはこれまでも、いやこれからも一生見られないであろう男性的特徴だ。
 ヘアは下にいくにつれ濃さを増し、そして・・・・・
 良介のペニスが目の前に姿を現した。
 大きくて太くて長い、大人のペニスだった。まだ、エレクトをしていないにも関わらず、亀頭部分が完全に露出していて、精力の強さをアピールしているかのようだった。
 
 明彦は中学時代にプールのシャワー室で見た良介のその部分を思い出していた。
 当時も、良介のペニスは明彦のそれよりいくぶん大きかったが、共に包皮が被ったままの少年のペニスだった。
 3年間の内に、良介のペニスは堂々とした大人のそれへと変化し、いつでも女性に性の喜びをもたらし得る、正真正銘の「男根」になった。
(それにひき換え・・・)と明彦は思った。
 この3年間で明彦のペニスは一度も亀頭部分の露出をするもことのないまま、矮小化の一途を辿った。そして少年のペニスは少女の擬似「クリトリス」へと変化し、一生女性に性の喜びをもたらすことなどできないばかりか、男性からの愛撫をじっと待つ、儚げな「女陰」となってしまったのである。

「どうだ?俺のペニスは?」 
 良介は明彦が手を止めたまま、自らのそれを凝視しているのを見て、誇らしげに言った。「は、はい・・・とても・・・ご立派です。」
「ハハハ・・やはり、女は自分がペニスを持っていないから、大きなペニスが好きなんだな? 俺たち男がお前のような巨乳女が好きなのと同じだな、アハハ・・」
 良介の視線が大きく開いた胸の谷間を向けられているのに気づき、思わず手で覆おうとしたが、途中でその手を止めた。
(ダメよ、隠しちゃ。あなたは娼婦なのよ!)という心の声が耳に響いたからだ。

 明彦は一瞬の躊躇の後、ゆっくり口を開いた。
「ええ。お互いにないものねだりなんですね。でも、今日はこのオッパイはご主人様のもの。だから、明菜にもご主人様のりっぱなペニスくださいね。」
 明彦は跪いたまま、上目遣いに見上げ、悪戯っぽく、そして思わせぶりに微笑んだ。
(そう、あなたの言う通りよ。「女」の明菜にペニスなんてないもの。だから大きくてりっぱな男性のペニスが好き。)
 明彦は自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。    

 (続く)

私立明倫学園高校 第8章-1

 明倫学園高校敷地内には、卒業式の前後数日しか使用しない建物がある。
以前、まだ学園が少数精鋭主義の教育方針に移行する前には、れっきとした学生寮として用いられていたその建物は、今でこそ外観はやや古びているが、元来建材を吟味し、しっかりした造りであったため今でも十分使用に耐えられる。
 部屋数は約30の個室と食堂、集会場、教室などからなっているが、現在使用されるのは主に各個室のみである。個室内部は小さめのソファとテーブル、ベッドとドレッサー、そして衣装ダンスが配置されている。学生寮の個室に当然あるべき、学生机とか本棚の類は一切置かれてはいない。一言で言えば、生活感のないホテルの一室のようである。カーテンは薄手のレース生地と厚手の遮光性生地の組み合わせで、閉めることで外光をすべて遮断できるようになっている。
 今このカーテンを閉め、ベッド脇の照明だけを灯せば、その照明のピンクの光と壁面のダークピンクの色合い、そして部屋中に充満する妖艶な香水の香りが相まって、雰囲気はまるで一昔前の洋画で見る「売春宿」である。
 いや、実は雰囲気だけではない。そこがまさに「売春宿」そのものであるのは、ベッドがダブルであること、大きめのドレッサーには夥しい数の化粧品類が並べられてあること、そして巨大な衣装ダンスの中にはありとあらゆる女性用コスチュームが揃っていることを見れば明らかである。

 今日は正に卒業式である。
 卒業生たちは今、式後のパーティーで談笑したり、コンパをしたり、記念撮影をしたりと思い思いに過ごしている。
 そのパーティに先ほどまで25名のウェイトレスが飲食物を運んだり、卒業生の注文に対応したりと甲斐甲斐しく働いていた。
 彼女たちの姿はもうパーティ会場にはない。彼女たちは思い思いの衣装に着替え、今まさに「売春宿」の住人になっている。身につけている衣装は彼女たちの選択によるものではない。いや、衣装だけでなくメイクもそうだ。それはこの後、迎える「客」の好みや注文に合わせたものである。
 
 建物2階端の角部屋に明彦はいた。
 黒サテン地のフレンチメイドユニホームと、アダルトでヘビーなフルメイクでのセクシーなサービス・・・・それが「客」である良介の注文だった。
 準備はすべて整っている。後は良介を迎え入れるだけだ。
 
 明彦はメイクの途中で何度も自分を見失いそうになった。
 緊張、恐怖、不安、罪悪感、自己嫌悪が次々に形を変えて襲ってきた。
 その度にメイクする手が震え、何度やり直したかわからない。
 いつもならフルメイクでも40分もあればこなせるテクニックをすでに身につけているにも関わらず、今日は90分近くかかった。
 
