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N/Nプロジェクト 第2章

〔第2章〕

 コンフェクショナリー・ミナセの本社ビル最上階の社長室からは、眼下に県の名を冠した第一野球場が見える。
 折から地域主催の野球大会が開かれていて、グラウンド内の白熱したプレイとそれぞれの観客席からの熱のこもった応援の様子が伝わってくる。
 水瀬弘美は物思いにふけりながら、無意識にその動きを追っていた。
 野球に興味があるわけではない。午前中の新商品開発会議と午後の新規事業計画重役会議による疲労感がもたらした行動だった。

「コンフェクショナリー・ミナセ 社長代理」
 これが、現在の弘美の肩書きである。
 以前も取締役の一人であったので、会議への参加も社長室への出入りも戸惑いは感じない。ただ、以前のオブザーバー的な参加とは明らかに役割が違っているのである。精神的にも肉体的にも、また責任の上からも逃れようのない大きな重みを感じているのだった。 けれども、それは同時にやりがいのある重みでもあった。
 当然、夫の慶太が帰るまでの社長「代理」であることはわかっているが、この経験が自分のキャリアにおいて大きなプラスになることは明らかだった。場合によれば、慶太が戻って来た後、関連事業のトップに就いてみたいという欲すら沸いてきているのだった。
 元々弘美には上昇志向があった。大学で経営学を専攻したのもそのためだ。
 だが、今回のように、代理とは言え、降ってわいたような社長就任など、当然ながら想像もしていなかった。

**************************************** 
 弘美の住む高級マンションに、常田厳が後藤良介を伴って訪れたのは、もう2週間ほど前になる。
 その3日前、夫の慶太は指定された面談のために上京し、夕刻になって管轄部署の女性職員から、慶太の検査結果について重大な疑義が見つかったので、再検査の必要が生じ、その結果が出るまで外出許可が下りない旨の連絡があった。
 弘美は目安としてどれくらいかかりそうなのかと尋ねたが、明確な返答はなかった。ただ詳しいことが決まり次第必ず連絡をもらうことを約束し電話は切れた。    
 弘美の胸には多少の不安が去来したが、公共の機関で行われることなので間違いはないだろうと自分に言い聞かせ、努めて不安を打ち消そうとした。
 幸い追加の連絡は翌日すぐに届いた。今回は女性職員からのものではなく、落ちついた中年男性と思える声だった。
 常田厳と名乗るその男性は、自分は慶太の担当になった役人であり、詳しい状況を知らせるために訪問したいと告げてきた。
 無論、弘美には断る理由はない。一刻も早く詳しい状況を知りたいと思っていたくらいである。両者は日時を打ち合わせて電話を切った。
 
「結論から申し上げます。再検査の結果、ご主人は『Dランク』と判明いたしました。従いまして、『適性教育機関』での再教育が必要と判断され、現在そちらに移られております。」
 常田は応接間に通されるや、名刺交換もそこそこに話を始めた。
「『Dランク』・・・と申しますと・・・あの・・・」
 弘美は自分に送られてきた結果表のランク説明を思い出そうとした。だが、残念ながら思い出すことはできなかった。自分が「Aランク」であったことに安堵して、他のランクのことなど気にも留めなかったからである。

「『Dランク』とは、『現在の職業・職域または社会的地位が不適であるばかりでなく、検査結果の一部または全てに基づいて、最適性への変更は不可能である。『適性教育機関』での、一定期間の再教育が必須。その達成度により、比較的適性度が高いと判断しうる職業・職域・社会的地位に就くことが義務となる。』とあります。」
 常田と同行した後藤良介がマニュアルに書かれている内容を事務的に読み上げた。
「ということは、水瀬は社長として戻ることはできないということですか?」
 弘美の質問に頷こうとした後藤を制するようにして、常田が答えた。
「いえ、そうとは限りません。ご本人に現職への復帰の希望が強く、『適性教育機関』での達成度からも現職への適性度が高いと判断されれば、そのまま社長としたお戻りいただくことは可能です。」
「あの、主人の・・主人の場合はどうでしょう? 見通しとしてどうなんでしょう?」
「ご主人の場合は間違いなく復帰されることになるでしょう。これまでのご主人の経営手腕とか諸々が判断材料になりますから。」
 弘美の顔に安堵の色が浮かんだ。
「で、その教育機関での再教育というのはどのくらいかかるのでしょうか? いえ、はっきり言って社長復帰までどのくらいかかるのでしょう?」 
「それは個人差がありますので、明確には申し上げられませんが、およそ1年位をお考えいただきたいと思います。」
「い、一年も・・・ですか? あの、その間、水瀬の代わりはどうしたら・・・・」
「奥様は経営にも参画されていますね?しかも今回の適性検査の結果も『Aランク』です。さらに言えば、他のデータからも経営者としての資質を十分備えていらっしゃいます。いかがですか、社長代理としてご主人の留守を守られては?」
 弘美はしばらくの間、常田の提案に頭を巡らせた。
 自分に果たしてできるのだろうかという不安と、一年という限られた期間ならむしろやってみたいという意欲との葛藤が決断を鈍らせた。

