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N/Nプロジェクト 第10章

〔第10章〕

 弘美は自宅マンションのリビングで、来客を待っていた。
 その顔には不安と動揺の色がはっきりと浮かんでいる。
 傍らにはそんな弘美を心配そうに見つめる山村誠也の姿もあった。
 
 常田厳から夫の慶太に関する重大な知らせがあるので、ぜひ訪問したいという連絡があったのは3日前のことだ。
「重大な知らせ」と聞いて、一刻も早くスケジュール調整をしたかったのだが、あいにく新規開発商品の最終打ち合わせなどが立て込んでいたため、今日にずれ込んだのである。 最近は弘美の社長ぶりも堂に入ったもので、社員の誰一人として彼女の正式名称である
「社長代理」と呼ぶ者はいなくなっている。ただ、「水瀬社長」と口にすると、慶太を連想すると思うのか、皆、一様に「弘美社長」と呼んでいる。
 今回の新規開発商品も「弘美社長」の肝いりで始まったプロジェクトであり、大手コンビニエンスストアとの業務提携による相当大規模な事業でもあった。その最終打ち合わせに「弘美社長」の不在は許されなかったのである。

 時計の針はすでに2時を回っている。
 新幹線に遅れはまず考えられないので、タクシーに滞りがなければ、そろそろ到着してもおかしくはない。
 弘美は一応携帯電話を確認してみた。時間変更などのメールは入っていなかった。

 ピンポーン・・・
 弘美が携帯を戻そうとした瞬間、ドアホンの音がした。
 モニターには常田厳と後藤良介の姿があった。
 弘美は隣に立つ誠也を心配そうな表情で見つめた。誠也はそれに頷いて応えた。


「本日は、水瀬慶太さんの事で重要なお知らせがあって参りました。」
 リビングのソファに腰掛けるなり、常田が神妙な面持ちで口を開いた。
「重要・・・と申しますと?」
 心配そうな表情を浮かべる弘美に代わって、誠也が尋ねた。
 常田も後藤も、今回は誠也が同席していることに、これといって特別な関心を示すことはなかった。
「奥様は、正式には、いまだに『社長代理』の立場でいらっしゃるとか?」
 常田は誠也の質問には応えず、弘美の方を向いて言った。
「ええ、まあ・・・正式には。」
 弘美は不安そうな声で答えた。
「なぜですか? なぜ社長に就任しないのですか?」
「なぜと言われても・・・」
「3か月ほど前に、こちらでご覧いただいた慶太さんの映像で、彼が別人格として生きたいと希望していることはご理解いただいたと思うのですが。」
「ええ、それはわかりました。でも正式に会社経営から身を退くと言っていたわけではありませんし、別人格と言っても単に一時的な気持ちかもしれませんし・・・。」
「なるほど・・・・・では、伺いますが、奥様は慶太さんと離婚されるおつもりはありませんか?」
「り、離婚・・・?な、なぜです? なぜ離婚しなくてはいけないのですか?」
「慶太さんが別人格で生きるということは、『水瀬慶太』ではなくなるということです。
つまり、あなたの夫である水瀬慶太はこの世から存在しなくなるということなのですから、離婚されるのは自然なことだと思うのですが・・・。」
「で、ですから・・・・そんなものは一時的な感情ではないかと申し上げているんです。第一、水瀬が離婚を言い出すはずはありません。」
「ほう、随分、自信がおありなのですね。それだけ慶太さんがあなたを愛しているとおっしゃりたいのですね?」
「え、ええ・・・」
「奥様も、慶太さんを愛していらっしゃると?」
「え、ええ・・・と、当然でしょ・・・そんなこと」
 弘美は慌て気味に答えると、隣に座る誠也の方に視線を送った。

 弘美は内心、常田の質問に動揺した。
「夫を愛しているのか」の質問に「はい、愛しています」と堂々と答えきれない自分がいた。
 3か月前に、映像を通じて慶太の頼りがいのない女々しい姿を目にして以来、それとは正反対の男らしく頼りがいのある誠也に惹かれていったのは確かである。あれほど理性で抑えていた身体の関係も、今ではそれほどの罪悪感を感じるわけでもなく、愛する者同士のごく自然な行為として受け止めるようになっている。
 最近では自分でも、身体が誠也の逞しいペニスにフィットしてきているのがわかる。「女の身体は愛する男の身体に合うように変化する」という言葉が本当なら、自分はきっと心だけでなく身体も誠也のことを愛しているのだろう。
 誠也とのセックスを経験すると、慶太とのそれは果たしてセックスと呼ぶに値するものだったのかという気さえしてくる。「絶頂」という感覚も初めて味わった。それにあれほど嫌だった「フェラチオ」という行為も、今では自分から望むほど好きになっている。恥ずかしいことだが、誠也の熱いザーメンを燕下する瞬間、同時に「絶頂」に達したこともある。自分がこれほどまでにセックスに貪欲で淫乱だったのかと思い知らされもした。
 
 だからと言って、離婚は別の話である。
 自分が今曲がりなりにも「社長代理」というポジションに就き、充実した生活が送れているのも、元はと言えば慶太と結婚したからであり、会社を所有する水瀬家に嫁入りしたからである。その恩義は決して忘れることはできない。それに自分は慶太を嫌っているわけではない。楽しい思い出もたくさんあるし、それに会社経営者として尊敬もしている。 それは愛とは呼べない思いなのかもしれないが、少なくともその思いがある以上、離婚などあり得ないことだ。
 それに、これは決して表に出してはいけない思いだが、離婚して水瀬家から出ることは経済的にも社会的にも得策ではないという打算も当然働いていたのである。

「では、もしも別人格で生きたいいう慶太さんの思いが、一時的なものではなく、それ故、会社経営からも身を退きたいと心から願っていることが証明されれば、奥様は正式に社長に就任なさいますか?」
 常田の真剣な眼差しが弘美に向けられた。
「ええ、まあ、その場合は・・・その場合は私が社長に就任せざるを得ないでしょう。」
 常田には、3か月前のややおどおどしていた弘美の表情が、いくぶん自信に溢れた表情に変化しているのがはっきりとわかった。
「その場合には、離婚もなさると?」
「い、いえ・・・それはまた別の話ですわ。」
「慶太さんが会社の経営権、所有財産等すべてを奥様に譲渡するとしても・・・ですか?」
「そ、それは・・・どういう事ですか?」
「ですから、会社も財産もすべて奥様のものになるとしても、離婚をするつもりはないかということです。」
「そ、それは・・・あ、あの・・・まあ・・でも仮定の話にはお答えできませんわ。」
 弘美は明らかに動揺していた。ある意味離婚の最大の障害となっている問題を常田が指摘したからである。

 常田は弘美の表情に手応えを感じたのか、口元を弛めて言った。
「わかりました。その答えはまあ、後で聞きましょう。ここまで伺えば十分ですので。じゃ、後藤くん、用意して。」
 常田の言葉を受けて、隣に座る後藤がバックからノートPCを取り出し、電源を入れた。「今からご覧いただくのは、現在の慶太さんの姿です。奥様に向けて、ご自身の意志で、またご自身の言葉で語っています。よくお聞きになってください。そしてご覧になった後で、どのようになさるか、奥様自身でお決めください。」
 常田は「ご自身の意志」「ご自身の言葉」をより強調するように言い、PCのモニターを弘美と誠也の方に向けた。

 モニターが動画画面になり、画像が浮かび上がった。
 その瞬間、弘美が怪訝そうな顔を誠也に向けた。
「すみませんが、ファイルが違うみたいですよ。これ、誰か女性の映像みたいですよ。」
 誠也が弘美に代わって常田に言った。
 常田は後藤と顔を合わせると、何やら含意のある笑みを浮かべた。そして画面をのぞき込むようにしながら、
「いや、間違っていませんよ。これで合ってます。」
 と事も無げに言った。
「ああ、そうか、この後に出てくるんですね?」
 誠也が笑顔で言うと、弘美も同調するかのように安堵の笑みを見せた。
 後藤が満面の笑みを湛えながら、PCをクリックした。
 映像が動き出した。

 フラワープリントの上品なサンドレスを身につけた「令嬢」が優しく微笑み、ゆっくりと口を開いた。
「お久しぶりです。弘美さん。私、誰だかわかります?・・・・・」
 弘美は小さく首を傾げた。常田と後藤は顔を見合わせ、微笑んだ。
「きっとお分かりにならないわね? あなたの戸籍上の夫、水瀬慶太です。ううん、今はね、『慶花』っていう名前になっています。でも、あなたの夫が、こんな姿になっているなんて、とても信じてはいただけでしょうね・・・・?」
 カメラは映像の「慶花」の全身をゆっくりと移動しながら映していく。
 白のミュールから覗くパールピンクのペディキュア、色白で形のいいふくらはぎ、ドレス越しでもわかる流れるようなヒップライン、ギュッとしまったウエスト、そしてわずかに開いた胸元に浮かび上がる谷間のラインがアップで捉えられた瞬間、弘美の口から叫び声が漏れた。
「う、うそ・・・うそでしょ? まさかそんな・・・・」
 弘美は大きく開いた口を両手で塞ぐと、ただ目を丸くして画面を見つめた。
「ちょ、ちょっと・・・映像を・・・止めてくださいっ!」
 気が動転し、今にも気絶しそうな弘美に気付き、誠也がとっさに声を上げた。
 後藤が一時停止をクリックした。