 それでも仕上がった自分の顔を鏡に映してみると、不思議なことに安堵感が広がった。
 手間取った割にそこそこの出来映えだったこともあるが、それ以上に良介の注文がヘビーなフルメイクだったことが結果的にプラスに作用したのだ。
 メイクが厚ければそれだけ素顔から離れることができ、明彦を捨て明菜になりきることができる。そして明菜になりきれれば、良介を親友として意識する必要がなくなり、単に今日初めて知り合った一人の男性として見ることができるようになる。そう思うと、気持ちがいくぶん楽になってくるのだった。
 
 明彦は姿見の前に立ち、ポーズを作ってみた。
 左手を腰に置いて斜に構え、唇を突き出して、上目遣いでじっと見つめるポーズ。  
 両足を揃えて、少し前屈みになって、胸の谷間を強調しながら、悪戯っぽく微笑むポーズ。
 鏡に背を向け、斜めに振り返り、少しだけお尻を突き出して、誘うような視線を送るポーズ。
 いずれのポーズも完璧だった。画に描いたようなセクシーフレンチメイドを表現しきっていた。
 次にテーブルの上に置かれたロリポップキャンディを手に取って、唇に近づけてみる。 舌先を出して思わせぶりに舐めながら、揺れるような流し目を送る。
 キャンディを唇に銜えてみる。そして銜えながら、時折舌をのぞかせる。
 完璧な「擬似フェラ」のポーズだ。セクシーフレンチメイドが「娼婦明菜」に変わっていた。
 
 明彦は鏡に映る「娼婦明菜」に語りかける。
「どうしたの、明菜? そんな心配そうな顔して。初めてのお客様だから? 大丈夫、あなたは完璧、とてもセクシーだわ。あなたは娼婦なの。お客様を満足させること、それがあなたの役目。お客様の望みを叶えること、それがあなたの喜び。いい?あなたは娼婦なのよ。」

 明彦のセクシーポーズはその後も続いた。
 心の中を「娼婦明菜」が占有したのだろう。ベッドサイドで休憩している時も扇情的な表情は消えていない。
 もしも、ここに高岡真希がいれば満足そうな笑みを浮かべて、こう言うだろう。
「うん、完璧、どこから見てもセクシーで魅力的な娼婦よ。これならどんなお客様だって満足なさるわ。」

 だが、それは明彦の想像だけの出来事ではなかった。
 確かにこの時、高岡真希は明彦の姿を見つめながら、ほとんど同じセリフを口にしていたのだった。

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 真希の視線の先には40インチのテレビモニターがあった。
 そこに流れている映像は「明菜」のリアルタイム映像だ。
 小型ながらも精密な監視カメラとマイクによる鮮明な映像と音声が送られてきていた。 
 真希は今、学園長室にいる。
 真希の近くで、モニターを好色そうな笑顔で見つめているのは、学園長その人である。 さらに、学園長の隣には幹部職員の一人である片桐幸夫が立っている。

「それにしても真希先生たちのおかげで、彼らもすっかり変わりましたね。特にこの山本明彦・・いや、明菜の変わりようは驚異的です。見てご覧なさい。あの色っぽい表情。もう売れっ子娼婦そのものじゃないですか。」
 学園長は視線をモニターに向けながら、真希に言葉をかけた。
「ええ、おかげさまで。でもこの子は特別でしたわ。私がこのお仕事を担当して5年になりますけど、これだけの子は他にはいません。外見の美しさもそうですが、精神操作も催眠療法も、そしてホルモン療法もこれだけはっきり効果が出た子はいません。恐らく潜在的な可能性・・・つまり元々、「素質」があったってことなんでしょうね。」
 真希も視線はモニターを追いながら、学園長の言葉に応えた。

 だが、彼ら3人がこの場に居合わせてる目的は、このような客観的な感想を述べあうことではなかった。
 学園長の病的なまでのS性がもたらした、ある計画の顛末をその目でしっかりと見届けるためだった。もちろん彼のS性に火をつけたのは、「明菜」の儚げな美少女ぶりと嗜虐欲をかき立てる卑屈なまでの従属性だったのだが。

 明彦(明菜)と良介と美穂の関係性を知った学園長が片桐に指示した計画は、次のようなものだった。
 まず、あらゆる手段を尽くして、明菜の客が良介になるように仕向ける。パーティでは、良介と美穂のテーブルの担当に明菜をつける。
学園長の言を借りれば、ここが最初の見せ場だということだ。
 この時点で、相手の本性を認識しているのは、明菜ただ一人である。良介はただの娼婦として明菜を見ているだけで、美穂にいたってはそのことすら気づいていない。
 この三人の織りなす感情の交錯はたまらなく興味深い、ということだった。
 計画は次の段階に進む。
 明菜が客を迎える段階である。明菜はその時初めて、自分を指名した客が良介であることを知る。
 学園長は、この時の明菜の表情はきっと見物になるだろうと言った。 
 しかも、良介であることを知っている明菜と、明菜をただの娼婦だと思っている良介とのからみは、想像するだけで興奮するとも言った。
そして計画は最終段階に進む。
 事前に用意しておいた明菜の告白の手紙を美穂に渡す。もちろん、作り物である。
 それには、「明菜」の本性が「山本明彦」であること。そして「明彦」には昔から女性化願望があり、恋愛対象は男性であり、良介にも恋愛感情を抱いていたこと。だから、美穂から良介を取り戻すために「コンパニオン」になりすまし、良介と身体の関係を持とうと決めたこと・・・などが書かれてある。
 その告白を読んだ美穂が二人のいる部屋にやって来た後のことを想像すると、興奮で夜も眠れなくなるのだ、と学園長は言った。 