 だが、常田の次の言葉で弘美の心が決まった。
「奥様が断られた場合、私どもは最適性と判断される第三者を強制的に配置することになります。その場合、ご主人が再教育を終了しても社長の座に復帰する可能性はありません。その点も十分にご承知おきいただいた上でお決めください。」
 第三者に経営権を譲るなど絶対にあってはならない。まして慶太がそれを望むわけはない。弘美はきっぱりと言い切った。
「わかりました。私が・・・私が代理を引き受けます。でも、もう一度確認させてください。水瀬は、必ず復帰できるんですよね?一年後には必ず・・・」
「ええ、もちろんです。ご主人の気持ちに変化がなければ。」
「変化?変化とはどういうことです?」
「ご主人が自ら経営者としての立場を捨てたいとお考えになった場合です。」
「アハハ・・・そんなことはあり得ません。水瀬にとってこのコンフェクショナリー・ミナセは生き甲斐そのものです。子供のいない私たちにとっては大事な子供みたいな存在でもあるんです。それを手放すなんてあり得ません。 わかりました。それでかえって確信しました。一年後の水瀬の復帰を。」
「そうですか、それなら結構です。」
 常田は弘美に気づかれないように、小さく後藤に目配せを送った。
 後藤もそれに答えて小さく頷いてみせた。
「ところで、その間の連絡は・・・水瀬との連絡はどのようにしたらいいのでしょう?」
 常田は当然とも言える弘美の質問に意外なほど事務的な返答をした。
「原則として、直接の連絡はできないことになっています。再教育に悪影響があるからという理由です。従って、どうしても連絡が必要な場合は私どもが介在させていただいた上で書面のやり取り、音声録音、画像録画といった形で行います。もちろん再教育に影響があると判断される部分は許可されませんが。」
 弘美は、この時初めて「Dランク」という評価の持つ意味の重大性と過酷さに気づいた。
 だが、とにかく与えられた条件の中で、最善を尽くさなければならない。そして一年後の慶太の復帰を望ましい形で迎えたい。弘美は改めてそう決断したのだった。

 
 東京に向かう新幹線の車中で、後藤は常田に向かって話しかけた。
 新幹線の到着を待つ間、駅構内のレストランで食事を済ませ、その際に飲んだビールに幾分酔っているのか、声の調子がいつもよりも高かった。
「常田さん、あんな風に奥さんを騙さなくちゃいけないんですか?水瀬慶太は社長復帰はあり得ないんでしょ? あれじゃ、詐欺ですよ。」
「しっ! 声が大きいよ。 君は本当に単純というか何というか・・・。いいかい?私たちが行っているプロジェクトは部外者にはいっさい知られてはいけないものなんだ。もしも自分の夫に復帰の可能性がないと知ったら、妻はどういう行動をとるかね?中には結果に納得できないので説明してほしいと抗議する者も出てくるだろう。もしかしたらマスコミに話す人も出るかもしれない。そうなればプロジェクトの中身が露見するリスクは格段に大きくなってしまう。だから、現段階ではそういったリスク要因はすべて排除しておかなければならないんだ。」

「でも、いずればれることでしょう?『Dランク』の連中とはちがって、『Nランク』の連中は、家族の元に戻ることもできないんだから。」
 後藤は常田の注意に従って、若干声のトーンを落として言った。
「それはそうだ。でも、1年後、いや数ヶ月先でもいい。彼らはどうなっているか、君にも想像できるだろう?」
 後藤の脳裏に女性化した慶太の姿が映る。髭を生やした顔からは女性の顔は連想できないが、それでも小柄で華奢な体つきから何とかイメージすることができた。
「その段階になって妻が知ったらどうするかね?」
「抗議するでしょう。夫に何をした?って・・・」
「それが夫の意志によるとわかってもかね?」
「そ、それは・・・」
「だれが、そんな身内の変態男の恥をさらしたいと思う? 女になるだけでなく、『ニンフ』になって男の性奴隷になりたいなんていう変態男の恥を・・・。」
 後藤の脳裏に、セクシーなランジェリー姿で大きな男に抱きすくめられながら、うれしそうに微笑む慶太の姿が浮かぶ。後藤はぞっと悪寒が走るのを感じて、小さく首を振った。