「驚かれるのも無理はありません。私たちのように変化の過程をつぶさに見てきている者でさえ、彼、いや彼女の変貌ぶりには驚かされるのですから、奥様のように久しぶりにご覧になったら、気を失いそうになるのも無理からぬことです。」
 常田は、肩で息をしている弘美と、その背中を抱き寄せるように優しく撫でながら、心配そうな表情を浮かべている誠也を見た。 
(この二人の仲は、間違いなく前回より深くなっている。これは離婚のためには好都合だな。)と常田は内心ほくそ笑んだ。

「こ、これは・・・別人だわ・・・フフフ・・・そうよ、別人に違いないわ。」
 呼吸が少し落ちついたのか、弘美が突然、笑顔で言った。もちろんそれは確信のある笑顔ではない。映像の女性が夫であるなどとはどうしても信じたくない、そんな思いのこもった笑顔だった。
「ハハハ・・・別人とは随分大胆な推理ですね。奥さん、何を根拠にそう思われるのです?」
「そ、それは・・・」
 弘美には理由などなかった。ただ、信じたくない、それが唯一最大の理由だった。
「第一、我々がそんなトリックをして何の得があるのですか?そんなことのために、わざわざこちらに出向くと思いますか?」
 確かに常田の言う通りである。そんな酔狂なことをして彼らに得られるものは何もないはずだ。恐らく彼らの言う通り、映像の女性は慶太なのだろう。だが、そうだと告げられて、「はい、そうですか」と答えられるほど、問題は簡単ではない。
 実を言えば、3か月前に夫の映像を目にした時、その女性的な雰囲気から、もしかしたら彼の目指す別人格が「女性」なのではないかという予感がなかったわけではない。メイクをし女性物の衣服を身につけた夫の姿を想像したこともある。だが、現実に今目にしている姿は弘美の想像を遙かに超えている。夫の女装姿なのだと思いこもうとしても、ひとかけらの面影も残っていないのだから、思いこむことすらできない。いや、そもそもこの「女性」が本当は男性であると誰が思うことができるだろう。美しい容貌はもちろんだが、醸し出す女性らしさ、姿勢の美しさ、魅力的な声と言葉遣い、どこをとっても完璧な「令嬢」ではないか。どこに自分よりも美しく魅力的な「女性」を夫だと認める妻がいるだろうか。
「まあ、いずれにしてもこの続きをご覧ください。そうすれば疑いも晴れるでしょうから。」
 常田の言葉を受けて、後藤が一時停止を解除した。
再び映像が動き出す。

「でも、これが私の本当の姿。弘美さん、きっと、私、本当は女だったんだわ。それを今まで気付かずに、いいえ、自分を騙して男のふりをしていたの。ここでの生活が私にそれを気付かせてくれたの。弘美さん、今まで、あなたを騙し続けてきたこと、心から謝ります。ごめんなさい。私には会社を経営する能力も資格もありません。会社はあなたのように優秀な女性が経営するべきです。私のように専業主婦になるのを夢見ているような女がそんなことしてはいけないんです。だから、弘美さん、私の代わりに会社を経営してください。一日も早く社長に就任して、会社を発展させてください。それが私の心からのお願いです。・・・・・・・」
 常田の合図で後藤が再び映像を一時停止させた。
 常田は呆然と画面を見つめている弘美に向かって、諭すような口調で語りかけた。
「いかがです?奥さん。疑いは晴れたでしょう?もう彼、いや彼女を解放してあげましょう。きっと今まで重荷だったのですよ。心の中は女性なのに、男と偽って社長などという立場にまつりあげられ、きっと疲れ切っていたのだと思いますよ。ご覧なさい、今の彼女の顔。生き生きとして美しいじゃないですか。それにあんな涙を流しながら、奥さんにお願いしているんですよ。もう慶花としての人生を歩ませてあげようじゃないですか。」
 
 常田に言われるまでもなく、すでに弘美の中では、映像の「女性」が夫の慶太であるという事への疑念は消えていた。カメラが「女性」の口元に寄った時、特徴的な小さなホクロを捉えていたからだ。
 その思いは隣に座る誠也も同様だった。弘美を励まそうと背中をさすっているその手がかすかに震えていることからもそのことがわかる。彼も恐らく口には出せない程のショックを受けているのだ。ただ、自分が冷静さを失ったら、誰が弘美を守るのかという責任感が、彼をギリギリのところで支えていた。

「わかりました・・・・おっしゃる通り、この女性は水瀬なのでしょう。」
 弘美は小さな声で言った。その目にはうっすらと涙が滲んでいた。その涙の源泉が、悔しさなのか、怒りなのか、それとも諦観なのか、それは彼女自身にもわからなかった。
「おわかりいただけましたか。では、社長に就かれることも決意されたと考えてよろしいんですね?」
 弘美は誠也の顔を見た。
 誠也はその目に彼女の思いを感じ取り、代わって口を開いた。
「社長がこうなった以上、社長代理が正式に社長に就任するのは当然です。一両日中にも緊急役員会議を開き、新社長就任の手続きを進めます。」
 弘美は誠也の言葉に小さく二度頷くと、こぼれ落ちそうな涙を指先で拭ってから、静かに口を開いた。
「ですから、お帰りになったら水瀬にお伝えください。『あなたの気持ちはわかりました。会社の方は私が責任をもって引き継ぎますので、ご安心ください。』と。」
 弘美の言葉には自らを鼓舞するかのような強い思いが感じられた。
「承知しました。そのようにお伝えします。では、離婚の方も納得していただいたと理解してよろしいのですね?」
 常田は弘美を見つめながら、念を押すように言った。
「ちょ、ちょっと待ってください・・・それは別問題だと、先ほども申し上げましたでしょ?」
 弘美は右手で常田を制するような仕草を見せ、慌て気味に言った。
「離婚をするおつもりはないと?」
「は、はい・・先ほども言いましたように、水瀬が別人格・・つまり、女性として生きたいという気持ちは一時的かもしれないでしょ? 第一、水瀬は一言も離婚の事を言っていないではないですか?」
「一時的? この映像をご覧になって水瀬さんの気持ちが一時的だとお思いですか?奥さんも気付いていられると思いますが、水瀬さんは自分の意志で薬を服用しています。もちろん、エストロゲン・・・つまり女性ホルモンです。水瀬さんがここまで劇的に変化した要因の一つでもあります。それを一時的な気持ちだとおっしゃるんですか?」
「そ、それは・・・」
 弘美は言い淀んだ。
 確かに身体の変化はドレス越しでもわかる。見たくはないが胸だって、自分と同じ、いや、もしかしたらワンサイズくらい上ではないかと思えるような膨らみが見て取れる。肌の肌理だって、色の白さだって、基礎化粧品だけで変化したレベルではない。そのことに気付いていながら、口には出せずにいたのだ。
 もちろん、ニューハーフやレディボーイといった男性が女性化のためにエストロゲンを服用するくらいのことは知っている。ただ、それを自分の夫に結びつけて考えるのが怖かったのだ。

「で、でも・・・エストロゲンの服用を止めれば元に戻るじゃないですかっ。気持ちが変わってもう一度、慶太としての人生を送りたいと思ったら、服用を止めれば済むことでしょ?時間はかかるかもしれないけど・・・。」
「ええ、確かに、エストロゲンの服用を止めればいずれ元の身体に戻るでしょう。水瀬さんの身体には男性ホルモンが流れているのですからね・・・・しかし、もし水瀬さんがその男性ホルモンの流れを止めることを望んでいるとしたらどうです?」
「ど、どういうことですか?それは・・・?」
 常田は、じっと二人のやり取りに耳を傾けていた後藤に合図をした。
 後藤は小さく頷くと、再び映像の一時停止を解除した。

 映像が暗転し、「慶花」の姿が消えた。
 一瞬の後、画面が明転し、再び「慶花」の姿が現れたが、どういうわけか先ほどのような笑顔ではなかった。見方によってはいくぶん不安げな表情に見える。
 
 実は、映像上はほんの一瞬に見える場面転換の間に、慶花と瑞穂の約1時間にも及ぶやり取りがあった。それがあの3つの事柄、つまり「離婚」「資産・財産の譲渡」「睾丸摘出手術」である。
 入念なセリフ打ち合わせの後、慶花は瑞穂に何度も念を押した。「これはあくまで検閲官を欺くためのもので本心ではない。」と妻に忘れず伝えるようにと。
 それは下手をすれば、慶花の運命を左右しかねない重大なやりとりなのだ。十分過ぎるほどの時間をかけたことも、不安げな表情でカメラの前に現れたことも当然と言えば当然だった。

 映像の中の「慶花」が口を開く。表情には笑みが戻っているが、いくぶん取って付けたようなぎこちなさが感じられる。
「実は私、他にも弘美さんにお願いしたいことがあるんです。たぶん気付いていると思うけど、私、ずっとお薬を飲んでいます。もちろん女性ホルモンです。一日でも早く本当の女性に生まれ変わりたいから。もちろんいずれは性転換手術を受けるつもりですけど、その前にしておきたいことがあるんです。それは・・・睾丸の摘出手術です。それをしておけばホルモンの効果もずっと現れやすくなるので、ぜひ受けたいんです。でも手術を受けるには私一人の意思ではできなくて、家族の同意がどうしても必要なんです。弘美さん、お願いです。常田さんのお持ちになっている同意書にサインをしてください。この手術を受けたら、二度と男性に戻ることができないのは私も知っています。知った上でお願いしているんです。私は二度と男性に戻るつもりはありません。もちろんあなたの夫として生きるつもりもありません。あなただって、夫が女性では困るでしょ? 離婚届、私のサインはしてあります。後はあなたがサインをして常田さんに渡してくだされば、私たちはもう他人です。私に気兼ねなくもっと素敵な男性を見つけてください。私も女性に生まれ変わったら素敵な男性を見つけるつもりですから、どうか心配しないでください。あ、そうそう、これも言っておかなくてはいけませんね。弘美さん、離婚して水瀬家から離れることになっても、何の心配もいりません。会社も私の資産や財産もすべてあなたに譲りますので、今後はあなたの一存で運用なさって結構です。私の一方的な理由で離婚をするんです。そのくらいは当然のことだと思っています。・・・・最後に、弘美さん、今までこんな私のために尽くしてくれてありがとう。そしてずっと私の気持ちを偽っていてごめんなさい。もう二度と会うことはないと思うけど、社長として活躍される弘美さんを、影ながら応援しています。どうぞお身体に気をつけてがんばってください。さようなら。」