 しかし計画は予定通りには進まなかった。
 まず、パーティでのひょんなことがきっかけで、明菜と美穂との間に信頼関係がうまれてしまったことだ。さらに、どういういきさつでそうなったのか、明菜の客が良介であることがパーティ時にわかってしまったことだ。
 そのことを知った片桐は落胆した。
 あれだけ苦労して、不自然にならないよう根回しして、良介を明菜の客になるよう導いたのに、それがすべて台無しではないか、と思った。
 だが、落ちついて考えてみれば、すべての計画が壊れてしまったわけではない。
 台無しだと思ったのは、予め用意しておいた明菜の告白文の内容を基にして判断するからで、その告白文を書き換えれば、若干の計画変更でシナリオは進んでいくのではないか、と片桐は考えた。それは学園長の叱責を恐れるあまり、無理矢理考え出した苦肉の策でもあった。
 問題は告白文の内容だ。パーティ会場での明菜と美穂とのやり取りの詳細を知らない片桐には整合性のある文面が浮かばなかった。そこで、助けとなったのが会場で様子を見ていた真希の力だった。そしてもう一人、二人をもっと身近で見ていた人物、小西詩織のもたらしてくれた情報が大きかった。
 もちろん、詩織はそんな奸計が潜んでいることなど気づいてはいない。ただ、「コンパニオン」たちに強い嫌悪感を持つ彼女が、比較的口の軽い女性だったことが片桐にとっては幸運だったということである。

 片桐は新たに書き直した明菜の告白文を持って、学園長室に急いだ。
 そして、「実は、もっと面白い計画を考えついたのですが・・・」と前置きして、微調整後の計画をまるで自分の手柄のように話し始めた。
 学園長は落胆は示しつつも、片桐の説明を聞く内に、それも面白そうだという思いになり、最終的にはそれに同意した。 
 片桐は自らの「如才なさ」でピンチを乗り切ったことになるのだが、明菜にしてみれば、この「如才なさ」こそが、その後の運命を決めるきっかけになってしまったのである。

 (続く)

私立明倫学園高校 第7章-5

 しばらくして個室のドアを叩く音がした。
 おそらく真希か里佳が自分を追ってきたのだろうと思った。
 ノックに応え、ドアを開ければ、きっと彼らの口から「追試不合格」が告げられるのだろう。
 明彦はそれでもいいと思った。いや、その方がいいとさえ思った。そうなることで良介と「男女の関係」になることを避けられるのなら。
 
 明彦は小さく返事をすると、ドアを静かに開けた。 
俯いた視界に飛び込んできたのは、真希や里佳のタイトスカートではなく、シンプルな制服のスカートだった。
 泣きながらゆっくり視線を上げると、そこに立っていたのは美穂だった。
 会場で最後に見た悲しげな顔ではなく、心配そうな思いやりのある表情だった。
「大丈夫?急に駆け出すんだもの。心配したわ。」
 美穂の慈愛に満ちた優しい声を聞いて、わずかに収まりかけていた涙がまた溢れ出した。
「わたし・・・、わたし・・・」
 明彦はそれだけ言うと、美穂の胸に泣き崩れた。
 美穂は、明彦の肩を抱き寄せると、右手でその髪を優しく撫でた。
 明彦は髪の毛を撫でられるのがこれほど安心感を得られ、心地いいものだとは知らなかった。
 高校一年の「教養の時間」で読まされた女性雑誌のアンケート記事を思い出した。
 女性が男性にしてもらいたい行動の第1位に「髪を優しく撫でてもらう」があった。
 今明彦は、そのアンケート結果に偽りのないことがはっきりわかった。

「大丈夫よ、心配しなくて。私、怒っていないわ。むしろ良介の相手が明菜さんでよかったと思ってるくらいよ。だって変な人だったらイヤだもの。」
 美穂は誤解していた。「明菜」が急に駆けだしたのは、自分が怒った顔を見せたからだと思っている。
 だが、そんなことはどうでもよかった。自分を抱きしめ、慰めてくれている、その事実だけが大切だった。
「ごめんなさい・・・本当にごめんなさい・・・」
 明彦は自分でも何に対して謝っているのかわからなかった。
 これほどまでの優しさと誠実さで接してくれる美穂に、自分の本性を隠し続けている後ろめたさなのか、そんな美穂の大切な恋人である良介と性的関係になる事への罪の意識なのか、それともそれらを拒否する勇気を持つことさえできない自らの弱さに対する謝罪なのか。
 でも、とにかく謝りたかった。謝ることだけが美穂との絆を保つ唯一の手段だと思った。

