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N/Nプロジェクト 第13章

〔第13章〕


 ドレッサーの前で慶花がメイクを始めて、かれこれ1時間が経とうとしていた。
 卓越したメイクテクニックを習得していて、普段なら30分もあれば完璧なフルメイクで客を迎えることができるのだが、今日はそうはいかなかった。
 慶花にとっては約2週間ぶりに愛しい「恋人」直也に会うのである。念には念を入れたメイクで迎えたいという「女心」はごく自然なことだった。
 
 ライトなナチュラルメイクは最近の直也の好みだ。ランジェリーもニンフらしい扇情的な物ではなくて白のシルクレースが好きだと言ってくれた。ピンクの花柄のミニワンピースは超ガーリーで、同系色のリボンをヘアに添えた姿を鏡に映すと、恥ずかしさで顔が赤らんでしまう。でも、2週間前に彼が来てくれた時に、「上品なランジェリーに女の子らしい可愛い服が慶花には一番似合っているよ。」と言いながら、優しく髪を撫でてくれたのを思い出すと、嬉しくて恥ずかしさも我慢できる。
(慶花のこと、ニンフとしてではなくて、一人の「女の子」として、ううん、大切な「恋人」として見てくれているんだわ。)と心の中で呟きながら、彼に寄り添って眠った時の幸福感と安心感は忘れられない。
 その深い眠りの前に彼がしてくれた3回のセックスが、例えどんなに乱暴で過激で苦痛を伴うものであったにしても、それは自分のことを愛してくれているからなんだ、と慶花は思った。
 
 慶花はリップグロスを手に取り、ピンクオレンジの口紅の上に重ねた。
 濡れたような艶めかしい輝きが、全体のナチュラルメイクのバランスを崩してしまったように見えるが、直也が喜んでくれるならそれでもいいと思った。


 2週間前、直也は部屋に入って来るなりシャワーも浴びずに、いきなりフェラチオを命令した。慶花はドアの近くで跪き、汗の混じった男臭いペニスに奉仕した。
 いつもと違う状況に興奮度が増したのか、直也の行動は荒々しかった。巨根を無理矢理喉奥まで突っ込まれ、ディープスロートを強要された時は、苦しさで涙がこぼれたが、何とか嘔吐せずにザーメンを燕下することができたのも、直也に嫌われたく一心からだった。
 直也は射精後の余韻に浸りながら言った。
「自然な化粧は好きだが、いつも唇だけはイロっぽくしておけ。俺はイロっぽい唇の女にチ○ポをしゃぶらせるのが好きなんだ。いいか、忘れるなよ。それとも、何人も客を相手にしてると、俺の注文なんて忘れてしまうか?」
 慶花の目に涙が溢れた。直也がわざと意地悪な物言いをしていることは百も承知しているが、それでも何故か悲しくなってくるのだ。
「もう・・・意地悪なんだから・・直也さんはお客ではないのよ。慶花がこんなに愛しているの、わかってくれないの?」
「ハハハ・・わかった、わかった。 お前は本当に可愛いやつだな。お前の涙を見ているとよけいに苛めたくなっちまうんだよ。」
 直也は涙ぐむ慶花の頭を撫でた。それが慶花の最も好きな「ご褒美」であることは、もう「恋人同士」になって半年も経つのだから、当然熟知していることだった。
 慶花は涙を指先で拭うと、直也の顔を上目遣いに見つめた。
 頭を撫でてくれた後、直也は必ずキスをしてくれるはずだ。直也との激しいディープキスは、それだけで慶花を絶頂に導くほど魅力的なものになっていた。
 だが、直也は唇を求めようとはしなかった。
「ハハハ・・止めておくよ。お前の唇にまだザーメンが少しは残ってるだろう。いくら自分の出した物だと言っても、ザーメンとキスするなんてゾッとするぜ。」
 冷静に考えれば、こんな身勝手な言い方はない。キスする前に無理矢理、唇での奉仕を求めたのは直也の方だ。しかも自分のザーメンが残っているかもしれないから、キスする気が起きないと言う。もしも対等関係の恋人同士なら、こんなことを男に言われ怒り出さない女はいないだろう。
 だが慶花は違った。卑屈とも言える媚びた笑みを浮かべながら言った。
「あ、ごめんなさい・・・慶花ってバカね。男の人がザーメンを嫌がるのは当たり前よね。お願い、少しだけ待ってて。」
 慶花は洗面台に急ぎ、口を丁寧に濯ぐと、口紅を直した。もちろんグロスを重ねたのは言うまでもない。
 洗面台の鏡に映る自分の姿を見つめながら、慶花は思った。
(いつからこんなに卑屈になったんだろう。どうして直也の言うことには何でも従ってしまうのだろう。そして・・・・どうしてこんなにも直也のことを愛してしまったのだろう)
 もちろん、それが精神操作によるものだということはわかっている。だが、わかっていてもどうしようもないのだ。
 どんなに乱暴に扱われようと、どんな辱めを受けようと、相手が直也だったら耐えられる。いや、正直に言うと直也にだったら、もっと酷い目に遭わされたいとも思ってしまう。
 直也には恥ずかしくて言っていないが、裸で縛られ、むち打たれた時も、お仕置きだと言われ、開けた瞳に大量のザーメンを注がれた時も、口では苦痛を訴えながら絶頂に達してしまった。すぐに着替えたから気付かれてはいないと思うが、純白のシルクショーツの中には透明な粘液がしっかりと付着していた。