 映像が止まり、画面が暗転した。
 最後に別れの言葉を口にした時、「慶花」の表情は口元の笑みとは裏腹に、憔悴しきっているように見えた。
 だが、その表情は映像を目にした弘美も同様だった。いや、憔悴という意味で言うなら弘美の方が遙かに深かったかもしれない。
 たった数時間の内に一体どれだけのショックを受けただろう。
 久しぶりに目にした夫は、すっかり上品な令嬢に変わっていた。しかも自分の心は女性で、男性に戻るつもりはないから、去勢手術まですると優しい女の声で言う。そして財産も資産も譲るから離婚して欲しいとまで言うのだ。
 こんな衝撃的な出来事を無感動に処理しきれるほど弘美の頭は冷静ではない。
 それでも何とか自分を見失わずにいられるは、そばで誠也が支えてくれているからだ。もしもこの場に彼がいなければ、取り乱し、大声を上げて泣き出したかもしれない。そう思うと弘美には誠也の存在がより大きなものに感じられるのだった。

 
 それから約2時間後、常田と後藤は、弘美の手によって署名された3枚の書類と共にマンションを後にした。
 1枚目は「離婚届」、2枚目は「財産・資産の譲渡契約書」、そして3枚目は「睾丸摘出手術同意書」である。これらには「慶太」の署名がすでになされている。つまり、この時点で、該当部署に提出されれば、すべて効力を発揮するということである。
 慶花と瑞穂の約束は果たされなかったのだ。瑞穂にその意思が最初からなかったのだから、それは当然の結果だった。だが、それを見抜けなかった慶花を責めるのはあまりにも酷だ。ブロック4での徹底した精神指導によって卑屈なまでの従順さを身につけさせられた慶花に、「恩人」である瑞穂を疑う気持ちなど持ちようもなかったのだ。つまりこのような結果になることは、瑞穂がこの奸計を思いついた瞬間に決まっていたということである。  

 常田と後藤が部屋を出た瞬間、弘美は誠也の胸に泣き崩れた。
 怒り、悲しみ、悔しさ、後悔、不安・・・・その時の弘美の心には、持ちうる限りの感情が去来したと言っても過言ではない。
 ただその中で、弘美自身がはっきりと意識した思いがある。
 それは、「自分には誠也しかいない。誠也こそ自分に幸福をもたらす唯一の存在だ。」という思いであり、同時に「今まで自分は慶太の幻を愛していたのだ。一日も早くその幻を心から消さなくてはいけない。」という思いだった。
 弘美は誠也の逞しい腕に抱きしめられながら、密かに「国民適正化法」に感謝していた。 もしも慶太の心が女性であることを知らないまま、この後何年も過ごしていたらと考えると寒気がする。それが早い段階でわかっただけ幸いだ。それに、8か月もの間、別居状態にしてくれたことも、今となってはありがたい処置だった。その間に誠也という「真の」男性を見つけることができたし、慶太の記憶を薄めてくれる働きもしてくれた。

「誠也・・・お願い、もっと強く抱いて・・・私の心からあの男、ううん、あの「女」の幻を消して・・・」
 弘美は、初めて「誠也」と呼び捨てにした。彼女の中で、幼なじみの「誠也くん」が、かけがえのない恋人「誠也」に変わったのである。
「ひ、弘美・・・」
 誠也にも弘美の気持ちが通じたのか、同じように呼び捨てで返すと、壊さんばかりの力で抱きしめ唇を求めた。

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N/Nプロジェクト 第9章

〔第9章〕

「それで、水瀬弘美への説明はうまくいったのでしょうか?」
 瑞穂は、カウンセリングルームのソファに座っている常田の目を見つめながら言った。
 常田は前日の水瀬弘美宅訪問の詳細連絡と、今後の慶花への処置を話し合うために施設を訪れていた。
 弘美への説明が概ねうまくいったことは、すでに前日の夜、後藤良介から聞いていた。 ただ説明の際にイニシアチブを取った常田の口から確実な情報が欲しかったので、瑞穂はあえて質問をしたのである。
「はい、うまくいったと言っていいでしょう。メッセージ映像も効果的だったみたいですね。首から下を写さなかったのは正解でしたよ。弘美は慶花の身体の変化には気づきませんでしたから。ただ、容貌の変化はさすがに隠しきれなかったみたいですね。メイクと画像修正でできるだけ前の「慶太」に見えるようにしましたけど、さすがに無理があったようです。でも、もし無修正で今の慶花を見せていたら、驚きはあんなものでは済まなかったでしょうから、まあ、とりあえずは合格点というところでしょう。」
 常田は満面の笑みで答えた。使命が首尾良く果たせたことに心から満足している様子が手に取るようにわかった。

「ところで、慶花にはいつ知らせるんですか?昨日の弘美との話の内容を。」
「今日のカウンセリングの際に知らせるつもりだったのですが・・・」
 瑞穂は口ごもった。
「何か問題でも?」
 常田は怪訝そうな顔で瑞穂を見つめた。
「いえ、問題というより、このことをもっとプラスに利用できないかと考えているんです。」
「プラスに利用する?」
「ええ。慶花の女性化へのプロセスをさらに一段階進めるきっかけに利用できないかということです。」
「それは、私としても大歓迎ですが・・・。つまりブロック4への移動ということでしょうか?」
「ええ。その通りです。今のペースで行くと、ブロック4への移動には最低でも後1か月程度はかかるのではないかと思われます。現在「Nランク」者、約150名の内、ブロック4まで進んだ者が30名程度ですから、慶花のペースは決して遅いわけではないのですが、折角のいい機会ですからうまく利用してペースを速めるのも悪くはないでしょう。」
 瑞穂の口許には期待感に溢れた笑みがこぼれている。
 瑞穂は、研究者としてなるべく理論的な話しぶりを意識してはいるが、一方で一刻も早く自分好みの「慶花」を作り上げ、弄びたいというS女性の一面を隠しきれないでいるのだった。

「具体的にはブロック4にはどの段階で進ませるんですか?」
 常田は瑞穂の意味ありげな笑みを見つめながら質問した。
「ブロック4は女性化の最終段階です。女性としてのあらゆる知識・立ち居振る舞い・言動・考え方などを最終的に仕上げる段階だと言えます。ということは、その前に女性として生きることを決断していることが不可欠です。迷いがあるような状態ではとてもブロック4に移動させることはできません。」
「慶花には、まだ迷いがあると、先生は言いたいんですか?」
「はい、少なくともブレない決断ができている状態ではないと思います。」
「そうでしょうか? 私には慶花に迷いがあるとは思えませんよ。『N1新薬』の効果もあって、容貌も体つきもすっかり女じゃないですか。しかも常に美しさを求めて、服装も女らしいものばかり着ているし、私なんか時々、意識しないと慶花が本当は水瀬慶太という男だということを忘れてしまうことがあるくらいですよ。」
「フフフ・・・ええ、私もそれは認めます。でも常田さん、慶花が話しているのを聞いたことがありますか?」
「ええ、もちろんありますが・・。」
「その時どのように感じました?」
「どのように・・・といいますと?」
「慶花が女性言葉を使ったのを聞いたことがありますか? 女性の声を意識して高い声で話をするのを聞いたことがありますか? 女性らしい仕草をしているのを見たことがありますか?」
 確かに瑞穂の指摘は的を射ていた。
「N1新薬」の効果で声のトーンが多少高くはなったものの、相変わらず一人称で「僕」を使っているし、女性言葉を聞いたことは数えるほどしかない。また、体の線は女性らしい曲線を示してはいるものの、立ち居振る舞いにことさら女性らしい仕草を見せることはなかった。

「これはやはり、慶花の心のどこかに『慶太』に戻る可能性を残しているからでしょう。」
「薬の影響であそこまで身体が女性化していても、『慶太』に戻る可能性があると思ってるということですか?」
「ええ。慶花は何かの機会に薬を止めることができれば、すぐに元に戻ることができると思っているようです。」
「本当に薬を止めれば、元に戻るんでしょうか?」
「ええ。理論的には元の男性の身体に戻ります。しかし、薬物依存症になっている今、この施設内で薬を止めることは不可能です。」
「しかし本人はいつかは止められると・・・だから、女性化の進行を心のどこかでストップをかけているということですか?」
「はい。わかりやすく言えば、そういうことです。慶花にとって女性美を追究することと、女性として生きることはまだ一つにはなっていないんです。」
「うーん、やっかいなものですねぇ。どうしたら、もう『慶太』に戻る可能性はない、そして『慶花』という女として生きていくしかないということを思わせることができるのでしょうか。」
 常田は深いため息をついた。
 瑞穂は少し間をおいてから口を開いた。
「ですから、先ほど言ったように、この機会を利用したいんですよ。多少情報を捏造することになりますけど、これがうまくいけば一気にブロック4への移動ということに繋がるはずです。」
「ほう、それはどんな方法ですか?」
 常田は瑞穂の自信ありげな表情を見て、思わず期待感に顔が綻んでいた。
「それはですね・・・」