「ばかね、謝るなんておかしいわ。怒ってないって言ったでしょ? ちょっとびっくりしただけ。明菜さんみたいな可愛くて素直な人が、あんなイヤらしい・・・あ、ごめんなさい、あんな刺激的な手紙書くなんて信じられなかったし、それに・・・あの・・・」
「DVD・・・映像・・・ですね?」
「うん・・・良介に聞いただけだから、どんなものかわからないけど・・・でもとっても刺激的な・・・そういうものに明菜さんが映っているなんて信じられなかったの。それになにより明菜さんがプロの・・・」
「プロの女性・・・・身体を売ってるってこと・・・ですね?」
「うん、でもきっとこれには深いわけがあるんだって思ったの。だって、明菜さんがそんなこと好きでするわけないもの。でしょ?そうよね? よかったら、そのわけ聞かせてくれない?」
 美穂の問いかけに明彦は動揺した。本当の事情など話せるわけがない。
 でも何か言わなければ、何かそれらしい「物語」を作り出さなければ、美穂を落胆させてしまうことになる。
 明彦は、以前どこかで聞いた不幸な少女の話をそのまま語った。
 高校生の時、母親の再婚相手にレイプされ家を飛び出したが、悪い男に捕まり、風俗嬢に身を落とした。一旦はがんばって抜け出そうとしたけれど、中卒の家出娘を雇ってくれる所は他にはなく、結局は今の仕事に戻ったのだと。
 明彦は嘘を語りながら、罪悪感に押しつぶされそうだった。
 自分の話に真剣な表情で聞き入り、時折涙さえこぼす美穂を見ていると、その思いは尚更増してくるのだった。

「ごめんね、つらいこと思い出させちゃって。でも、明菜さんが好きでそんなことしてるんじゃないってことがわかって、本当にうれしかったわ。」
「明菜のこと許してくださるんですか?・・・本当にもう怒ってないですか?」
「うん?怒るって何を? ああ、嫉妬ってこと?」
「は、はい・・・」
 明彦は頷いた。
 本当はもっと他の許しを請うつもりだった。正体すら明かせないことへの許しである。 だが、それを口にすることができない以上、せめて一つだけでも美穂の許しを得たいと思ったのである。
 
「う~ん、嫉妬がないって言えば嘘になるけど、明菜さんならいいかなって・・・。それにね、これは気を悪くしないでもらいたいんだけど、さっき良介に聞いたら、彼が明菜さんを選んだんじゃなくて、職員の人が勧めたんですって。ナンバーワンの子だけどどうかって。で、彼もあなたの写真とか・・・う~んと・・・いろいろを見て、気に入って決めたらしいの。だから、少しだけど私の嫉妬も薄らいだっていうか・・・、ごめんね、変なこと言って。」
「い、いえ・・・・そんなこと・・・気にしません。」
 明彦はそうは答えたものの、美穂の言葉が気になった。
 なぜ職員がそんな「客引き」まがいのことまでして、自分を良介に勧めたのだろう。
 そんな余計なことをしなければ、こんな苦しみを味あわなくても済んだのに。
 明彦は、その誰とも知らない職員を呪った。
 もし今目の前にその男がいれば、適わないと知りながらも殴りかかったかもしれない。
 
 だが、そんなことを思ったところで何かが変わるわけではない。自分が今夜良介の相手をすることは覆りようもないことだ。
(たった一晩のこと・・・。彼を良介ではなく、別の男性だと思えば耐えられるわ。だって、昔の良介の面影なんてないじゃない。)
 明彦はそう心の言い聞かせ、気持ちに踏ん切りをつけた。その顔にはいくぶん笑みが戻っていた。

「だから、今晩ひと晩、彼の相手してあげて。折角の卒業記念なんだもの、彼のこと、満足させてあげて。ね、お願い。」
 美穂は明るい笑顔で言った。
 その言葉は受け取り方によっては、ひどく悪意に満ちた言葉だとも言える。
「たとえ何があっても、彼の心は私のものよ。あなたは、彼の性欲を満たすためだけの女。そこには心はないのよ。」と言っているようなものである。
 この言葉がもし、詩織の口から発せられたとしたら間違いなくその意を含んでいただろう。だが、美穂の口ぶりからはそんな含意は微塵も感じられない。恐らくはそういった方面の知識が疎いために発せられた悪意のない言葉だったのだろう。
「はい・・・美穂様がそうおっしゃってくださるなら・・・。」
 明彦は見つめる美穂の顔に笑顔を返した。