「おお、その唇、イロっぽくていいじゃないか。何付けたんだ?」
 部屋に戻った慶花に直也が笑顔で言った。
「グロスをね・・・付けてみたの。直也さん、セクシーな唇がいいって言ったから。」
 直也は座っているソファの隣を右手で軽く2回叩いた。こっちに来て隣に座れという意味だ。
(よかった・・グロス、気に入ってくれたんだ。)
 慶花はホッとした笑みを浮かべながら、直也の隣に座った。
「フフフ・・・そんなに俺にキスして欲しかったのか?」
「キス・・・して欲しい・・お願い、キスして。」
「そんなイロっぽい唇で言われたら、してやらないこともないが、お前が欲しいのはキスだけか?」
 もちろん直也の期待している答えはわかっている。口元の卑猥な笑みがそれを物語っていた。
「ううん、キスだけじゃイヤ・・・直也さんの大きくて男らしいペニスもご奉仕させて欲しいの。お願い、いいでしょ?」
「『慶太社長』のお願いとあれば、断るわけにはいかないでしょうね。ハハハ・・・」
 直也のからかいの言葉に頬を赤らめながらも、慶花は顔を直也に向け、そっと目を閉じた。
 その日のキスは、いつもにもまして濃密だった。いや、濃密と感じたと言った方がいいかもしれない。焦らしに焦らされたキスは、直也を心から愛する慶花にとっては単なるキスではなくなっていた。だから、直也の舌を口中深く受け入れた時、慶花はその日2度目の絶頂を迎えたのだった。
(ああ・・キスだけで・・・キスだけで、イッちゃうなんて・・・私の身体、一体どうなっちゃったの?)
 慶花は心の中でそう呟きながらも、恍惚感に身を任せたのだった。 


 慶花は鏡に向かってポーズを取ってみた。
 グロスを塗った唇が、どうやったらセクシーに映るのか、そして直也が思わずキスしたくなるのはどの角度を向いたときなのか、あれこれ試してみた。
 だが、それも30分を超えると、さすがにやる気も失せてくる。
(もしかして今日もすっぽかし?)
 慶花の心に不安がよぎる。今月に入って直也が来てくれる回数が明らかに減ってきているのだ。