 二人はその後、約1時間に渡り打ち合わせを行った。
 それは水瀬弘美との話し合いの内容を大きくねじ曲げるものであり、それを当事者である慶花に伝えるのは、本来なら許されるものではない。
 だが、一日でも早く自分好みの「慶花」を作り上げ、それを弄びたいという瑞穂のS心と、プロジェクトを滞りなく進めたいという常田の役人らしい自己保身の心とが、見事なまでに一致したのだった。
 
 
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「それで、弘美への・・・説明は・・・うまくできたのでしょうか?」
 胸部と臀部への「N1新薬」皮下注射を終えた慶花はソファに腰掛けるなり、常田と瑞穂に語りかけた。
 綺麗にカールされた長い睫毛が不安げにフルフルと揺れているのを見て、常田は一瞬ドキっとした。思わず、「綺麗だ」と口をついて出そうなのを咄嗟に抑えた。
 ウィッグなしのミディアムボブ、完璧に仕上がったフルメイク、そしてシフォンフリルがあしらわれたベージュのトップスにシャーリングの入った黒のタイトミニ、さらに美しく長い脚の先にはトップスと同系色の10センチミュール・・・それらが一つにまとまり、慶花の美しさをさらに際だたせている。
 常田はやや広めに開いたトップスの胸元に思わず目が止まった。Cカップの美しい乳房が服を着ていてもはっきりと認識できた。
 常田は知らず知らずのうちにズボンの前が膨らんでいるのに気づき、思わず顔を赤らめた。

「それが・・・どうやらまずいことになったみたいなの。そうですよね?常田さん。」
 常田が慶花の全身をボーッと眺めているのに気づいた瑞穂は、促すように言った。
「あ、ああ・・・そ、そうなんです・・・実はやっかいな問題が起きまして。」
「やっかいな問題?」
「弘美さんは、あなたが無事でいることには安心なさったようなんですが、あなたが別人格で生きることを決意したということには非常に懐疑的で、メッセージ映像を見ても信じられないと言うんです。それほど変わっていないじゃないかと言うんですよ。もし映像撮影時に今のあなた・・・つまり『慶花』さんという美しい女性の姿で撮ったなら、明らかに別人格を選択しているという説得力もあったんでしょうがねぇ・・・」
 常田は口許に笑みを浮かべながら言った。
「そ、それで・・・弘美は何と?」
「ええ、それが・・・」
 常田は瑞穂に視線を送った。瑞穂はただ黙って頷いた。
「奥さんは、あなたがそれほど変わっていないのだから、できるだけ早く経営者として復帰するように説得して欲しいと私におっしゃったんです。そして万が一、国の方針で経営者としての復帰が叶わなくても、相談役や会長職での復帰を望んでいると・・・。」
 慶花は常田の言葉に目頭が熱くなった。妻への思いと自身の会社経営者としての心が呼び覚まされたのだった。

 だがそんな思いも瑞穂の常田に向けた一言で吹き飛んでしまう。
「そんなことは国が認めないということは、奥様に説明したんでしょ?」
「ええ、説明はしたんですがねぇ・・・」
 慶花は二人のやり取りを耳にして、厳しい現実に引き戻される思いだった。
(「Nランク」である自分に普通の社会復帰などできない。だからこそ『慶花』として生きようと決めたのではないか。第一、この姿でどうして会社に復帰なんてできるのか?)
 慶花は、正面にあるキャビネットのガラスにうっすらと映し出されている自分の姿を見つめながら深いため息をついた。
 そこには20代前半の美しい女の子の面影しか映っていなかった。決して30代半ばの会社経営者の姿を見つけることはできなかった。

「奥さんは、どうにも納得してくれないんですよ。それで、夫が完全に別人格になってしまったのならまだしも、そうでないなら復帰はできるはずだ。だから、一日でも早く経営に復帰してもらうために、社長の椅子は空けておくからと強く言われました。」
 常田は慶花と瑞穂の二人にそれぞれ視線を送りながら、ため息混じりに説明した。
「でも、そんなこと許されるんですか? 仮にも国に貢献している企業の社長を空位にしておくなんてことが・・・。第一、ここにいる『慶花』が社長として復帰する可能性はないわけですし。」
 瑞穂は、妻の思いやりに心を打たれている慶花を前に、冷徹な質問を常田にぶつけた。 無論、それは瑞穂と常田による事前のシナリオ通りの展開だったのだが。

「いえ、それはどうやら無理なようです。私も上司に報告してみたところ、社長の空位が認められるのはせいぜい後3か月がいいところだろうということでした。」
「ということは・・・このままだと会社はどういうことになるのですか?」
 瑞穂が常田の説明に質問する形で言葉を発した。ただ視線はずっと目の前の慶花に向けられたままだったが。
「奥さんが正式に社長に就任されるか、血縁関係者の中で再適性者を選んで社長に就任させるか、そうでなければ完全に外部の人間が就くという形にならざるを得ないということです。」
「が、外部・・・?」
 それまで黙って話を聞いていた慶花の目が大きく見開いた。
「はい、そういうことになる可能性もありますね。」
「そ、そのことは・・・妻の弘美には伝わっているんですか?」
 慶花には会社を外部の人間に渡すなどということは、予想すらしていないことだった。 たとえ、自分が経営者として復帰できなくとも、妻が社長に就任することで、会社を水瀬家が保有することは維持できると考えていたのである。
「ええ、電話で伝えました。」
「で、妻は・・弘美は何と答えましたか?」
「それでも、ご自分が社長に就任するつもりはないと。夫は心の中では経営者として復帰することを望んでいるはずだから、自分がそれを裏切ることはできないと強くおっしゃっていました。」
「うーん、それじゃ、会社は他の人の手に渡るってことなんですね。」
 瑞穂は動揺している慶花を見つめながら、他人事のような口調で言った。

「ぼ、僕に・・・僕に妻を説得させてください。電話でも、他の手段でもかまいません。」
 慶花は常田の目を見つめながら言った。
 長い睫毛がフルフルと揺れ、瞳の奥に涙が溢れているのを見ると、思わず抱きしめてしまいたくなるほど儚げだった。
「いえ、それは不可能です。本来『Nランク』者が外部との連絡を取ることは禁じられていますから。」
「で、では・・手紙とか・・・メールとか・・・」
「いえ、それも認められません。」
「そ、そんな・・・では、どうしたら・・・・」
 慶花の声は不安で震えだしていた。

「常田さん、会社が他人に渡ることを避けることができる方法はないのでしょうか? このままでは、慶花も可哀想ですよ。」
 瑞穂は慶花への同情を口にした。だがその瞳の奥には明らかに邪な光があった。
「ああ、言い忘れていましたが、一つだけ方法というか、何というか・・・」
 常田は瑞穂の言葉をきっかけに何かを思い出したように声を上げた。
 慶花は常田の目を見つめながら、次の言葉を待った。
「奥さんは、もしもあなたが、誰の目から見ても別人格になっていて、企業経営の意欲も資格も失っていることが証明されれば、ご自身が社長に就任するとおっしゃっています。」
「で、では・・今のこの姿を映像に撮ってください。そしてその映像の中で僕が妻に語りかけます。僕には会社経営に戻る気持ちがないことを。」
 慶花は常田の目を真剣に見つめながら言った。
「いえ、それはどうかしら? そんなお芝居では奥様を説得することはできないでしょう。現にあの映像でも無理だったんですから。」
「ええ、私もそう思います。ちょっとやそっとのお芝居ではとても無理ですね。それに、もしお芝居であることがわかった時、もっと悪い結果になると思いますね。奥様は行動的な方ですからね。」
 常田の言葉には明らかな皮肉が込められていた。弘美が政治家に働きかけて、行動を起こしたことを念頭に置いているのだ。

「で・・・では・・・どうしたら・・・僕はどうしたらいいんですっ?」
 慶花の涙声が、心の動揺で大きくなっていく。
「慶花・・・あなた、本当に会社を守りたい? 本当に奥様の社長就任を望んでいるの?」
 瑞穂は慶花の目を見つめながら真剣な表情で言った。
「は、はい。それは絶対に。」
「それだったら、方法は一つしかないわ。あなたが本当に『慶花』という女の子になることよ。もちろんお芝居ではないわ。外見も心もすべて『慶花』に生まれ変わること。その上で、メッセージ映像を撮って奥様を説得なさい。」
「そ・・・それは・・・つまりもっとお化粧も上手くなって、洋服の着こなしとか・・・薬も続けて・・・身体をもっと女性的にするとか・・・ということですか?」
「ええ、もちろんそれもあるわ。でも、それだけでは足らないかもしれない。今はどこまでのことが必要になるかはわからないけれど、遅くとも3か月後には『慶花』という女の子が説得力を持って、存在していなくてはいけないの。そうしなければ、会社は他の人のものよ。わかるでしょ?」
 瑞穂の言葉に慶花は大きく頷いた。
「慶花のためだもの。私も精一杯協力するわ。だから私を信じて私の言うとおりにして。あなたも、会社も守ってあげるから。」
 瑞穂は目に大粒の涙を浮かべながら熱く語った。
 慶花はそんな瑞穂を見たのは初めてだった。
(先生は、僕のことだけではくて、会社のことまで心配してくれているんだ。 僕はこの先生を信じよう。先生の言葉に従ってみよう。)
 慶花は心の中で強く自分に言い聞かせた。
「わ、わかりました・・・先生の言う通りにします。 だから僕のことも、会社のこともよろしくお願いします。」
 慶花は瑞穂の目を見据えながら強い口調で決心を伝えた。