 その後、気持ちに落ち着きが戻った明彦は、美穂に促されるままトイレを出た。
 会場に通じる廊下で、明彦は美穂に尋ねた。
「あの・・・美穂様はどうして明菜にそんな親切にしてくれるんですか?」
「フフッ・・どうしてかしら? う~ん、よくわかんないんだけど、何か昔から知り合いだったみたいな懐かしい感じがするの。だから・・・かな?」
「あ、あの・・・明菜も・・・明菜もそんな感じがしてました。美穂様と昔から知り合いだったみたいな・・・・」
 明彦は咄嗟にそう答えた。できるだけ冷静に答えたつもりだったが、いくぶん声が震えているのが自分でもわかった。

「あの・・・美穂様、お願いがあるんですけど・・・」
 明彦は話題を変える意味も兼ねて、ずっと心に留めていた思いを美穂にぶつけてみることにした。
「うん?何?」
「あの・・・美穂様のこと、お姉様と思っても・・・いいですか?」
「え?私が、明菜さんのお姉さん?どうして?」
「あの・・・明菜、美穂様のこと、とっても好きだし・・・尊敬してるし・・・」
「フフッ・・何か照れちゃうなぁ~。でも、もう会うこともないんじゃないかしら?」
「は、はい・・それでもいいんです。美穂様のこと、心の中でずっとお姉様として思っていたいんです。」
 明彦の目には涙が浮かんでいた。
 美穂はそこに真剣な思いを感じ取った。
「いいわ。明菜さんのこころのお姉さんになってあげる。」
「あ、ありがとうございます・・・美穂様。」
「フフッ・・『美穂様』はおかしいわ。」
「そ、それじゃ・・・美穂・・お姉様・・・美穂お姉様」
「クスッ・・・ちょっと照れくさいなぁ。でもそう呼ばれるの悪くないかも。フフ・・」
「美穂お姉様」
「うん?なあに、明菜」
「美穂お姉様、もう一度、明菜の頭撫でて。」
「クスッ・・明菜は甘えんぼさんなのね?」
 美穂は明彦の肩を抱き寄せると、優しくその髪を撫でた。
 明彦の心にはたとえようのない幸福感と恍惚感が広がっていった。
 この瞬間が永遠に続いてくれたら、すべてを失ってもいいとさえ思った。


 パーティ会場入口近くには高岡真希が立っていた。
「教師」として「明菜」の帰りを待っていたのである。ことによれば、「追試不合格」を宣言するために。
「あ、せ・・先生・・・」
 明彦の声に、美穂も入口付近に立つ中年女性に視線を向けた。
 その女性が「明菜」にとっての「責任者」であることはすぐにわかった。
 ウェイトレスたちが自分たちの「責任者」を「先生」と呼んでいることはすでに知っていた。

「明菜、あなた、急に飛び出して、しかも今までずっと帰ってこないなんていったいどういうつもり?」
 真希は明彦に近づくと、強い口調で言った。
「あ、あの・・・それは・・・」
「ああ、それは、私から説明します。」
 言い淀んでいる明彦に代わって、美穂が言葉を継いだ。
「実は私トイレに大事な時計忘れてきてしまって、明菜さんに急いで取ってきてくれるように頼んだんです。急がないと誰かが持っていってしまうからと。」
「でも、その割には時間がかかりすぎでは?」
「はい、これは私のミスなので謝らなくてはいけないのですが、時計は私の鞄に入ってました。だから一生懸命時間をかけて探してくれた明菜さんには何の落ち度もありません。」

 美穂の自信に満ちた話しぶりに圧倒されたのか、真希は今回だけは不問に付すと言った。
 化粧直しが必要な明彦が控え室に入ろうとした時、美穂は小さくウィンクをすると、そっと囁くように言った。
「妹のピンチを救うのは、お姉様の役目でしょ?」
 明彦は、「ありがとう、お姉様」と小さく囁き返すと、会場の入口に消えていく美穂の背中を目で追った。

 約30分後、メイク直しも終え、会場に戻った明彦は、美穂と良介の間で交わされるある短い会話を耳にした。
 それは3年前の入学式後に別れた「山本明彦」についての会話だった。
 どうやら彼らは自分たちが交際を始める前に、明彦に許しを得ようと連絡を試みたらしい。だが、学校側ではSクラス生のほとんどは学業不振のため途中退学となり、連絡を取ることはできないと返答したということだ。
 もちろんそれでもさらなる連絡方法を探る努力もできたとは思うが、寮生活をしている彼らには酷なことかもしれない。それに今更思い返していったい何になるというのか?
 明彦には二人が自分に許しを得るために連絡を試みたこと、その事実だけで十分だった。 

 (第8章に続く)