 実は5日前にも来るとの連絡が入り、念入りに準備をして待っていた。
 ところが約束の時間になって、やってきたのはマダムの沙樹だった。直也が急に来られなくなったことを告げるための来室だった。
 落胆と不安の表情を浮かべる慶花に沙樹は微笑みながら言った。
「大丈夫よ、浮気じゃないから。他のニンフの所になんか行っていないわ。」
 沙樹の言葉にいくぶんホッとはしたものの、それならどうして来てくれないんだろうという別の不安が沸いてきた。
 だが、そんな落ち込んだ気分の慶花に心の休息はない。慶花はニンフなのだから。
「だから、今日は別のお客の相手をしてね。実は今までも何度も指名してくれていた人なのよ。ただ、慶花を争うライバルは多いから、なかなかチャンスがなくて、ようやく今日叶ったって喜んでいるわ。せいぜいサービスしてあげてね。」
「はい・・わかりました。」
 慶花は落胆の表情に微かな笑みを浮かべると、沙樹の差し出すメモ書きを受け取った。もちろんそこには客からのリクエストが書かれていることは承知している。
 『古風で清純な女子高生・クラシックなセーラー服・ライトメイクアップ・兄妹の設定でプレイ』
 慶花はため息をつきながらも手際よく準備を進めた。
 
 実は慶花にとって、直也にすっぽかされ、急遽別の客の相手をすることくらい嫌なことはなかった。自分がニンフであることはわかっているし、直也以外の客の相手をしなくてはならないことも理解しているつもりだ。だから、事前に今日の客は直也ではないとわかっていれば、何とか心の準備もできる。だが、直也が来てくれるものと思っていたのに、急に別の客の相手をしろと言われると、余りにも振り幅が大きくて心の整理がつかないのである。
 それでも悲しいことに、半年間というニンフとしての生活が身についてしまったのだろう。その日の客が来室したときには、三つ編みにクラシックなセーラー服という姿で、小首を傾げながら、わざとはにかんだような笑顔で、「お帰りなさい、お兄ちゃん。慶花、お兄ちゃんいなくて寂しかったわ。今日は一杯甘えさせてね、お願い。」と言って、「妹」として出迎えた。
 また、アナルセックスの最中には、「お兄ちゃん、慶花、何かヘンなの、あそこが・・・お兄ちゃんのオチ○チ○で、気持ちよくなってるよ・・・もっと・・・お願い・・・お兄ちゃん・・」などと言ったり、アナルに熱い樹液の放出を感じ取った瞬間には「ああ、慶花も・・・慶花も・・・イッッッチャウ・・・お兄ちゃん、一緒に・・お願い、一緒に・・・イッテぇ・・・・」と絶頂を「演じて」見せた。
 そして帰りがけには、ドアの近くで客の袖を指先で掴んで、「うそ涙」で濡れた瞳で見つめながら、「お兄ちゃん、慶花、寂しい・・・慶花、お兄ちゃんのこと、忘れない・・・絶対、絶対、また来てね。約束だよ。」と言いながら指切りをした。

 客が帰った後、一人部屋に残った慶花の瞳には、嘘ではない本当の涙が溢れていた。
 たとえ意に添わない相手でも、媚びを売る演技が無意識の内にできてしまう自分に対する嫌悪感の涙であり、恋人直也に対する罪悪感の涙でもあった。
 だが、慶花には直也に胸を張って言えることがあった。
 それは直也以外にはディープキスを交わしたことはないということと、どんなに激しいアナルセックスでもイッたことがないことだ。もし直也が信じられないから証拠を見せてみろと言ったらシーツを見せてもいい。明らかに客のものとわかる濃くてドロドロしたザーメンしか残っていないから。
 でも、慶花に意地悪を言うのが好きな直也はそれでも言うかも知れない。
「どうしてこれが、お前のザーメンじゃないってわかるんだよ?」
 慶花はきっと拗ねたような口調で答えるだろう。
「もう、意地悪ね。慶花のクリちゃんから出るのはこんな濃くてドロドロしたザーメンではないわ。透明で水みたいな液体、それに量だってほんのちょっぴりだってこと、直也さんも知ってるでしょ?」
「そうか、慶花は玉なしだから、ザーメンじゃないもんな。女の愛液と同じだ、アハハハ」
 直也の言葉に慶花は顔を赤らめて頷くしかないだろうが、きっとそれで疑いは晴れるだろう。
 