「先日、施設のカウンセリングルームで話したように、女性化が彼らの自由意志で行われるようにし向けるのは、そういうリスクを排除するためでもあるんだよ。」
 後藤は常田の冷徹な話しぶりに、そしてプロジェクトの奥に隠された残忍性に微かな恐れを抱き、持っているビール缶が小刻みに震えるのを感じた。
「そ、それにしても、『Nランク』の連中っていうのは、悲惨なもんですねぇ。会社を奪われ、妻とも別れさせられ、女にされて、男の慰みものされる。もう、考えただけで鳥肌もんですよ。」
 後藤は恐怖心をかき消すようにことさら明るい口調で言った。
「ところで君は・・・君は『何ランク』だったんだい?」
「え、私ですか? それは当然『Aランク』ですよ。常田さんは? 常田さんも『Aランク』でしょ?」
「いや、残念ながら・・・B。 『Bランク』だよ。」
 常田の表情に一瞬陰りが滲む。
「あ、そ、そうでしたか・・・でも、Bって職業を変える必要はないんですよ・・・ね?」 後藤は慰めるような口調で言った。
「ああ、表向きは・・・な。でも、BはBだよ。特に役所という場所ではなおさらだ。ちょっとしたミスが命取りになりかねないんだ。だからこそ、この担当の仕事はミスするわけにいかないんだ。」
 常田の顔には悲壮感すら漂っていた。
「私も・・・全力で協力しますから・・・お互いがんばりましょう。」
 後藤の精一杯の励ましの言葉だった。
 二人は無言の笑みを交わすと、すでに開いている缶ビールで二度目の乾杯をした。

***************************************

 コンコン・・・コンコン・・・
 弘美は、社長室のドアを叩くノックの音にハッとした。
 窓から野球グラウンドをぼうっと眺めていたので一度目のノックは聞き逃したが、二度目の音ははっきり聞き取れた。それは弘美を現実の世界に引き戻す音だった。
「は、はい・・・どうぞ・・」
 弘美は落ちついた口調で返答した。
「社長代理、この企画書に目を通して頂けますか?」
 大柄でガッチリとした男が笑みを湛えながら入室してきた。スーツ越しからも体格の良さが伝わってくるスポーツマンタイプの男だ。
「あら・・・誠也くん・・・」
 弘美は、来室者が山村誠也だと知ってホッとした。
 

 弘美と誠也はもともと幼なじみで、小さい頃は誠也の弟の直也を含め数名のグループでよく遊んでいた。
 年齢は弘美より2歳年上の32歳であるが、気があったのか特に親しくしていた。
 幼なじみという関係も、普通なら年齢を重ねると疎遠になったりするものだが、二人の友情は決して消えることはなかった。いや、実のところ友情と考えていたのは弘美だけで、誠也の方は、いつしか弘美を恋愛対象として見るようになっていた。しかし、弘美が大学を卒業してしばらくの後に、コンフェクショナリー・ミナセの次期社長と目されている水瀬慶太との交際を始めると、自らの恋愛感情を抑えるしかなかった。それほど「ミナセ」の名は地元では大きなブランドだった。
 誠也は、慶太と弘美の盛大な結婚式披露宴で、新婦側の友人代表の一人としてスピーチも行っている。
 その際に述べた「いつか二人の関係がダメになったら、私が弘美さんを代わりにいただきますから。」という言葉は決して冗談ではなかった。それは一瞬会場中の大顰蹙を買ったが、誠也のさわやかな話しぶりとスポーツマンらしい屈託のなさがかえってその後の雰囲気を盛り上げもしたのである。もちろんひな壇に座る慶太と弘美もそれを冗談だと受け取って大きな笑顔で聞いていた。
 後に経営学の修士課程を終えた誠也を、コンフェクショナリー・ミナセの本社に厚遇で迎え入れるよう薦めたのはむろん弘美だが、誠也の優秀な成績を見て、慶太自身もそのことに異論はなかった。
ミナセ入社後の誠也はすぐに頭角を現し、いつしか慶太の経営アドバイザー的な役割を演じるようになっていく。誠也にとってもそれはやりがいのある仕事だった。それに加え、取締役会などに時折姿を現す弘美と談笑する楽しみもあったのである。