私立明倫学園高校 第7章-4

 美穂の詩織に対する思いきった叱責によって、いったんは収まりかけていたその場の雰囲気であったが、今度は明彦の些細なミスによって、もう一度険悪な方向へと向かってしまうのだった。
明彦は、騒動の間サイドテーブルに載せておいたトレイを持ち上げると、テーブルの上に飲食物を並べていった。真ん中にピザの皿を、ジンジャエールを良介と太一の前に、そしてオレンジジュースを詩織と美穂の前に置き、一礼して下がった。
 その瞬間、美穂が小さく、「あらっ」と言い、言葉を繋ぎかけたが、すぐに首を左右に振り、「ううん、何でもない・・」とだけ言って、オレンジジュースを手にした。
 美穂はミスオーダーを指摘しようとして、咄嗟に口を閉ざしたのである。もし口に出せば、詩織にまた「ウェイトレス」攻撃のきっかけを与えることになってしまう。自分さえ黙って見逃しておけば何事もなく済むのである。美穂の大人の女性としての判断だった。

 だが、めざとい詩織は見逃さなかった。
「あら?美穂、アイスティーに替えたんじゃなかったっけ?」
 詩織の指摘に敏感に反応したのは美穂よりも明彦の方だった。
 美穂が確かにそう言ったことを思い出し、テーブルに近づいた。すぐに交換することを申し出るためだった。
 だが、美穂はそんな明彦を目で制し、何事もなかったかのように言った。
「ううん、替えてないわ。オレンジジュースで合っているわ。」
「ええ?そうだったかしら? さっきアイスティーに替えてって言ったじゃない。ねえ、太一?」
 詩織は隣に座る村中太一の方を見た。
 太一と良介は先ほどから授業で学んだ「帝王学」について語り合っていて、ここまでの騒動にもあまり関心を示していなかった。もちろん、美穂のオーダーのことも大して記憶には残っていない。
「ああ?そうだっけ?」
 太一はそれだけ答えると、もう一度良介との会話に没頭していった。
 そのことが詩織の気持ちをかえって刺激してしまった。
(このままだと、私が間違えたことになるじゃない。)という思いだった。
「絶対にそう言ったわ。私覚えているもの。」
「いいんだって。それに私本当はオレンジジュース飲みたかったのよ。言い換えて失敗したって思ったんだから。」
「ほら、やっぱり替えるように言ってたんじゃない。何で嘘ついてまでこの子たち庇おうとするのよ。」
「庇おうとなんてしていないわよ。たいしたことじゃないから、いいって言ってるだけよ。」

 明彦はさすがにいたたまれなくなり、美穂の元に近づいた。
「申し訳ありません、すぐに交換してまいりますので。」
 明彦はそう言うと、美穂の前のオレンジジュースに手を伸ばした。
「ちょっと待って。交換すればいいってもんじゃないわ。」
 詩織の声だった。
 明彦はドキッとして手を止めた。
「もう、あなたたち何なの? 人に水はかけるわ。オーダーすれば間違えるわ。頭の中男の人のアレでいっぱいなんでしょ? だから、ミスしたりオーダー間違えたりするのよ。ただでさえ、頭悪いんだから仕事の時くらい、男のこと忘れなさいよ!って言っても、根っからの淫乱女には無理かしら? アハハ・・・」
「詩織!またそんなこと言い出すの? 今日のあなた変よ。どうして彼女たちの人格を否定するようなこと言うの? もう、これ以上言ったら、あなたとの友情もこれきりよ。」
 美穂はそう言うと、隣のテーブルの方に視線を向けた。
 自分の声が大きかったのか、隣の学生達と担当ウエイトレスがこちらの方を心配そうに見ていた。
「とにかく、彼女たちと私たちは対等の人間よ。もっと相手を尊重しなさい。普段の詩織だったらそんなこと言わなくてもわかっていることじゃない。」
 美穂は声のトーンを落として言った。


 実は美穂の指摘しているように、普段の詩織ならこのような罵詈雑言を口にすることはなかったかもしれない。もちろん、性格は勝ち気だし冷たいところもある。それに女性が男性に媚びを売るような生き方を嫌っているプライドの高い一面もある。
 だが、今日彼女を苛立たせている原因は他にあった。
 
 パーティ後に男子生徒を対象に密かなイベントがあることは、すでに周知の事実である。
 そのことは女子生徒達も噂で知っていることであり、中には不潔だと感じ、堂々と抗議した生徒もいる。たが、「伝統だから」の一言で片づけられ、中止させる力にはなり得なかった。
 こうして今年も「イベント」は執り行われることとなったが、男子のみに知らされ、女子には決して知らされていない情報があった。
 それは男子たちと夜を共にする「コンパニオン」の件である。 
 おそらく、どこかの「プロの女性」が相手をするのだろう、というのが彼女たちの予想の主流だった。
 だが、男女別学とは言え、一部の成績優秀者同士の交際だけは認めている以上、情報の流失を完全に食い止めることは不可能である。
 特に村中太一のような比較的口の軽い人物がその中にいると、情報の秘匿は簡単に破られてしまう。