 時計の針は約束の時間を一時間以上過ぎていた。
 慶花のため息の回数が小刻みに増えていた。
 と、その時だった。ドアを叩くノックの音がした。
 慶花はハッとした。一瞬にして顔に赤みが差した。
「は、はい・・・」
 それだけ返事して、ドアに駆け寄った。
 ガチャリと外からロックが外れる音がした。
 まだわからない。沙樹が悪い知らせを持って来たのかも知れないのだ。
 ドアが静かに開いた。足許に見慣れた作業ズボンが見えた。
 慶花の瞳はすでに涙で潤んでいた。その瞳が入口に立っている直也の笑顔を捉えた。

「ああ、直也さん・・・会いたかった・・・」
 慶花は、直也の厚い胸板に顔を埋めた。
だが、直也はそんな慶花の両肩を掴むと、荒々しく身体を引き離し、そのまま跪かせた。
 慶花にはその行動が何を意味しているか、すぐにわかった。
 慶花は直也のズボンのベルトを弛めると、ファスナーを下ろし、ズボンを膝下までゆっくり下げた。トランクスの前はすでに大きな膨らみを呈していた。それを目にした瞬間、胸は高鳴り、全身が熱くなるのを感じた。
 トランクスに手を掛けるとゆっくりと下げた。2週間ぶりに目にする直也のペニスは慶花には神々しいばかりに光りを放つ宝物に見えた。
 慶花は上目遣いで直也を見つめた。本当は一刻も早く口づけたかった。だが、許可なくフェラチオを始めることは直也にきつく禁じられている。慶花はまるでお預けを食っている子犬のように主人の指示を待った。
 直也は小さく頷いた。奉仕の許可が下りたのだ。
 慶花はグロスで艶めかしく輝く唇を、ペニスの先端に触れさせた。
 
「いいか、お前はニンフだと言うことを忘れるな。本当の恋人のように会ってすぐキスをもらえるなどと思うなよ。わかったな?」
 慶花は太いシャフトに舌を這わせながら、小さく2回頷いてみせた。そして一旦舌を離すと、「ごめんなさい、久しぶりに会えて嬉しくなっちゃったの。もう二度とこんな失礼なことしないから、許して。」と哀願し、もう一度舌奉仕に集中していった。

「今日は2週間ぶりだからな、お前にくれてやるためにオナニーもしていない。濃いザーメンが大量に出るぞ。慶花はどこで受け止めたい?」
 巨根の先端から先走りの漏出を感じ取っていた慶花に、直也が声を掛けた。
 慶花は直也の言葉が嬉しかった。浮気をしていないだけではない、自分のためにオナニーさえ我慢してくれたのだと聞いて、心から嬉しかった。
「お、お顔に・・・慶花のお顔に・・・かけて・・・直也さんの溜まったザーメン、全部お顔で受け止めたいの・・・」
 慶花の言葉は本心だった。直也の溜まったザーメンで顔中を汚されたいと思った。そうすることで本当に直也の「もの」になれるような気がしたのだ。