 実は、この感動的なやり取りも、実際にはすべて仕組まれたシナリオ通りに展開した芝居だった。
 だが、他に頼る手段のない慶花にとって、例え多少の疑念があったにしても、瑞穂の申し出を拒否することなど考えられなかったのだ。
 だから、この感動的な場面のすぐ後に、まるで手のひらを返したような冷静さで、瑞穂が慶花に「誓約書」を書かせたことにも、あえて疑いの目を向けることはしなかったのである。

『  誓約書
私、水瀬慶太は、念願だった『慶花』へ生まれ変わるために、最大の協力者である向山瑞穂様に全幅の信頼を寄せ、その指示、指導、処置に対して全面的に従うことを誓います。もしも誓いに反する行為が認められた場合には、いかなる罰則をも受ける覚悟です。              水瀬 慶太 ○○年 ○月 ○日 』

 以上が、慶花が書いた誓約書である。
 このサインが「水瀬慶太」としての生涯最後のサインになるのだが、この時の慶花にはそんな認識すらできていなかった。 

 誓約書のサインが終わった翌日、慶花はブロック4の一室への移動が指示された。
 ブロック2の女子中高生のものと思わせるピンク主体の部屋を出て、ブロック3の女子大生か若いOLを連想させるパステルカラーの部屋を経て、今回はいよいよブロック4への移動である。 
 すでにドアのプレートには『慶花』の文字が刻まれてあり、そのドアもこれまでとは違って木目調の落ちついた雰囲気を持っていた。
 部屋の中も明らかに広さを増したスペースと共にシックな調度品に囲まれていて、飾り付けや壁の色もヤングアダルトを連想させるものだった。
 年齢を含めて想定するなら20代半ばから後半にかけてのかなり趣味のいい上品な女性の部屋というところだろうか。

 慶花はこれまで、女性化の進行と共に部屋を移動することで、一人の少女が若い女性へと変貌していく過程を象徴的に体験してきた。
 そしてこのブロック4で、その最終段階を迎えることとなる。
 慶花が誓約書に記したサインは、その大切な決断を自ら下した証とも言えるものだったのだ。


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 ブロック4での生活は、それまでとは全く異質なものだった。
 「Nランク」者個々に与えられた個室が大人の女性向けに作られたものであるにもかかわらず、生活そのものは、まるで厳しい学校の学生寮の中にいるかのようなスケジュールが組まれていた。
 ブロック3までの、時間的に自由は生活ぶりとは180度違っているといっても過言ではない。
 例えば、月曜日から金曜日までの各曜日に、それぞれ午前中3時間、午後4時間の「レッスン」というものが設定されていた。
 レッスンといっても、その目的はただ一つ。女性化の最終仕上げである。
 従って、レッスン内容も「女性としての身だしなみ」「女性としての心得」「女性としての教養」「女性としての立ち居振る舞い」「女性としての話し方」等々、すべて「女性としての」という表現の加わった内容だった。
 それぞれのレッスンは、専門の講師がマンツーマンで徹底した指導を行い、妥協のない厳しいものだった。
 
 まず、「女性としての身だしなみ」は、アウター、インナー、ランジェリー類の名称から始まって、その選び方、着こなし、カラーバリエーション、コーディネイトの仕方、TPOによる服装の選び方などファッションに関するものと、コスメの各名称、役割、使い方とテクニックの磨き方などといったメイクに関するものとが中心だった。
 幸い、慶花の場合、ブロック3までの「美」への探求心(もちろん強迫観念に基づいたものではあるが)のおかげで、メイクのテクニックとファッションセンスについては講師も舌を巻くほどの熟達ぶりだったので、ほとんど苦労はなかった。
 
 しかし、それ以外のレッスンはいずれも苦労の連続で、失敗したり間違ったりした場合の厳しい罰則もあって、慶花自身何度ベッドの中で涙を流したかわからない。
 例えば「女性としての教養」では、主に女性の趣味や特技に関する指導が行われたが、フラワーアレンジメント・手芸・刺繍・茶道・料理などといった実技系の分野と、音楽・文学・美術・映画・演劇などと言った知識系の分野から個々の適性に合わせて、いくつかが割り当てられ徹底した指導が行われた。
 慶花が割り当てられたのは、フラワーアレンジメントと手芸、そして文学と映画だった。
 それまで花の名前などほとんど気にせずに過ごしてきた慶花にとってそれを覚えるだけでも相当な日数がかかり、ましてやどの花をどのように配置すると美しく見えるのかなどということは説明を受けてもピンとこないくらいだった。また手芸に関しても元々手先は器用だとは言え、棒針など手にしたこともない慶花にとっては表編みや裏編みといった基本的な編み方をマスターするだけでも相当な苦労だった。しかも美しいフレンチマニキュアを施した長い爪では難しさがさらに増していた。
 メリヤス編みがどうしても上手く行かない慶花は、担当講師に思い切って爪のカットを申し出たが、それはいともたやすく拒否された。何とか泣きながら課題を終えた時には日付も変わり、うっすらと日の光が部屋に差し込んでいた。
 知識系に文学と映画が割り振られたと知った時、慶花は内心ホッと胸をなで下ろした。
 どちらも「慶太」時代の趣味でもあり、実技系に比べて苦労は少ないだろうと思ったのだ。ところが、それは早合点だった。扱うジャンルが全く違ったのだ。特に映画はミュージカルやラブストーリー、文芸作品、ドラマ系の作品ばかりで、しかも女性が主人公のものばかりだった。「慶太」が好んで観ていた歴史物やSF物、冒険物などは皆無だった。
リストの中で慶花が観たことのある映画は「風と共に去りぬ」と「ローマの休日」だけだった。

 「女性としての心得」は、主に女性の内面に関する指導だったが、どちらかと言うと1世代か2世代前の女性、いやもしかしたらそれ以上前かもしれないが、そういった古風な女性の内面を基礎に指導がなされた。
 常に男性を立て、女性はその後を2歩も3歩も下がって従う。男性の指示には、決して逆らわず、自分の意見は表には出さない。女性には学問なんていらない。高校か短大を卒業後、腰掛けで入った会社で、素敵な男性に見初められ3年後くらいに寿退社。専業主婦は当たり前。キャリア志向なんて「行き遅れ」のオバサンたちの言い訳・・・・
 そんな考え方が、洗脳にも似た徹底した指導によって慶花の頭にたたき込まれた。
 だが、「慶太」時代には会社経営者として他人に指示を出していた立場にあった慶花は、指導時間内に、時折講師に対して自分の意見を口にしかけたこともあった。そんな時、講師は決まって慶花に厳しい罰則を与えた。パドルを使用した20発のスパンキング、そして丸一日の会話禁止である。会話禁止は一日で解禁されるが、スパンキングの痛みと羞恥は2日経っても消えない。慶花が指導時間中に自分の意志や意見を述べることはほとんどなくなっていった。

「女性としての立ち居振る舞い」では、立ち方・座り方・歩き方に始まり、美しい姿勢の保ち方、手の仕草、表情の作り方など、文字通り「一挙手一投足」に至るまでの指導が行われた。
 慶花は、その一つずつに関しては比較的短期間でマスターできたのだが、それらをつなぎ合わせて行われる「総合チェック」ではなかなか合格を得ることはできなかった。

「総合チェック」は指導講師の合図で始まる。
 ソファに浅く腰掛け、背筋を伸ばし、脚を揃えて斜めに流す。
 そして次の合図を受けて、ゆっくりと立ち上がり指定された場所まで歩いていく。
12センチピンヒールにもバランスを崩すことは許されない。
 目の前には一本の直線が引かれ、その線から左右のつま先をはみ出すことなく歩を進める。もちろん確認のために下を向くことは許されない。視線は常に前を向いていなければならないのだ。その脚の運びととピンヒールの頼りなさが、ゆらゆらと上下左右に微かな女性らしい揺れを作り出し、慶花のすでに丸みを帯びたヒップラインを官能的に強調する。
 猫背は最も避けなければならない姿勢だ。
 胸を張り、両肩を後ろに引きながら歩く。身体にフィットしたニット地のトップスが、Cカップの形のいい胸の膨らみを目立たせる。
 次の合図で再びソファに腰を下ろす。
 スカートのヒップ部分に手を当て皺を避ける動作を自然に行う。
 浅く腰掛け、背筋を伸ばし、脚を斜めに揃えて片足のつま先を前に出す。
 タイトスカートのわずかにせり上がった裾にシルクのハンカチを乗せ、ショーツの露出を避けるのも忘れてはいけない。
 最後に正面に座る講師に向かって、微かな笑みを投げかける。
 決して相手の目を直視してはいけない。鼻から口元当たりに視線を向けるのがベストだ。
 再び講師の合図で「総合チェック」が終わる。

 この一連の動作を滞りなく行うのはもちろんのこと、速すぎても遅すぎてもいけない。
 どこか一カ所でもミスがあれば、すべてやり直しだった。
 慶花がこの「総合チャック」に合格するのに約1か月かかったのも当然だった。

 だが、慶花にとって最も苦労したのは「女性としての話し方」だった。
 指導は、女性言葉を含めた言葉遣いはもちろん、発声、イントネーション、話す時の表情、手の動き、さらには呼吸法にまで及んだ。
 N1新薬の影響と元来の声質のために、男性としては高音だったとは言え、女性の声とはほど遠い。その声をできるだけ高音に保ち、会話訓練を繰り返す。裏声は禁物である。不自然な印象を受けるからだ。
 慶花は文字通り「喉から血が出るような」思いをしながら、ようやく何とか説得力のある「女声」を手に入れることができた。
 呼吸法の習得にも苦労した。
 腹式呼吸から胸式呼吸に変えるため、コルセットの着用が義務づけられ、習得するまでの間は入浴時以外外すことは許されなかった。
 胸式呼吸による小刻みな息づかいと新たに手に入れた「女声」を合わせると、
「時折息づかいの聞こえる少し高めのアルトボイス」・・・それが慶花の新たな声となった。
 慶花の出身地にはそれほど特徴的な方言はないが、それでも多少の訛りやアクセントの違いはある。それを取り除くための指導はまるでアナウンサー養成所のようだった。
 さらに指導を通じて習得させられた「女性言葉」はとても上品で、言い回しも非常に丁寧だった。