「俺たちの相手はパーティ会場で『ウェイトレス』をしてる子たちなんだ。ビデオとか資料とかを見て、もうすでに指名してあるんだ。ちなみに俺が指名したのは『裕香』って子。かなり可愛い子でさ、ゲットするの大変だったんだ。」
 太一が詩織にそのように自慢げに話したのは、今日の卒業式前のことだった。
 詩織は正直誰が太一のパートナーなのかは大して問題ではなかった。そもそも、恋人の太一が別の女性に触れることがたまらなく不潔に思っているので、相手が誰かは問題ではなかったのである。ただ、太一自身が一人の女性を指名し、その女性が同じパーティ会場にいると思うと、パーティ開始前から詩織の気持ちは動揺していたのである。
 さらに悪いことに、会食が始まってしばらくの後、太一が詩織に耳打ちしたのである。
「ほら、そこにいる子、その子が俺の指名した『裕香』だよ。うん、ビデオで見るより可愛いな~ ヘヘヘ」
 太一はそう言って、自分たちの担当ウエイトレスの一人、裕香を密かに指さした。
 詩織は動揺する心を抑えながら、裕香を見つめた。太一の言うように確かに可愛い。小柄で細くてスタイルも良さそうだ。詩織の心には当然のように嫉妬が芽生えたが、太一は、「たかが『商売女』との一夜の遊びだ、ヤキモチなんか焼くなよな。」と言った。
 だから表面上は何でもないように振る舞い、冷静さを保った。それが、知的で洗練された大人の女性だと言い聞かせながら。
 だが、プライドの高い詩織のことである。内面に燃えたぎっている嫉妬の炎はそう簡単に収まることはなかったのである。  
 そんな中での裕香のミスだったのだ。詩織の気持ちが一気に爆発したのはある意味やむを得ないことと言えなくもない。もちろん、裕香にしてみればとんだとばっちりということなのだが。


 少しの沈黙の後で詩織が含意のありそうな口調で美穂に問いかけた。
「美穂、この子たち、対等な人間って言ったわね? ねえ、この子たちどういう子だか知ってる?」
「どういうって? ウェイトレスさんでしょ? 私たちのお世話をしてくれる・・・」
「うん、今はね。でもこの後・・・・」
「この後?」
「ねえ、美穂、この後男子達に『イベント』があるの知ってるわよね?」
「『イベント』?・・・ああ、うん、知ってるわ。」
 もちろん、美穂にも「イベント」の情報は入っている。良介からもそれらしき話は聞いている。美穂自身、決していい気分ではないが、卒業記念に男子が大人の「男性」の仲間入りを果たすイベントだとすれば、致し方ないという気持ちもある。もちろんそこに恋愛関係があったら許せないが、良介の言うように、プロ女性とのたった一夜の遊びだと思えば、なんとか自分を納得させることもできると思っている。  

「その男子たちの相手って誰だと思う?」
「うん?誰って、プロの女性だって聞いたけど?」
「フフフ・・まあ、プロはプロなんでしょうけどね。」
 詩織はそう言うと、隣の太一に何やら声をかけた。
 相変わらず良介との会話に熱中していた太一は煩わしそうな顔をしながら、ポケットからピンク色の封筒を取り出し、詩織に手渡した。
「これはね、今夜男子の相手をすることになっている女性からの熱い熱いメッセージらしいわよ。」
 詩織はそう言いながら、太一から受け取ったピンクの封筒を美穂に手渡した。
 表には「裕香」の文字が印字されてある。

「これ、開けていいの?」
 美穂の問いかけに、詩織は大きく頷いて返した。
 美穂は封筒の中から同じくピンク色の便せんを取り出すと、文面に目を通した。
 中身はタイプで印字された例のPR用の手紙である。男の指名を促すような扇情的な言い回しに溢れた文章で、読んでいる美穂が恥ずかしくなるような内容だった。
 もちろん、当人の手になるものではないのだが、何も知らない美穂から見れば、表に印字された「裕香」のものだとしか思えなかった。
 
「ね?すごい文章でしょ? こんなイヤらしい文章を書く人が今夜の太一の相手ってわけ。で、その人の名前がその『裕香』ってこと。」
 美穂にはまだ詩織の真意が計りかねていた。
 詩織はそんな美穂の表情を見て、フッと微笑むと、テーブルから少し離れた所で待機していた裕樹に合図を送った。

「はい、ただいま・・・」
 裕樹はそう返事をすると、詩織のそばに歩み寄り「何か、ご用でしょうか?」と丁寧な口調で尋ねた。
「ねえ、あなたの名前聞いてなかったわね。何て言うの?」
 裕樹は一瞬躊躇った。
(なぜ名前など聞く必要があるのだろう。個人的な会話を交わすわけでもないのに。)と裕樹は思った。だが、先ほどの一件がある。ここはおとなしく従っておいた方がいいだろう。
「は、はい・・・ゆ、裕香・・・と申します。」
「ふ~ん、裕香さんね。じゃあ、このお手紙はあなたのものよね?」
 詩織はピンクの封筒を裕樹の前にかざした。 
 裕樹は一瞬ドキリとした。もちろん封筒の存在もその中味の内容も知っている。ただ、封筒は最終的に自分を指名した「客」が持っていると聞かされていた。夜、個室を訪れる「客」が間違いなく自分の指名客かどうかを確認する材料として。  