 文字通り「顔面シャワー」だった。第一撃が左の鼻腔から左瞼に一筋の白い線を描くと、第二撃は右の瞳を確実に襲った。
 直也は顔射の時に、開いた瞳を狙うのが大好きだった。だから瞳に入るまでは目を閉じてはいけないと言われていたのである。後の目の痛みを考えると本当は避けたいのだが、直也が喜んでくれるなら痛みはちっとも苦にならない。
「ハハハ・・・すっかりドロドロだな。顔で受け止めたいなんて言って後悔してるんじゃないか?」
 慶花は、白く濁った視界の中で、小さく首を横に振った。
「ううん、直也さんの熱い体温を感じられて、慶花、嬉しいの。」
「フフフ・・・お前は本当に可愛いことを言うなぁ。」
 直也はそう言うと慶花の頭を優しく撫でた。慶花の心は幸福感で充満していた。


 だが、その幸福感は長くは続かなかった。
 メイク直しを済ませ、ベッドルームに戻ってきた慶花に直也は信じられない報告をした。
 約ひと月後に出所が決まったというのである。この2週間、倶楽部に足を向けなかったのは、出所後のことについて兄である誠也と話し合うため、頻繁に手紙のやり取りをしていて忙しかったからだと直也は言った。

 直也が喜色満面の笑みで出所の報告をし始めたとき、慶花自身も恋人の喜ぶ姿を見て、思わず「おめでとう。よかったわね。」と祝福の声を掛けたが、それが二人の別れを意味することに気づくと、すぐに悲しみの涙が溢れてきた。
 考えてみれば、終身刑での服役ではないのだから、いつかは出所の時が来るのである。そんなことに何故思いが及ばなかったのだろう。
(もしこんな日がやって来るのがわかっていたら、直也を好きになんかならなかったのに・・・)と思いながら、すぐにそれを打ち消した。(いいえ、どちらにしても同じだわ。だって、もともと精神操作がされていたんですもの。)
 そう思うと、慶花の悲しみは、そんな精神操作を行った施設の職員達への憎しみに変わっていった。もちろんそれによって何かが変わるわけはないのだが、せめて気持ちをぶつける場所が欲しかったのだ。

 その夜、二人は3度も結ばれた。珍しく積極的だったのは慶花の方だった。直也のペニスを体内に感じている時だけ別れの悲しみを忘れることができたからだ。
 だが4度目を求めて、果てたばかりの直也のペニスに唇を近づけたとき、
「いくら二週間ぶりでも、そんなには無理だ。それに最近慣れない手紙のやり取りで睡眠不足なんだ。だから今日はもう寝かせてくれよ。」と冷たく拒否された。
「で、でも・・・・」
 慶花の瞳は涙で濡れていた。
「何で泣いているんだ?アナルが気持ちよすぎたのかよ?ハハハ」
 直也はからかうように言った。慶花はただ無言で首を振った。
「じゃ、何でだよ。」
「だって・・・あとひと月でお別れでしょ?慶花を置いて直也さん、行ってしまうんでしょ?そ、それを思ったら・・・」
 大粒の涙が頬を伝い、声が泣き声に変わっていた。
「ハハハ・・・それはそうだ。出所したらここには来られないからな。まあ、お前も俺から解放されるんだ。別に好きな男でも探せよ。でも、できれば終身刑のやつにした方がいいぞ。別れなくても済むからな。アハハハ」
「そ、そんなこと・・・できないわ。直也さん以外の人なんて好きになれない。 どうして、そんな意地悪言うのっ?」
 慶花は直也の胸に顔を埋め、嗚咽した。
(からかわれてもいい。意地悪言われてもいい。どんなに苛められてもいい。直也とこうして一緒にいられたら、それだけでいいの。)
 慶花は心の中で何度も呟くと、泣き疲れて眠りに落ちた。

