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私立明倫学園高校 第7章-5

 しばらくして個室のドアを叩く音がした。
 おそらく真希か里佳が自分を追ってきたのだろうと思った。
 ノックに応え、ドアを開ければ、きっと彼らの口から「追試不合格」が告げられるのだろう。
 明彦はそれでもいいと思った。いや、その方がいいとさえ思った。そうなることで良介と「男女の関係」になることを避けられるのなら。
 
 明彦は小さく返事をすると、ドアを静かに開けた。 
俯いた視界に飛び込んできたのは、真希や里佳のタイトスカートではなく、シンプルな制服のスカートだった。
 泣きながらゆっくり視線を上げると、そこに立っていたのは美穂だった。
 会場で最後に見た悲しげな顔ではなく、心配そうな思いやりのある表情だった。
「大丈夫?急に駆け出すんだもの。心配したわ。」
 美穂の慈愛に満ちた優しい声を聞いて、わずかに収まりかけていた涙がまた溢れ出した。
「わたし・・・、わたし・・・」
 明彦はそれだけ言うと、美穂の胸に泣き崩れた。
 美穂は、明彦の肩を抱き寄せると、右手でその髪を優しく撫でた。
 明彦は髪の毛を撫でられるのがこれほど安心感を得られ、心地いいものだとは知らなかった。
 高校一年の「教養の時間」で読まされた女性雑誌のアンケート記事を思い出した。
 女性が男性にしてもらいたい行動の第1位に「髪を優しく撫でてもらう」があった。
 今明彦は、そのアンケート結果に偽りのないことがはっきりわかった。

「大丈夫よ、心配しなくて。私、怒っていないわ。むしろ良介の相手が明菜さんでよかったと思ってるくらいよ。だって変な人だったらイヤだもの。」
 美穂は誤解していた。「明菜」が急に駆けだしたのは、自分が怒った顔を見せたからだと思っている。
 だが、そんなことはどうでもよかった。自分を抱きしめ、慰めてくれている、その事実だけが大切だった。
「ごめんなさい・・・本当にごめんなさい・・・」
 明彦は自分でも何に対して謝っているのかわからなかった。
 これほどまでの優しさと誠実さで接してくれる美穂に、自分の本性を隠し続けている後ろめたさなのか、そんな美穂の大切な恋人である良介と性的関係になる事への罪の意識なのか、それともそれらを拒否する勇気を持つことさえできない自らの弱さに対する謝罪なのか。
 でも、とにかく謝りたかった。謝ることだけが美穂との絆を保つ唯一の手段だと思った。

「ばかね、謝るなんておかしいわ。怒ってないって言ったでしょ? ちょっとびっくりしただけ。明菜さんみたいな可愛くて素直な人が、あんなイヤらしい・・・あ、ごめんなさい、あんな刺激的な手紙書くなんて信じられなかったし、それに・・・あの・・・」
「DVD・・・映像・・・ですね?」
「うん・・・良介に聞いただけだから、どんなものかわからないけど・・・でもとっても刺激的な・・・そういうものに明菜さんが映っているなんて信じられなかったの。それになにより明菜さんがプロの・・・」
「プロの女性・・・・身体を売ってるってこと・・・ですね?」
「うん、でもきっとこれには深いわけがあるんだって思ったの。だって、明菜さんがそんなこと好きでするわけないもの。でしょ?そうよね? よかったら、そのわけ聞かせてくれない?」
 美穂の問いかけに明彦は動揺した。本当の事情など話せるわけがない。
 でも何か言わなければ、何かそれらしい「物語」を作り出さなければ、美穂を落胆させてしまうことになる。
 明彦は、以前どこかで聞いた不幸な少女の話をそのまま語った。
 高校生の時、母親の再婚相手にレイプされ家を飛び出したが、悪い男に捕まり、風俗嬢に身を落とした。一旦はがんばって抜け出そうとしたけれど、中卒の家出娘を雇ってくれる所は他にはなく、結局は今の仕事に戻ったのだと。
 明彦は嘘を語りながら、罪悪感に押しつぶされそうだった。
 自分の話に真剣な表情で聞き入り、時折涙さえこぼす美穂を見ていると、その思いは尚更増してくるのだった。