 
 こうして約2か月にも及ぶ厳しい指導期間が終了した時、N1新薬の継続投与の効果も相まって、慶花は元の慶花ではなくなっていた。
 外見的には、この間外出を一切許されず、紫外線にほとんど当たることもなかったため
白く肌理の細かい肌は、うっすらと静脈が浮き出るほどの透明感を伴っていた。
 艶とボリュームのある美しい髪は、すでに鎖骨のラインまで達していて、ベージュブラウンのナチュラルレイヤーにセットされていた。
 また2か月間の厳しい食事制限と運動禁止によって、入所以来続いていた筋肉・筋力の削減にさらに拍車がかかり、首筋や手足の細さが際立つようになっていた。
 服に覆われた部分の変化はさらに顕著で、バストサイズはすでに1カップ上がって「D」に達していたし、ヒップから太股にかけての柔らかなラインにはさらなる女性美が加わっていた。しかも呼吸法習得のための長期間にわたるコルセット使用によってウエストには美しい縊れがもたらされていた。
 もちろん、これだけ顕著に女性化が進行すれば、当然ながらその「反作用」も顕著だった。
 慶花のペニスはもはや「ペニス」と称するのも憚られるほどに矮小化が進み、小指の先ほどの「突起物」に変わっていたし、睾丸もビー玉大まで縮小していた。むろんエレクトなどすることはないし、夢精することもなくなった。
 よく男性の短小ペニスを揶揄して「勃起しても○○センチ」などと称するが、慶花の場合、その「勃起」すらしないのだから、「短小ペニス」のカテゴリーにさえ入れないということだ。

 これらの身体的変化の上に2か月間の内面的かつ精神的女性化指導が加わったのである。2か月ぶりに会った常田厳が、最初、慶花と認識できなかったのは当然と言えば当然だった。
 
 
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 前日に瑞穂から、「慶花のブロック4での女性化指導がほとんど終了段階に入ったので、その経過説明と今後の打ち合わせのために施設に来てほしい。」という旨の連絡を受け取った常田は、期待と不安の入り交じった思いで施設を訪れた。
2か月ぶりの訪問だったので、見慣れた施設の光景もどことなく新鮮に映る。
(そう言えば、前回来たときは薄手のコートを着ていたな。)と常田は思った。彼の目にはすでに初夏の訪れさえ感じさせる緑の光景が映っていた。

 建物内は2か月前と全く変わった様子はない。
 常田はいくぶんホッとした気分になった。
 瑞穂のいるカウンセリングルームの前に立ち、腕時計を確認した。約束の時間より15分ほど早かった。普通ならどこかでアポイント時間を調整するべきなのだろうが、なにぶん施設周辺には時間をつぶせるような場所はないし、施設内にもこれといって興味を引くような場所もない。
 常田は少々躊躇いながらもドアをノックした。
「はい、どうぞ。」
 すぐに瑞穂の声が返ってきた。
 ドアを開けた常田の目に、ソファに腰掛け瑞穂と向かい合っている女性の後ろ姿が映った。
「あ、失礼しました。来客中でしたか? 少し時間が早すぎたようですね。ではまた後ほど・・・」
 常田は慌て気味にそう言うとドアを閉めようとした。
「あ、ちょっと待ってください。いいんですよ。常田さん、お入りください。」
 瑞穂の口元には悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。
「し、しかし・・・ご迷惑でしょう。」
 常田が躊躇っていると、瑞穂はさらに促すように言った。
「大丈夫です。もうすぐ終わりますから、そちらに腰掛けてお待ちください。」
 瑞穂はデスク脇の予備の椅子を指さした。顔には相変わらず笑みが浮かんでいる。
 常田は言われるまま腰を下ろすと、さりげなく女性の方に目をやった。
 女性の美しい横顔が目に映った。
 線の細い顎、筋の通った鼻、大きな黒目がちの瞳、そして抜けるように白い肌。
 おそらく相当な美人であることが横顔だけでもわかる。
 常田は、ベージュブラウンの髪をもう少し上げてくれれば、美貌のすべてをみることができるのに、と心の中で呟いた。
   
「そう、それじゃ、最近は気分が悪くなることもなくなったことね?よかったわね、きっと薬にも慣れたのね。」
 瑞穂は常田が椅子に腰を落とすのを待っていたかのように、目の前の女性に向かって話を始めた。
「ええ、おかげさまで。何から何まで先生にはお世話になりました。何てお礼を申し上げたらいいのでしょう。」
 常田の耳に女性の声が聞こえてきた。
 高すぎず低すぎず、とても心地のいい響きだった。声量は低めで時折小さく吐息が漏れる。それがほっそりとした肢体にマッチしていて、妙にセクシーに聞こえる。
 女性はホワイトシフォンの膝丈ワンピースを身につけている。春夏用ではあるが露出を抑えたシンプルなデザインで、それが癖のない美しい話しぶりと相まって、女性の品の良さを強調している。

「いいのよ、お礼なんて・・・。それより、どう? いまだにあの夢を見ることある?」
 瑞穂の問いかけに、女性は急に頬を赤らめ俯いた。そして、ほっそりとした右手を胸元に当て、小さく「はい・・・たまに・・・・」と答えた。
 彼女の右手はわずかに前後している。羞恥に呼吸が荒くなっているのがわかる。
 だがその姿を見つめている常田には、手の動きに合わせて前後に波打つ胸の膨らみが気になっていた。ワンピース越しでも相当な美乳の持ち主であることがわかる。背筋を伸ばし両肩をわずかに後ろに引く姿勢の良さが、胸の膨らみをさらに強調している。

「そう、見るの?で、今でもやはり・・・?」
 女性の顔の赤みはさらに増し、うっすら涙を浮かべているようにも見える。
 質問の内容こそ把握できているわけではないが、例えどんな内容であるにせよ、これほど羞恥心を表に出す女性をしばらく見ていない、と常田は思った。
 女性の話しぶりや姿、そして奥ゆかしいまでの仕草を見ていると、今ではほとんど見かけなくなった「深窓の麗人」、いや20代半ばと推察される年齢から言えば、「深窓の令嬢」と呼ぶのが最も適しているように思えた。

「どうなの? 今でもやはり・・・『夢精』するの?」
 瑞穂は一段声を上げて質問すると、目を丸くしている常田の方に悪戯っぽく微笑みかけた。
 常田は聞き間違いだと思った。そうでなければ、自分の知らない「ムセイ」という音を持つ単語が別にあるのだと思った。
 だがそんな思いも、次の瑞穂の質問ですべてが明らかになった。
「恥ずかしがっていてもしかたないわ。常田さんだって慶花の様子を知りたくていらしているのよ。ちゃんと質問に答えなさい。いいわね、慶花」

「け、慶花・・・?」
 常田は思わず叫んだ。その声に反応して二人の女性が彼の方に視線を向けた。
 悪戯っぽく微笑む瑞穂の顔と、俯き加減に視線を送る女性の顔が同時に目に映った。
 正面を向くと、確かに2か月前の慶花の面影は残っていた。
 以前、セクシーだと思った口元の小さなホクロもそのにある。
「フフフ・・・やっとわかりました?常田さん。『ちょっとだけ』変わったかもしれないけど、ここにいるのは間違いなく慶花よ。」
 瑞穂は『ちょっとだけ』を強調して言った。それが真意でないことは彼女の思わせぶりな笑顔からも明らかだった。
 
「いや、それにしても、驚いたなぁ・・・・たった2か月でこんなにも変わるものなんですか?  まさか、先生・・・整形とかしたんですか?」
「フフフ・・嫌だわ、常田さん。よく慶花の顔見てみてください。何か変わっているところありますか?」
 常田は椅子から腰を上げると、無遠慮にも慶花の横に座り、俯く顔を下からのぞき込んだ。
 慶花はその乱暴な視線を避けようと左肩をわずかに上げ、遮るようにすると、顔を右に傾けた。
 常田はさらに回り込むように見上げると、ニヤニヤしながら慶花の顔を吟味した。
「い、イヤ・・・」
 慶花の口元から恥じらいの声が漏れた。それは消え入るような微かな声だった。

「確かに部分的に見れば変わっていないような気がするな。でも・・・だとしたら、何でここまで別人に見えるんですか?」
「フフフ・・・もちろん、それはN1新薬の効果も大きいですけど、それだけではありません。やはり内面と精神面がもたらす全体の雰囲気の変化が別人に見せているのだと思います。」
「そう言えば、すごく女らしくなったというか、淑やかになったというか、どこかの深窓の令嬢のような雰囲気ですよね。」
「ええ、まさにそれを目指して指導したのですからね。フフフ・・・」
 二人はまるでその場に慶花がいないかのような話しぶりだった。
 慶花はそんな二人のやり取りを恥ずかしそうに俯きながら聞いていた。