****************************************

 失意の中、辛い日々を過ごしたいた慶花が、意外な情報を耳にしたのは、直也の出所を二週間後に控えた日のことだった。
 定期診断とN1新薬の投与のために医務室を訪れたとき、すでに二人のニンフが待合室にいて何気ない会話をしていた。
 二人は入室した慶花に一瞬チラッと視線を送ったが、同じニンフだと気づいたからか、微かな笑みを浮かべると会話に戻っていった。
 どうやら二人の会話の内容は、以前に特別室担当だったある一人のニンフの話題のようだった。
 聞くとはなしに耳に入ってきた話によると、そのニンフは刑期を半減することを条件に女性受刑者から選ばれた者だったらしく、かなり長期間にわたり勤めていて、人気もあったらしい。彼女はある客と恋に落ちたのだが、客の方が先に出所を迎えることとなった。別れを悲しんだ彼女がマダムに相談したところ、「特殊倶楽部」にはある特例が認められており、それにより今、彼女は客であったその男と幸せな家庭を築いているということだった。

「と、『特例』って・・・どういうものなんですかっ?」
 慶花は思わず二人の会話に割って入った。そのニンフの境遇が今の自分のそれに重なって感じたからだ。 
 二人は一瞬怪訝そうな顔をしたが、お互いに顔を見合わせると小さく頷き合い、「特例」の説明をしてくれた。
 その話を要約すると、ニンフはある条件を満たすと、ニンフを止めることもちろん、「特殊倶楽部」からも出て、一般社会に復帰することができるということだった。
 その条件とは、客との間に真剣な恋愛感情が認められること、客及びその関係者がニンフの身元引受人となっていること、そして何より婚姻の意思があることの3点だった。
 話を聞き終えた慶花の顔にはかすかな希望の光が宿っていた。
 決して簡単な条件ではないが、もしかしたら直也と共に暮らしていける可能性がそこにはあった。

 翌日、慶花は「特例」のことを直也に告げた。その表情には笑みはなく真剣そのものだった。
 だが、直也の返事はつれないものだった。
「結婚? 嘘だろう? 何を言い出すかと思えば、悪い冗談だぜ。何故俺がニンフなんかと結婚しなくちゃいけないいだよ。ハハハ・・・」
 慶花は直也の冷たい言葉に涙しながらも、いつもにもまして丁寧が奉仕を心がけた。そうすることで直也の心が傾いてくれるのを願ったのである。

 その2日後も、さらにその2日後も、直也は慶花の元を訪れた。
 その度に「結婚」という話が出ることに重荷に感じ、足が遠のくなどというデリケートな神経を直也は持ち合わせてはいなかった。
 慶花は直也が来てくれること自体は心から嬉しく思っていたが、時折口にする心ない言葉には涙が出るほど悲しかった。
「あ~あ、もうあと一週間か・・・お前みたいにフェラ上手で、気持ちのいいケツマ○コしているやつはいないもんなぁ。なんとかお前の口とケツだけ持って帰れないかなぁ。いいおもちゃになるんだけどなぁ。アハハ」
 そんな言葉を耳にしながらも、涙をこらえて奉仕に努めた。
(だって、慶花にはこれしかできないんだもの。直也さんに気に入ってもらうにはどんなに辛くても涙は見せちゃダメ。)慶花はそう心の中で呟いたのである。
  
 そんな直也の様子に劇的な変化が現れたのは、出所予定日の3日前のことだった。
 それは直也にとって「倶楽部」を訪れる最後の日であった。
 慶花は、おそらく冷たく拒否されるだろうとは思いながらも、最後の必死の哀願をした。「お願い、直也さん・・今日が最後なの・・・お願い、慶花を・・慶花をもらって。慶花、直也さんと離れるなんてイヤ。お願い、何でも言うこと聞くから、慶花を捨てないで。」
 慶花は直也の前で泣きながら土下座をした。