「ごめんね、つらいこと思い出させちゃって。でも、明菜さんが好きでそんなことしてるんじゃないってことがわかって、本当にうれしかったわ。」
「明菜のこと許してくださるんですか?・・・本当にもう怒ってないですか?」
「うん?怒るって何を? ああ、嫉妬ってこと?」
「は、はい・・・」
 明彦は頷いた。
 本当はもっと他の許しを請うつもりだった。正体すら明かせないことへの許しである。 だが、それを口にすることができない以上、せめて一つだけでも美穂の許しを得たいと思ったのである。
 
「う~ん、嫉妬がないって言えば嘘になるけど、明菜さんならいいかなって・・・。それにね、これは気を悪くしないでもらいたいんだけど、さっき良介に聞いたら、彼が明菜さんを選んだんじゃなくて、職員の人が勧めたんですって。ナンバーワンの子だけどどうかって。で、彼もあなたの写真とか・・・う~んと・・・いろいろを見て、気に入って決めたらしいの。だから、少しだけど私の嫉妬も薄らいだっていうか・・・、ごめんね、変なこと言って。」
「い、いえ・・・・そんなこと・・・気にしません。」
 明彦はそうは答えたものの、美穂の言葉が気になった。
 なぜ職員がそんな「客引き」まがいのことまでして、自分を良介に勧めたのだろう。
 そんな余計なことをしなければ、こんな苦しみを味あわなくても済んだのに。
 明彦は、その誰とも知らない職員を呪った。
 もし今目の前にその男がいれば、適わないと知りながらも殴りかかったかもしれない。
 
 だが、そんなことを思ったところで何かが変わるわけではない。自分が今夜良介の相手をすることは覆りようもないことだ。
(たった一晩のこと・・・。彼を良介ではなく、別の男性だと思えば耐えられるわ。だって、昔の良介の面影なんてないじゃない。)
 明彦はそう心の言い聞かせ、気持ちに踏ん切りをつけた。その顔にはいくぶん笑みが戻っていた。

「だから、今晩ひと晩、彼の相手してあげて。折角の卒業記念なんだもの、彼のこと、満足させてあげて。ね、お願い。」
 美穂は明るい笑顔で言った。
 その言葉は受け取り方によっては、ひどく悪意に満ちた言葉だとも言える。
「たとえ何があっても、彼の心は私のものよ。あなたは、彼の性欲を満たすためだけの女。そこには心はないのよ。」と言っているようなものである。
 この言葉がもし、詩織の口から発せられたとしたら間違いなくその意を含んでいただろう。だが、美穂の口ぶりからはそんな含意は微塵も感じられない。恐らくはそういった方面の知識が疎いために発せられた悪意のない言葉だったのだろう。
「はい・・・美穂様がそうおっしゃってくださるなら・・・。」
 明彦は見つめる美穂の顔に笑顔を返した。

 その後、気持ちに落ち着きが戻った明彦は、美穂に促されるままトイレを出た。
 会場に通じる廊下で、明彦は美穂に尋ねた。
「あの・・・美穂様はどうして明菜にそんな親切にしてくれるんですか?」
「フフッ・・どうしてかしら? う~ん、よくわかんないんだけど、何か昔から知り合いだったみたいな懐かしい感じがするの。だから・・・かな?」
「あ、あの・・・明菜も・・・明菜もそんな感じがしてました。美穂様と昔から知り合いだったみたいな・・・・」
 明彦は咄嗟にそう答えた。できるだけ冷静に答えたつもりだったが、いくぶん声が震えているのが自分でもわかった。

「あの・・・美穂様、お願いがあるんですけど・・・」
 明彦は話題を変える意味も兼ねて、ずっと心に留めていた思いを美穂にぶつけてみることにした。
「うん?何?」
「あの・・・美穂様のこと、お姉様と思っても・・・いいですか?」
「え?私が、明菜さんのお姉さん?どうして?」
「あの・・・明菜、美穂様のこと、とっても好きだし・・・尊敬してるし・・・」
「フフッ・・何か照れちゃうなぁ~。でも、もう会うこともないんじゃないかしら?」
「は、はい・・それでもいいんです。美穂様のこと、心の中でずっとお姉様として思っていたいんです。」
 明彦の目には涙が浮かんでいた。
 美穂はそこに真剣な思いを感じ取った。
「いいわ。明菜さんのこころのお姉さんになってあげる。」
「あ、ありがとうございます・・・美穂様。」
「フフッ・・『美穂様』はおかしいわ。」
「そ、それじゃ・・・美穂・・お姉様・・・美穂お姉様」
「クスッ・・・ちょっと照れくさいなぁ。でもそう呼ばれるの悪くないかも。フフ・・」
「美穂お姉様」
「うん?なあに、明菜」
「美穂お姉様、もう一度、明菜の頭撫でて。」
「クスッ・・明菜は甘えんぼさんなのね?」
 美穂は明彦の肩を抱き寄せると、優しくその髪を撫でた。
 明彦の心にはたとえようのない幸福感と恍惚感が広がっていった。
 この瞬間が永遠に続いてくれたら、すべてを失ってもいいとさえ思った。