 だが、誠也の身内には一人やっかいな人物がいた。それは弟の直也である。
 弘美にとっては誠也同様幼なじみの存在ではあるが、誠也ほど気が合うわけではなかった。
 直也は優秀な兄を持つ弟にありがちな、少々卑屈なところがあり、多少自堕落なところもあった。
 この山村兄弟は早くに両親を失っている。従って、二人にとってはお互いが唯一の家族ということになる。そういうこともあって、誠也は、大学を卒業しても定職に就くわけでもなく、その日暮らしをしている弟を放っておくわけにはいかなかった。
 誠也は慶太に、直也を何とか会社に就職させてもらえないか、と相談した。
 慶太は即座に承諾した。誠也のこれまでの仕事ぶりを考えれば弟の就職など大したことではなかった。
 だが、この直也が大きな事件を起こしたのは、入社後2年を経た頃だった。
 先代から伝わる洋菓子のレシピを盗み出し、ライバル店に横流ししようと企んだのである。
 事件は直前に露見し未遂に終わったが、このことを知った慶太は激怒し、即刻直也を解雇した。妻の弘美と誠也は何とか考え直してくれるよう説得したが、他のものならまだしも、レシピは「洋菓子のミナセ」にとっては失うことのできない財産である。慶太の意志は固かった。
 その後、再び荒んだ生活に戻った直也が徐々に犯罪の道に手を染めるようになったのは当然の流れだとも言える。
 現在直也は、3件の窃盗と2件の暴行により服役中である。
 彼は取り調べ中、慶太に対する恨みを何度も口にしたらしい。もちろんそれは単なる逆恨みというものであるが、屈折し卑屈な精神の直也にとってはぬぐい去ることのできない恨みとなったのである。
 兄の誠也は、弟の解雇後も変わらず職務を遂行していたが、さすがに逮捕という事実に直面すると複雑な思いが芽生えていったのである。
 聡明な彼のことだから、慶太を恨むのは筋違いであることは理性的には、わかっている。しかし、たった一人の家族である弟を逮捕に追いやったのは慶太であるという思いも心のどこかには残ったのだった。
 だが、それはそれとして、何らかの事情により社長の慶太が不在となり、それを守るために懸命になっている弘美がいる。
 誠也は微かに芽生える邪心を心の奥にしまい込み、弘美を支えられるのは自分しかいないという純粋な思いに突き動かされていたのだった。



「誠也くん・・・はダメでしょう? 社長代理?」
 誠也の屈託のない笑顔が満面に広がる。
「あ、そうね。ここでは・・・山村部長・・・だったわね。」
 誠也の笑顔につられて、弘美の顔にも満面の笑みが戻る。
「やっぱり、疲れる? 社長業って?」
「うん、そうね。なれないことばっかりだし・・・。ちょっと参ってる・・・かな?」
「何でも言ってくれよ。俺でできることは何でもするから。大事な弘美ちゃんのためだから・・・ね。」
「うん、ありがとう・・・なんか不安で・・・やっぱり私も女だったんだね?」
「アハハ・・・そりゃそうさ。 だから、きつくなったら愚痴でも言って甘えちゃえばいいんだよ。女なんだからさ。」
「うん、ありがとう。じゃ、甘えたいときには甘えちゃうからなぁ。覚悟しておけよ。誠也ァ フフフ」
「はいはい、わかりました。弘美社長代理様 ハハハ・・・」 
 二人の大きな笑い声が社長室中を満たした。
重責に押しつぶされそうになる弘美にとって、この誠也との語らいの一時が唯一の癒しの瞬間だった。

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サテンドール

Author:サテンドール
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女性化小説なら国内・海外を問わず大好きです。

特に屈辱系・羞恥系・強制系・寝取られ系・立場逆転系・年齢退行系・SISSY系などなど・・・。

happy よりは、unhappy ending が好み。
(ちょっと、性格がゆがんでるのかも^^)

私事ですが、以前某サイトに 
「高野奈緒美」のペンネームで
『ある性転者の告白』という拙い小説を掲載させて頂いておりました。事情があって途中で掲載を止めましたが、その完結編も当ブログでご紹介できればと思っています。

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