「慶花、さっきの質問の答え、先生まだ聞いていないわよ。常田さんにもあなたの今の状況を聞いてもらわないといけないんだから、ちゃんと答えなさい。今でも『夢精』はあるの?」
 瑞穂は俯く慶花に強い調子で聞いた。ただ、その顔は明らかに反応を楽しんでいるかのようだった。
 慶花は小さく首を左右に振った。
「ええ?聞こえないわ。ちゃんと口に出して答えなさいっ!」
「・・・い、いいえ・・・」
 それは蚊の泣くような微かな音だった。
「ふうん、夢は見るけど『夢精』はなくなったのね?」
「・・・は・・・はい・・・」
「ふうん、そう。わかったわ。多分もう睾丸が機能しなくなっているんでしょうね。つまり精液を作ることができなくなっているっていうことね。」
 瑞穂は事も無げに言った。 
「せ、先生・・・そんなこと本人の前で口にしなくても・・・・」
 常田が慌てて口を挟んだ。
「あら、そんなこと、慶花は気にしていませんよ。ね、慶花? あなたは女の子なんですもの。本当なら睾丸があることだっておかしいし、精液が作られるなんてもっとおかしなことだもの。ね、そうよね?」
 慶花は瑞穂の問いかけにただ小さく一度頷くだけで、何の言葉も発さなかった。
「あら?どうしたの?どうして頷くだけで答えられないの?今日の慶花、おかしいわよ。」
「で、でも・・・・先生・・・・」
 慶花は蚊の泣くような声でそう言うと、横目でちらっと常田を見た。
「フフフ・・・わかったわ。男性がそばにいるので恥ずかしくて話せないのね?」
「は、はい・・・」
「慶花はすっかり恥ずかしがり屋さんになったわね。特に男性の前だと・・・。フフフ・・・ でも、これではカウンセリングにならないから、今日はこのくらいにしておきましょう。また明日いらっしゃい。二人だけでやり直しましょう。」
「は、はい・・・申し訳ありません。先生。」
 慶花は小さな声で謝罪の言葉を口にすると、ゆっくりとソファから立ち上がった。
 そしてその場で深々と一礼すると、
「先生、本日はありがとうございました。 また明日伺いますので、どうぞよろしくお願いいたします。」
 と言い、今度は常田に向かって同様のお辞儀をして、
「常田様、本日はお見苦しいところをお目にかけ申し訳ありませんでした。慶花は殿方の前では緊張してしまう不束者でございます。どうぞお許しください。」
 と、丁寧な謝罪をすると、ドアへと向かっていった。
 だが、一旦立ち止まると、静かに振り返り二人に向かって口を開いた。
「あの・・・先生、常田様・・・一つお願いしてよろしいでしょうか?」
「うん?何かしら、お願いって・・・?」
 瑞穂が慶花の顔を見つめながら言った。
「お二人がいらっしゃるので、良い機会だと思って、お願いするのですが・・・もうそろそろ・・・妻の弘美を説得するためのビデオ映像を撮影していただけないでしょうか?」
 瑞穂と常田はお互いに顔を見合わせた。二人は共に怪訝そうな顔をしていた。
 実は二人とも2か月前に慶花とした話をすっかり忘れていたのである。
 そもそも慶花がさらなる女性化へのステップアップに同意したのは、会社社長への就任を渋る妻を説得し、何とか水瀬家での会社経営を維持しようとしたためだった。
 ところが二人は、そんな慶花の思いを利用して話を捏造しただけなので、そのこと自体記憶に残っていなかったのである。
 もしも瑞穂も常田も記憶力の悪い人間で、慶花への返答にもう少し時間がかかったら、さすがの慶花も疑念を抱き、違った運命の歯車を回したことになったかもしれない。
 だが、慶花にとって不幸なことに瑞穂は記憶力も良く、機転も利く才女である。すぐに2か月前の捏造話を思い出し、的確な返答をした。
「ああ、あの件ね、私もそろそろいい頃だと思っていたのよ。今の慶花なら奥様もきっと信用すると思うからね。 せっかく常田さんが見えてるので後でよく検討してみるわ。明日またお返事するから。それまでちょっと待ってて。」
 慶花は瑞穂の返事を聞くと、小さく微笑んで、「それではよろしくお願いします。」と美しい抑揚で言うと、もう一度大きくお辞儀をして部屋を出て行った。


「いやぁ、ドキッとしましたな。先生、よく思い出してくれました。助かりましたよ。」
 慶花が部屋を出るなり、常田が心からホッとしたような声で言った。
「本当に、私の一瞬何のことかと思いました。やはり悪いことはできないものですね。フフフ・・・。でも、何とか乗り切れましたから、大丈夫でしょう。それに今の慶花はあまり人を疑うという意識がなくなっていますからね。」
「そうそう、本当にすごい変わりようですな。先ほども言いましたが、まるで深窓の令嬢と言うか、まあ、世間知らずの上品なお嬢さんと言うか、どちらにしてもまるで別人ですな。」
「ええ、ブロック4、つまり女性化の最終段階では、『Nランク』者ほぼ全員が、ああいった上品な女性に変身させられることになっていますので、慶花だけが特別ということではないんですけど、それにしても慶花の変身ぶりは目を見張るものがありますね。」
「あれは、演技ではないんですよね?」
「あれと言いますと?」
「男の前での恥じらうような仕草とか控えめな態度とかですよ。」
「ああ、あれはすべて『指導』の結果、慶花の心に根付いたものです。ですから演技ではありません。あの男性の前での恥じらいも、控えめな態度も、そして男性を立てる気持ちも、これから一生慶花の心から消えることはありません。」
「ううむ、本来なら男であるはずなのに、女となって男に従属する生き方をしなくてはならない・・・やはり『Nランク』というものは悲劇的なものですなぁ・・・」
「そうですね。常田さん、『Nランク』に指定されなくて本当によかったですね。フフフ・・」
「よしてください。悪い冗談ですよ。ハハハ・・・」

「ところで、先生、先ほどから疑問に思っているんですが・・・・」
 少しの沈黙の後、常田が再び口を開いた。
「ええ、何でしょう?」
「なぜ、ブロック4ではあのような女性、つまり上品で奥ゆかしい女性に変身させなければならないのでしょうかね?」
「なぜ・・・と申しますと?」
「だって、いずれ彼らは『ニンフ』になるのですよ。上品さや奥ゆかしさなど不要でしょ。ましてや、慶花のように男の前で恥じらいを見せていたら『ニンフ』など勤まらないでしょう。何しろ『ニンフ』は性奴隷なんですから。」
「常田さん、それはあまりに単純な考え方ですわ。彼らを『ニンフ』化する前に、令嬢や令夫人に仕立て上げるのには二つの理由があります。一つは、ブロック5、つまり『ニンフ化』の指導をやりやすくするためです。ご存じの通り、『ニンフ』にはあらゆる性的サービスをもこなせる心構えとテクニックが必要です。ブロック5ではそれを身につけさせるわけですから、そこでの指導や指示がどんなに過酷なものであるかは簡単に想像できるでしょう。ですから彼らにはどんな屈辱的な指導をも従順に受け入れ、また、どんな恥辱的な指示にも盲従的に従える弱さや卑屈さがなければならないのです。」
「なるほど、令嬢や令夫人の心を持たせるのは、『ニンフ』化への大切な準備ってことなんですな。」
「ええ、その通りです。」
「で、もう一つの理由とは何なんです?」
 常田の問いかけに瑞穂は一瞬口元を弛めると、好色な笑みを湛えながら言った。
「フフフ・・・それは、女の私より男性である常田さんの方がわかるんじゃないかしら?」
「うん?どういうことです?」
「常田さんは、どんな客の要望にも躊躇いも恥じらいも見せずに、滞りなくこなしていく『ニンフ』と、表面上は要望に応えつつも、常に躊躇いや恥じらいを漂わせ、時には不本意であることを見せてしまうような『ニンフ』と、どちらに魅力を感じますか?」
「そ、それは、もちろん・・・後の方ですな。選べるのであれば、後の方の『ニンフ』と遊びたいと思いますね。」
「フフフ・・・そうでしょ。しかもその『ニンフ』は男のどんな卑猥な要求にも応えながら、時折、上流階級の上品な言葉を口にしるんです。文字通り「娼婦」と「淑女」の両面を併せ持つ、男性の理想像なんじゃありません?」
「ええ、それは確かにそうですね。。まるで家が没落したために、止むに止まれず娼婦に身を落とした元貴族の娘を陵辱するような、そんな背徳感があって、確かにそそられますね。ハハハハ・・・・」
「フフフ・・・そういうことなんですよ。どうやら『特殊倶楽部』内でも、そういうタイプの『ニンフ』が特に受けが良いみたいで、どうせ新たに『ニンフ』を『作る』のならそいういうタイプを『量産』して欲しいという要望が出されたみたいなんです。まあ、彼らの『令嬢』『令夫人』化にはそういう経緯があるということです。」
「なるほど、よくわかりました。・・・・・しかし、それを聞くと、より一層自分が『Nランク』でなかった幸運に感謝したくなりますよ。男に生まれながら、他の男の性的欲望によって身も心も都合良く変えられていく。これは性奴隷というよりはもう人形・・・いや、セックスドールですよ。」
「ええ、確かにそうですけど、私たちにはそんな感慨に耽っている余裕はありませんわ。
いかに滞りなく慶花というセックスドールを作り上げることができるかが大事なんです。
それに・・・・・どうせ作るなら最上のセックスドールを作りたいじゃありませんか。ね常田さん フフフ・・・・」
 瑞穂の目にはサディスティックな光が宿っていた。