 パーティ会場入口近くには高岡真希が立っていた。
「教師」として「明菜」の帰りを待っていたのである。ことによれば、「追試不合格」を宣言するために。
「あ、せ・・先生・・・」
 明彦の声に、美穂も入口付近に立つ中年女性に視線を向けた。
 その女性が「明菜」にとっての「責任者」であることはすぐにわかった。
 ウェイトレスたちが自分たちの「責任者」を「先生」と呼んでいることはすでに知っていた。

「明菜、あなた、急に飛び出して、しかも今までずっと帰ってこないなんていったいどういうつもり?」
 真希は明彦に近づくと、強い口調で言った。
「あ、あの・・・それは・・・」
「ああ、それは、私から説明します。」
 言い淀んでいる明彦に代わって、美穂が言葉を継いだ。
「実は私トイレに大事な時計忘れてきてしまって、明菜さんに急いで取ってきてくれるように頼んだんです。急がないと誰かが持っていってしまうからと。」
「でも、その割には時間がかかりすぎでは?」
「はい、これは私のミスなので謝らなくてはいけないのですが、時計は私の鞄に入ってました。だから一生懸命時間をかけて探してくれた明菜さんには何の落ち度もありません。」

 美穂の自信に満ちた話しぶりに圧倒されたのか、真希は今回だけは不問に付すと言った。
 化粧直しが必要な明彦が控え室に入ろうとした時、美穂は小さくウィンクをすると、そっと囁くように言った。
「妹のピンチを救うのは、お姉様の役目でしょ?」
 明彦は、「ありがとう、お姉様」と小さく囁き返すと、会場の入口に消えていく美穂の背中を目で追った。

 約30分後、メイク直しも終え、会場に戻った明彦は、美穂と良介の間で交わされるある短い会話を耳にした。
 それは3年前の入学式後に別れた「山本明彦」についての会話だった。
 どうやら彼らは自分たちが交際を始める前に、明彦に許しを得ようと連絡を試みたらしい。だが、学校側ではSクラス生のほとんどは学業不振のため途中退学となり、連絡を取ることはできないと返答したということだ。
 もちろんそれでもさらなる連絡方法を探る努力もできたとは思うが、寮生活をしている彼らには酷なことかもしれない。それに今更思い返していったい何になるというのか?
 明彦には二人が自分に許しを得るために連絡を試みたこと、その事実だけで十分だった。 

 (第8章に続く)

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コメント

§ 今後

良介に気づかれるのに、奉仕させられるというような展開とかいいなぁ。
そして最終的に美穂から乗り換えたりとか。
マゾ奴隷妻にさせられるみたいな!
これからの展開も楽しみにしてますね!!

§ Re: 今後

>あき様

 コメントありがとうございます。
 残念ながら、この作品、すでに完成していまして、推敲が終わった部分を
 随時、掲載させてもらっている段階です。
 ご満足頂ける展開かは不明ですが、どうぞ最後までおつき合いください。

 なお、頂いたアイディアは次作以降の参考にさせて頂きます。
 ありがとうございました。

> 良介に気づかれるのに、奉仕させられるというような展開とかいいなぁ。
> そして最終的に美穂から乗り換えたりとか。
> マゾ奴隷妻にさせられるみたいな!
> これからの展開も楽しみにしてますね!!

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サテンドール

Author:サテンドール
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女性化小説なら国内・海外を問わず大好きです。

特に屈辱系・羞恥系・強制系・寝取られ系・立場逆転系・年齢退行系・SISSY系などなど・・・。

happy よりは、unhappy ending が好み。
(ちょっと、性格がゆがんでるのかも^^)

私事ですが、以前某サイトに 
「高野奈緒美」のペンネームで
『ある性転者の告白』という拙い小説を掲載させて頂いておりました。事情があって途中で掲載を止めましたが、その完結編も当ブログでご紹介できればと思っています。

それとランキングにも参加させていただきますので、
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