「は、はい・・・そうだと・・・思います。」
「これは、彼から預かったものよ。つまりあなたを指名したのは彼ってこと。」
 詩織はそう言うと、太一を指さした。
 太一もその動きに気づき、ニコリと微笑むと、裕樹に向かって、「じゃ、後でよろしくね。楽しみにしてるよ。」と冗談交じりに敬礼のポーズをつけて言った。
 裕樹は動揺した。こんな形で「指名客」を知ることになろうとは思ってもみなかったからである。
 詩織はそんな裕樹の動揺ぶりが面白かったのか、辛辣な言葉を投げかけた。
「お手紙によると、裕香さんって、おクチでするのが上手なんですってね?それにゴックンもだ~い好きって書いてあるわ。さすがにプロの方は違うわね、いろいろ『お勉強』なさっていて、フフフ・・・」
 詩織は、真っ赤になった裕樹に、もう戻っていいわ、とだけ言って手で追い払うようなジェスチャーをした。 
   
「美穂も、わかったでしょ?この子たちがどういうことをしているのかってこと。これでも私たちと対等な人間って言える?」
 美穂は詩織の問いかけを耳にしながら、「明菜」の方を見ていた。
 あの可愛くて素直な子が本当にそんなことをしているのだろうか。
 美穂には信じられない思いだった。だが、その「明菜」に何やらひそひそと語りかけている「裕香」にしたって、とても身体を売って生活をしているような女の子には見えないではないか。その「裕香」が認めている以上、「明菜」もきっとそうなのだろう。恐らくよくよくの事情があっての事なのだろうと美穂は思った。

 待機場所に戻った裕樹は、明彦に耳打ちした。
「私の指名客わかったわ。あの、村中太一っていう人よ。」
「ええ?どうしてわかったの?」
「私の手紙持ってた。彼女が・・・。」
「そうなんだ・・・でも、よかったじゃない、彼女はいやな人だけど、あの村中って人優しそうで・・・。」
 それは根拠のない慰めだった。だがショックを受けている裕樹に他にどんな言葉を投げかけることができるだろう。明彦にできる精一杯の優しさだった。

 実はこの時、明彦と美穂はまるで以心伝心でもあるかのように、ある共通の疑念を抱き始めていた。
 それは、裕樹が指名客である村中太一のテーブルを担当しているということである。
 もちろん確率的にないわけではないが、それにしても偶然すぎるのではないか。もしかしたら、担当ウェイトレスは、指名客のテーブルに意図的に配置されているのではないか。
 だとしたら、明彦を指名した客は・・・良介ということになるではないか。

 偶然にも明彦と美穂の視線がぶつかった。 
 美穂はすぐに視線を外し、隣の良介に何やら語りかけている。
 今度は明彦と良介の視線がぶつかる。
 良介は一瞬口許が緩み、視線を美穂に戻す。そして軽く頷くと、ポケットからピンクの封筒を取り出し、それを美穂に渡す。

 明彦の心臓は高鳴った。この位置からは封筒の名前は読みとれない。
 だが、それを読みとる必要はなかった。そこに書かれている名前が誰のものなのかは、美穂の様子からはっきりした。
 美穂は封筒から便箋を取り出し、その文面を目で追った。そして、顔に嫌悪の色を浮かべると、ゆっくりと封筒に戻し、悲しそうな目をして明彦を見た。
 明彦の「心の目」は封筒に書かれている「明菜」の二文字をはっきり捉えていた。

 全身の力が抜けた。最悪のシナリオが現実の形になって現れたのである。
 こともあろうに、自分を指名した「客」は良介だったのだ。
 この後、自分は親友の良介の逞しい腕に組み敷かれ、弄ばれ、犯される。
 中学時代に、密かに一冊のグラビア写真集を見ながら、どちらが先に童貞を卒業するのだろうかなどと冗談を言い合っていた良介は今夜その童貞を捨てる。自分を相手に「男」になるのである。そして自分は童貞を捨てることのないまま、良介にとっての「初めての女」になるのだ。
 
 明彦の涙の堰がついに決壊した。もうどうなってもいいと思った。
 明彦は駆けだした。12センチピンヒールにバランスを崩しながらも懸命に足を進めた。
 そして誰の許可を得ることなく会場を後にすると、廊下奥の女子トイレに駆け込み、一番奥の個室の鍵を閉めた。こみ上げてくる嗚咽が無人の女子トイレに響き渡った。

 (続く)

プロフィール

サテンドール

Author:サテンドール
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女性化小説なら国内・海外を問わず大好きです。

特に屈辱系・羞恥系・強制系・寝取られ系・立場逆転系・年齢退行系・SISSY系などなど・・・。

happy よりは、unhappy ending が好み。
(ちょっと、性格がゆがんでるのかも^^)

私事ですが、以前某サイトに 
「高野奈緒美」のペンネームで
『ある性転者の告白』という拙い小説を掲載させて頂いておりました。事情があって途中で掲載を止めましたが、その完結編も当ブログでご紹介できればと思っています。

それとランキングにも参加させていただきますので、
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