 と、次の瞬間、思いもよらない反応があった。
 直也の右手が慶花の頭を優しく撫でたのだ。
慶花は上目遣いで直也の顔を見た。直也の口には笑みが湛えられていた。
「わかった・・・。お前の気持ちはよくわかったよ。」
「え?わかったって・・・?何が?」
 慶花はまさかの返事に戸惑いを隠せなかった。
「何がって、結婚だろう? お前の望みだったんじゃないのか?それとも気が変わったか?」
「え?それじゃ・・・本当に?本当に・・・結婚できるの?」
「ああ、してやるよ。ただし俺の言うことに従えるならという条件付きだ。どうだ?従えるか?」
「え、ええ、従うわ、どんなことでも・・・。直也さんと結婚できるなら、どんなことだって・・・。」
 慶花の声は喜びに震えていた。
 心の奥底には、なぜ急に直也が考えを変えたのかという疑問と、直也が今後どんなことを要求してくるのかと不安とが交錯していた。だが、そのことを問いかける勇気は慶花にはなかった。口にすれば直也の気が変わってしまうのではないかという思いだけがそこにはあった。


 2日後、慶花は向山瑞穂の訪問を受けた。
 カウンセリングのためではない。慶花の結婚の意思を確認するためである。
 瑞穂は、事前に直也を訪問しその意思を確認後、慶花の元を訪れた。そのことを聞いて、慶花の表情は明るくなった。なぜならもし直也に心変わりが起こり、慶花との結婚を否定したら、瑞穂がここに来るはずはないからだ。訪れたということは直也の意思に変化がないことの証拠だと思えたのだ。
「男性の側の意志もはっきりしているし、諸条件も整っているわ。あとは、慶花、あなたの意思がはっきりしていれば、『特例』が認められる。つまりあなたは、ここを出て直也との生活を迎えることができるわ。」
 瑞穂の言葉に慶花は心からの笑顔で答えた。
「先生、慶花の心は決まっているわ。直也さんについて行く。もう直也さんのいない生活は考えられないもの。」
 瑞穂は涙ぐみながら喜びを表す慶花に小さく頷くと、数枚の書類を取り出し、何やら書き込みを始めた。

「それじゃ、こことここ、それからここにもサインをして。それから、ここには印鑑・・・って言っても持ってないわね。じゃ、拇印でいいわ。あ、それからサインは『ニンフ慶花』とするのよ。あなたには姓はないんだからね。」
 慶花は3カ所のサインと1カ所の拇印を済ませると、書類を瑞穂に返した。
 瑞穂はそれを手に取ると、間違いがないことを確認し、大きく一つ頷いた。
「これを提出すれば、あなたはここを出られるわ。正式ではないけど、直也と結婚することもできる。でも最後だから確認するけど、ここを出たら二度と戻ってくることはできないわよ。どんな辛いことがあっても危険な目にあっても耐えるしかなくなるの。それに、慶花、あなたの身体にはニンフとしてのタトゥーだって入っているのよ。それが人に知られたらどんな扱いをされるかわかるでしょ?その時に、直也は本当に守ってくれるの?そこまで信じてついて行って大丈夫なの?」
「先生・・・そんなに慶花のこと心配してくれて・・・嬉しいです、とっても。でも、大丈夫、慶花は直也さんを信じてついて行きます。いつか法律が変わって正式に結婚できるようになるのを願いながら生きていこうと思います。」
 慶花は瑞穂の目を見つめながら強い口調で言った。



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コメント

§ 楽しみです

いつも楽しく読ませていただいてます。
続きがとても気になります。
いよいよ慶花は男性のシンボルを失ってしまうのですかね・・・。
これからもがんばってください!

§ 続きを 待っています

慶花は、もう戻れなくなってしまったのですね

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サテンドール

Author:サテンドール
=============================================
女性化小説なら国内・海外を問わず大好きです。

特に屈辱系・羞恥系・強制系・寝取られ系・立場逆転系・年齢退行系・SISSY系などなど・・・。

happy よりは、unhappy ending が好み。
(ちょっと、性格がゆがんでるのかも^^)

私事ですが、以前某サイトに 
「高野奈緒美」のペンネームで
『ある性転者の告白』という拙い小説を掲載させて頂いておりました。事情があって途中で掲載を止めましたが、その完結編も当ブログでご紹介できればと思っています。

それとランキングにも参加させていただきますので、
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