「ところで、先生、慶花のブロック4の指導はいつ頃まで続くんですか?」
「う~ん、実は・・・もうほとんど終わっているんですよ。」
「え?では、すぐにでも『ブロック5』、つまり『ニンフ』化への準備を急がないといけないじゃないですか?」
「常田さん、『ブロック5』に移行するには、絶対条件があったのを覚えていますか?」
 常田は瑞穂に指摘されて、記憶の糸を辿った。
 そう言えば、随分マニュアルを読んでいない。最後に読んでからもう4か月くらいになる。瑞穂の指摘する部分については記憶の片隅にすら残っていなかった。
「どうやらお忘れのようですから、ご説明しますけど・・・・」
 瑞穂は皮肉混じりの口調で話を始めた。
「『ブロック5』移行の前に、行わなければならないことが二つあります。いずれも『Nランク』者に、すでに引き返すことのできない段階に入っていることを強く再認識させるために必要なことなのですが、まず一つ目は『除籍』です。」
「『除籍』・・・ですか?」
 常田は瑞穂に指摘されて、マニュアルの内容を思い出そうとした。確かに「除籍」という項目があったような記憶がある。
「つまり、本人の国籍、及び戸籍を抜き・・・・」
 瑞穂がそこまで言いかけた時、常田が急に思い出したように大きな声を上げた。
「ああ、思い出しました。つまり本人の在籍をすべて抹消し、存在そのものを消すということでしたね。婚姻関係にある者はその前に離婚の合意も必要という、あれですね?」
「はい、そうです。で、慶花の場合はご存じの通り、弘美という妻と婚姻関係にありますから、『除籍』の前に離婚の合意が必須というわけです。まあ、慶花自身は、自ら女性として生きることを決意していますから、離婚そのものは同意しているのですが、離婚がそのまま『除籍』、つまり本人の存在が消えることになるとは思っていません。それに伺った限りでは、現段階で妻の弘美にも離婚の意思はないのでしょう?」
「ええ、確かにその意思はないと思いますね。以前訪問した際に山村誠也という男と結構いい仲であるのはわかりましたが、恐らく離婚までは考えていないでしょう。第一、水瀬家から籍を抜くことは仕事上も問題があるでしょうからね。」
「ええ、恐らくそういうことでしょうね。だから離婚の同意を得るのが難しい現段階では『除籍』は不可能だということです。」
「ううむ、なるほど・・・。で、もう一つの条件とは・・・何でしたっけ?」
「フフフ・・まだ思い出しませんか? もう一つは肉体的な処置です。『Nランク』者にもう後戻りができないことを認識させる、肉体的処置・・・つまり『去勢』です。」
「きょ、去勢?」
「はい、睾丸の摘出手術です。」
 常田はマニュアルの中程のページに「睾丸摘出手術」と朱書された部分があったのを思い出した。
「ああ、確かに書かれてましたね。」
「ええ。『睾丸摘出手術』には本人及び、親族の同意が必要です。まあ慶花の場合には、本人と妻の弘美ということになりますが、これは現段階ではほとんど不可能です。慶花はプチ整形すら拒否していますし、ピアスすら開けようとしません。まして『睾丸摘出手術』なんか同意するわけがありません。従って、この条件も現段階ではクリアできないということです。」
「ううむ・・・じれったいもんですね。どっちも本人の知らない間に強制的に処置してしまったら良さそうなものですがね。」
「これは、常田さん、お役人とは思えない発言ですわ。あくまで『自由意志』が大原則ではなかったですか?フフフ・・・」
 瑞穂は苛々を隠そうともしない常田をまるで宥めるかのような口調で言った。
「あ、いや・・・それはそうなんですが・・・では、本人がその気になるまで待つしかないということなのでしょうか?」
「ええ、まあ、残念ながらそういうことになるでしょうね。」
 瑞穂の声もいくぶん不満げだった。
「全くそんな悠長なことしてて、またトラブルでも起こって滞りが出たら、責任は全部こっちなんですから、本当に宮仕えはつらいですよ。」
「ええ、トラブルが起きない保証はないですものね。ご同情申しあげますわ。フフフ・・」
「それに例のビデオ撮影もしなければならないんですから、本当に現場も大変ですよね。」
「ビデオ・・・ですか?」
「ハハハ、先生がさっき慶花に言われて思い出した、例のビデオですよ。慶花が妻を説得するための。今更でっち上げだったなんて言えないでしょう?撮影だけでもしないと慶花が疑い始めるんじゃないですか?」
「ああ、そうですね、確かに・・・・」
 そこまで言いかけて、瑞穂は顔色を変えた。明らかに何かを思いついた様子だった。
「ど、どうしました?」
「ええ、今ふとあることを思いつきまして・・・・ビデオ撮影をうまく利用すれば、先ほどの二つの条件もクリアできるのではないかと・・・まだ、頭の中がまとまってはいないのですが・・・でも・・・フフフ・・・うまくいきそうだわ・・・・フフフ・・・ええ、絶対にうまくいくわ。ハハハ・・・」
 瑞穂の表情が徐々に明るくなっていった。閃きが少しずつ形になっていったのである。


 その後、カウンセリングルームに後藤良介も呼ばれ、3人による打ち合わせがおよそ2時間かけて行われた。   
 計画は、良介と常田の意見で一部手直しがされたものの、概ね瑞穂のアイディア通り進めることとなった。
 この奸計とも言うべき計画が実行に移された時、慶花の「ニンフ」化への道はさらに加速し、その運命の歯車も大きく回り始めることとなるのだった。

****************************************

 ビデオカメラの前で、慶花はぐったりと疲れ切った表情を浮かべていた。
 今朝から始められた撮影は、撮り直し撮り直しの連続で、11回目でやっとオーケーが出た。
 フラワープリントのサンドレスの胸元には、緊張のためか、それとも照明の熱さのためかうっすらと汗が滲んでいた。
 以前の弘美宛のビデオ撮影時とは違って、今回のカメラワークは当然ながら、顔のアップ以外に全身撮影もあった。

「すっかりお嬢様に変身した慶花を見てもらうんだから、できるだけフェミニンな服装の方が良いわ。それにメイクも派手すぎないように上品にね。でも、せっかくだからちょっと胸元を開けて、奥さん、驚かしてあげましょうか?」
 瑞穂は撮影前に慶花にそんなからかい半分の言葉をかけながら、洋服選びを手伝った。 慶花は開いた胸元から覗く胸の谷間を気にしながら撮影に臨んだ。

 セリフはほとんど瑞穂の台本通りであり、中には口にして恥ずかしくなるような表現や言い回しなどもあったが、その内容については慶花の言いたいことをほぼ網羅していたので、その点については納得している。
 恐らく弘美がこの映像を見てくれたら、自分はすでに別人格である「慶花」という女性として生きることを選択し、それ故会社経営に戻るつもりはないことを理解してくれるだろう。それはもちろん寂しいし、つらいことではあるのだが、弘美から社長就任への躊躇いを取り除くためにはやむを得ないことなのだ。

 ただ、撮影が終了しても慶花の心には達成感や満足感はなかった。
 どうしても不安がぬぐい去れないことがあったのだ。
 それは美穂が検閲官を納得させるためと称して付け足した3つの項目についてである。

 美穂は撮影前に説得力のある口調で慶花に言った。
「たぶん、台本のままだと検閲を通りそうもないの。検閲を通らなかったら、奥さんに見せることもできないんだから意味ないでしょ?」
「あの・・・どこか問題でもあるんでしょうか?」
「ううん、問題って言うより、検閲官がこれでは信じないんではないかってことなのよ。つまり本気度が伝わってこないって言うか、単なるお芝居だと思われる可能性があるってこと。」 
「お芝居・・・?」
「そう。『慶花』に生まれ変わったっていうことも、会社の経営を奥様に譲りたいっていうこともね。だからそれが本気だっていう証拠を見せなくちゃいけないの。」
「証拠・・・・ですか。 でもどうしたら?」
「フフフ・・・良い方法があるのよ。いいから私の指示する通りに言えばいいの。」
 瑞穂はそう言って台本に3つの項目を付け足した。
 一つ目が、離婚に関すること。二つ目が、会社及び財産、資産の譲渡に関すること。そして三つ目が、何と、睾丸摘出手術の同意に関することだった。
 
 それらが新たに加わった台本を見た時、慶花は心臓が止まってしまうのではないかと思った。全く自分の意図している内容ではなかったからだ。特に睾丸摘出手術など夢にも思っていないことだった。もちろん慶花はその新しい台本を拒否した。
 しかし瑞穂はまたもや説得力のある口調で慶花を諭した。
「このくらいのことをしないと検閲官を納得させることはできないわ。それに、この3つの項目については、映像を見てもらう前に奥様に、『この3つの項目に関しては、検閲を通すためのお芝居です。ご主人の本心ではありませんので無視してください。』ときちんと伝えるから、絶対に大丈夫よ。」
 それでも尚、慶花は拒否したのだが、「それじゃ、撮影はやめる?」という瑞穂の言葉に最終的には同意せざるを得なかった。撮影そのものをやめるという選択肢はなかったからである。

 撮影が終わり部屋に戻る際、慶花は瑞穂に5回目の念押しをした。
「本当に映像を見せる前に、妻にきちんと伝えてくださいね。忘れないでください。お願いします。」
 それは聞きようによっては、念押しと言うより哀訴とも言うべき言葉だった。



プロフィール

サテンドール

Author:サテンドール
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女性化小説なら国内・海外を問わず大好きです。

特に屈辱系・羞恥系・強制系・寝取られ系・立場逆転系・年齢退行系・SISSY系などなど・・・。

happy よりは、unhappy ending が好み。
(ちょっと、性格がゆがんでるのかも^^)

私事ですが、以前某サイトに 
「高野奈緒美」のペンネームで
『ある性転者の告白』という拙い小説を掲載させて頂いておりました。事情があって途中で掲載を止めましたが、その完結編も当ブログでご紹介できればと思っています。

それとランキングにも参加させていただきますので、
ポチッとクリックいただければ幸いです。

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